二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監

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第三章 新たなる展開

3-9 マルス ~交友 その二(二親たちの意向と再会)

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 同じ頃、カルベックでもノーム伯爵とレアが似たような話をしていた。
 ノームは55歳、レアは52歳になっていた。

 ノームの父は58歳で亡くなっていた。
 特にノームは白髪が目立つ年頃になり、最近はめっきりと老いを感じ始めていた。

「あと半年ほどでマルスも元服を迎えるが、孫の顔は見られそうも無いな。」

「あなた、気の弱いことを申されますな。
 10年長生きすれば孫の顔を見ることができますよ。」

「10年か、・・・。
 わしは65、お前は63になるな。
 女のお前は生きられるかもしれぬが、男の儂は無理だろうなぁ。
 巷に言う長寿とは60からぞ。
 それから5年は如何にも長い。
 このカルベックで一番の年寄はメルシャ婆さんの68、男ではゲンドリック爺の62だ。
 どちらも達者だから今少しは長生きできそうだが、それでも後2、3年の寿命だろう。
 それも稀な例だ。」

「寿命は天からの授かりもの、誰であれいつ亡くなっても可笑しゅうはございませぬけれど、・・・。
 授からぬ子を天から授かった私達です。
 それもとても良い子を。
 孫は無理でも、せめてあの子に良き嫁を貰ってあげたいですね。
 その婚礼までは見届けなければあの世には行けませぬ。」

「ふむ、アンリ殿とマルスの仲はその後進展しておるのか?」

「さぁ、頻繁に文のやり取りはしているようですね。
 でもやはり互いの顔を合わせていなければ男女の仲は進展せぬのではありませんか?」

「お前の目から見てアンリ殿はどうじゃ。
 良き嫁になりそうか?」

「さて、アンリ様とはもう半年も有っては居りませぬが、あの顔立ちなればより見目麗しくなっているとは思いますけれど、未だ13歳、女としてはまだまだの年頃にございましょう。
 そう、・・・・。
 後2、3年もすれば顔立ちもより明確になりましょうな。
 アマンダ様の血を引いております故に、その美貌は間違いのないところにございましょう。
 それに例の毒蛇の際には、しっかりとした気構えを持った娘と感心しておりました。
 舞踏会の踊りも誠に見事でした。
 マルスの身長が高いのはご承知の通りですが、アンリもまたあの年頃の女子にしては上背がございましたな。
 今が育ちざかりにございましょう。
 マルスも2レムの大台を超えそうな勢いですから、アンリ様もせめて1.6レム程なければ釣合が取れませぬなぁ。
 それぐらいはあってほしいと思います。」

 すました顔でそう言うレアを見て、ノームは苦笑しながら皮肉った。

「なんじゃ、レアは体格で嫁を決めるのか?」

「跡継ぎを設けるためには当然に健康も体格も大事、が、何と言っても人柄です。
 その点あの折のアンリ様がそのまま健やかに育っていれば、間違いなく気立てのよい娘になっているはずです。
 あの子の顔立ちはそうした部類の顔立ちですもの。
 賢さと礼儀をわきまえた振る舞いができる娘の筈ですよ。
 私の見る処、少なくともアンリ様に匹敵する娘はこのカルベックには居りませぬな。」

