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第二章 それぞれの出会い
2-3 マルス ~戦役と初陣 その一(出陣)
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マルスが12歳になった時、マルスの身長は1.8レルを超えていた。
既に養父ノームの背丈を超えていた。
長身痩躯でありながら鍛え上げた筋肉は並みの大人以上に発達していた。
最早、カルベック騎士団でマルスと対等に戦えるものはいなかった。
騎士団の中でも5指に入る者が二人掛かりならば二本に一度は勝てた。
三人がかりならば、マルスにほとんど勝ち目はないが10本に1本ぐらいはマルスが勝つこともあった。
可愛かった顔は徐々に精悍さを増しており、マルスは少年期を超えようとしているようだった。
その甘いマスクと抜群のスタイルは、思春期の年上の娘たちの憧れの的だった。
無論、同じ年頃の娘たちも同様であるのだが、如何せん、マルスが五つ六つも年上に見えて近寄りがたい存在なのである。
マルス13歳の年、養父ノームは47歳になり、養母レアは44歳になっていた。
だがカルベック伯爵夫妻にとっては、マルスはもはや成人と同じであった。
相応の分別があり、武人としてもカルベック領内では第一人者である。
15歳になれば、国王陛下への拝謁が催されるが、伯爵自体はいつでもマルスが拝謁に耐えられるほど成長したと見ていたのである。
その年、思いもかけないことから国王への拝謁が早まってしまった。
初夏のエリドゥ月、隣国ベンシャ公国と国境で諍いが生じた。
カルベックからベンシャとの国境ダンバル峠までは、およそ200レグルあるが、その間に5つの荘園領が街道沿いに続いている。
バルディアス側の初期段階の戦術で躓き、国境のボノリス城塞に隣接する12の荘園領の勢力では不足になったことから、新たに内陸部の荘園領12が追加され、カルベック騎士団も派遣を命じられたのである。
ノームが伯爵領を継いでから初めての出陣となった。
騎士団長であるグライアスは、45歳、副騎士団長のムロイは43歳であり、その子息たちレナンとデラウェアは19歳と18歳の騎士見習いになっており、騎士団と共に従軍することになっている。
マルスとレナン、デラウェアの親交は続いていた。
当然にノームが出陣することになるが、マルスはその際に自分も一緒に従軍させてほしいと願った。
マルスは誰しもが認めるカルベック領内随一の武人ではあるが、未だに元服式を行っていないので騎士ではない。
最初にレアが反対した。
我が子を戦場に行かせたいと願う母親など居りはしない。
ましてマルスは元服までにまだ2年もあるのである。
仮に元服してからでも騎士見習いとして少なくとも3年以上の歳月をかけてようやく一人前の騎士となるはずであり、騎士見習いは時として出陣から遠ざけられる場合さえある。
だが、マルスはレアを宥めるように説得した。
「父上は、カルベック騎士団の総帥として戦場へ向かわねばなりません。
戦場では何が起こるかわかりません。
父上のいる本陣めがけて敵が突入してきた時、力ある者が父上の傍に居れば、撃退することもできましょう。
僕は自惚れではなく、事実としてこのカルベック随一の武人だと思っています。
僕でなければ父上を守れないこともあるかもしれません。
そのようなことは決して起きないのかもしれませんが、万が一のことを考えるならば使える武器は用意しておくべきです。
僕がカルベックに留まっているならそれはできません。
僕の大事な友であるレナンとデラウェアも出陣します。
彼らの技量では最悪、戦で死ぬことも考えねばならないでしょう。
それなのに友を救えない場所に留まることは僕には耐えられません。
父上にしても、我が子大事さに戦場に連れて行かなかったと陰口を叩かれたくはないでしょう。
父上が出陣するのはカルベック騎士団総帥としての旗印なのです。
父上が剣を持って敵軍と斬り合いをするような事態になれば、戦は負けです。
その時点で騎士団の半数の命は失われているでしょう。
父上よりも武術の技量が優れた者が騎士団には両手ほどもいますから、失礼な言い方をすれば父上はお飾りにしか過ぎません。
ならばそのお飾りに今一つお飾りを加えても良いではありませんか。
父上が討死なされるようならば、バルディアスそのものが危ういことになります。
そんな時にカルベック家の血筋の存続を考えても意味はありません。
僕が父上の傍にいる以上、必ず母上の元に父上をお返しいたします。
ですから、母上。
どうか、二人の生還を祈って待っていてくださいませんか?」
13歳とは思えない体格と思慮分別を持った我が子の忠言である。
理はマルスに有ることを認めざるを得ず、レアはその場で泣き崩れた。
最後は、ノームが決めた。
「止むを得んな。
マルスは私の小姓として連れて行こう。
元服前のそなたを騎士扱いにはできないが、小姓としての従軍ならば前例もある。」
