【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~

蓮美ちま

文字の大きさ
22 / 28
オンリーワンになりたくて

しおりを挟む

「朱音ちゃん?」

目の前の岡部さんが不思議そうに私を見る。ボーッとしてしまったのを恥じて取り繕うように微笑みを貼り付けた。

「すみません、こういう集まりって慣れてなくて緊張してるのかも」

ちょっと強めのお酒を飲みたい口実に本音を混ぜておく。実際若干緊張はしてるけど、そこまで人見知りじゃない私は初対面の相手と打ち解けるのは得意な方。特殊なチャラ男を除いて。

「そうなんだ、可愛いね。よかったらふたりで抜ける?その方がリラックス出来るかな」

奈美曰く『今日集めたメンバーは手は早いが悪い奴はいない。無理強いされることはないから嫌なら断りな』ということらしい。

なるほど手が早いというのは間違ってなさそう。経験も豊富そうだし、慣れない私がリードしてもらって遊ぶには丁度いいお相手ということなんだろう。

さらに正真正銘のイケメン。雰囲気イケメンの誰かさんとは違って、切れ長の瞳が凛々しくへらへらしたところがない。

いっそ彼について行ってみれば。そう思った時だった。

突然ツカツカと聞こえた足音が近くで止まったと思ったら、後ろからむき出しの二の腕を掴まれ、ぐいっと立ち上がらせられる。

ぐらついた身体で「ひっ」と叫びにもならない小さな悲鳴を上げると、聞き覚えのある声が吐き出される息と共に耳に届く。

「やっと見つけた……!」

驚き振り向いて見上げた先には、ほんの数時間前まで所内で一緒にいたはずの友藤さんが、息を切らして私を見下ろしていた。

いつもイケメンに見せるためにチャラさ満載でセットされている髪は乱れ、スーツの上着を皺になりそうな持ち方で掴み、へらへらした笑顔は封印して瞳に鋭い光を宿している。

「な……、なんで、ここ……」

なんでここがわかったのか。なんでここに居るのか。

聞きたいことはたくさんあるのに、言葉にならない。

私の戸惑いをよそに、彼はあらかじめ用意していたであろう一万円札をポケットから裸で出して私が座っていた席に置くと「この子、連れて帰らせてもらいます」と宣言した。

友藤さんは椅子の背に置いていた私の鞄を持つと、すぐに踵を返し歩き始める。

この集まりを開いてくれた奈美にも、呆気にとられた他の人達にもきちんと挨拶をすることすら出来ず、そのまま掴まれた二の腕を引かれお店から連れ出されてしまった。


なんの説明もなく、無言のまま進んでいく。一体どこに向かっているのかもわからない。

足がもつれそうになりながら、それでも振り払うことなく彼についていく自分。それが答えなんだと心が叫んでいた。

「ちょ、ちょっと……待って! ねぇ、友藤さん!」
「こら待てチャラ男! 朱音!」

私の言葉に耳も貸さずにグイグイ進んでいた彼の足が、後ろから投げつけられた女性の声にピタリと止まる。

「奈美……」

振り返ってつい泣きそうになってしまう。彼が私が話していた『チャラ男』だと気付いて、心配して追いかけてきてくれたんだ。

「いいの? そいつについて行くの?」

彼女の問いかけは、私がこの先ツライ思いをするんじゃないかという心配がありありと見える。

それは今まで私が嫉妬に押し潰され失恋するたびに泣いている姿を見てきた奈美にとって、当然の質問だろうと思われた。

あれだけ今までの恋愛で過去にすら嫉妬していた私が、他の女性とシているところを目撃したことのある男を選ぼうというのだから。

でも、気付いてしまったのだ。もう既に堕ちてしまっていることに。

小指で突かれるどころじゃない。ラガーマンにタックルされたような勢いで吹っ飛んだ。

こんな形振り構わず探し回って迎えに来られたら、もう降参するしかないじゃないか。

私は小さくこくんと頷いた。それを隣で不安そうに見ていた友藤さんが大きく目を見開く。

そして私の二の腕を掴んでいた手がするする手首にまで下りてくると、泣きそうな表情で私を見つめたままぎゅっと力が込められた。

堕ちた先が嫉妬に狂う未来でも、やはり私は自分が好きになった人としか恋愛は出来ない。

いくらイケメンでも、経験豊富で優しくリードしてくれる素敵な人でも、土壇場でついていくことは出来なかった。

仮に今日あの場に私の求めていた『Dの男』がいたとしても、きっと友藤さんを選んでいた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

年下男子に追いかけられて極甘求婚されています

あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25) 「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」 ◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20) 「京都案内しようか?今どこ?」 再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。 「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」 「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

元恋人と、今日から同僚です

紗和木 りん
恋愛
女性向けライフスタイル誌・編集部で働く結城真帆(29)。 仕事一筋で生きてきた彼女の前に、ある日突然、五年前に別れた元恋人が現れた。 「今日から、この部署に配属になった」 そう告げたのは、穏やかで理性的な朝倉。 かつて、将来や価値観のすれ違いから別れた相手だ。 仕事として割り切ろうと距離を取る真帆だったが、過去の別れが誤解と説明不足によるものだったことが少しずつ見えてくる。 恋愛から逃げてきた女と、想いを言葉にできなかった男。 仕事も感情も投げ出さず、逃げずに選び直した先にあるのは「やり直し」ではなく……。 元恋人と同僚になった二人。 仕事から始まる新しい恋の物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...