バビロニア・オブ・リビルド『産業革命以降も、神と科学が併存する帝国への彼女達の再構築計画』【完結】

蒼伊シヲン

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2章.ギルタブリル討伐

20『棚から猪』

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 曇り空の中、落ちていく南花の頬に雨粒と向かい風が、絶え間なく当たり続ける。
徐々に、確実に、ギルタブリル討伐作戦の地が近付いてくる…

自分が開発した弾丸が、本当に神獣に対して有効打になるのか…
地面に向かって落ちていく体に反して、緊張は高まり、南花の心拍数は上がっていく。

そして、高まる心臓の鼓動に連動するかのように、右手に刻印された
エンキの黒い菱形の魔術式が、点滅し、南花に発動を促す。

「(あっ、光った!)」
南花が刻印に触れた次の瞬間…
刻印は右手から浮き出ると、無数に分身した後に、南花の腰辺りに移動し、スカートの様にぐるりと360度包囲する。

そして、分身した各菱形は、彗星の尾の様に黒い粒子を放出し、減速装置としての役割を果たす。

減速が終わり、ザグロス山脈の地に、ふわりと降り立った南花が頭上を見上げると…
同じ狙撃小隊である、アリサ達も無事に着地する。
「あとは、ペコ先輩とエンキ局長だけかな?」
南花は着地した人数を確認する。

「い!イヤァ~ア!」
先に降り立った討伐部隊全員が叫び声が聞こえる曇天の空を見上げる…
すると、あからさまに減速が十分にされていない状態でペコが迫ってくる。

迫って来たかと思いきや、南花達の頭上を通りすぎていく…
「あぁ、減速の魔術を発動させるのが遅過ぎたんだ…」
泣き叫ぶペコを、静観する南花。

着地予定地点を大幅にオーバーランし、200メートル程先の森の茂みに不時着するペコ。

「おや?ペコ君はどこに着地したのかな?」
最後に着地したエンキがわざとらしく問い掛ける。

「エンキ局長、作戦開始前に脱落者一名です…」
ペコへの嫌悪感から、南花は一芝居打つ。
「ペコさん…良い人だったよ、ポテトフライをくれたしな…」
コマチも悪ノリをしていると…ペコが不時着した森の茂みから、叫び声が近付いてくる。

「えっ…フラワリーさんだけじゃない?あれは?」
無事だったペコが全力疾走で駆けてくる様をアリサは見るが…
その背後に立ち上る砂ぼこりの中に、幾つかの気配を感じる。

「あれは、確か老白ヘンウェンの猪じゃないかな?」
エンキが呟くと、白い毛並みと宝石の様に輝く牙を持った数匹の猪が突っ込んでくる。

「エンキ局長、提案なのですが…老白ヘンウェンの猪相手に、ライフル弾の試し撃ちをしてもよろしいですか?」
南花が既にライフルで狙いを定めた状態で確認を取る。

「うん、ギルタブリルの前に最終確認をしておこうか…南花君以外の皆も撃ってよ。」
即決したエンキの指示に、アリサ、サクラ、コマチ、アオイも従い、狙いを定める。

「なんでぇ、私に銃をむけるのよぉ!」
恐怖のあまり不時着した先が、獰猛な獣達の住みかであり、その上で追い掛けられているペコはパニックの余り、銃口が自分に向けられていると勘違いしてしまう。

「あぁっ!?」
ペコは足がもつれて、勢いよく前に倒れ込む。
「うん、今だね。」
エンキが、狙いを定める南花達に号令をかける。

数発の銃声が、ザグロス山脈に響き渡る。

南花達のライフル弾によって急所を撃たれた、5匹の老白ヘンウェンの猪が横たわっている。

老白ヘンウェンの猪の肉は、甘みが強くて美味しいんだよね…」
南花はメイドとして調理したことがある食材に笑みを浮かべる。
「そして、この牙は帝国内で高価で取引されているわね。」
アリサが続けて捕捉説明をする。

「ふむ…この肉は、今宵の勝利の宴のメインディッシュにするとしようか…その為にも、今日やるべきことに集中しないとね。」
決戦前の思わぬ副産物に浮き足立つ部隊に対して、エンキが釘を差す。

「その通りですね。」
南花は再び気を引き締めようとするが…
「正に棚からぼた餅ね!南花さん、感謝しなさいよ。」
それを、ペコが水を差す。

「ねぇ、感謝しなさい…よ…?」
ペコは南花達の視線が、自分自身ではなく、背後の地面に向けられていることに気付く。
他の討伐部隊達が放つ空気が変わったことに感付いたペコも、恐る恐る振り向く…

すると、そこには…さっきまでは気配すら無かった、見ているだけで生気を吸い取られそうな、黒い沼が徐々に広がっていく…

そして、広大な黒い沼の中から、ザグロス山脈のぬし…巨大な漆黒の蠍【ギルタブリル】がゆっくりと現れる…
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