こうしてノームと共にマルスは、カルベック騎士団1,200名を率いて出陣したのである。
ダンバル峠はベンシャ公国とバルディアス王国の間に立ち塞がるオミ山脈の中で唯一の街道である。
峠の標高は870レルを超えるが、峠の左右は更に高い山が迫り、岩肌の断崖が聳え立つ峡谷でもある。
峠を挟んでの砦同士の諍いはここ百年の間に両手に余るほどあるが、これほど深刻な事態は初めてのことである。
バルディアス王国側の関所を兼ねた砦が攻め落とされて焼け落ち、ベンシャ公国軍勢多数が、峠のこちら側に布陣しているのである。
カルベック騎士団が最前線基地であるボノリス城塞に到着した時、既に周辺荘園からも加勢が到着しており、騎士団数は20に達していた。
その指揮を執るためにサドベランスからはデッカー将軍が近衛騎士団3千とともに数日前に到着していた。
ベンシャ公国軍勢2万に対してバルディアス軍勢は現状で1万6千、更に6か所からの騎士団が到着すれば総数2万1千と拮抗する。
物見の報告では、公国軍は隊列を作ってゆっくりと進軍してきており、ボノリス城塞までの距離80レグルまで近づいているという。
おそらくはゆっくりと進軍しても、何もなければ三日目には間違いなくボノリス城塞に肉薄できるはずである。
ダンバル峠から緩やかな坂道を下って、ボノリス城塞まで30レグルほどの距離までは山間部であるが、そこからはなだらかな平野部が広がってボノリス城塞の荘園がすぐその先にある。
デッカー将軍を筆頭に連日軍議を催しているが、中々に方針が定まらないようである。
デッカー将軍は、山間部の隘路が切れる部分にあるクラカン丘で対峙し、隘路から抜け出る敵軍を各個撃破する作戦を提唱しているのだが、それに賛同するのはボノリス城塞のエミアス子爵のみで、残りの騎士団が軒並み反対してボノリス城塞での籠城戦を促しているのである。
一つには、未だ援軍が到着していないことから自軍が劣勢であることに起因しているようである。
カルベック騎士団などその日新たに加わった騎士団は、敵軍が平原部にまで進出した場合はこれを掃討するのは困難と見ているので、デッカー将軍に賛同したが、それでも騎士団の半数以上が反対している。
そのために動くに動けない状態に陥っているのであるが、残り援軍6騎士団が到着するのは早くても2日後になることがわかっている。
評定にはノームと騎士団長が出ていたのだが、帰ってきた時にその表情は暗かった。
六騎士団が到着してから動いたのではクラカン丘に布陣することは到底無理であろうと判断しているためである。
山間部の隘路は大軍が進むには適していない。
その理屈がわかっていてなお、籠城にこだわる騎士団は、自らの騎士団を温存したいがための我がままで言っている。
籠城の場合は確かに多数の敵に対しても有利ではあるが、荘園内を戦いの場所にすることになり、少なくともボノリス城塞の領民は戦後に大きなつけを回されることになる。
カルベック騎士団他前進配備に賛同する騎士団の総勢を合わせても6千余り、それらが別行動するには余りに少ない戦力だった。
仮にクラカン丘にそれだけの勢力で布陣しても、次々に押し寄せる2万の軍勢を順次潰すのは体力的に無理がある。
それらの話を仮陣屋で騎士団の主だった者に説明する場にマルスもいた。
「現状は今申した通りじゃが、各員に何か良き提案があれば遠慮なく申してみよ。」
ノームからそう言われても騎士の中から意見を述べられる者はいなかった。
マルスが言った。
「父上、若輩者の私が申し上げても宜しいでしょうか?」
「そなたは、小姓の身、本来なれば許されるところではないのだが、・・・。
まぁ、良い。
何かあるなれば披露してみよ。」
「はい、では、申し上げます。
先ほどの御話では、クラカン丘に布陣することに賛同された騎士団総数およそ6千と聞いておりますが間違いはございませんか。」
「そのとおりじゃが、軍勢を割くことはできんから、それも実行は難しい。」
「敵軍も知将がいるならば同じことを考えているはず。
それ故に進軍は遅いのです。
敵も我々を恐れています。
ですからそれを逆手に取ります。
クラカン丘に布陣して、大軍を見せつければ彼らも迂闊には攻め込めないでしょう。
騎士団は独自の団旗を持っています。
この際それを数倍に増やしてクラカン丘に揚げさせるのです。
さすれば6千の騎士団が1万2千にも1万8千にも見えましょう。
威嚇にしかなりませんが、それでも援軍到着の2日後までは時が稼げます。」
すぐにもノームが異論を唱える。
「万が一にもそれが敵に知れたなら、クラカン丘に布陣した騎士団は全滅するぞ。」
だがノームの言葉に憶することも無くマルスが言った。
「さて、仮に間近に近づいたにしても、斥候にいちいち敵の数を数えるほどの余裕がありましょうか。
内部をがら空きにして、周囲に騎士を張り付ければ、遠目には旗の林立する陣幕内部を探る余裕などありますまい。
バルディアス軍にとっては二日を稼げればよいのです。
万が一、策が露見したにしても、丘の反対側から降りてボノリス城塞に籠ればよいだけの事です。」
「何?
ボノリス側から丘に登る道があるのか?
そのような話は軍議には出なかったが・・・。」
「先ほど、クラカン丘周辺で猟師をしている者から話を聞いております。
道はさほど広くは無いけれど馬がかろうじて通れるような山道ならばあると言っており、その猟師が必要ならば案内をするそうです。
明日早朝に立てば夕刻までにはクラカン丘に着くことができると申しておりました。
敵の斥候に全体像を見られぬようボノリス側から丘に登るのが上策です。」
目を輝かせてグライアス騎士団長が言った。
「伯爵、これは使えるかもしれませんぞ。
軍議でも話があったように、隘路側から丘に登れば嫌でも全容が見られてしまいますが、マルス殿が申されるようにボノリス側から丘に登ることができるなれば、話は別。
敵軍には全容を知られずに布陣することも可能です。
これは、デッカー将軍に進言してみる価値は十分にございます。」
「ふむ、ならば、今一度、デッカー将軍の元に出向くか。
ムロイ、お手前は、クラカン布陣に賛同している騎士団に内々で連絡をつけてくれ。
その際に、必ず団旗の一枚を見本として借りてきてほしい。
仮に団旗の複製を作ることになるならば今夜中に終えねばならぬ。
場合によっては、城塞に残る団旗も借りねばなるまいが、それは将軍と話がついてからでよい。」
既に養父ノームの背丈を超えていた。
長身痩躯でありながら鍛え上げた筋肉は並みの大人以上に発達していた。
最早、カルベック騎士団でマルスと対等に戦えるものはいなかった。
騎士団の中でも5指に入る者が二人掛かりならば二本に一度は勝てた。
三人がかりならば、マルスにほとんど勝ち目はないが10本に1本ぐらいはマルスが勝つこともあった。
可愛かった顔は徐々に精悍さを増しており、マルスは少年期を超えようとしているようだった。
その甘いマスクと抜群のスタイルは、思春期の年上の娘たちの憧れの的だった。
無論、同じ年頃の娘たちも同様であるのだが、如何せん、マルスが五つ六つも年上に見えて近寄りがたい存在なのである。
マルス13歳の年、養父ノームは47歳になり、養母レアは44歳になっていた。
だがカルベック伯爵夫妻にとっては、マルスはもはや成人と同じであった。
相応の分別があり、武人としてもカルベック領内では第一人者である。
15歳になれば、国王陛下への拝謁が催されるが、伯爵自体はいつでもマルスが拝謁に耐えられるほど成長したと見ていたのである。
その年、思いもかけないことから国王への拝謁が早まってしまった。
初夏のエリドゥ月、隣国ベンシャ公国と国境で諍いが生じた。
カルベックからベンシャとの国境ダンバル峠までは、およそ200レグルあるが、その間に5つの荘園領が街道沿いに続いている。
バルディアス側の初期段階の戦術で躓き、国境のボノリス城塞に隣接する12の荘園領の勢力では不足になったことから、新たに内陸部の荘園領12が追加され、カルベック騎士団も派遣を命じられたのである。
ノームが伯爵領を継いでから初めての出陣となった。
騎士団長であるグライアスは、45歳、副騎士団長のムロイは43歳であり、その子息たちレナンとデラウェアは19歳と18歳の騎士見習いになっており、騎士団と共に従軍することになっている。
マルスとレナン、デラウェアの親交は続いていた。
当然にノームが出陣することになるが、マルスはその際に自分も一緒に従軍させてほしいと願った。
マルスは誰しもが認めるカルベック領内随一の武人ではあるが、未だに元服式を行っていないので騎士ではない。
最初にレアが反対した。
我が子を戦場に行かせたいと願う母親など居りはしない。
ましてマルスは元服までにまだ2年もあるのである。
仮に元服してからでも騎士見習いとして少なくとも3年以上の歳月をかけてようやく一人前の騎士となるはずであり、騎士見習いは時として出陣から遠ざけられる場合さえある。
だが、マルスはレアを宥めるように説得した。
「父上は、カルベック騎士団の総帥として戦場へ向かわねばなりません。
戦場では何が起こるかわかりません。
父上のいる本陣めがけて敵が突入してきた時、力ある者が父上の傍に居れば、撃退することもできましょう。
