15 / 67
第三章 ニオルカンのマルコ
3ー1 ニオルカンでの出会い
しおりを挟む
マルコは、ニオルカンでカラガンダ老の屋敷に入り、養母ステラに笑顔で迎え入れられ、その後数多くの義兄弟や義姉妹とも挨拶を交わした。
カラガンダ老の子息や息女である義兄弟や義姉妹は皆既に大人であり、義兄弟姉妹の子供たちの方が余程マルコの年齢に近かった。
マルコは旅の途中ニオルカン到達前に七歳になっていた。
七歳になるとニオルカンの子供たちは、概ね領主が設置した学院に入らねばならないことになっている。
商人を志す者は第三学院に、冒険者や騎士など武人を志す者は第二学院に、そうして魔力を有する者で錬金術師や魔法師を目指す者は第一学院に入学することが多い。
しかしながら、いずれの学院でも適性試験があり、それに合格しないと入れないことになっており、いずれの学院にも入れなかった者は第四学院に入ることになっている。
第一学院では、主として錬金術や魔法を教えるほかに、剣術や薬学なども教えているそうな。
薬学は、第一から第三学院まで共通して一般教養として教えているけれど、第四学院ではどうも薬学の授業がないようです。
マルコはカラガンダ老と相談して、第一学院を受験することにしました。
学院の授業料は無料なのですが、いずれの学院にも入らない者は少なからず存在します。
主として家族を養う目的のために幼少の七歳の子が仕事をすることもあるのです。
年齢が低ければ労働対価も低く、左程の給金は貰えません。
それでも明日の食料を得られない者にとっては、幼い子の稼ぎであっても大きな家計の支えになるのです。
往々にして学院に行けない場合は、父親のいない母子家庭であって、母親が病気である場合、或いは家族の一人が病気のために母だけの稼ぎでは生活できない場合などの家庭環境が多い様です。
勉強は大事なのだが、一方でニオルカンの領主もそうした貧しい家庭があることは承知しており、先祖が定めたお触れ書きで領民の義務とされている教育機会を与えられない場合であっても、止むを得ず黙認しているようです。
富というものは、必ずしも平等には与えられない。
富を得る機会は平等に与えられていることが多いけれど、その一方で富の集中は避けられないのです。
富を得た者はどうしてもそれ以後も富を集める機会が多くなってしまうものなのです。
そこには、運もあるだろうし、本人の能力とたゆまぬ努力も大いに関わっている。
複数の前世で色々な経験を踏んでいるマルコと雖もこうした社会の陰の現状を変える手立ては持っていない。
マルコとしては、できる範囲で差別の無いようにささやかな救済の手を差し伸べるだけである。
その際には、マルコの仕業と判っては拙いので、どうしても活動そのものが制限されてしまうことが多い。
また、救済されるべき本人が何もせずして、救済が得られるような状況を産み出すのは拙いのです。
マルコは、例えそれが身障者であろうと、自ら努力を怠る者には決して救済を与えず、見捨てることにしている。
一方でマルコは表向き七歳の子供であるのだから、七歳の子供らしき行動をしなければならない。
学院へ行くのもその一環なのです。
学院では三年間を学ぶことになります。
一般的には、その後自らの進路を定めて徒弟になるなどして、生業(なりわい)となるべき仕事を決めるのです。
冒険者ギルド及び錬金術・薬師ギルドが、登録の最低年齢を10歳若しくは学院卒業者としているのはそのためであるが、商業ギルドについては12歳にならないと登録もできないのである。
因みに騎士になるためには、学院卒業後に騎士見習いとして、いずれかの貴族家に採用されなければならない。
マルコは学院に通う三年間を、カラガンダ老に対するお礼奉公の期間と位置付けており、その間に可能な支援をするつもりでいる。
マルコは、手始めに手押しポンプを産み出した。
