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第三章 大学生活
3ー10 抗体研究とゼミの選択
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年が明けて2038年、俺の生活は変わらない。
K大学の学生としてしっかりとやるべきことはやっている。
もうあれから三年半も過ぎているからいい加減に諦めてほしいところなんだけれど、確証が有るのか無いのかよくわからんが、相も変わらず俺の周りには監視者がいっぱいだ。
多分、互いに簡単には引けないんだろうな。
だからどっかが俺の監視をやめればあるいは雪崩のように監視網が無くなるかもしれない。
但し、内閣官房がしつこいんだよね。
例の女課長さん、全然諦める素振りが無いというのは黄さんの情報だよ。
本当に面倒いよね。
ところで俺は二回生だから、今のところゼミは無いんだが、3回生からはゼミが入って来る。
俺としては、半導体の開発部門のゼミをやってみたいと思っている。
単純な話、新たな素材を使って半導体を造ってみたいと考えているんだ。
俺の場合は、『採掘』の派生能力による抽出が可能であり、ある意味で錬金術師の真似事ができるのが強みなんだ。
半導体ってのは、導電体と絶縁体という二つの機能を併せ持つ物質なんだ。
俺の「Resistance」能力を使えば、伝導体も絶縁体に変えられるし、その逆もできる。
但し、この能力を大量生産に使えるかと言うと、そいつはちょっと問題だよな。
俺以外にこの能力を使えるのが居ないからねぇ。
そうかと言って、俺が製造機械の一部のような存在にはなりたくない
だから俺の能力をうまく使って、大量生産も可能な新たな素材を生み出せるかどうかを研究課題としたい。
そんなに簡単な話ではないと思うよ。
ただ、まぁ、それは三回生となる4月以降の話な。
今のところは、二回生として順調に教授や准教授の講義をしっかりと聞いて、自分なりに解釈等を加え、日々学問に研鑽しているよ。
◇◇◇◇
ヘンダーソン島の方は、可もなく不可もなく、試行のくり返しとデーターの積み上げだな。
年が明けてからは、一月に3回から5回は、梓ちゃんとのデート代わりにヘンダーソン島の地下にある工房でひたすら実験を繰り返している。
俺は、ほぼ毎日、夜間出勤だな。
それに梓ちゃんも、2回から3回程度は平日に夜間出勤をしてくれているが、梓ちゃんの健康と美容のためにもこれ以上は増やさないつもりだ。
平日については、俺も梓ちゃんも精々2時間から3時間程度しか時間は取れない。
とにかく高分子の切り離しが結構面倒なんだ。
苦労しつつ切り離した分子を使ってX-1に投入、その反応をひたすら見る作業の連続なんだ。
二人で頑張っても、休みの日に8時間かけて精々10回の試行ができればよい方だ。
俺一人なら、精々5回、平日なら通常1回程度だな。
巨大分子である『ムチン』の構造から推測して、今の進捗状況であれば、半年から1年はかかるものと見込んでいるよ。
俺としては、夏季休業にある意味で期待はしているんだけれどな。
問題は、夏季休業の際にどう対応するかなんだよ。
外部から見て、休みの間、ずっと俺がマンションに籠りきりと言うのもおかしいだろうし、同じく梓ちゃんの予定も勘案しなければならない。
一番、対応がしやすい筈なのに、もしかすると俺のゼミに関連した作業も進めねばならないのかな。
正直言って、俺の身体が二つ三つ余分に欲しいと思うよ。
生憎と俺の特殊能力に分身の術は無いけどな。
まぁ、今後とも地道に実験を繰り返すしかないんだろうな。
◇◇◇◇
4月に俺は予定通り三回生になったわけで、一応ゼミについては、黒木孝之教授のゼミに入ることにした。
この黒木教授、日本では知る人ぞ知る高名な半導体研究者なんだ。
産学共同研究で、群馬県に造られた新たな共同企業体の半導体工場にも関わっているほか、台湾での産学共同研究にも関わっているようだ。
そんな中でちょっと気になるのが教授の周囲に居るんだよな。
エストニアからの留学生、Kask Adriana、24歳だ。
エストニアでは姓・名前の順なので、「カスク」が家名、「アドリアナ」が名前だ。
彼女の場合、エストニアのタルトゥ大学工学部電子工学科を卒業している才媛だ。
但し、黄さんの話では、ロシアの息がかかっている産業スパイなのだそうだ。
英語も得意だが、日本語も流ちょうにこなす。
おまけにボインボインの金髪姉ちゃんで、とっても美人だぜ。
因みにタルトゥ大学は、大学の世界順位では600番前後、K大学は300番以内だからK大学の方がかなり順位が高い。
そのためにエストニアからわざわざ留学に来る理由もあるというものだ。
彼女の場合、二年間の留学予定で、今年10月には帰国する予定のはずだ。
従って、俺のゼミは彼女が居なくなる10月までは全開できないよな。
折角やる気になっていたのに残念なところだよ。
まぁ、あちらこちらの論文研究で、取り敢えずの時間を稼ぐしかない。
その分、X-1に関わる抗体研究に没頭するしかないのかな?
ロシアの尖兵とも見做せるアドリアナについては、俺の方からは特段のアクションを起こさない。
但し、俺の周囲には、SVR(ロシア対外情報庁)とGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)のエージェントが動き回っているからな。
仮に彼らがアドリアナに本来の任務外の任務を依頼すれば、その依頼内容によっては排除も考えねばならないことになる。
彼女、一時モデルとして欧州を席巻し、2030年に若くして交通事故で亡くなったヴィラ・マクデーガルを彷彿させる美人なんだぜ。
だから、彼女を害するようなことはしたくはないけれど、最悪、明確に敵となるなら非常手段をとるのもやむを得ないだろうな。
いずれにしろ、俺からはできるだけ彼女に近づかないようにするつもりだ。
◇◇◇◇
抗体研究においてようやく一抹の光が見え始めたよ。
巨大分子ムチンの成分には、糖類が数百万も含まれているからね。
その中のいくつかの多糖体に焦点が当てられるようになったんだ。
今のところ明確に区別はされていないが、少なくともX-1の活動を120時間以上にわたって停止させる事の出来る代物だということはわかっている。
で、こいつに俺の能力を使ってX-1に対する毒性を付与したいと考えている。
ムチンは熱に弱いからね、化学反応等はかなり難しいんだ。
だから有望と思われる多糖体の末端に、毒になりそうな金属分子を色々融合してみたよ。
空間的な融合ではなくって、分子的な融合なので、ある意味で常温核融合にも似た分子間融合だな。
こいつも俺の抵抗力減少により可能となる。
但し、出来上がったものが危険物となる可能性は十分にあるから、取り扱いには要注意だな。
X-1に毒性を持つ多糖類が合成出来たら、次は動物実験だな。
この対抗薬とも言える特定の多糖類が生体細胞に影響を与える代物なら使えない。
場合によって、人体にも毒性を有する対抗薬ができるかもしれないからだ。
まぁ、対抗薬を生み出してから心配することにしよう。
◇◇◇◇
2038年6月、カザフ出血熱はトルコ西部にまで進出していることから、ブルガリアやギリシャなどは検疫体制の強化で大変なようだ。
EUでも色々研究はしているようだが、対抗薬も治療方法も見つけてはいないようだ。
この調子ではいずれ、世界中に広がる恐れすらある。
特に、このカザフ出血熱の病原体がズーノシスであることに気づいていなければ、国境をまたぐ動物によっても感染は起きるからな。
やむを得ないから、この時点で有益情報を与えておくしかないと思っている。
但し、魔核の存在が病原体の活動を推進するかもしれないという情報は伏せておくつもりだ。
どこにでもバイオテロを画策する奴は居るからね。
そいつらには情報は渡さないためにも、秘密にせざるを得ない。
今回、俺はタイ王国に跳んだよ。
例によってネットカフェを利用するつもりだが、マレーシアは前回使っているから、もしかすると見張られている可能性もあるからね。
いずれにしろ、USBに予め用意した画像をネットに流すだけ。
使った時間は5分以内だ。
ネットに挙げると俺はすぐに店を出て、人気のない場所に移動し、そこから日本へ跳んだ。
日本時間で午後9時ころ、当該情報が流された。
前回と同じく、動画はないけれど、30枚ほどの未公開静止画像を順次背景に載せている。
今回は僅かに5分足らずの投稿画像なんだが、●tube投稿用に作成し、XXでは1000語未満の文章で公開できるようにした。
例によって、投稿者のアカウントは、マレー国籍のTan Yǒngxiáng(タン・ヨンシャン)であり、組織名を “Pemburu”にしている。
表題は、「モンスター出現に関わる病原体の情報」にしておいた。
【当方において調査したところ、カザフスタンにおいて発症したとされるカザフ出血熱について、病原体は非常に小さな異界のウィルスが地球の病原体等と結びついて突然変異したものと推測されること。
なお、当該変性病原体はズーノシスであり、地球に存在する動物にもり患する可能性が高いので、人の検疫だけでは防疫ができないことを承知されたい。
今後新たな情報が有れば、別途発信することとする。
2038年6月21日 投稿・執筆責任者 PEMBURU所属Tan Yǒngxiáng 】
K大学の学生としてしっかりとやるべきことはやっている。
もうあれから三年半も過ぎているからいい加減に諦めてほしいところなんだけれど、確証が有るのか無いのかよくわからんが、相も変わらず俺の周りには監視者がいっぱいだ。
