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オンリーワンになりたくて
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しおりを挟む「朱音ちゃん?」
目の前の岡部さんが不思議そうに私を見る。ボーッとしてしまったのを恥じて取り繕うように微笑みを貼り付けた。
「すみません、こういう集まりって慣れてなくて緊張してるのかも」
ちょっと強めのお酒を飲みたい口実に本音を混ぜておく。実際若干緊張はしてるけど、そこまで人見知りじゃない私は初対面の相手と打ち解けるのは得意な方。特殊なチャラ男を除いて。
「そうなんだ、可愛いね。よかったらふたりで抜ける?その方がリラックス出来るかな」
奈美曰く『今日集めたメンバーは手は早いが悪い奴はいない。無理強いされることはないから嫌なら断りな』ということらしい。
なるほど手が早いというのは間違ってなさそう。経験も豊富そうだし、慣れない私がリードしてもらって遊ぶには丁度いいお相手ということなんだろう。
さらに正真正銘のイケメン。雰囲気イケメンの誰かさんとは違って、切れ長の瞳が凛々しくへらへらしたところがない。
いっそ彼について行ってみれば。そう思った時だった。
突然ツカツカと聞こえた足音が近くで止まったと思ったら、後ろからむき出しの二の腕を掴まれ、ぐいっと立ち上がらせられる。
ぐらついた身体で「ひっ」と叫びにもならない小さな悲鳴を上げると、聞き覚えのある声が吐き出される息と共に耳に届く。
「やっと見つけた……!」
驚き振り向いて見上げた先には、ほんの数時間前まで所内で一緒にいたはずの友藤さんが、息を切らして私を見下ろしていた。
いつもイケメンに見せるためにチャラさ満載でセットされている髪は乱れ、スーツの上着を皺になりそうな持ち方で掴み、へらへらした笑顔は封印して瞳に鋭い光を宿している。
「な……、なんで、ここ……」
なんでここがわかったのか。なんでここに居るのか。
聞きたいことはたくさんあるのに、言葉にならない。
私の戸惑いをよそに、彼はあらかじめ用意していたであろう一万円札をポケットから裸で出して私が座っていた席に置くと「この子、連れて帰らせてもらいます」と宣言した。
友藤さんは椅子の背に置いていた私の鞄を持つと、すぐに踵を返し歩き始める。
この集まりを開いてくれた奈美にも、呆気にとられた他の人達にもきちんと挨拶をすることすら出来ず、そのまま掴まれた二の腕を引かれお店から連れ出されてしまった。
なんの説明もなく、無言のまま進んでいく。一体どこに向かっているのかもわからない。
足がもつれそうになりながら、それでも振り払うことなく彼についていく自分。それが答えなんだと心が叫んでいた。
「ちょ、ちょっと……待って! ねぇ、友藤さん!」
「こら待てチャラ男! 朱音!」
私の言葉に耳も貸さずにグイグイ進んでいた彼の足が、後ろから投げつけられた女性の声にピタリと止まる。
「奈美……」
振り返ってつい泣きそうになってしまう。彼が私が話していた『チャラ男』だと気付いて、心配して追いかけてきてくれたんだ。
「いいの? そいつについて行くの?」
彼女の問いかけは、私がこの先ツライ思いをするんじゃないかという心配がありありと見える。
それは今まで私が嫉妬に押し潰され失恋するたびに泣いている姿を見てきた奈美にとって、当然の質問だろうと思われた。
あれだけ今までの恋愛で過去にすら嫉妬していた私が、他の女性とシているところを目撃したことのある男を選ぼうというのだから。
でも、気付いてしまったのだ。もう既に堕ちてしまっていることに。
小指で突かれるどころじゃない。ラガーマンにタックルされたような勢いで吹っ飛んだ。
こんな形振り構わず探し回って迎えに来られたら、もう降参するしかないじゃないか。
私は小さくこくんと頷いた。それを隣で不安そうに見ていた友藤さんが大きく目を見開く。
そして私の二の腕を掴んでいた手がするする手首にまで下りてくると、泣きそうな表情で私を見つめたままぎゅっと力が込められた。
堕ちた先が嫉妬に狂う未来でも、やはり私は自分が好きになった人としか恋愛は出来ない。
いくらイケメンでも、経験豊富で優しくリードしてくれる素敵な人でも、土壇場でついていくことは出来なかった。
仮に今日あの場に私の求めていた『Dの男』がいたとしても、きっと友藤さんを選んでいた。
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