カラガンダ老の屋敷に井戸はあるが、滑車を用いたつるべ井戸であり、少なくとも大人の身長の三倍程度にもなる垂直距離で水の入った桶を引き上げることは女子供にはかなりの重労働なのだ。
しかも屋敷で働く者達は一日に何度もそれを繰り返さねばならない。
屋敷内の井戸は二か所、一か所は予備であって、普段は蓋をしているので使われていない。
その予備の井戸にカラガンダ老の許しを貰って、錬金術で造った手押しポンプを設置したのは、カラガンダ老がマルコを屋敷に連れて来てから五日後の事だった。
カラガンダ老は、そのポンプの使い勝手の良さに驚き、普段使っている井戸にも設置を許した。
その上で、屋敷で働く用人たちの意見を聞きながら、ポンプの生産のために新たに二人の錬金術師を配置したのである。
無論のこと自らの商会でポンプを生産し、一般に販売するためであった。
このために、商業ギルドで手押しポンプの特許登録も直ぐに行った。
一か月後、カラガンダ老の商会で売り出した手押しポンプ及び関連の部品(据え付け台座や吸い込み管等)は飛ぶように売れ始め、生産が間に合わなくなったことから、カラガンダ老は更に錬金術師の増員を図ったのである。
マルコは、ほかにもいくつかカラガンダ老の商会で扱えそうな新商品のアイデアを持っていたが、余りたくさんの新商品を一時に生み出すと種々の面倒が始まることが予想されたので、新商品は概ね1年に一つと決めていた。
◇◇◇◇
マルコが第一学院へ入学するための適性試験があった。
第一学院に入学するためには一定量以上の魔力を保有していなければならない。
そのために魔力測定用の魔石を利用して確認するのが適性試験である。
本来、この適性試験では魔法を使う必要はなく、魔法を使う素質があるかどうかを見るだけの試験である。
そのための測定用魔石が人数分用意され、それに触れることで魔石が反応すれば入学は認められるのである。
しかしながら、魔力は貴族の子弟が遺伝的に受け継ぐことが多いこともあって、学院設立当初に定めたこの適性試験の趣旨が若干歪められ、近年は余興としての魔法披露でどれほどの魔法が行使できるか腕自慢のお披露目会になってしまっていた。
マルコが受けた適性試験の受験日に一緒に居たのは全部で16人。
元々魔法を使える資質を有する者は少なく、毎年十名を超えない人数程度が普通であったのだが、今年は例外的に多かったようだ。
受験者のほとんどが貴族の子弟であり、16名中貴族以外の者はマルコ以外に二人しかいなかった。
一人はニオルカンで有名な商人の息子で、ハリー・オブライエン、今一人はニオルカンの領主邸で薬師を務めている者の娘で、アイリス・フェルブライト、どちらの家系も貴族ではない。
残り13人は、ニオルカン公爵の配下である騎士爵から子爵までの下級貴族の子女である。
いずれにせよ、受験者16名全員が魔石の適性試験は合格で通過できた。
そうして恒例となっているらしい魔法行使のお披露目については、貴族の子女たちが我先にと的に向かって魔法を放っている。
まぁ、自慢にもならない程度の威力しかないのだが、おそらくは家人に褒められ、煽てられて嬉々として魔法を放っているに違いないが、貴族の子女ではないマルコを含む三人は、片隅でそれを眺めているだけだ。
元々、事前に魔法行使をなす必要はないと言われていたからである。
尤も、貴族の子女以外の者で学院に入学する前に魔法の発動をできるという事例は極めて少ない。
一つには、魔法を覚えるには個人教授のできる環境(指導者と訓練場所)が必要だからである。
一般人ではそうした環境を中々得られないことが多いので、学院に入学してから覚えることが多いのだ。
マルコ自身は敢えて自分の能力をひけらかす必要性も無いと思って隅に控えていたのだが、何故か若い試験員の一人がわざわざ挑発するような言い方をした。
「どうした。
お前たちも試してみたらどうだ?
