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オンリーワンになりたくて
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しおりを挟む「あー、何から話そうか」
友藤さんがなぜか照れながら戸惑っている。なんだか今日は珍しい彼をよく見る気がする。
とりあえず気になっていた『なぜあの店がわかったのか』という質問には、『C健から電車で乗り換え四十分、近くにホテルのあるイタリアンで片っ端からしらみつぶしに。三軒目で見つかってラッキーだった』と苦笑しながら教えてくれた。
「こういうの初めてで……どうしたらいいのかわかんないんだ」
「なんですか、こういうのって」
「俺、朱音ちゃんが初恋だって言ったら信じる?」
「……は?」
やっぱり彼について来たのは間違いだったかもしれない。
こんな見え透いた嘘を口説き文句にするなんて、バカにするのも大概にしてほしい。さすがにそんな子供騙しにときめく程、私の恋愛偏差値は低くない。
初対面以来の冷たく軽蔑した視線で彼を見る。しかし彼はそれに怯むことなく、いつもみたいにへらへら笑って躱すこともなく、真剣な瞳で見つめ返してきた。
「今から俺が言うこと、最初は全部信じなくてもいい。今すぐに信じてもらえるとも思ってない。でも誓って朱音ちゃんに嘘はつかないから」
それから友藤さんから語られたことは、なんだか現実とは思えないような話だった。
「お母さんのアレな所見て、恋を知ることなく成長して、女は全部性欲処理の相手としかみてないって……。そんな生徒会長が出てくる少女漫画読んだことある気がする……」
アホみたいな感想しか出てこない私に、彼は笑いながら汗をかいたグラスを持って喉を潤している。私も落ち着くためにそれに倣ってグラスを両手で持ってアイスコーヒーを飲んだ。
彼のご両親は地方で病院を経営しているらしいけど、医者にならなかった友藤さんに見切りをつけて今は疎遠らしい。
彼の女性に対する不誠実さはもしかしたらお母さんのことがトラウマみたいになったのかもしれないけど、それにしたってひとりくらい本気になったり心惹かれる女性はいなかったんだろうか。
嫉妬心からというよりは純粋に疑問に思って聞いてみると「これがホントにひとりもいないんだよね。最低だとは思うけど、顔と名前を覚えてる子もほとんどいない」と気まずそうに教えてくれた。
「朱音ちゃんが初めてだった。よく視界に入ってくるなって思って、気付いたら構いたくなってた。初対面であんなとこ見せておいて言い訳なんか出来ないけど、『恋人』がいたことは一度もない。朱音ちゃんが初めての彼女だよ」
「……このソファに座ったことある人って」
この質問をしたことで、さっきなかなか座らなかった私の気持ちがわかったんだろう。グラスを私の分もテーブルに置くとぎゅっと抱きしめてきた。
「ひとりもいない。朱音ちゃんだけ。女を家に呼んだことなんて一度もないよ、もちろん逆もない。今まで女と会う目的は……まぁ……ソレだけだったから、パーソナルスペースなんか絶対知られたくないし、知りたくもなかった」
言ってることは本当に最低なのに、なぜ私は少しだけ安心してるんだろう。
きっとあれだ。普通の人が煙草のゴミを拾ったところでたいして褒められもしないのに、ヤンキーが携帯灰皿に吸い殻を押し込んでいるのを見るとやたら良い人に見えてしまうあの現象だ。
「……部屋の掃除、ほんとに自分でしてるんだ」
「だからそうだって言ったでしょ」
部屋に来て早々疑っていたことの誤解がやっと解けたと、今日何度目かの苦笑いをした気配がした。
「昔の男を見て嫉妬したのも、合コンに行くって聞いて独占欲が抑えきれずに無理矢理キスしたのも、なりふり構わず迎えに行ったのも、朱音ちゃんだったから」
「……うん」
「好きだよ、朱音ちゃん。君だけだ、俺に『恋』を教えてくれたのは」
抱きしめられたまま彼の告白を聞く。温かい胸に包まれても、心の片隅に巣食う『この体温を何十人という女性が知ってるんだな』って気持ちはまだ無くならない。
それでも、私は彼を選んだ。
「絶対、友藤さんを好きになりたくなかった」
髪を優しく撫でる手がピタリと止まる。私は寄り添っていた彼の胸の中から起き上がって、きちんと膝を合わせるように向き合って座り直した。
「あんな現場見たし、最初は本当に嫌いだと思ってたのに。いつの間にかDの男を探すって宣言して明確に対象外にしておかないと、惹かれていく自分が怖かった」
でも無意味だった。結局私も『こんな男に靡く女の気が知れない』と思っていた数多の女性達と肩を並べてしまったのだから。
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