名探偵の条件

ヒロト

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16犯行現場〜観察〜

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僕はさすがに、もうこの部屋から出たくなった。

催促しようかと冬弥を見ると、彼はまるでデパートで買い物でもしているような自然な雰囲気で、辺りを眺めていた。

冬弥は、何かを探したり、死体のチェックをしたりなどはしていないようだ。

「冬弥、やることがもうないなら、早くここを出ようよ。」

すると、冬弥がいつも通りの表情で僕を見た。
「まあ、警部さんからもらった10分間だけはいさせてくれよ。これでも色々考えながら観察しているんだぜ。
何も触っちゃいけないと言われているから、おとなしくしているだけで、別に暇している訳じゃないんだ。」

時計を見ると指定された時間まで残り三分だけだった。
しかたなく、後わずかだけの辛抱だと自分に言いきかせ、死体を見ないようにして部屋を見回す。

僕は、壁際に車椅子があることに気がついた。


その車椅子は部屋の入り口付近に置かれ、椅子の部分にはビニールシートがかけられている。

血が付いていることを考えると、警察がかけたものではないらしい。
・・・周りに散らばるビニールにも少し血が付いているので、死体を運ぶ時に使ったのかもしれないと思った。


冬弥はしゃがみ込んで、興味深げにそのビニールを見ていた。しばらくして顔をあげると
「弘幸、時間になったから部屋から出ようよ」といい、素直に部屋から出ようとした。


正直なところ、素直に警察の言うことを素直にきく冬弥に驚いた。
もっとごねたり、一悶着おこしたりすると思っていた。


「ふーん、僕が素直に部屋から出たのが意外だったみたいだね。」
僕の表情に気がついたのか、冬弥がそんなことを言ってきた。

「まあね。正直に言えば意外だったよ。
僕にとってはありがたかったけどね。」

「いやぁ、弘幸の調子が悪そうだったんで、無理をさせちゃいけないと思ってね。」
含みのある笑顔で冬弥が言う。


・・・あからさまに怪しい。


「本音は?」

「ちゃんと約束を守っていれば、次も協力してもらえるからね。
信頼は大切だよ。それに・・・」

「それに?」


・・・いやな予感。


「まだもう一部屋行かなくちゃいけないしね。」

「帰る。」

「大丈夫、今度の部屋には死体はないから。」
「そういう問題じゃなくて・・・」
「さあ、時間もないし行くぞ~。」
「だーー、人の話を聞け!」


 巻き込まれている。ああ、巻き込まれている・・・。
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