僕は自惚れではなく、事実としてこのカルベック随一の武人だと思っています。
僕でなければ父上を守れないこともあるかもしれません。
そのようなことは決して起きないのかもしれませんが、万が一のことを考えるならば使える武器は用意しておくべきです。
僕がカルベックに留まっているならそれはできません。
僕の大事な友であるレナンとデラウェアも出陣します。
彼らの技量では最悪、戦で死ぬことも考えねばならないでしょう。
それなのに友を救えない場所に留まることは僕には耐えられません。
父上にしても、我が子大事さに戦場に連れて行かなかったと陰口を叩かれたくはないでしょう。
父上が出陣するのはカルベック騎士団総帥としての旗印なのです。
父上が剣を持って敵軍と斬り合いをするような事態になれば、戦は負けです。
その時点で騎士団の半数の命は失われているでしょう。
父上よりも武術の技量が優れた者が騎士団には両手ほどもいますから、失礼な言い方をすれば父上はお飾りにしか過ぎません。
ならばそのお飾りに今一つお飾りを加えても良いではありませんか。
父上が討死なされるようならば、バルディアスそのものが危ういことになります。
そんな時にカルベック家の血筋の存続を考えても意味はありません。
僕が父上の傍にいる以上、必ず母上の元に父上をお返しいたします。
ですから、母上。
どうか、二人の生還を祈って待っていてくださいませんか?」
13歳とは思えない体格と思慮分別を持った我が子の忠言である。
理はマルスに有ることを認めざるを得ず、レアはその場で泣き崩れた。
最後は、ノームが決めた。
「止むを得んな。
マルスは私の小姓として連れて行こう。
元服前のそなたを騎士扱いにはできないが、小姓としての従軍ならば前例もある。」
こうしてノームと共にマルスは、カルベック騎士団1,200名を率いて出陣したのである。
ダンバル峠はベンシャ公国とバルディアス王国の間に立ち塞がるオミ山脈の中で唯一の街道である。
峠の標高は870レルを超えるが、峠の左右は更に高い山が迫り、岩肌の断崖が聳え立つ峡谷でもある。
峠を挟んでの砦同士の諍いはここ百年の間に両手に余るほどあるが、これほど深刻な事態は初めてのことである。
バルディアス王国側の関所を兼ねた砦が攻め落とされて焼け落ち、ベンシャ公国軍勢多数が、峠のこちら側に布陣しているのである。
カルベック騎士団が最前線基地であるボノリス城塞に到着した時、既に周辺荘園からも加勢が到着しており、騎士団数は20に達していた。
その指揮を執るためにサドベランスからはデッカー将軍が近衛騎士団3千とともに数日前に到着していた。
ベンシャ公国軍勢2万に対してバルディアス軍勢は現状で1万6千、更に6か所からの騎士団が到着すれば総数2万1千と拮抗する。
物見の報告では、公国軍は隊列を作ってゆっくりと進軍してきており、ボノリス城塞までの距離80レグルまで近づいているという。
おそらくはゆっくりと進軍しても、何もなければ三日目には間違いなくボノリス城塞に肉薄できるはずである。
ダンバル峠から緩やかな坂道を下って、ボノリス城塞まで30レグルほどの距離までは山間部であるが、そこからはなだらかな平野部が広がってボノリス城塞の荘園がすぐその先にある。
デッカー将軍を筆頭に連日軍議を催しているが、中々に方針が定まらないようである。
デッカー将軍は、山間部の隘路が切れる部分にあるクラカン丘で対峙し、隘路から抜け出る敵軍を各個撃破する作戦を提唱しているのだが、それに賛同するのはボノリス城塞のエミアス子爵のみで、残りの騎士団が軒並み反対してボノリス城塞での籠城戦を促しているのである。
一つには、未だ援軍が到着していないことから自軍が劣勢であることに起因しているようである。
カルベック騎士団などその日新たに加わった騎士団は、敵軍が平原部にまで進出した場合はこれを掃討するのは困難と見ているので、デッカー将軍に賛同したが、それでも騎士団の半数以上が反対している。
そのために動くに動けない状態に陥っているのであるが、残り援軍6騎士団が到着するのは早くても2日後になることがわかっている。