「女子も15になれば早い者は嫁に行く場合があろう。
 公爵殿のところにそのような話が舞い込むと、場合によってはマルスとの話は無くなるが、それでも構わぬか?」

「旦那様、男女の仲はなるようにしかならぬものにございます。
 マルスが嫁を貰う歳になる前に、そのような話があって他家に嫁ぐようになればそれはそもそも縁が無かった話でございます。
 アンリ様ほどの女子は中々に居られまいとは思いますが、今から二人を縛るのは如何にございましょうな。
 家同士が幼い子を許嫁と決め、その二人が成長して結婚はしたものの破たんに至った事例は枚挙の暇もないほどにございます。
 マルスにはそのような目には合わせたくはございませぬ。
 ただ、マルスがアンリ様を憎からず思うておるのは確かなことでしょうから、せめてマルスとアンリ様の逢瀬を作って上げられればとは思っております。
 親馬鹿かもしれませぬが、マルスは公爵のご一家にも好ましい人物として映っているはず。
 アンリ様の婿としてマルスが相応しいとお考えならば、他家からアンリ様への輿入れの話があっても、公爵ご夫妻が御断りになりましょう。
 ただ、それもこれも、マルスを忘れられぬ存在になしておくことが必要にございます。
 マルスを何かの折にマルビスに赴かせ、その代わりにアンリ様をカルベックに御招待しては如何でしょう。
 マルビスとカルベックは離れてはおりますが、隣国程に離れているわけでも、行き来が難しいわけでもございませぬ。
 カルベックからマルビスまで馬車の旅で4日はかかりましょうが、その距離を惜しんでは二人が望んでも結ばれますまい。
 二月後には王都にて王家の二の姫と、ドゥベラリオン伯爵の御長男との婚儀が予定されております。
 私ども夫婦も招かれておりますが、当然にご親族である公爵ご一家もご招待されておりましょう。
 其の折にマルスも連れて行き、アンリ様との逢瀬を作ってはいかがでしょう。
 左程の暇があるかどうかはわかりませんが、公爵様にいくばくかでも斯様な思惑があれば早めに王都に出向いていただけるやもしれませぬ。
 そうしてできれば、其の折に公爵様に、アンリ様のカルベックご訪問をお勧め申し上げるのも宜しきかと。
 されば、マルスもマルビスへ招待いただけるかもしれません。
 旦那様から公爵様への文は仰々しくなります故、私からアマンダ様に文を事前に差し上げ、それとなく婚礼の折には我らが早めに王都へ参上する予定をお伝え申し上げ、できればご挨拶にお伺いしたいと申し上げようと存じます。」

 ノームは顎に手をやってほんの少し考えていた。

「なるほど、それが良きかもしれぬな。
 では、失礼のなきようそなたから伝えてくれ。」

 レアはにっこりとほほ笑んで言った。

「はい、確かに承りました。」


 一月後、レアからの文がアマンダの元へ届けられていた。
 文には王家の二の姫とドゥベラリオン伯爵御長男との婚儀に際して伯爵夫妻も出席することとマルスも王都へ連れて行くこと、其の折には是非にも公爵ご夫妻にもご挨拶に伺いたいことが記載され、王都の滞在予定が記載されていた。

 アマンダはにっこりとほほ笑み、その上ですぐにサディス公爵と話し合って、伯爵の王都訪問に合わせて日程を繰り上げ、王都滞在を少し長めにした。
 当初の予定では、婚儀前日に一家が揃って王都へ入り、婚儀の翌日には王都を発つ予定であったのである。

 その日程をレアに文で知らせるとともに、婚儀の前日に伯爵一家を正式な招待で別邸へ招いたのである。
 公爵とは既に、其の折にマルスを王都からマルビスへ招待する話を持ち出す方向で話がついていた。

 公爵夫妻も伯爵夫妻の内々の意向を概ね察していたからである。

 
 カレ月7日、伯爵夫妻はカルベックを発った。
 予定では公爵夫妻もその夕刻には王都別邸に入るはずである。

 伯爵夫妻の宿は前回と同じくデーミット荘であるが、今回はノーム伯爵の貸切とは行かない。
 数多くの領主が婚儀の招待を受けているために、デーミット荘も婚儀前日には4つの領主が宿泊する宿となるからである。

 二の姫の嫁ぎ先であるドゥベラリオン伯爵は王宮に最も近いベルミ荘が宿となり、ここはドゥベラリオン伯爵の貸切となる。
 デーミット荘では、ノーム伯爵夫妻のほか侍女用3室、警護の騎士用で4室までは確保してくれたが、残りは王都内の街宿に泊まることになっている。

 爵位を持つ領主たちが複数宿泊する際には、少なくとも間に二部屋の空き部屋が入るように手配することが慣例なのである。
 警護の騎士や侍女たちと言えども狭いと感じてはならないようにし、互いの見栄や身分の差で居心地を悪くしないようにする伝統の配慮であった。

 あぶれた騎士たちが泊まる街宿も、実のところそうした多数の領主配下の騎士が泊まることになるので、満杯となってしまう。
 そのために、警護の騎士を通常よりも半数に減らすように王家から事前に通知がなされていた。

 それ故、伯爵夫妻の伴は総勢でマルスを含めて28名と至って少ない数になっている。
 デーミット荘については、婚儀前日まで他の3領主の宿泊予定はない。

 だが、予約を受けた部屋は3日前から開けておくのが陣屋の慣例だった。
 18名の騎士たちはデーミット荘にほど近い街宿ホームズ亭に宿泊することになっている。

 翌日の午後、伯爵夫妻とマルスはサディス公爵の別邸を訪問した。
 公爵一家は全員でお出迎えをしてくれた。

 アンリは少し背が伸びていたが、マルスとの差は縮まってはいないようだった。
 だが少し胸回りが大きくなっているのがマルスにもわかった。

 この半年ほどの間で丸みを帯びていた顔がやや面長になったかもしれない。
 以前から眼がぱっちりと大きめであった特徴は変わらず、全体的に少女から女に変わろうとしているようだ。

 可愛い容貌が徐々に綺麗な容貌に変わりつつあるようだ。
 衣装もわずかながら大人びたものに変化している

 二つの家族が居間で暫し談笑したあと、夕食までの間、アンリは自分の部屋にマルスを招き入れた。
 前回訪れた折と変わらないアンリの部屋である。

 二人向き合って椅子に座りながら話をした。

「マルス様は、時折領内の見回りをされているように文にはございましたが、カルベックはどのようなところですか?」

「マルビスと比べると南にありますから、気候は温暖です。
 マルビスは冬になると降雪があるようですね。」

「はい、冬には雪が降ることはございます。
 でも積もることはほとんどございません。
 海を隔てた北のゲリア大陸では人の丈を超える降雪があるところもありますし、更に北の極地は周年雪が溶けず、凍てついた大地とか。」

「カルベックは雪が降ることはございませんが、冬場に霜が降りることはございます。
 マルビスは冬に暖房をしなければいけないと聞いていますが、カルベックでは滅多に暖房は用いません。」

「あ、では暖炉などは無いのですか?」

「ええ、暖炉はございません。
 その代わりに火桶があって、本当に寒いときはそれらを利用する方もいます。」

「暖炉があると暖かいですよ。
 それに暖炉の火を見ていると心が落ち着きます。」

「なるほど、きっと暖炉の周りに自然と家族が集まるので、そうした効果もあるのでしょうね。」

「ええ、そうかもしれません。
 お爺様やお婆様が生きていらしたころは、お二人から色々なお話を暖炉のそばで聞くのが楽しみでしたもの。」

「なるほど・・・。
 それとカルベックは内陸部ですので海はございません。
 マルビスは大きな港を持っているのでしたね。
 港には色々な船が訪れるのでしょうけれど、アンリ殿は船に乗られたことはございますか?」

「小さな船には載せてもらったことがございます。
 でも、外洋を走るような船には一度も乗ったことがありません。」

「海で泳ぐようなことは?」

「幼いころは浜で水遊びをし、泳ぎの真似事をしていたようなのですが、私にその記憶はありません。
 港の近くに綺麗な砂浜があって、夏場の間はたくさんの人が訪れます。
 殿方は下帯一つで海に入るようですが、女はそのようなことができません。
 海の底まで潜って貝をとる海女あまは、木綿の薄着で潜っているようですけれど、乳房が透けて露わになってしまうとか。
 普通の女人は人前でとてもそのようなことはできません。
 精々が膝ぐらいまで海に入ったり、潮干狩りを楽しむくらいです。
 ちょうど今がその始まりくらいでしょうか。
 これから5月ほどの間が海に親しめる季節なのですよ。」

「そうですか。
 私も海と言うのを一度見てみたいですね。」

「あら、是非マルビスの館にいらしてくださいな。
 私がマルビスの海岸をご案内します。」

「お誘いはありがたいのですが、公爵様にご迷惑をおかけすることになります。」

「いいえ、先日も母が申しておりました。
 ひょっとすると、マルス様をマルビスにお招きすることになるかもしれないけれど私にどう思うかって。
 私は、すぐに賛成しました。
 だって、私はマルス様が大好きですもの。」

「おやおや、左程のお付き合いもしていないのに・・・。」

「いいえ、日ごろ顔は合わせていなくてもマルス様は文をくださいました。
 それも私が文を出すとすぐに。
 とても嬉しかった。
 そうして私が文を書くと必ず返事をくださいます。
 その文を見ているとマルス様のお人柄がわかるんです。」

 少し間を置いてアンリは聞いた。

「マルス様は私が好きですか?」

「はい、僕はアンリ殿が好きですよ。」
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