26 / 79
2章.ギルタブリル討伐
23『零雨の鯨』
しおりを挟む
ハードなスケジュールをこなした、南花を始めとする狙撃小隊の面々は、同じ一つのテントで眠りに着いている。
闇夜の中、テントの屋根をポツポツと打つ小雨の音だけが僅かに聞こえる…
「その…ハンバーガーも…わたしが、食べる!」
夢の中でも食欲旺盛なコマチは、右手を振り上げ空を掴むが、無論空振りする。
そして、振り上げた拳は勢い良く降り落とされ…その先には…
「うっ!」
コマチの右隣で寝ていたアリサのみぞおちにクリーンヒット…
謎の鉄拳制裁を受けた被害者は目を覚まし、原因を把握すると、ため息を漏らす。
「(…なに…この音?)」
テントの屋根に小雨が落ちる音に紛れて、アリサ達の周囲の地面を、何かが引きずる音を耳にする。
「…それに、この匂いは…」
南花と出会った、あの日に感じた物と同じグラジオラスの匂いに気付いた
アリサは、寝床の近くに置いてある、愛銃の単発式拳銃に手を伸ばす。
「んぅ?…アリサ、どうしたの?」
アリサの立てる物音に気付き、隣で寝ていた南花も目を覚ます。
「南花、グラジオラスの匂いがする…あの日のロングコートの女性が近くにいる…」
起きた南花に警告したアリサは、手にした愛銃の撃鉄を起こす。
「ウソ…でも、確かに…あの匂いだ…」
親友の命を奪った存在が、テントの布地越しにいることに恐怖を抱きつつも、南花も護身用の回転式拳銃を手にする。
2人は耳を澄まし、重たい何かを引きずる音は、南花達のテント付近を時計回りに回っている事を察する。
「…エンキ局長や他の討伐部隊の人達は、気付いてないの?それとも…」
最悪のケースを想定してしまった南花の声は震える。
「いいえ、統括長であるエンキ局長が倒されている可能性は低いと思うわ…でも、ロングコートの女性によって、私と南花以外は眠らされている可能性も否定出来ないけれど…」
テントの布地越しに聞こえる音の行方に注視しながら、アリサはあらゆる状態を思索する。
回転式拳銃を握る右手の震えを、左手で押さえつつ南花が提案する。
「アリサ…背後から2人で奇襲すれば、拘束出来るかも…」
「危険ね…でも…南花と出会った日の真相を知れるかもしれないわね」
アリサの心が揺れる。
「2人の話は聞かせて貰ったわ…私も手助けするよ。」
いつの間にか、目を覚ましていたサクラが決意を表す。
「えっ、サクラさん…」
「そう…サクラ、助かるわ。」
驚きを隠せない南花とは違い、アリサは感謝する。
「音の位置的に、ちょうどテントの入り口の真反対に居るはず…」
サクラも地下道化師として使い慣れた、中折れ式の回転式拳銃の撃鉄を起こす。
「それじゃあ…出るよ…」
南花に対して2人は無言で頷く。
テントの入り口をそっと開け、小雨が降る外へ出た3人は、時計回りにゆっくりと歩みを進めていく…
何かを引きずって出来た、細く浅い溝の跡を、一歩、また一歩と追って行く。
まず、暖色系の明かりが僅かに見えてくる…
そして、その明かりによって揺れる影が見えてくる…
先頭を行くアリサが振り向き、南花とサクラに視線を向け、奇襲の合図を送る。
「動いたら、撃つ!」
「動かないで!」
「誰!?」
アリサの命令口調に続けて、南花、サクラも声を上げる。
「へぇ?」
予想していた状況とは異なる状況に、3人の目が点になる。
3人の視線の先には、短い足を4本生やしたランタンがいた…
そして、声に反応して、小動物の様に振り向く。
その生命的な動きを見せるランタンには、木の枝が括り付けられている。
「何、これ?」
「どんな魔術なの?」
「誰の仕業?」
予想外な状況に、余計に混乱してしまう3人…
「今晩は…これは私の魔術です。」
背後から声をかけられた3人は…ゆっくりと振り向く。
そこには、ロングコートの女が佇んでいる…
「何のつもり?」
真っ先に口を開いたアリサは、単発式拳銃を向ける。
「こちらに戦う意思はありません。あなた方5人に会いたいという方の代理として訪れました。」
「私達に会いたい?私の親友を手にかけた人の仲間の元には行きたくないな…」
南花も回転式拳銃を向けながら応じる。
ロングコートの女は、銃口を気にかけることなく続ける。
「その方からの伝言です。『この会合に関して、あなた達には拒否権なんて無いし…寧ろ、会った方が君達にもメリットがあると思うんだけどな』との事です。」
そう、ロングコートの女が言い放った瞬間、テントの周囲が寒色系の明かりに包まれる…
「まさか…この溝が魔術の術式なの!?」
アリサが、真っ先に感付く。
それに対して、ロングコートの女はコクりっと頷くだけである。
そうこうしている間に…南花達の足元が地面から、闇夜を写したかの様な水面へと変貌する。
その水面に、底知れない水中から巨大な気配が近付いて来る…
「えぇ…なに、あれ?魚?」
水面に迫って来るのは魚ではなく、鯨だった…
その黒い鯨は、餌を補食するかのように、大口を開けている。
そして、テントごと5人を飲み込んだ鯨は、水面に大波のような水飛沫を上げ…
何事も無かったかのように、全て消え去る。
闇夜の中、テントの屋根をポツポツと打つ小雨の音だけが僅かに聞こえる…
「その…ハンバーガーも…わたしが、食べる!」
夢の中でも食欲旺盛なコマチは、右手を振り上げ空を掴むが、無論空振りする。
そして、振り上げた拳は勢い良く降り落とされ…その先には…
「うっ!」
コマチの右隣で寝ていたアリサのみぞおちにクリーンヒット…
謎の鉄拳制裁を受けた被害者は目を覚まし、原因を把握すると、ため息を漏らす。
「(…なに…この音?)」
テントの屋根に小雨が落ちる音に紛れて、アリサ達の周囲の地面を、何かが引きずる音を耳にする。
「…それに、この匂いは…」
南花と出会った、あの日に感じた物と同じグラジオラスの匂いに気付いた
アリサは、寝床の近くに置いてある、愛銃の単発式拳銃に手を伸ばす。
「んぅ?…アリサ、どうしたの?」
アリサの立てる物音に気付き、隣で寝ていた南花も目を覚ます。
「南花、グラジオラスの匂いがする…あの日のロングコートの女性が近くにいる…」
起きた南花に警告したアリサは、手にした愛銃の撃鉄を起こす。
「ウソ…でも、確かに…あの匂いだ…」
親友の命を奪った存在が、テントの布地越しにいることに恐怖を抱きつつも、南花も護身用の回転式拳銃を手にする。
2人は耳を澄まし、重たい何かを引きずる音は、南花達のテント付近を時計回りに回っている事を察する。
「…エンキ局長や他の討伐部隊の人達は、気付いてないの?それとも…」