評定にはノームと騎士団長が出ていたのだが、帰ってきた時にその表情は暗かった。
六騎士団が到着してから動いたのではクラカン丘に布陣することは到底無理であろうと判断しているためである。
山間部の隘路は大軍が進むには適していない。
その理屈がわかっていてなお、籠城にこだわる騎士団は、自らの騎士団を温存したいがための我がままで言っている。
籠城の場合は確かに多数の敵に対しても有利ではあるが、荘園内を戦いの場所にすることになり、少なくともボノリス城塞の領民は戦後に大きなつけを回されることになる。
カルベック騎士団他前進配備に賛同する騎士団の総勢を合わせても6千余り、それらが別行動するには余りに少ない戦力だった。
仮にクラカン丘にそれだけの勢力で布陣しても、次々に押し寄せる2万の軍勢を順次潰すのは体力的に無理がある。
それらの話を仮陣屋で騎士団の主だった者に説明する場にマルスもいた。
「現状は今申した通りじゃが、各員に何か良き提案があれば遠慮なく申してみよ。」
ノームからそう言われても騎士の中から意見を述べられる者はいなかった。
マルスが言った。
「父上、若輩者の私が申し上げても宜しいでしょうか?」
「そなたは、小姓の身、本来なれば許されるところではないのだが、・・・。
まぁ、良い。
何かあるなれば披露してみよ。」
「はい、では、申し上げます。
先ほどの御話では、クラカン丘に布陣することに賛同された騎士団総数およそ6千と聞いておりますが間違いはございませんか。」
「そのとおりじゃが、軍勢を割くことはできんから、それも実行は難しい。」
「敵軍も知将がいるならば同じことを考えているはず。
それ故に進軍は遅いのです。
敵も我々を恐れています。
ですからそれを逆手に取ります。
クラカン丘に布陣して、大軍を見せつければ彼らも迂闊には攻め込めないでしょう。
騎士団は独自の団旗を持っています。
この際それを数倍に増やしてクラカン丘に揚げさせるのです。
さすれば6千の騎士団が1万2千にも1万8千にも見えましょう。
威嚇にしかなりませんが、それでも援軍到着の2日後までは時が稼げます。」
すぐにもノームが異論を唱える。
「万が一にもそれが敵に知れたなら、クラカン丘に布陣した騎士団は全滅するぞ。」
だがノームの言葉に憶することも無くマルスが言った。
「さて、仮に間近に近づいたにしても、斥候にいちいち敵の数を数えるほどの余裕がありましょうか。
内部をがら空きにして、周囲に騎士を張り付ければ、遠目には旗の林立する陣幕内部を探る余裕などありますまい。
バルディアス軍にとっては二日を稼げればよいのです。
万が一、策が露見したにしても、丘の反対側から降りてボノリス城塞に籠ればよいだけの事です。」
「何?
ボノリス側から丘に登る道があるのか?
そのような話は軍議には出なかったが・・・。」
「先ほど、クラカン丘周辺で猟師をしている者から話を聞いております。
道はさほど広くは無いけれど馬がかろうじて通れるような山道ならばあると言っており、その猟師が必要ならば案内をするそうです。
明日早朝に立てば夕刻までにはクラカン丘に着くことができると申しておりました。
敵の斥候に全体像を見られぬようボノリス側から丘に登るのが上策です。」
目を輝かせてグライアス騎士団長が言った。
「伯爵、これは使えるかもしれませんぞ。
軍議でも話があったように、隘路側から丘に登れば嫌でも全容が見られてしまいますが、マルス殿が申されるようにボノリス側から丘に登ることができるなれば、話は別。
敵軍には全容を知られずに布陣することも可能です。
これは、デッカー将軍に進言してみる価値は十分にございます。」
「ふむ、ならば、今一度、デッカー将軍の元に出向くか。
ムロイ、お手前は、クラカン布陣に賛同している騎士団に内々で連絡をつけてくれ。
その際に、必ず団旗の一枚を見本として借りてきてほしい。
仮に団旗の複製を作ることになるならば今夜中に終えねばならぬ。
場合によっては、城塞に残る団旗も借りねばなるまいが、それは将軍と話がついてからでよい。」
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