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-epilogue-
70『祇園精舎のヤタノ』※続編、投稿開始記念
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「ここが…『アヌの使徒』であるアトラさんが住む祇園精舎で合ってる?」
南花が改めて周囲をぐるりっと見渡していると、寺院の僧侶の一人が近付いて来る。
「こんにちは、当寺院にどのようなご用でしょうか?」
袈裟を纏った初老の男性が落ち着いた声で尋ねてくる。
「こんにちは、私達はバビロニアの地から旅をしてきた者達で、私はアリサ・クロウと申します。」
南花の隣に立つアリサが始めに挨拶をすると、初老の僧侶はクロウ…っとボソリと復唱する。
「私は、源南花です。こちらの祇園精舎にアトラさんがいらっしゃると聞いて訪れたのですが…いらっしゃいますか?」
次に南花が自己紹介と用件を伝えると、僧侶はバビロニアの源…っと続けて復唱する。
「あぁ…アトラ様からお聞きしたことがある【鉄乃助様】と【フェルム様】のご息女のお二人の一行の方達でしたか…失礼ですが、それを証明出来るものはお持ちでしょうか?」
そう答えた僧侶は、南花とアリサの少し後ろに立つ、サクラ・コマチ・アオイ・ユキノ・ヨハンナ・ハンムラビにも視線を向ける。
「はい、私の父である鉄乃助から間接的に、アトラさんの懐中時計を貰いました。」
最初に南花が『アトラの懐中時計』を取り出し、その後にアリサも僧侶へと父の形見を見せる。
二人の懐中時計を確認した僧侶は、少し考える素振りを見せる。
「そうですね…アトラ様は、いつもの如く旅に出ている為におられませんが…皆さんにとってお会いしておいたほうが良い方がおられますので、ご案内致します。」
僧侶が先頭に立ち、寺院の奥へと南花達を導く。
寺院を囲むように生い茂る木々に紛れる小鳥達の鳴き声が聞こえるなか、寺院の本堂へと着いた南花達…
その本堂で真っ先に目についたのは、部屋の中心で高く轟々と燃えつつも、静かに鎮座する護摩である。
そして、その赤い護摩の向こうでは、那羅延天が祭られている。
「失礼します…お客人をお連れしました。」
護摩の前で座禅を組む人物へ短く言葉を告げた僧侶は、一礼すると去っていく…
座禅を組む人物の後ろ姿の身体のラインから燕尾服を着た女性である事が分かる…
隣には、その女性の物であるシルクハットが置かれている。
「初めまして、私達は…」
話しかけにくい厳かな雰囲気の中、アリサが声を掛けるが…その燕尾服の女性が右手を軽く上げて制止する。
「これは…これは…遠い所から…バビロニアの地から8人の女性の旅人かな…」
燕尾服と言う正装の見た目とは反して、明るいトーンの語気で女性は背を向けたまま、客人である南花達の人数と性別、出発地点を言い当てる。
「えっ…どうして分かったのですか?」
怖い程の的中率を見せた燕尾服の女性に対して、サクラが聞き返す。
「それは、この世に存在する全ての物には、固有の振動数を持っていてね…耳と神経を研ぎ澄まして、貴方たちの足音から予想したって感じですかね。」
そう答えた燕尾服の女性が、ゆっくりと南花達の方へと振り向く。
南花達は、どういう理屈?っと思わずゴクリっと微かに喉を鳴らし息を飲む。
「初めまして南花さん、アリサさん…サクラさん、コマチさん、アオイさん、ヨハンナさん、ハンムラビさん。」
燕尾服の女性は、まだ名乗っていない客人たちの名前を言い当てる。
「どうして…私達の名前を…」
アオイが震える。
「私達の呼吸による僅かな音から当てたのですか?」
ハンムラビが冷静に分析する。
「はい、その通りです。喉…つまり声帯は人の名前を、言葉を鳴らす器官ですからね。」
