名探偵の条件

ヒロト

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20朝食前

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朝日が眩しかった。

小鳥のさえずりが聞こえる、のどかな朝だった。
しかし睡眠不足の僕にとっては、それはたいしてありがたいものではなかった。

「もっと寝かせといてくれよ。」
これが正直な感想だった。


「しかしまあ・・・これ以上ベッドに入っている訳にもいかないな。」
時計は朝食の時間を示している。

とりあえず上半身をベッドから起こして、やけに重く感じる首を回す。

「やっぱり眠れなくなったじゃないか。
冬弥のやつ、自分だけ気持ちよく寝やがって。

・・・寝顔に悪戯してやろうかと思ったけど、後が怖くてできなかったし・・・まいったね、ほんと。」
 

朝から愚痴をこぼしているのも虚しいので、顔でも洗いに行くことにした。
顔を洗えば少しは頭もすっきりするだろう・・・と頭を掻きながら考える。

隣のベッドを見ると・・・冬弥がいない。

「・・・もしかして、犯行現場にもぐりこみにいったのか。」

・・・冬弥なら、十分にありえることだと思う。


(まずいな。せめて朝食ぐらいはいい気分で食べたいぞ・・・)

もし、朝食前に冬弥に出会ってしまったら・・・

今見てきたばかりといって、喜んで血まみれの部屋だの、死体だのの話をするに決まっている。
そして、それをげんなりしながら聞いている僕。
・・・当然箸は進まないだろう。

しかも、メニューが肉やトマトソースだったら・・・

想像はどんどんと悪い方に進んでいく。


「・・・逃げるか。」

「そんな事言わないで一緒に朝ご飯、食べようよ。」

「!!! いつの間に!」

「・・・弘幸がぼけーっとして歩いてるから、声をかけただけなんだけど?」

「・・・それで『そんなこと言わないで一緒に食べよう』てのは?」


「いや~、話しかけようと近づいたらさ、弘幸が『逃げよう』なんて独り言を言ってるだろ。
弘幸の事だから、朝、僕の姿がベッドの中にないのを見て
『冬弥のことだ。どうせ犯行現場にでももぐり込んでんだろうな。』
『冬弥のことだ。きっと朝飯の時に嬉しそうに、血みどろの部屋について語るんだろうな。』
『これは冬弥から逃げたほうが良いな』
・・・な~んて考えてるんじゃないかなってね。」


「・・・『はずれ』じゃないよ・・・」


「なら問題なしだ。朝飯食べに行こうぜ。
大丈夫、心配しなくても、変な話題は出さないよ。」
満面の笑みの冬弥。

「・・・本当にか?」
疑いの目を向ける僕。

「・・・信用がないってのは悲しいことだね。
大体、今朝だって僕は犯行現場になんか行っていないんだよ。ちょっと、友達に電話してきただけさ。」


肩をすくめ悲しげに首を振る冬弥。


その表情やしぐさを信じる気はまったくないが、もともと喧嘩をしているわけではない。
まあ・・・朝食の誘いを断る必要もないだろう。


「・・・OK。食べに行こうか。」
「ん。じゃあ、早く食べに行こうぜ。正直なところ、結構腹減っているんだよ。」
おおげさにお腹を押さえおどける冬弥。


・・・こういう時は本当に『いいやつ』なんだけどな。
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