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第三章 魔晶石ギルドの研修

3-21 突然ですが、卒業試験です

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 利用会議が終わったその日の夕食で、同期生と一緒にワイワイと夕食を頂いていましたら、エリオット教官が私のところへ来ました。
 そこで、爆弾発言です。

「シルヴィ、お前は明日から特別卒業試験を受けることになった。
 明日は、午前中に採掘師のペーパーテスト、午後は加工師のペーパーテスト。
 明後日は、リカルドとダンカンを相手に模擬戦闘訓練だ。
 お前の場合既に実績があるから、魔物討伐、魔晶石の採掘及び魔晶石の加工については免除だ。
 明日の6の時、第三研修室に来い。
 それ以後の予定は別途伝達する。」

「あの、研修期間は最低でも一年ですよね。
 場合によっては二年の猶予があると・・・。
 私は、まだ研修中では無いのですか?」

「最初にお前らには言っておいたはずだ。
 実力があるのなら、入ったその日にでも試験は受けられると。
 シルヴィ、お前は実力を持っていると幹部に認められたんだ。
 今更、ちんたらと研修を続けてギルドに損失を与えるな。
 さっさと採掘師なり、加工師なりになってギルドに貢献しろ。
 ギルドもお前を遊ばせておくほど余裕はない。
 まぁ、そういうこった。」

 それから同期生たちも騒然としました。
 未だ先輩で浪人中の人が二人ほど居るのに、同期生の中から卒業する者が出て来たのです。

 喜び、希望、嫉妬など様々な感情が蠢いていますね。
 まぁ、採掘の帰りにダンカンさんから言われていたので、それなりに覚悟はしていました。
 
 でも一月後とか、そのぐらいの時期を考えていたのに、ちょっと早すぎます。
 できないわけじゃないとは思いますよ。

 図書館通いで沢山の知識を手に入れました。
 それに真夜中のヒラトップでの秘密訓練で随分と実力も上がりました。

 採掘師では第一人者のダンカンさんの魔法攻撃をショボイと思うほどに、力の差も感じます。
 でも、ツアイス症候群の調査がまだ進展していないんです。

 心臓石化は、絶対に嫌ですからね。
 研修期間中に何とか解決方法を見つけようと思っていたのに、それが結構難しくなったかも・・・。

 でも仕方がないですね。
 女は愛嬌で勝負もしますけれど、ここでは度胸の出番でしょうか?

 何時かは来るものが早まっただけ、覚悟を決めて勝負に挑みましょう。
 それにしても模擬戦闘訓練で何故に、ダンカンさんとリカルドさんの二人が出てくんの?

 力量の確認なら、元二級のエリオットさんでもいいし、三級採掘師のレオンさんでもいいじゃないでしょうか?
 卒業試験に合格して頂けるのは三級採掘師と三級加工師の筈です。

 一級採掘師がわざわざ出張る必要どこにあるのでしょうかね?
 絶対におかしいです。

 文句を言おうと思ったら、エリオットさん云うだけ言ってさっさと食堂から姿を消していました。
 ウン、元二級採掘師、逃げ足は間違いなく早そうです。

 ◇◇◇◇

 翌日、中秋下月の27日赤曜日です。
 今日でギルドに来てちょうど60日目になるんですけれど、何だか展開が早いですね。

 試験に合格したら、三日後には三級採掘師と三級加工師になります。
 多分ペーパーテストの方は、間違いないと思います。

 何せ、鑑定の効果か何かで、鑑定を掛けた書籍の全てが頭に入っていますから。
 こんなに入ってパンクしないのかしらと思うほど知識が蓄えられていますけれど、脳内できちんと分類されてリンクができていますので、いつでも取り出せるパソコンデータのようなものです。

 何となくズルをしているような気分になるのですが、きちんと脳内に入っているのでこれは記憶の一部とそう思っています。
 結果から言うとぺーパーテストについては、何も問題がありませんでした。

