【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~

蓮美ちま

文字の大きさ
20 / 28
拗らせた初恋《Side遊人》

しおりを挟む

◇ ◇ ◇

痛む唇を舌で舐めると、鉄の味が口の中に広がった。噛まれた唇以上に痛む胸は既に後悔で一杯で張り裂けそうになっている。

朱音の煽るような発言に理性が利かず、彼女の身体の自由を奪って強引に口づけた。

甘く柔らかい唇を無理矢理こじ開け、小さな舌を吸い上げるように絡め取り、思うままに彼女を貪った。

嫉妬や独占欲といった感情に、さらに征服欲や嗜虐心にまで火が付いた。

このまま彼女を自分のものにしてしまいたい。俺しか見えず、俺の声だけを聞き、俺だけを感じるように。他のことは何も考えられなくなるほど、ぐちゃぐちゃに愛して抱き潰してしまいたい。

そんな真っ黒で醜い感情をぶつけるようにキスを続ける俺を正気に戻したのは、彼女の瞳からとめどなく流れる冷たい涙だった。

隙きを突いて振り払われた手が俺の左頬を打つ。その衝撃というよりは自分のしてしまったことの愚かさにその場でしゃがみ込み、合わす顔もなく俯いたまま呻いた。

『……君が好きだ』

二週間前は言わせてもらえなかった言葉をついに言った。でも彼女の感情はひとつも動かせなかった。

資料室を出ていった朱音の背中を無言で見つめる。彼女は一度も俺を見ようとはしなかった。

『……本当に少しでも私を好きなら、もう私に構わないで下さい』

朱音は俺にそう言った。しかしもう俺の想いは彼女だけに真っ直ぐ向かってしまっている。構わないでと言われて「はいわかりました」と言えるほど生半可なものではない。

好きだから。いつの間にか、好きすぎるから。どれだけ迷惑そうにされても彼女を追い求めるのを止められそうにない。

『私は誰かの『唯一』になりたいの』

きっと、朱音が一番俺に伝えたいのはこの言葉なんだろうと思う。俺の過去の愚行を知る彼女は、俺を選べば自分が『唯一』になれないと思っている。

どうしたら信じてもらえるだろう。俺にとって、たったひとりが朱音だということを。

無意識に姿を目で追ってしまうのも、どれだけ邪険にされても話しかけてしまうのも、喜ぶ顔が見たくて美味しいと評判のランチの店をいくつも探したのも、誰かを守りたいと思ったのも。

全部、朱音が初めてだった。

一生縁がないと思っていた『恋』におちた。誰にも渡したくない、傷つけたくない、縛り付けたい。

『初恋』だなんて可愛らしい響きの言葉では足りない。彼女の全てを自分のものにしたい。

そんな激情が自分の中にあっただなんて、俺ですら知らなかったのだから、朱音にすぐに信じてもらえるとは思っていない。

それでも。このまま彼女が飢えた狼の中に自ら飛び込んでいくのを、みすみす指を咥えて見ているわけにはいかない。

『知ってます? エベレストって登るのに許可が必要なんです。時間もお金もかかるし体力もいる。友藤さん、そんな過酷な山登りたくないでしょ? なだらかな丘をおすすめします』

告白すらさせてくれなかった時に朱音に言われた言葉。いつだったか、俺が彼女のつれない態度に対して『エベレストもびっくり』だなんて軽口を叩いたことを覚えていたんだろう。

彼女は自分を面倒な女だから嫌でしょうと言っている。もっと軽い女を選べと。さっきも、自分を好きなら構うなと言っていた。

だが、彼女は自分で気付いているだろうか。俺の告白に対し、いくら態度で突き放そうと、一言も俺自身を拒絶した言葉を発していないことに。

好きだという言葉に対し「無理」だとも「嫌い」だとも言わず、ただ構うなと繰り返す。

俺の酷い過去に嫉妬してしまうがゆえに受け入れられないのだと、俺を突っぱねるために闇雲に合コンなんかに行こうとしているのだと、そう考えてしまうのは『恋』に慣れていない俺の自惚れなんだろうか。

いや、自惚れでもいい。そうだとしても、もう朱音を諦めるという選択肢は俺にはない。

ここから電車で四十分。乗り換えもあると言っていた。そして、ホテルが徒歩圏内にあるという合コンに適したイタリアンレストラン。

座り込んだまま前髪をくしゃっと乱暴に掻き乱す。なんとか冷静になろうとひとつ大きく深呼吸をした。今慌てて追いかけてもきっと追いつけない。ならば探し当てるだけ。

俺にとって朱音は『唯一恋に落ちた相手』なんだ。

逃さない、絶対に。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

年下男子に追いかけられて極甘求婚されています

あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25) 「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」 ◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20) 「京都案内しようか?今どこ?」 再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。 「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」 「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

元恋人と、今日から同僚です

紗和木 りん
恋愛
女性向けライフスタイル誌・編集部で働く結城真帆(29)。 仕事一筋で生きてきた彼女の前に、ある日突然、五年前に別れた元恋人が現れた。 「今日から、この部署に配属になった」 そう告げたのは、穏やかで理性的な朝倉。 かつて、将来や価値観のすれ違いから別れた相手だ。 仕事として割り切ろうと距離を取る真帆だったが、過去の別れが誤解と説明不足によるものだったことが少しずつ見えてくる。 恋愛から逃げてきた女と、想いを言葉にできなかった男。 仕事も感情も投げ出さず、逃げずに選び直した先にあるのは「やり直し」ではなく……。 元恋人と同僚になった二人。 仕事から始まる新しい恋の物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

処理中です...