多分、互いに簡単には引けないんだろうな。
だからどっかが俺の監視をやめればあるいは雪崩のように監視網が無くなるかもしれない。
但し、内閣官房がしつこいんだよね。
例の女課長さん、全然諦める素振りが無いというのは黄さんの情報だよ。
本当に面倒いよね。
ところで俺は二回生だから、今のところゼミは無いんだが、3回生からはゼミが入って来る。
俺としては、半導体の開発部門のゼミをやってみたいと思っている。
単純な話、新たな素材を使って半導体を造ってみたいと考えているんだ。
俺の場合は、『採掘』の派生能力による抽出が可能であり、ある意味で錬金術師の真似事ができるのが強みなんだ。
半導体ってのは、導電体と絶縁体という二つの機能を併せ持つ物質なんだ。
俺の「Resistance」能力を使えば、伝導体も絶縁体に変えられるし、その逆もできる。
但し、この能力を大量生産に使えるかと言うと、そいつはちょっと問題だよな。
俺以外にこの能力を使えるのが居ないからねぇ。
そうかと言って、俺が製造機械の一部のような存在にはなりたくない
だから俺の能力をうまく使って、大量生産も可能な新たな素材を生み出せるかどうかを研究課題としたい。
そんなに簡単な話ではないと思うよ。
ただ、まぁ、それは三回生となる4月以降の話な。
今のところは、二回生として順調に教授や准教授の講義をしっかりと聞いて、自分なりに解釈等を加え、日々学問に研鑽しているよ。
◇◇◇◇
ヘンダーソン島の方は、可もなく不可もなく、試行のくり返しとデーターの積み上げだな。
年が明けてからは、一月に3回から5回は、梓ちゃんとのデート代わりにヘンダーソン島の地下にある工房でひたすら実験を繰り返している。
俺は、ほぼ毎日、夜間出勤だな。
それに梓ちゃんも、2回から3回程度は平日に夜間出勤をしてくれているが、梓ちゃんの健康と美容のためにもこれ以上は増やさないつもりだ。
平日については、俺も梓ちゃんも精々2時間から3時間程度しか時間は取れない。
とにかく高分子の切り離しが結構面倒なんだ。
苦労しつつ切り離した分子を使ってX-1に投入、その反応をひたすら見る作業の連続なんだ。
二人で頑張っても、休みの日に8時間かけて精々10回の試行ができればよい方だ。
俺一人なら、精々5回、平日なら通常1回程度だな。
巨大分子である『ムチン』の構造から推測して、今の進捗状況であれば、半年から1年はかかるものと見込んでいるよ。
俺としては、夏季休業にある意味で期待はしているんだけれどな。
問題は、夏季休業の際にどう対応するかなんだよ。
外部から見て、休みの間、ずっと俺がマンションに籠りきりと言うのもおかしいだろうし、同じく梓ちゃんの予定も勘案しなければならない。
一番、対応がしやすい筈なのに、もしかすると俺のゼミに関連した作業も進めねばならないのかな。
正直言って、俺の身体が二つ三つ余分に欲しいと思うよ。
生憎と俺の特殊能力に分身の術は無いけどな。
まぁ、今後とも地道に実験を繰り返すしかないんだろうな。
◇◇◇◇
4月に俺は予定通り三回生になったわけで、一応ゼミについては、黒木孝之教授のゼミに入ることにした。
この黒木教授、日本では知る人ぞ知る高名な半導体研究者なんだ。
産学共同研究で、群馬県に造られた新たな共同企業体の半導体工場にも関わっているほか、台湾での産学共同研究にも関わっているようだ。
そんな中でちょっと気になるのが教授の周囲に居るんだよな。
エストニアからの留学生、Kask Adriana、24歳だ。
エストニアでは姓・名前の順なので、「カスク」が家名、「アドリアナ」が名前だ。
彼女の場合、エストニアのタルトゥ大学工学部電子工学科を卒業している才媛だ。
但し、黄さんの話では、ロシアの息がかかっている産業スパイなのだそうだ。
英語も得意だが、日本語も流ちょうにこなす。
おまけにボインボインの金髪姉ちゃんで、とっても美人だぜ。
因みにタルトゥ大学は、大学の世界順位では600番前後、K大学は300番以内だからK大学の方がかなり順位が高い。
そのためにエストニアからわざわざ留学に来る理由もあるというものだ。
彼女の場合、二年間の留学予定で、今年10月には帰国する予定のはずだ。
従って、俺のゼミは彼女が居なくなる10月までは全開できないよな。
折角やる気になっていたのに残念なところだよ。
まぁ、あちらこちらの論文研究で、取り敢えずの時間を稼ぐしかない。
その分、X-1に関わる抗体研究に没頭するしかないのかな?