最悪のケースを想定してしまった南花の声は震える。
「いいえ、統括長であるエンキ局長が倒されている可能性は低いと思うわ…でも、ロングコートの女性によって、私と南花以外は眠らされている可能性も否定出来ないけれど…」
テントの布地越しに聞こえる音の行方に注視しながら、アリサはあらゆる状態を思索する。
回転式拳銃を握る右手の震えを、左手で押さえつつ南花が提案する。
「アリサ…背後から2人で奇襲すれば、拘束出来るかも…」
「危険ね…でも…南花と出会った日の真相を知れるかもしれないわね」
アリサの心が揺れる。
「2人の話は聞かせて貰ったわ…私も手助けするよ。」
いつの間にか、目を覚ましていたサクラが決意を表す。
「えっ、サクラさん…」
「そう…サクラ、助かるわ。」
驚きを隠せない南花とは違い、アリサは感謝する。
「音の位置的に、ちょうどテントの入り口の真反対に居るはず…」
サクラも地下道化師として使い慣れた、中折れ式の回転式拳銃の撃鉄を起こす。
「それじゃあ…出るよ…」
南花に対して2人は無言で頷く。
テントの入り口をそっと開け、小雨が降る外へ出た3人は、時計回りにゆっくりと歩みを進めていく…
何かを引きずって出来た、細く浅い溝の跡を、一歩、また一歩と追って行く。
まず、暖色系の明かりが僅かに見えてくる…
そして、その明かりによって揺れる影が見えてくる…
先頭を行くアリサが振り向き、南花とサクラに視線を向け、奇襲の合図を送る。
「動いたら、撃つ!」
「動かないで!」
「誰!?」
アリサの命令口調に続けて、南花、サクラも声を上げる。
「へぇ?」
予想していた状況とは異なる状況に、3人の目が点になる。
3人の視線の先には、短い足を4本生やしたランタンがいた…
そして、声に反応して、小動物の様に振り向く。
その生命的な動きを見せるランタンには、木の枝が括り付けられている。
「何、これ?」
「どんな魔術なの?」
「誰の仕業?」
予想外な状況に、余計に混乱してしまう3人…
「今晩は…これは私の魔術です。」
背後から声をかけられた3人は…ゆっくりと振り向く。
そこには、ロングコートの女が佇んでいる…
「何のつもり?」
真っ先に口を開いたアリサは、単発式拳銃を向ける。
「こちらに戦う意思はありません。あなた方5人に会いたいという方の代理として訪れました。」
「私達に会いたい?私の親友を手にかけた人の仲間の元には行きたくないな…」
南花も回転式拳銃を向けながら応じる。
ロングコートの女は、銃口を気にかけることなく続ける。
「その方からの伝言です。『この会合に関して、あなた達には拒否権なんて無いし…寧ろ、会った方が君達にもメリットがあると思うんだけどな』との事です。」
そう、ロングコートの女が言い放った瞬間、テントの周囲が寒色系の明かりに包まれる…
「まさか…この溝が魔術の術式なの!?」
アリサが、真っ先に感付く。
それに対して、ロングコートの女はコクりっと頷くだけである。
そうこうしている間に…南花達の足元が地面から、闇夜を写したかの様な水面へと変貌する。
その水面に、底知れない水中から巨大な気配が近付いて来る…
「えぇ…なに、あれ?魚?」
水面に迫って来るのは魚ではなく、鯨だった…
その黒い鯨は、餌を補食するかのように、大口を開けている。
そして、テントごと5人を飲み込んだ鯨は、水面に大波のような水飛沫を上げ…
何事も無かったかのように、全て消え去る。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜
長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。
コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。
ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。
実際の所、そこは異世界だった。
勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。
奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。
特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。
実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。
主人公 高校2年 高遠 奏 呼び名 カナデっち。奏。
クラスメイトのギャル 水木 紗耶香 呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。
主人公の幼馴染 片桐 浩太 呼び名 コウタ コータ君
(なろうでも別名義で公開)
タイトル微妙に変更しました。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜
白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。
私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。
けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?
関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。
竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。
『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』
❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。
*乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。
*表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。
*いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。
*他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる