ヒロインくんには敵わない。

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第四話『"スピンオフ。ドキドキ!性悪王子に迫られています!"まさかのBL化!?』

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部活を終えて、俺は最後まで見学をしてくれた渡辺のそばに駆け寄った。
「お待たせ。帰ろう」
そう言って渡辺の顔を覗き込むが返事がない。
俺は首を傾げた。
「和樹、また明日な」
俺の隣を通り過ぎてゆく俊が声をかけてくる。
隣には、真琴もいるがもう気にしない。
「うん、また明日」
俺はもう一度渡辺の顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「、、、いや、なんでもないっす」
そうぶっきらぼうに言うと、体育館の外に出た。
俺は慌てて後を追う。
でも体育館の出入り口で振り向き、姿勢を正して、
「ありがとうございました」
そう声に出して挨拶をする。
そして、帰りの挨拶を顧問の教師に残して、体育館を後にした。
これが体育館を使う者の礼儀。
「入部した時からこれやってっけどさ、なんで体育館にお礼言わなきゃいかんのか、今だにわかんねえんだよなぁ」
「、、、、」
返事のない渡辺に一方的に話しかける。
「渡辺?なんだよ黙りこくって。調子狂う」
俺が渡辺の顔を覗き込もうとすると、また視線をそらされた。
「、、、今日は見学さしてくれてあざした。ネタ大量っすよ」
「漁みたいに言うなよ」
俺はふっと笑う。
「あんさ」
首に手を当てると、傾いた空に視線を上げた。
「こ、こっちこそ。その、応援してくれた時、け、結構嬉しかった、、、かも?みたいな」
そう言って笑うと、渡辺の視線がこちらに向いた。
一瞬だけ見えた横顔が真っ赤に染まっているように見えた。
俺の頬もつられて赤く染まり、胸が熱くなる。
「あ、んさ」
「、、、はい」
「今日もさ、お前んち行ってい?」
視線を背けて言う俺にもう一度視線を向けた渡辺。
「、、、別にいっすけど」
「そっか」

なんだこのくすぐったい感じ。

俺は久しぶりの感覚に、笑顔がこぼれた。

渡辺のマンションの前まで来た。
前回よりも緊張している。
エレベーターに乗った。
少しずつ五階に近づいてゆくごとに、鼓動の速度が増した。

部屋の前に着くと、渡辺が扉を開いた。
「どぞ」
「じゃ、邪魔しまーす」
靴だらけの玄関を抜けて居間に入る。
俺はそのままぎこちない動きでこたつの中に潜り込む。
「青汁じゃなくて」
「青汁じゃなくて!」
「コーラでしたよね」
「そうですぅ!」
キッチンから、コップを持った渡辺が顔を出した。
俺の前にコーラの揺れるコップを置くと、こたつには入らずに少し離れたところに腰を下ろす。

、、、さっきからマジで、どうしたこいつ?

「あんさ、さっきからなんか変じゃね?」
「別に、変じゃないっすけど」
そう言って顔を背ける。

あ、、、。

「もしかして」
俺はニヤッと笑う。
「意識してんの?なんちゃって」
そう言ってみる。
返事がない。
渡辺は片方だけ立てた膝に腕を預けると、そこに顔を埋める。

え、もしかして、マジで?

俺は無意識に渡辺の腕に手を伸ばす。
「渡辺」
そう言って、顔を埋めた腕を引っ張る。
しかし、力をぐっと入れた渡辺の腕はびくりともしない。
「渡辺、顔見せて」
そう言って腕を引っ張る。
ググググググググ。
しかし、ビクともしない。
「ち、力強え!俺運動部なんだけど、なんで負けてんだ!」
「まっ毎日何時間をペン握ってるっすから」
「そんなことで、んなに力つくかよ!ほら観念して顔みせやがれ!」
「なっなんでそんなに上から目線なんすか」
「そこは別にいいじゃねえか!見せろ!」
「いやっす!」
珍しく声を張り上げる渡辺に動揺して力が緩んだ。
その隙を見て渡辺が俺の腕を振り払う。
「わ、渡辺さ。もしかしてさっきのやつ見えて」
「橘先輩!」
「な、なに」
もっときつく顔を腕で隠し、くぐもった声で渡辺が俺の言葉を遮る。
「さ、さっき沢北先輩たちとお化け屋敷行くってやつ!あれはどうなったんすか!」
「ああ、、、あれか」
俺は渡辺の発した言葉にため息をついて、脱力感に地面に積まれた服の上に倒れこむ。
「行きたくねぇ」
小声でため息交じりに言う俺。
「、、、じゃあなんでそう言わなかったんすか」

なんで、、、。

「なんかさ」
天井に視線を上げたまま口を開く。
「皆んなにいい顔しようと頑張っててさ、断り方がわかんねえっつか。お前と俊には普通に言えっけどさ、他のやつだと、勝手に白森みたいなやつのメンタルに切り替わっちゃうっつうか」
渡辺が視線だけを腕から覗かせた。
「慣れって怖いっすね」
「マジでそれな。そのせいで、行きたくねえって言えなかったし」
「用事ができたとか言っちゃえばいいんじゃないすか」
「いや、でも、あんな嬉しそうにされちまったし、予約してるって言うしもったいねえ」
「本音は後者っすよね」
「うるせえ」
俺は顔を歪ませた。
「本音を言えばさ、もうあいつらがどうなろうと別に興味はねえんだよ。でもな、真琴が俺はさすがだとか、河村ならできないとか、すげえ比べてくんだよ。もう、今までのこともなかったことにしてえし、関わんのも嫌なんだ」
渡辺は腕から顔を上げた。
「でも、さっき他の人がいた時、素が出てたっすけど」
「あれは、、、無意識に」
「そ、っすか」
顔を赤く染めた俺に、渡辺も動揺の色を見せる。
「あの、、、提案なんすけど」
「な、なに」
渡辺は足元に視線を落とした。
「俺も、行きましょうか」
「え」
「遊園地」
「マジで?!」
身をガバッと起こす俺。
「マジっすけど」
「え、めっちゃ来て欲しい!つか来い」
「うす」
「あざす」
俺がニカっと笑って礼を言うと、渡辺は少し慌てたように視線を落とした。
「別に、橘先輩のためじゃないっすから。遊園地なんて恋愛小説においてのセオリー、いわば恋人たちの聖地じゃないっすか。ネタ集めのいいチャンス」
「お前はツンデレキャラも入ってんのかよ。実際に見ると可愛くねえ」
「何言ってんすか。オタクのくせにツンデレキャラ嫌いなんすか?」
「ちげえよ。ツンデレは二次元だったら大歓迎の属性だ。でも現実にあんな罵倒してくる女いたら、はっ倒す。てか、ツンデレ否定しねえのな」
「っ、さっきのは本音っす」
「へいへい」
渡辺の表情が少し柔らかくなった。

やっぱり素で笑いあってる方がずっと楽しい。
実際、もう作り笑顔にも慣れてしまった。
でも、それはどっちにしろあまり笑顔が自然と浮かばなかったからかもしれない。

男の友達は欲しくても、俊以外は全然できない。
こんなに自分を偽ってばかりで、、、。
俺は本当に何やってたんだ。
一人の女の子に熱中して必死になって作り笑いして、彼女だけのために変わったはずなのに、やっと振り向かせたにも関わらず、こっぴどく振られた。
真琴たった一人しか見えていなかった自分が情けない。

こうやって自然にしてても受け入れてくれるやつがいる。
なんでそれが分からなかったんだろうか。
こいつだけじゃないかもしれない。
もっと他にもたくさんいるだろう。

これからは、少しずつでもいい、本当の俺を晒してみようか。

そんな考えが頭をよぎる。

とりあえずは俊に、今の本当の俺を知って欲しい。
まずは、学校での一人称を『俺』に変えてみようかな。

俺は渡辺の隣に座り、大口を開けて笑う。
表情は変わらないが、渡辺の頬も、嬉しそうに染まっている。
きっとこれも、小説のネタにされるだけなのだろう。
でも、それでもいつかはこいつの本当のヒーローになりたい。
うわ、なんか臭いこと思ってんな俺。

翌日の土曜の晩。
渡辺からメールが届いた。

 渡辺【担当との打ち合わせ上手く行きました】既読
 俺【一発オーケー?】既読
 渡辺【うす。橘先輩のおかげっす】既読

俺は頬が赤く染まるのを感じ、ベットの上にパタンと倒れこむ。
 渡辺【男同士で書くっつったら面白そうだと】既読

「ん?」
俺はその文章を二度読みしてから、倒れたばかりなのにすぐに上半身を勢いよく起こす。

 俺【男同士?】既読
 渡辺【はい】既読
 俺【散々ヒロイン役やるだの言ってたのはなんだったんだ。なんで結局男なんだよ!】既読
 渡辺【担当の皐月さんが以前は女が好きだったけど、今は男が好きみたいなシチュとか、男が男同士の作品を書くのに萌えるとかなんとか】既読
 俺【ジャンルが変わってる!】既読
 渡辺【今は結構少女向けの物にもBLは増えてきてるみたいっすよ】既読
 俺【もうBLって言っちゃってるじゃねえか】既読
 渡辺【とにかく上手く行ったんで、これで進めます】既読
 俺【まじか。まあ面白ければいいけど】既読
 渡辺【面白くするんで。『おじせま』は最終回迎えたんで、これからは『しよせま』一本っすね】既読
 俺【死世狭?】既読
 渡辺【なんでわざわざそう変換したんすか。『スピンオフ。ドキドキ!性悪王子に迫られています!』の略っすよ】既読
 俺【だから略ダセエっての。なんで『しょ』の『よ』が大文字なんだよ】既読
 渡辺【言いやすさを優先したんです】既読
 俺【それ言いやすくなってんの?】既読

結局、超絶乙女小説からBL(?)になってしまったみたいだ。
まあ、今までロボットのようだと言われていたキャラクターに、意外なキャラクター性がつくのは面白いだろうが、男を好きなるなんて急展開は受け付けられるのだろうか。

まあ、物は試しだよな。
でも、よく考えたらなんで男にしたんだ。
ヒロイン『役』をやると言っていた渡辺が、まんま自分のキャラクターを相手キャラにするなんて思いもしなかった。

つまり、小説の中では俺たちが恋愛をしてることになるんだよな。
それを俺に読めと?
なんだその無茶振り!
まあ、買わないとは言っていないが。
嬉しいやら、恥ずかしいやらで感情が迷子になっている。

でもとりあえずは明日だ。
真琴と俊と共に遊園地に行く。
これを機に、ずっと続いている気まずい雰囲気にもけりをつけたい。
それに、明日は渡辺も来てくれる。
心強い。

俺は携帯を片手に握りしめたまま、眠りについた。
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