 時間内に全ての問題に完璧(?)に回答を書きました。
 自己採点では満点です。

 翌28日の緑曜日、模擬戦闘訓練は練習場で7の時から始まりました。
 武器は刃引きされていれば何を持っても良いと言われたのですが、刃物を使うとぶっちゃけ、相手を切り裂いてしまいそうなので、私は自分で造った金剛杖の紛い物を使うことにしました。

 何の変哲もない長さが6尺の六角坊で、金属の補強は付いていませんが、陰陽術の属性付与術(?)を使って、固化していますので、刃物で傷つくことはありません。
 これで頭を思いっきりぶん殴ったら、おそらく脳漿をぶちまけて爆散する恐れがありますので、やはり手加減は必要ですが、秘密訓練でゴーレム(式神)やら召喚騎士の十二神将相手に模擬戦をやって、大体の手加減にも慣れましたので、相手を死なせることはまずないだろうと思っています。

 まぁ、怪我はするかもしれませんね?
 一応、持ち込んだ六角棒を見せて、使用の了解を貰って、いざ、立ち合いです。

 驚いた事に暇な人が多いのか、練習場の二階席に当たる部分には鈴なりの観客が居るんです。
 レオンさんとクラウディアさんの姿が見えました。

 クラウディアさん、先々週の緑葉日の試験で、見事に三級採掘師に合格したんです。
 私にわざわざ報告しに来てくれたので、お祝いを申し上げました。

 クラウディアさん、例の身体強化法を教えてあげたことを随分と感謝しているみたいです。
 確かに、あのままでは彼女合格しませんでしたからね。

 で、もう一人似た様な先輩が居たようで、その方にも今度はクラウディアさんから伝授、その彼も合格したんだそうです。
 目出度し目出度しで、良かったですよね。

 そんな話は置いといて、最初の相手はリカルドさんでした。
 私が、黙って突っ立ていると向こうから仕掛けてきました。

 刃引きしたロングソードを右袈裟懸けに打ち込んできたのです。
 まぁ、遅くは無いんですけれど、とても早いとは言えません。

 そもそも斬撃が予想できるぐらいだと簡単に避けられます。
 見切り三寸と言いますか、ほんの僅か右足を引いて体を躱すだけで、ロングソードは空を切ります。

 ロングソードが下まで振り切られる前に、私が動きます。
 六角棒を水平に振って、相手の腰にピタリと付けるんです。

 殴ってはいませんよ。
 殴ると腰の骨やらが粉砕骨折になります。

 寸止めですね。
 でも、リカルドさん慌てて離れて再度構えます。

 あれ?普通なら今ので勝負ありですよ。
 アスレオールでは殴り倒すまで駄目ですか?

 リカルドさん、顔がやや紅潮しています。
 研修生ごときに舐められたとか思っていないでしょうね。

 私、本気になれば秒殺しですよ。
 ウーン、リカルドさん魔法を使うみたいです。

 これはファイアーボールですね。
 詠唱してますもん、撃つ前からバレてます。

 じゃぁ、ちょっと驚かしてあげましょう。
 陰陽術で相手の術を封じる術があるんです。

 放ってきた術を封じて効果が出ないようにする、「破却」と、放ってくる前の術形成を封じる、「滅破陣」。
 どちらも可能でしたが、今回は「破却」を使いました。

 リカルドさんがファイアーボールを放った途端に、「破却」を無詠唱で発動。
 リカルドさんが折角発動したファイアーボールが瞬時に消えました。

 リカルドさん訳が分からなくって慌ててます。
 でもそれからも色々試してきます。

 でもそのいずれも「滅破陣」で発動そのものを封じました。
 リカルドさん、攻撃の手段が失われたわけですが、それでもロングソードを構えて突っ込んできそうな雰囲気です。

 止むを得ないので、片手をあげてファイアーボールを空中に12個ほど並べました。
 流石にぎょっとしたのか、リカルドさんの動きが止まりました。

 そのままでは埒が明かないので、警告を発しました。

「リカルドさん、まだ戦闘継続しますか?
 もしそうなら、このファイアーボールを撃ちますけれど・・・。」

 リカルドさん、流石に諦めたみたいです。

「ウン、降参、俺の負けだ。」

 そう宣言すると観客席がざわざわしました。
 次いで現れましたダンカンさん。

「やれやれ、リカルドがあの調子じゃ、俺に勝ち目はなさそうだな。
 だが、シルヴィ、お前の魔法の力は嫌というほど俺は知っているから、今日は魔法は抜きだ。
 魔法付きでお前に勝てるイメージが無い。
 だから、今日は武器だけで戦う模擬線だ。
 遠慮はいらねぇ。
 ぶちかましてこい。
 俺も全力でお前をぶっ飛ばす。」

 うーんそう言われてもですねぇ。
 全力でやると固い金属でできたゴーレムもバラバラになっちゃうんです。

 ですから寸止めで勝負させていただきます。
 ダンカンさんが選んだのは槍です。

 刃引きはしてありますけれど、突かれたらお腹に穴が開きそうです。
 だから当たってはいけません。

 ついでに柄の部分は金属ですから、まぁ、早い話が、鉄の棒の先端が刃引きになっていると思えばわかりやすいかも。
 ですから重量も結構ありますよね。

 こちらは六尺(約1.8m)の長さの六角棒、向こうは9尺を超える長槍ですので、間があると有利なのは向こうですが、耐久性では木製ながらこちらが上なんです。
 で、三間ほどの間隔を置いて始まりました。

 動きはリカルドさんよりもダンカンさんの方がやや早いんですが、それでも私には遅く感じます。
 ダンカンさん一歩で踏み込んで槍をついてきました。

 技に名前があるかどうかは知りませんが、左前半身の構えで静止状態から一気に3.5mほども踏み込んで、槍をついてきました。
 そのままではお腹に穴が開きますので、左半身で槍の先端を躱すと同時に、六角棒を槍の柄に滑らせながら、前に出ます。

 私の前にびっくり顔のダンカンさんが居ます。
 槍を薙ごうする動きをそのままに、私は掌でダンカンさんの胸元に発勁を放ちました。

 ダンカンさん多分2m近い大男の筈ですが、数mは飛びました。
 そのまま、ドウとばかりに固い地面に倒れて、咳込んでいます。

 手加減はしたので大丈夫のはずですけれど、あばら骨にひびぐらい入った可能性もあります。
 またまた観客席がざわついていますね。

 ダンカンさんが槍を地面に置いたまま、ゆっくりと立ち上がりました。

「ウン、降参だ。
 やっぱり、お前にはかなわなかったな。
 あれだけ規格外の力を見せつけられりゃぁ、多分勝てないとは思ったが・・・。
 それでも試してみたかった。
 お前、大分手加減しただろう?」

「うーん、・・・。
 はい、人殺しにはなりたくありませんので・・・。」

「だろうな、今のをお前の同期生に撃ったら、多分半死半生になるだろうし、一般人が相手なら即死だ。
 わかって居るだろうが普段は使うなよ。
 魔物相手ならいくら使ってもいい。」

「はい、了解です。」

 こうして模擬線も無事に終わりました。
 その日の夕刻、三級採掘師と三級加工師への昇格が決まり、私はめでたく研修生を卒業することになりました。

 同期生が、食堂でお別れ会を開いてくれました。
 なんでもコックさんに無理を言ってごちそうを用意しで貰ったとか・・・。

 その分は勿論私以外の同期生の借金になるんです。
 色々あった研修期間ですが、たくさんのお友達ができました。

 身体強化の方法については、皆に教えて、それまでできなかった同期生もしっかりと覚えてくれました。
 私一人が先行してしまうけれど、きっと仲間も追いついてくるはずです。

 また現場で再会できるようにお祈りして笑顔で別れました。
 因みに、研修生を卒業すると寮も移らなければなりません。

 翌日は、事務部で正規会員に登録し、寮の引っ越しをしました。
 元々、インベントリに収納しているものが多いので、引っ越しにも左程の手間はかかりません。

 その日は、初めて会員用の食堂で食事をしました。
 ここでも注目を浴びているようですが私は新参者です。

 出来るだけ出過ぎないよう気を付けているのです。
 さて、明日からは採掘師として、または加工師として仕事をしなければなりませんね。

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