南花達よりも長く熱い護摩の前にいた筈の女性は、不思議なくらいに汗を掻いていない…
「ごめんなさいね、名乗るのが遅くなって…私は【ヤタノ】と言います…よろしくお願いします。」
肌艶は若く見えるも、目元や口元から発する雰囲気は落ち着いたものがあり、年齢が掴めない女性は【ヤタノ】と名乗った。
「あっ、すまない…もう12時か…」
コマチの腹の虫がなり、時間を報せる。
「コマチさん…貴方、半年前にお腹の左側に大きな切り傷を負い…昨日の晩御飯には、カレーを5杯…食後にマンゴー入りのラッシーも喫しましたね。」
ヤタノの感覚が更に冴え渡る。
「そこまで分かるなんて…すごい」
昨晩、共に夕食を食べたヨハンナが感嘆の言葉を述べる。
「ありがとうございます…そんな、ヨハンナさんは昨晩に地酒を6杯飲みましたね…」
アルコールによるヨハンナの喉への負担から予測するヤタノ。
「ヤタノさん…それはインドの古代医療術『アーユルヴェーダ』をベースにしていますね。」
アリサがモルガーナとの契約で得た知識を引用してくる。
「はい、その通りです…アリサさん…いえ…自称、世界最高のなんちゃって陰陽師さん…」
アリサの中に残る存在も言い当てるヤタノ。
「最近の事だとなんでも分かるんですね。」
そう称賛した南花の方へ向いたヤタノが、更に続ける。
「最近と言うか現在だけじゃないですよ…過去の事も、未来の事も分かりますよ。」
そう宣言したヤタノが南花へと近付き、自身の人差し指と中指を、南花の右手の根元に当てて脈を測る。
南花の脈を数十秒ほど見た、ヤタノの口角が僅かに上がり…言葉を紡ぎ出す。
「この地に伝わる神話に登場する神ヴィシュヌは、同じく神のアルジュナへ進言する『責務を履行せよ』と…するとアルジュナは全知全能の姿へと変わり、こう言葉にした『我は死神なり、世界の破壊者なり』と…」
そう告げたヤタノは、要領を得ない顔を浮かべる南花からアリサへと…そして、サクラ達と客人全員の顔を見る。
「おほん…現在と未来の話をしたので、過去についてお話致しましょうか…南花さんの父である鉄乃助さんについて…」
「私の父さんについてですか!?」
ヤタノの提案に対して、南花が一番反応する。
「はい…私…私達の一族と鉄乃助さんは、彼の故郷である日本の京都にある松原橋で出会ったと聞いております…鉄乃助さんにスリを捕まえてもらったのがきっかけとか…」
何故か言い直したヤタノが続ける。
「出会った者によると、その当時…まだ若かった鉄乃助さんは、彼の家である源家から逃げてきたとのことです。」
ヤタノが南花と視線を合わせる。
「家から逃げてきた?…何故ですか?」
幼い頃の記憶の中にある父としての姿からは想像し難い事実に対して南花は、怪訝に思う。
「初対面ということもあり、詮索しなかったものの…飲み屋で酔った鉄乃助さんが…『家の中も外も…疲れた』っとだけこぼしたそうです。」
シルクハットの隣に置かれた水を飲み、一呼吸を置いたヤタノが更に続ける。
「鉄乃助さんが『家の人間が追ってこれない程の遠くの土地に行きたい…』っと言われた為…出会った私達の一族の一人が、長旅のお供を務め…この祇園精舎も通りすぎ…バビロニアの地まで案内したと聞いております。」
そう過去の鉄乃助に関して告げたヤタノは、置いてあったシルクハットを被り、立ち上がる。
ヤタノがつばを持ち、被る位置を調整した金色のラインが一本入ったシルクハットの正面の右下部には、月をボールの様に手で転がす猫のシルエットが刺繍されている…
「さぁ…今度は南花さんのゆかりの地への帰国を…そして、アリサさんたちにとっては新天地への道案内を私がお手伝いさせて頂きましょう。」
そう誘いの言葉を告げたヤタノは、軽く頭を下げ、南花へと右手を差し出す。
ーーー
最後までお読み頂きありがとうございました。
続編に当たる『ハイカラ・オブ・リビルド』の投稿を開始しました。
本作と同様にダークローファンタジーとミリタリー要素ありの物語となっておりますので、良ければ一読して頂けると嬉しいです。
南花が改めて周囲をぐるりっと見渡していると、寺院の僧侶の一人が近付いて来る。
「こんにちは、当寺院にどのようなご用でしょうか?」
袈裟を纏った初老の男性が落ち着いた声で尋ねてくる。
「こんにちは、私達はバビロニアの地から旅をしてきた者達で、私はアリサ・クロウと申します。」
南花の隣に立つアリサが始めに挨拶をすると、初老の僧侶はクロウ…っとボソリと復唱する。
「私は、源南花です。こちらの祇園精舎にアトラさんがいらっしゃると聞いて訪れたのですが…いらっしゃいますか?」
次に南花が自己紹介と用件を伝えると、僧侶はバビロニアの源…っと続けて復唱する。
「あぁ…アトラ様からお聞きしたことがある【鉄乃助様】と【フェルム様】のご息女のお二人の一行の方達でしたか…失礼ですが、それを証明出来るものはお持ちでしょうか?」
そう答えた僧侶は、南花とアリサの少し後ろに立つ、サクラ・コマチ・アオイ・ユキノ・ヨハンナ・ハンムラビにも視線を向ける。
「はい、私の父である鉄乃助から間接的に、アトラさんの懐中時計を貰いました。」
最初に南花が『アトラの懐中時計』を取り出し、その後にアリサも僧侶へと父の形見を見せる。
二人の懐中時計を確認した僧侶は、少し考える素振りを見せる。
「そうですね…アトラ様は、いつもの如く旅に出ている為におられませんが…皆さんにとってお会いしておいたほうが良い方がおられますので、ご案内致します。」
僧侶が先頭に立ち、寺院の奥へと南花達を導く。
寺院を囲むように生い茂る木々に紛れる小鳥達の鳴き声が聞こえるなか、寺院の本堂へと着いた南花達…
その本堂で真っ先に目についたのは、部屋の中心で高く轟々と燃えつつも、静かに鎮座する護摩である。
そして、その赤い護摩の向こうでは、那羅延天が祭られている。
「失礼します…お客人をお連れしました。」
護摩の前で座禅を組む人物へ短く言葉を告げた僧侶は、一礼すると去っていく…
座禅を組む人物の後ろ姿の身体のラインから燕尾服を着た女性である事が分かる…
隣には、その女性の物であるシルクハットが置かれている。
「初めまして、私達は…」
話しかけにくい厳かな雰囲気の中、アリサが声を掛けるが…その燕尾服の女性が右手を軽く上げて制止する。
「これは…これは…遠い所から…バビロニアの地から8人の女性の旅人かな…」
燕尾服と言う正装の見た目とは反して、明るいトーンの語気で女性は背を向けたまま、客人である南花達の人数と性別、出発地点を言い当てる。
「えっ…どうして分かったのですか?」
怖い程の的中率を見せた燕尾服の女性に対して、サクラが聞き返す。
「それは、この世に存在する全ての物には、固有の振動数を持っていてね…耳と神経を研ぎ澄まして、貴方たちの足音から予想したって感じですかね。」
そう答えた燕尾服の女性が、ゆっくりと南花達の方へと振り向く。
南花達は、どういう理屈?っと思わずゴクリっと微かに喉を鳴らし息を飲む。
「初めまして南花さん、アリサさん…サクラさん、コマチさん、アオイさん、ヨハンナさん、ハンムラビさん。」
燕尾服の女性は、まだ名乗っていない客人たちの名前を言い当てる。
「どうして…私達の名前を…」
アオイが震える。
「私達の呼吸による僅かな音から当てたのですか?」
ハンムラビが冷静に分析する。
「はい、その通りです。喉…つまり声帯は人の名前を、言葉を鳴らす器官ですからね。」
南花達よりも長く熱い護摩の前にいた筈の女性は、不思議なくらいに汗を掻いていない…
「ごめんなさいね、名乗るのが遅くなって…私は【ヤタノ】と言います…よろしくお願いします。」
肌艶は若く見えるも、目元や口元から発する雰囲気は落ち着いたものがあり、年齢が掴めない女性は【ヤタノ】と名乗った。