いずれ的の一つも欠けらせるぐらいにならないと卒業はできないぞ。」
このように生徒を煽るような男が教える学院なのかとちょっとがっかりしたマルコだった。
従って、嫌味の一つも言ってみた。
「失礼ながら、的を壊したならそれだけで卒業できるのですか?」
「ン、いや、まぁ、それだけではないがな。
少なくとも的を壊せるほどの能力持ちならば、卒業を早める理由にはなるだろうな。」
「そのような話は事前に与えられた説明書には何も記載がありませんが、そのような特例制度が実際にあるのですか?」
「ア、いや、まぁ、・・・。
そんな話は、的に魔法を充てられないお前たちには関係のない話だ。
だから知らずとも良い。」
カラガンダ老の子息や息女である義兄弟や義姉妹は皆既に大人であり、義兄弟姉妹の子供たちの方が余程マルコの年齢に近かった。
マルコは旅の途中ニオルカン到達前に七歳になっていた。
七歳になるとニオルカンの子供たちは、概ね領主が設置した学院に入らねばならないことになっている。
商人を志す者は第三学院に、冒険者や騎士など武人を志す者は第二学院に、そうして魔力を有する者で錬金術師や魔法師を目指す者は第一学院に入学することが多い。
しかしながら、いずれの学院でも適性試験があり、それに合格しないと入れないことになっており、いずれの学院にも入れなかった者は第四学院に入ることになっている。
第一学院では、主として錬金術や魔法を教えるほかに、剣術や薬学なども教えているそうな。
薬学は、第一から第三学院まで共通して一般教養として教えているけれど、第四学院ではどうも薬学の授業がないようです。
マルコはカラガンダ老と相談して、第一学院を受験することにしました。
学院の授業料は無料なのですが、いずれの学院にも入らない者は少なからず存在します。
主として家族を養う目的のために幼少の七歳の子が仕事をすることもあるのです。
年齢が低ければ労働対価も低く、左程の給金は貰えません。
それでも明日の食料を得られない者にとっては、幼い子の稼ぎであっても大きな家計の支えになるのです。
往々にして学院に行けない場合は、父親のいない母子家庭であって、母親が病気である場合、或いは家族の一人が病気のために母だけの稼ぎでは生活できない場合などの家庭環境が多い様です。
勉強は大事なのだが、一方でニオルカンの領主もそうした貧しい家庭があることは承知しており、先祖が定めたお触れ書きで領民の義務とされている教育機会を与えられない場合であっても、止むを得ず黙認しているようです。
富というものは、必ずしも平等には与えられない。
富を得る機会は平等に与えられていることが多いけれど、その一方で富の集中は避けられないのです。
富を得た者はどうしてもそれ以後も富を集める機会が多くなってしまうものなのです。
そこには、運もあるだろうし、本人の能力とたゆまぬ努力も大いに関わっている。
複数の前世で色々な経験を踏んでいるマルコと雖もこうした社会の陰の現状を変える手立ては持っていない。
マルコとしては、できる範囲で差別の無いようにささやかな救済の手を差し伸べるだけである。
その際には、マルコの仕業と判っては拙いので、どうしても活動そのものが制限されてしまうことが多い。
また、救済されるべき本人が何もせずして、救済が得られるような状況を産み出すのは拙いのです。
マルコは、例えそれが身障者であろうと、自ら努力を怠る者には決して救済を与えず、見捨てることにしている。
一方でマルコは表向き七歳の子供であるのだから、七歳の子供らしき行動をしなければならない。
学院へ行くのもその一環なのです。
学院では三年間を学ぶことになります。
一般的には、その後自らの進路を定めて徒弟になるなどして、生業(なりわい)となるべき仕事を決めるのです。
冒険者ギルド及び錬金術・薬師ギルドが、登録の最低年齢を10歳若しくは学院卒業者としているのはそのためであるが、商業ギルドについては12歳にならないと登録もできないのである。
因みに騎士になるためには、学院卒業後に騎士見習いとして、いずれかの貴族家に採用されなければならない。
マルコは学院に通う三年間を、カラガンダ老に対するお礼奉公の期間と位置付けており、その間に可能な支援をするつもりでいる。
マルコは、手始めに手押しポンプを産み出した。
カラガンダ老の屋敷に井戸はあるが、滑車を用いたつるべ井戸であり、少なくとも大人の身長の三倍程度にもなる垂直距離で水の入った桶を引き上げることは女子供にはかなりの重労働なのだ。
しかも屋敷で働く者達は一日に何度もそれを繰り返さねばならない。
