23 / 28
オンリーワンになりたくて
3
しおりを挟む「わかった、朱音がそれでいいなら」
「奈美、ありがと」
「おいチャラ男!」
突然自分が不躾なあだ名で呼ばれ苦笑しながら初対面の相手を見やった友藤さんに、奈美は相変わらずの口の悪さで彼に釘を差した。
「朱音を泣かせたら、その躾のなってないモン引っこ抜いてドブ川に沈めるからな!」
見かけはモデルのような奈美から発せられるとんでもない忠告の言葉に、友藤さんはひゅっと身体を竦ませた。引っこ抜かれる想像でもしたんだろうかと少し笑ってしまった。
それから彼は指を絡めて私としっかり手を繋ぐと、奈美に向かって大きく頷いた。
「肝に命じておくよ」
「ついでに朱音を気に入ってた岡部さんに速攻引き渡すからな」
脅しとも取れる奈美の発言に、友藤さんのこめかみがピクリを動いた。
「……誰に気に入れらてたって?」
気に入られていたも何も、たまたま正面の席に座ったってだけでしょうに。呆れ半分、焦り半分で奈美に向けて余計なことを言わないでと首を振ったのに、そんな私の願いは通じなかったらしい。
「岡部さん。うちの営業部の主任で超モテるイケメン。ガンガン遊んでるけどそれを感じさせない紳士っぷりで、真面目な朱音なんかひと飲みだからね」
奈美は「食われるギリギリだったろ?」と悪戯に笑う。私の今の気持ちはともかく、さっきの雰囲気だと速攻丸飲みされていた気がしてあまり強く否定出来ない。
そんな私の沈黙をどう思ったのか、繋いでいる手の力が増して手の甲の骨が痛い。
「その彼の出番はないから」
「どうかな」
「ないよ。絶対に」
奈美に対峙している友藤さんの表情に珍しく余裕がない。彼女を睨んですらいる。
女性、しかもこんな美人を目の前にしているというのに。やはり今日の友藤さんはいつもと違う。
ひとりツラツラ考えていると「行くよ、朱音ちゃん」と私の肩を抱いて歩き出す友藤さんが、通りのタクシーを止めるために片手を上げた。
すぐに路肩に止まったタクシーに促されるまま乗り込んで窓から奈美を見ると、彼女はにこやかに私を見送ってくれていた。
◇ ◇ ◇
タクシーで連れられてきた友藤さんのマンションは八階建ての五階で、シンプルな1LDKの間取り。通されたリビングは急な訪問だったにも関わらず意外と散らかっていない。むしろきちんと整頓されている。
黒い布張りのソファの上には同じ布のクッションしか置かれていないし、ローテーブルに朝飲んだコーヒーカップが置きっぱなしなんてこともない。
丸いダイニングテーブルに乗っているのは今朝読んだであろう新聞だけ。完璧か。
私だったら絶対ムリだ。玄関先で「十分待ってください」と慌ててクローゼットに諸々押し込む時間が必要不可欠。この違いはなんだろう。
……部屋を片付けてくれる女性がいるんだろうか。
「……今、誰が片付けてるんだろうって考えたでしょ」
「あ、バレました?」
「俺、家事得意だから」
「もう少しマシな言い訳考えた方がいいですよ?」
「こら」
おでこを人差し指で小突かれる。それはイケメンしかやっちゃダメな仕草だと思うんだけど、今のはちょっとイケメンに見えたから許す。
おでこをさすりながら友藤さんを見上げると苦笑いの彼と目が合った。
……え。ほんとに?ほんとに家事が得意ってこと? ここまで自分で綺麗に保ってるってこと?
私の疑問が全部顔に出ていたらしく「俺って本当に信用ないんだな」と吹き出すように笑った友藤さんは、「アイスコーヒーでいい?」とキッチンへ向かった。
その間にソファに座ろうと思ったものの、ここに座ったことがある女性は私で何人目なんだろうと早速くだらない嫉妬が首をもたげてくる。
気にしない。万年筆の例え話をした時の彼の言葉を借りるなら、少なくとも今だけは私は『友藤さんに選ばれた』んだから。
そうは思ってもなかなか座れないでいると、グラスから氷のカランという音を立てながら彼が戻ってきた。
「座らないの?」
「いや、えと、座ります……」
不思議そうな顔をした友藤さんは両手に持っていたグラスをローテーブルに置くと、私の背中に手を添えて一緒にソファに腰を下ろした。
こんな何気ない場面でのエスコートさえ女慣れしている感が滲み出て、私の心を蝕んでいく。
でもこれは私が選んだ道。こうなることを分かっていて、私は彼についてきたんだ。
グッと握りこぶしを作って胸の前に掲げる。気合を入れておかないと、彼の過去に負けて早々に心が死んでしまう。
10
あなたにおすすめの小説
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
年下男子に追いかけられて極甘求婚されています
あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25)
「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」
◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20)
「京都案内しようか?今どこ?」
再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。
「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」
「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」
昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた
九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。
そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。
距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜
葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」
そう言ってグッと肩を抱いてくる
「人肌が心地良くてよく眠れた」
いやいや、私は抱き枕ですか!?
近い、とにかく近いんですって!
グイグイ迫ってくる副社長と
仕事一筋の秘書の
恋の攻防戦、スタート!
✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼
里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書
神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長
社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい
ドレスにワインをかけられる。
それに気づいた副社長の翔は
芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。
海外から帰国したばかりの翔は
何をするにもとにかく近い!
仕事一筋の芹奈は
そんな翔に戸惑うばかりで……
時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】
remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。
佐倉ここ。
玩具メーカーで働く24歳のOL。
鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。
完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。
【完結】ありがとうございました‼
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる