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オンリーワンになりたくて
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しおりを挟む「ねぇ朱音ちゃん。今思ったんだけど、俺もある意味『Dの男』だと思うんだよね」
いつものヘラっとしら胡散臭い笑顔で私を見た。意味がわからずに首を傾げて彼を見上げる。あなたのどこが童貞なのかと詰め寄りたいのを我慢して説明を待っていると。
「恋愛DT。だって初恋なんだもん」
「……へ?」
「だから俺にも朱音ちゃんの彼氏になる条件は満たしてる。君は俺の『唯一好きになった人』なんだから」
とんでもない屁理屈に聞こえるのに、そう言う彼の声は必死なほど切羽詰まっていて、軽く見せていたへらへらの笑顔は貼り付けていた偽物だとわかった。
「っふふ、ほんとですね。友藤さんも『Dの男』だ」
「朱音ちゃん」
私が笑うと、彼はやっと安心したように本来の笑顔を見せた。雰囲気じゃなく、本物のイケメンの顔。
その笑顔に力を貰って、私は自分の気持ちを伝えた。
「友藤さん。私を、最初で最後の『唯一の彼女』にしてくれますか?」
じわりと滲んだ涙を堪えながら必死で笑顔を作った告白に、友藤さんは「かわいすぎてつらい……」と呟いた後、先程よりも強く抱きしめて「もちろん。一生、朱音だけだ」と答えてくれた。
「朱音も、俺を『唯一の男』にしてね?」
そう言われ、頷き返したい気持ちは山々だけど、彼も知っての通り私には多くはないが元カレがいる。どう返すのが正解なのかと抱きしめられたまま頭をフル回転させていると、耳元で小さく囁かれた。
「初めては怖いだろうし、今日は何もしない。朱音の気持ちが追いつくまで待つって約束する。だから泊まっていかない? もっと一緒にいたい」
「えっ?」
あまりに驚いて腕を突っ張って距離を取った。
『今日は何もしない』っていうのも「女性=セックスの相手」だった友藤さんにとったら大変なことで驚くべき発言だし、いくら金曜とはいえ気持ちが通じ合ったその日にお泊りというのも準備も何もなくて戸惑うところ。
しかし、今私が声を上げるほど驚き戸惑っているのはそこではない。まして『もっと一緒にいたい』という嬉しい発言に対してでもない。
友藤さんの『初めては怖いだろうし』という彼の言葉。
――――え、もしかして友藤さん。私のこと処女だと思ってる?
一体なぜそんな勘違いが成り立ったのかと、これまたフル回転させた頭で考える。
そして思い至ったのは、スパークルに行った時の賢治のクズ発言。
『三ヶ月も付き合って一度もヤらせなかったくせに寝取ったなんて噂を否定もせず逃げやがって!』
……あぁ、きっとコレだ。間違いなくコレを聞いたせいな気がする。
私は訂正すべきか否か考えて、いずれスるなら経験豊富な彼にはバレるだろうと思い、正直に告白することにした。
「……あの、友藤さん」
「ん?」
「私のこと、処女だと思ってます?」
「……え?!」
目の前の彼の顔には「違うの?!」とバカ正直に書かれている。
「え、え?! だって、あいつが……」
「まぁ、賢治とはシてないですけど。私だって恋愛経験くらい人並みにありますよ」
「………」
「あの、友藤さん?」
開いた両膝に肘を乗せ、その間に深く頭を項垂れている。どう声を掛けたものやら。
しばらくそのまま放置して、私も落ち着くために氷が溶けて薄まってしまったコーヒーを飲み干した。
「……言いたいことはいっぱいあるけど」
ようやく話しだした友藤さんの声は引くほど低い。
「あいつのこと、もう二度と名前で呼ばないで」
「……はい」
「あと、俺のこと名前で呼んで。敬語も仕事場以外ではやめて」
「わかり、わかった」
「泊まってくよね?」
「……うん」
「何もしないって言ったの、取り消していい?」
「ダメ」
処女じゃないと知った途端、速攻で約束を破ろうとしてきた友藤さん、もとい遊人さんに冷たい視線を送る。
するとちらりと視線だけでこちらを確認したあと、再び俯いて手のひらで顔を覆った。
「合コンでイケメン紳士に誘われたの?」
「……大丈夫、断ろうと思ってたから」
まぁ。ちょっと流されてみるのもアリだとは思ってたけど。
「あとさ」
「まだあるの?」
「朱音が『Dの男』を求めてた意味がやっとわかった……」
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