名探偵の条件

ヒロト

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19血の海に転がる死体の夢

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「『犯人にとっても予想外の犯行で、事前に準備できなかった。』
『状況によって、手袋などの入手が不可能だった。』
後は『普段から自分が出入りしていた痕跡を消すため』なんて理由もあるかな。

そして、ぬぐってある場所を考慮すれば・・・その理由も大体わかるものさ。


なっ、とりあえず指紋をぬぐった場所があるだけでも、このくらい犯人像が予想できるんだよ。これに関係者を当てはめていけば、結構対象をしぼれると思わないかい?」


正直に言って・・・僕は冬弥の理路整然とした説明に驚いていた。

売れていない探偵なんて、結局浮気調査とかペット探し、精々ストーカー相手の仕事ぐらいしかこないもので、テレビの中での探偵の様に『推理』をすることなんてないと思っていた。

まして・・・こののんびりと現場を眺めているだけ(に見える)の冬弥が!?


・・・この時、本当に僕は冬弥に感心していたのだ。
しかし口からでたのは別の一言だった。


「ただ、ボーっとしていただけじゃなかったんだ。」


「・・・傷ついた。なんかすごく傷ついた。
僕は現場では何にも触っちゃいけないって言われたから、それを素直に守っていただけなのに。」

「そうだったな。少し言い過ぎた・・・」

「本当だったら、弘幸を血の海に突き飛ばしたり、凶器を首に当てて脅かしたり、色々してみたかったのに。」


「・・・前言撤回、全然言い足りていなかった。
とりあえず僕の後ろには立つな。」

「ジョークだよ。」

「誰が信じるか!」


「やれやれ、信用がないって悲しい事だね。
しかたがない、ささやかな信用を守るために時間を守って部屋を出るか。病室に戻ろうよ。」

「・・・色々と言いたい事もあるけど、とりあえず部屋に戻るのには賛成だ。」

「現場検証の結果や被害者についての情報、犯行の発見当時の状況なんかは、後で羽鳥刑事に聞けばいいしね。」

「やれやれ、公務員には確か守秘義務ってのがあった気がするんだけどな。
・・・羽鳥さんも災難だ。一体どんな弱みを握られているのやら。」

「羽鳥刑事が優しい人なだけだよ。

弱みなんて・・・なんか、僕が脅迫しているみたいじゃないか。」


「・・・深く追求する気はないよ。
どんどん深みにはまっちゃいそうで怖いからね。
さてと・・・もう消灯時間になるし、とっとと寝ますか。」

「そうだね。羽鳥刑事に『明日来て』メールを送ったらもう寝るよ。
まぁ、まだ全然情報が足りていないから、これ以上事件について考えても無駄だし、まずはよく睡眠をとって明日に備えるとしましょうか。

それじゃあ、おやすみ。
血の海に転がる死体の夢が見られるといいね♪」


「・・・自分だけで見ていてくれ。」

 冬弥の言葉で、死体やら血染めの部屋やらが鮮明に瞼の裏に浮かんできた。


・・・眠れないかもしれない。
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