ロシアの尖兵とも見做せるアドリアナについては、俺の方からは特段のアクションを起こさない。
但し、俺の周囲には、SVR(ロシア対外情報庁)とGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)のエージェントが動き回っているからな。
仮に彼らがアドリアナに本来の任務外の任務を依頼すれば、その依頼内容によっては排除も考えねばならないことになる。
彼女、一時モデルとして欧州を席巻し、2030年に若くして交通事故で亡くなったヴィラ・マクデーガルを彷彿させる美人なんだぜ。
だから、彼女を害するようなことはしたくはないけれど、最悪、明確に敵となるなら非常手段をとるのもやむを得ないだろうな。
いずれにしろ、俺からはできるだけ彼女に近づかないようにするつもりだ。
◇◇◇◇
抗体研究においてようやく一抹の光が見え始めたよ。
巨大分子ムチンの成分には、糖類が数百万も含まれているからね。
その中のいくつかの多糖体に焦点が当てられるようになったんだ。
今のところ明確に区別はされていないが、少なくともX-1の活動を120時間以上にわたって停止させる事の出来る代物だということはわかっている。
で、こいつに俺の能力を使ってX-1に対する毒性を付与したいと考えている。
ムチンは熱に弱いからね、化学反応等はかなり難しいんだ。
だから有望と思われる多糖体の末端に、毒になりそうな金属分子を色々融合してみたよ。
空間的な融合ではなくって、分子的な融合なので、ある意味で常温核融合にも似た分子間融合だな。
こいつも俺の抵抗力減少により可能となる。
但し、出来上がったものが危険物となる可能性は十分にあるから、取り扱いには要注意だな。
X-1に毒性を持つ多糖類が合成出来たら、次は動物実験だな。
この対抗薬とも言える特定の多糖類が生体細胞に影響を与える代物なら使えない。
場合によって、人体にも毒性を有する対抗薬ができるかもしれないからだ。
まぁ、対抗薬を生み出してから心配することにしよう。
◇◇◇◇
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EUでも色々研究はしているようだが、対抗薬も治療方法も見つけてはいないようだ。
この調子ではいずれ、世界中に広がる恐れすらある。
特に、このカザフ出血熱の病原体がズーノシスであることに気づいていなければ、国境をまたぐ動物によっても感染は起きるからな。
やむを得ないから、この時点で有益情報を与えておくしかないと思っている。
但し、魔核の存在が病原体の活動を推進するかもしれないという情報は伏せておくつもりだ。
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いずれにしろ、USBに予め用意した画像をネットに流すだけ。
使った時間は5分以内だ。
ネットに挙げると俺はすぐに店を出て、人気のない場所に移動し、そこから日本へ跳んだ。
日本時間で午後9時ころ、当該情報が流された。
前回と同じく、動画はないけれど、30枚ほどの未公開静止画像を順次背景に載せている。
今回は僅かに5分足らずの投稿画像なんだが、●tube投稿用に作成し、XXでは1000語未満の文章で公開できるようにした。
例によって、投稿者のアカウントは、マレー国籍のTan Yǒngxiáng(タン・ヨンシャン)であり、組織名を “Pemburu”にしている。
表題は、「モンスター出現に関わる病原体の情報」にしておいた。
【当方において調査したところ、カザフスタンにおいて発症したとされるカザフ出血熱について、病原体は非常に小さな異界のウィルスが地球の病原体等と結びついて突然変異したものと推測されること。
なお、当該変性病原体はズーノシスであり、地球に存在する動物にもり患する可能性が高いので、人の検疫だけでは防疫ができないことを承知されたい。
今後新たな情報が有れば、別途発信することとする。
2038年6月21日 投稿・執筆責任者 PEMBURU所属Tan Yǒngxiáng 】
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