「あっ、すまない…もう12時か…」
コマチの腹の虫がなり、時間を報せる。
「コマチさん…貴方、半年前にお腹の左側に大きな切り傷を負い…昨日の晩御飯には、カレーを5杯…食後にマンゴー入りのラッシーも喫しましたね。」
ヤタノの感覚が更に冴え渡る。
「そこまで分かるなんて…すごい」
昨晩、共に夕食を食べたヨハンナが感嘆の言葉を述べる。
「ありがとうございます…そんな、ヨハンナさんは昨晩に地酒を6杯飲みましたね…」
アルコールによるヨハンナの喉への負担から予測するヤタノ。
「ヤタノさん…それはインドの古代医療術『アーユルヴェーダ』をベースにしていますね。」
アリサがモルガーナとの契約で得た知識を引用してくる。
「はい、その通りです…アリサさん…いえ…自称、世界最高のなんちゃって陰陽師さん…」
アリサの中に残る存在も言い当てるヤタノ。
「最近の事だとなんでも分かるんですね。」
そう称賛した南花の方へ向いたヤタノが、更に続ける。
「最近と言うか現在だけじゃないですよ…過去の事も、未来の事も分かりますよ。」
そう宣言したヤタノが南花へと近付き、自身の人差し指と中指を、南花の右手の根元に当てて脈を測る。
南花の脈を数十秒ほど見た、ヤタノの口角が僅かに上がり…言葉を紡ぎ出す。
「この地に伝わる神話に登場する神ヴィシュヌは、同じく神のアルジュナへ進言する『責務を履行せよ』と…するとアルジュナは全知全能の姿へと変わり、こう言葉にした『我は死神なり、世界の破壊者なり』と…」
そう告げたヤタノは、要領を得ない顔を浮かべる南花からアリサへと…そして、サクラ達と客人全員の顔を見る。
「おほん…現在と未来の話をしたので、過去についてお話致しましょうか…南花さんの父である鉄乃助さんについて…」
「私の父さんについてですか!?」
ヤタノの提案に対して、南花が一番反応する。
「はい…私…私達の一族と鉄乃助さんは、彼の故郷である日本の京都にある松原橋で出会ったと聞いております…鉄乃助さんにスリを捕まえてもらったのがきっかけとか…」
何故か言い直したヤタノが続ける。
「出会った者によると、その当時…まだ若かった鉄乃助さんは、彼の家である源家から逃げてきたとのことです。」
ヤタノが南花と視線を合わせる。
「家から逃げてきた?…何故ですか?」
幼い頃の記憶の中にある父としての姿からは想像し難い事実に対して南花は、怪訝に思う。
「初対面ということもあり、詮索しなかったものの…飲み屋で酔った鉄乃助さんが…『家の中も外も…疲れた』っとだけこぼしたそうです。」
シルクハットの隣に置かれた水を飲み、一呼吸を置いたヤタノが更に続ける。
「鉄乃助さんが『家の人間が追ってこれない程の遠くの土地に行きたい…』っと言われた為…出会った私達の一族の一人が、長旅のお供を務め…この祇園精舎も通りすぎ…バビロニアの地まで案内したと聞いております。」
そう過去の鉄乃助に関して告げたヤタノは、置いてあったシルクハットを被り、立ち上がる。
ヤタノがつばを持ち、被る位置を調整した金色のラインが一本入ったシルクハットの正面の右下部には、月をボールの様に手で転がす猫のシルエットが刺繍されている…
「さぁ…今度は南花さんのゆかりの地への帰国を…そして、アリサさんたちにとっては新天地への道案内を私がお手伝いさせて頂きましょう。」
そう誘いの言葉を告げたヤタノは、軽く頭を下げ、南花へと右手を差し出す。
ーーー
最後までお読み頂きありがとうございました。
続編に当たる『ハイカラ・オブ・リビルド』の投稿を開始しました。
本作と同様にダークローファンタジーとミリタリー要素ありの物語となっておりますので、良ければ一読して頂けると嬉しいです。
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