屋敷内の井戸は二か所、一か所は予備であって、普段は蓋をしているので使われていない。
その予備の井戸にカラガンダ老の許しを貰って、錬金術で造った手押しポンプを設置したのは、カラガンダ老がマルコを屋敷に連れて来てから五日後の事だった。
カラガンダ老は、そのポンプの使い勝手の良さに驚き、普段使っている井戸にも設置を許した。
その上で、屋敷で働く用人たちの意見を聞きながら、ポンプの生産のために新たに二人の錬金術師を配置したのである。
無論のこと自らの商会でポンプを生産し、一般に販売するためであった。
このために、商業ギルドで手押しポンプの特許登録も直ぐに行った。
一か月後、カラガンダ老の商会で売り出した手押しポンプ及び関連の部品(据え付け台座や吸い込み管等)は飛ぶように売れ始め、生産が間に合わなくなったことから、カラガンダ老は更に錬金術師の増員を図ったのである。
マルコは、ほかにもいくつかカラガンダ老の商会で扱えそうな新商品のアイデアを持っていたが、余りたくさんの新商品を一時に生み出すと種々の面倒が始まることが予想されたので、新商品は概ね1年に一つと決めていた。
◇◇◇◇
マルコが第一学院へ入学するための適性試験があった。
第一学院に入学するためには一定量以上の魔力を保有していなければならない。
そのために魔力測定用の魔石を利用して確認するのが適性試験である。
本来、この適性試験では魔法を使う必要はなく、魔法を使う素質があるかどうかを見るだけの試験である。
そのための測定用魔石が人数分用意され、それに触れることで魔石が反応すれば入学は認められるのである。
しかしながら、魔力は貴族の子弟が遺伝的に受け継ぐことが多いこともあって、学院設立当初に定めたこの適性試験の趣旨が若干歪められ、近年は余興としての魔法披露でどれほどの魔法が行使できるか腕自慢のお披露目会になってしまっていた。
マルコが受けた適性試験の受験日に一緒に居たのは全部で16人。
元々魔法を使える資質を有する者は少なく、毎年十名を超えない人数程度が普通であったのだが、今年は例外的に多かったようだ。
受験者のほとんどが貴族の子弟であり、16名中貴族以外の者はマルコ以外に二人しかいなかった。
一人はニオルカンで有名な商人の息子で、ハリー・オブライエン、今一人はニオルカンの領主邸で薬師を務めている者の娘で、アイリス・フェルブライト、どちらの家系も貴族ではない。
残り13人は、ニオルカン公爵の配下である騎士爵から子爵までの下級貴族の子女である。
いずれにせよ、受験者16名全員が魔石の適性試験は合格で通過できた。
そうして恒例となっているらしい魔法行使のお披露目については、貴族の子女たちが我先にと的に向かって魔法を放っている。
まぁ、自慢にもならない程度の威力しかないのだが、おそらくは家人に褒められ、煽てられて嬉々として魔法を放っているに違いないが、貴族の子女ではないマルコを含む三人は、片隅でそれを眺めているだけだ。
元々、事前に魔法行使をなす必要はないと言われていたからである。
尤も、貴族の子女以外の者で学院に入学する前に魔法の発動をできるという事例は極めて少ない。
一つには、魔法を覚えるには個人教授のできる環境(指導者と訓練場所)が必要だからである。
一般人ではそうした環境を中々得られないことが多いので、学院に入学してから覚えることが多いのだ。
マルコ自身は敢えて自分の能力をひけらかす必要性も無いと思って隅に控えていたのだが、何故か若い試験員の一人がわざわざ挑発するような言い方をした。
「どうした。
お前たちも試してみたらどうだ?
いずれ的の一つも欠けらせるぐらいにならないと卒業はできないぞ。」
このように生徒を煽るような男が教える学院なのかとちょっとがっかりしたマルコだった。
従って、嫌味の一つも言ってみた。
「失礼ながら、的を壊したならそれだけで卒業できるのですか?」
「ン、いや、まぁ、それだけではないがな。
少なくとも的を壊せるほどの能力持ちならば、卒業を早める理由にはなるだろうな。」
「そのような話は事前に与えられた説明書には何も記載がありませんが、そのような特例制度が実際にあるのですか?」
「ア、いや、まぁ、・・・。
そんな話は、的に魔法を充てられないお前たちには関係のない話だ。
だから知らずとも良い。」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
27
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる