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第七章 面倒事の始まり
7-3 フレデリカの面倒事 その二
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「やれやれ、空手形でフレデリカを帰国させろって?
エルフって本当にいい加減なところがあるねぇ。
そんなので庇護者が納得して送り出せると思うの?」
俺がそう言うと、困り果てたようにハウザー名誉領事が言った。
「では、ファンデンダルク卿は如何にせよと申されますのか?
このままではエルフの不穏分子が勝手に動き出すやもしれませんが・・・。」
「うん、ハウザー名誉領事の言うとおりだね。
今、現在、カネン・スポルザー少納将の手の者6名が、我屋敷を襲撃しているようだね。
取り敢えず我が家に被害はないし、不埒な者ども全員を捕まえたけれど・・・。
さて、どうする?
そいつらの首を撥ねてもいいのかな?」
途端にハウザー領事の顔が真っ青になった。
「交渉中であるというのに何と馬鹿な真似を・・・・。
遺憾ながら、私としては伯爵のお慈悲にすがるしかございません。
どうか、なにとぞ軽い処罰で済ませてくださいませ。
直ちにシュルツブルグと交信を成して、以後絶対にこのような不埒な真似はさせません。
私は一旦、わが家へ引き上げます。
伯爵殿には後刻改めて連絡をいたします。」
そう言って慌ただしくハウザー名誉領事は立ち去って行った。
俺も王都別邸に戻って、屋敷の警備を更に厳重にした。
エルフってのは馬鹿なのかね?
侵入を拒む強力な結界があるとわかっていて精霊魔法を使いやがった。
結界はもちろん多重結界だからね。
無謀な攻撃魔法には自動的に反応する障壁もある。
そいつは相手の攻撃を半分だけ反らし、半分は相手に返すんだ。
で、奴らの得意な風属性魔法を屋敷の結界に向けて放った結果、半分返されて受け止めきれずに6人全員が大怪我をしたようだ。
そ奴らは、ゴーレムが拘束して魔法の使えない部屋に入れてある。
例の古代遺跡で見つけた特殊な金属だ。
その中で魔法は使えてもすべて跳ね返る。
自殺する分には俺もわざわざ止めないがね。
まぁ、手足はしっかり拘束しているようだから身動きできないとは思うけれど・・・。
屋敷に住んでいる者のほとんどはその出来事を知らなかったが、さすがに家宰のジャックと、件の揉め事の中心人物であるメイド長のフレデリカは承知していた。
俺が屋敷に戻るとジャックとフレデリカがそろって顔を出した。
二人を連れて俺の執務室へ入ると、フレデリカが申し訳なさそうに言う。
「申し訳ございません。
私事でご主人に多大のご迷惑をおかけしてしまいました。
これ以上のご迷惑はかけられないので、屋敷を出たいと存じますが、お許しをいただけましょうか?」
「いや、その許しは出さないよ。
君を雇うときにすべてを飲み込んで雇ったんだ。
それに別件で君の素性を聞いたときにも言ったよね。
俺は君の庇護者だって。
一旦請け負ったものは最後まで成し遂げるのが我が家の家訓だよ。
途中で投げ出したりすれば漢が廃るよ。
まぁ、フレデリカの居場所が、エルフの連中に判明した以上は別の手を打つ必要もあるんだけれど・・・。」
俺は少し考えてから言った。
「フレデリカ、お前さん、自分のステータスは知っているかい?」
「はい、鑑定能力がありますので、自分の能力は知っています。
それが何か?」
「加護はあるかい?」
「加護・・・ですか?
えぇと、加護は何かありそうなのですが、不明な文字で内容が分かりません。」
「ふーん、そうなんだ。
やっぱり自覚がないんだ。
フレデリカには、実のところドリアードの加護がついている。
じゃ、称号はどうかな?」
「称号は恥ずかしながら『エルフの家出王女』となっています。」
「うん、もう一つあるんだけれど、それは見えない?」
「え?
他にはありませんけれど・・・。」
「そう、じゃぁ、念のため教えておくと未確定という条件付きながら森の巫女となっているよ。」
「私が森の巫女の候補なのですか?
でもそれが見えないということは、森の巫女にならないかもしれないということでしょうか?」
「うん、まぁ、森の巫女について僕が知っていることはほとんどないからよくわからないんだが、森の巫女になるにはどうすればよいのかな?」
「私もよく分かりませんが、亡くなられた曽々お婆様に昔話で言われたのは、巫女になる者はある日その資格を宿すことになったならば、突然にお告げをもらって森の巫女になるのだそうです。
巫女には王家もしくは王家所縁の者がなることが多いとも言っていました。
森の巫女になった者はユグドラシルの祭壇で祈りをささげることにより、全てのエルフの民に認められるのだとか。
お伽噺のような話です。」
「なるほど、で、フレデリカは、ユグドラシルを知っているだろうけれど、ドリアードには会ったことはあるの?」
「いいえ、無いと思います。
そもそもがドリアードのお姿も随分長いこと見かけられていないそうですから。」
「ふむ、自分の加護が何かも知らないというところにそもそも問題がありそうだね。
こりゃぁ、一度はシュルツブルドに行かねばならないかな?」
「え?
あの、私がですか?
それともご主人様がですか?」
「うん、僕とお前さんと二人だな。
面倒事を片付ける手っ取り早い方法は間に仲介人を嚙ませないで直接やり取りをすることなんだ。
まぁ、フレデリカの所在がエルフの追っ手に見つからない間は放置しているつもりだったけれどね。
止むを得ないから、シュルツブルドに乗り込んで、できればドリアードに会ってみる。
次善の策で君の父上と直談判かな。」
「あの、シュルツブルドまではかなり遠く、急いでも百日以上の日数がかかりますが・・・・。
それに、国境ではエルフ以外の入国を原則として拒否されてしまいます。」
「あぁ、まぁ、入国許可の方はハウザー名誉領事に何とかしてもらうよ。
それとシュルツブルドまではそんなにかからない。」
「確かにご主人様の造られた馬なし馬車は早いですけれど、間に少なくとも二か国、通常の主往還を通るならば三ヵ国を中継して行かねばなりません。
一般の冒険者や商人などの旅人が行き来するのは、さほど制限を受けませんが、他国の貴族が通るとなると事前に貴族院を仲介して許可が必要になります。
その手続きだけでも一つの国で、間違いなく十日や二十日はかかってしまいます。」
傍で聞いているジャックもしきりに頷いている。
まぁ、地球のEUみたいに域内自由通行とは行かないよね。
「うん、まぁ、正式な手続きを踏んだらそういうことになるんだろうな。
下手をすると許可を取るためのやり取りだけで四、五十日はかかりそうだ。
だから、許可を得ないで無断で通過する。
相手にそのことを知られなければいいのだろう?」
それを聞いて、ジャックが若干焦りながら言う。
「旦那様、如何に隠密に通過すると言っても、その長期間、旦那様が国内に不在になるのは問題でございます。
王宮や貴族院からの招請があった場合対応できなくなります。」
「あぁ、これから話すことは内密の話だから他言無用な。
二人とも墓場まで持って行ってくれ。
僕は転移魔法が使える。
但し、一度は僕が行ったことのある場所でないと転移はできない。
だから、僕がどこに居ようと、必要ならば、この王都別邸やヴォアールランドの本宅にはいつでも戻れる。
万が一の連絡は以前から渡しているセルフォンがあればできるだろう。
今スグには動かないけれど、仮に秘密裏に動くとすれば、今からシュルツブルドへ動いても、特別の手段を用いれば夕飯時までには戻れるはずだ。
で、ハウザー名誉領事と再度面談する際に、僕がフレデリカを護送してシュルツブルドへ行く旨を伝え、同時にシュルツブルドへの入域許可ももらうつもりだ。
旅の行程も輸送手段も知らせないけれどね。
で、フレデリカには俺の推論を言っておこう。
これまで長い間、お告げを得られなかった理由は、巫女になる前に、王女や候補者が嫁がされていたからじゃないかと思う。
王女の嫁ぎ先を王が決める習わしがまかり通っているならば、シュルツブルドの華族の子女達も同様だろう。
森の巫女になるには応分の資格が必要なんだろうと思う。
それが能力なのかあるいは年齢なのか、それとも全く別の要件なのかはわからないが、その前に親が婚姻を決めてしまい、実際に婚姻をしてしまえば、森の巫女は決して現れない。
そもそも、王女だけでなく、華族の子女についてもかつては森の巫女からのお告げがあってから嫁いでいた可能性すらある。
その機会を破棄してしまえば、お告げを聴ける者はいないから、お告げは長い間無かったんじゃないかな?
元々は、ユグドラシルやドリアードの許しを得て、若しくは了承を得て、初めて婚姻の儀が執り行われたんじゃないかと思うんだ。
だから、王女の嫁ぎ先はお告げで決まるとされていた。
僕はシュルツブルドでドリアードを探し出して話を聞くつもりだよ。
ユグドラシルが話せるのならユグドラシルでも構わない。
仮に僕が聞くことができなくても、ドリアードならば君とは話せるだろう。
何しろドリアードの加護持ちであり、ドリアードは君の庇護者の一人なんだから。」
「そういえば、婚礼の儀は今でもユグドラシルの祭壇若しくはその分院で行われるのがしきたりです。
ある意味では、そうすることでユグドラシルの了承を得ていたのかもしれません。
でもこれまでも婚礼の儀では何も反応がありませんでしたけれど・・・。」
「ユグドラシルはエルフたちにとっては聖樹なんだろうけれど、具体的に何か恩恵はあるのかな?」
「ユグドラシルはその居場所に結界を産み出し、其処に住むエルフたちを守護しています。
かつては、ユグドラシルの枝や葉を落としてくれたことで、その素材を利用したお守りやポーションを作っていましたが、今ではその素材も得ることができません。
枝葉を1年に何度か落としてはくれますが、すぐに枯れてしまいボロボロになって使えなくなってしまうのです。
シュルツブルドで生み出されるポーションは、超級と呼ばれて他国でも大層珍重されていますが、今では残存数が非常に少ないと聞いています。」
「フーン、そいつは一種の祟りじゃないの?
エルフの社会ではそうとは思っていないの?」
「なにがしかの不安は抱いていますが、それを口に出すことはユグドラシルへの冒涜なので誰も口には致しません。」
「やれやれ、ユグドラシルへの冒涜があるからユグドラシルは恩恵を与えないのじゃないのかな。
闇雲に敬うだけで自らの言葉を聞いてくれない民などに、いくら庇護者とは言っても恩恵を与えるなんてできないよ。
下手をすれば、ユグドラシルそのものが崩壊して結界が消えるかもしれないね。」
フレデリカは青くなって呟いた。
「まさか、そんなことが・・・。」
◇◇◇◇
二日後ハウザー名誉領事から連絡があって、貴族院で面会した。
別に貴族院でなくとも良いのじゃないかと思うのだが、エルフの慣例による国際儀礼では、名誉領事の会見場所は貴族院と決められているようだ。
その割には不埒な者どもは勝手に我が屋敷に押しかけてきたようだが、その件も本来であれば名誉領事を通して要請を進言する話し合いの場を設けることがしきたりのようだ。
それらを無視したことによるエルフ社会での掟違反もありそうなのだが、それよりも伯爵邸に無断で押し入り、応対した家宰に魔法で怪我をさせたこと、更にはファンデンダルク邸に無法な襲撃をかけたことが本国では重大視されており、カネン・スポルザー少納将以下のエルフたちは、俺の了解が得られ次第、名誉領事の手配で強制送還をされることになった。
流石に屋敷に攻撃を仕掛けた者達への一時的な処罰権限は俺に在り、シュルツブルドは二次的な権限になるようだ。
俺は、家宰のジャックに与えた怪我の賠償という実を求め、その他については処罰の執行猶予を与えた。
本来であれば首切りものだということを念押ししておく。
その上で、俺はシュルツブルドへの入国許可をハウザー名誉領事に求めた。
但し、国境での入国手続きを伴わない普遍的な許可との条件を付けた。
俺はシュルツブルドの国境守備隊に許可を求めるつもりはない。
一気にシュルツブルとの王都ドラシルに降り立つつもりでいる。
ハウザー名誉領事はかなり渋っていたものの、今回の一件で負い目があることから最後には包括的な入国許可証を期限付きで渡してくれた。
許可証の期限は1年間である。
そもそも馬車などによる往復だけでも半年ほどかかる距離にあることから、1年(480日)の期限を与えられたのだが、これにより俺は1年以内ならいつでもシュルツブルドへ入ることが可能となった。
で、俺は、三日後にシュルツブルドの王都ドラジルへフレデリカを連れて赴くとハウザー領事へ伝えた。
「わかりました。
三日後にフレデリカ王女を同伴で伯爵がシュルツブルドへ発たれるということですな。
では、ただいまが晩秋月の半ば過ぎでございますのでドラジル到着は概ね厳冬月ごろになりましょうか?」
「いや、三日後にドラジル到着の予定なのでその旨シュルツブルドへ連絡をお願いする。
後、余分なことながら宿舎、食事等一切のご配慮は無用です。
私とフレデリカは勝手にドラジルに入り、所要の確認調査を行う予定です。
その結果は、シュルツブルド王の側近に伝えることになるでしょう。
必要とあればシュルツブルド王にもお会いするのもやぶさかではございませんが、外交権も持たない他国の伯爵風情がシュルツブルド王にいきなり謁見するのは無礼に当たりましょう。
ハウザー名誉領事でシュルツブルド王側近のどなたかを紹介していただければ、その方に連絡いたしましょう。
我々の結果如何で、フレデリカ王女の今後の居場所が決まります。」
唖然とした表情でハウザー名誉領事が言う。
「まさか・・・。
三日後にドラジルに到着されると言われるか?
いったいどのような方法で?」
「それは秘密です。
ですが、間違いなく三日後の夕刻までにはドラジルに到着の予定です。
いずれにせよ連絡の方をよろしくお願いします。」
=====================================
次回予告、『フレデリカの面倒事 その三」です。
なお、『フォーリーブス ~ヴォーカル四人組の軌跡』を新たに投稿することにしました。
こちらは毎週金曜日の投稿予定です。
宜しければご一読ください。
By サクラ近衛将監
エルフって本当にいい加減なところがあるねぇ。
そんなので庇護者が納得して送り出せると思うの?」
俺がそう言うと、困り果てたようにハウザー名誉領事が言った。
「では、ファンデンダルク卿は如何にせよと申されますのか?
このままではエルフの不穏分子が勝手に動き出すやもしれませんが・・・。」
「うん、ハウザー名誉領事の言うとおりだね。
今、現在、カネン・スポルザー少納将の手の者6名が、我屋敷を襲撃しているようだね。
取り敢えず我が家に被害はないし、不埒な者ども全員を捕まえたけれど・・・。
さて、どうする?
そいつらの首を撥ねてもいいのかな?」
途端にハウザー領事の顔が真っ青になった。
「交渉中であるというのに何と馬鹿な真似を・・・・。
遺憾ながら、私としては伯爵のお慈悲にすがるしかございません。
どうか、なにとぞ軽い処罰で済ませてくださいませ。
直ちにシュルツブルグと交信を成して、以後絶対にこのような不埒な真似はさせません。
私は一旦、わが家へ引き上げます。
伯爵殿には後刻改めて連絡をいたします。」
そう言って慌ただしくハウザー名誉領事は立ち去って行った。
俺も王都別邸に戻って、屋敷の警備を更に厳重にした。
エルフってのは馬鹿なのかね?
侵入を拒む強力な結界があるとわかっていて精霊魔法を使いやがった。
結界はもちろん多重結界だからね。
無謀な攻撃魔法には自動的に反応する障壁もある。
そいつは相手の攻撃を半分だけ反らし、半分は相手に返すんだ。
で、奴らの得意な風属性魔法を屋敷の結界に向けて放った結果、半分返されて受け止めきれずに6人全員が大怪我をしたようだ。
そ奴らは、ゴーレムが拘束して魔法の使えない部屋に入れてある。
例の古代遺跡で見つけた特殊な金属だ。
その中で魔法は使えてもすべて跳ね返る。
自殺する分には俺もわざわざ止めないがね。
まぁ、手足はしっかり拘束しているようだから身動きできないとは思うけれど・・・。
屋敷に住んでいる者のほとんどはその出来事を知らなかったが、さすがに家宰のジャックと、件の揉め事の中心人物であるメイド長のフレデリカは承知していた。
俺が屋敷に戻るとジャックとフレデリカがそろって顔を出した。
二人を連れて俺の執務室へ入ると、フレデリカが申し訳なさそうに言う。
「申し訳ございません。
私事でご主人に多大のご迷惑をおかけしてしまいました。
これ以上のご迷惑はかけられないので、屋敷を出たいと存じますが、お許しをいただけましょうか?」
「いや、その許しは出さないよ。
君を雇うときにすべてを飲み込んで雇ったんだ。
それに別件で君の素性を聞いたときにも言ったよね。
俺は君の庇護者だって。
一旦請け負ったものは最後まで成し遂げるのが我が家の家訓だよ。
途中で投げ出したりすれば漢が廃るよ。
まぁ、フレデリカの居場所が、エルフの連中に判明した以上は別の手を打つ必要もあるんだけれど・・・。」
俺は少し考えてから言った。
「フレデリカ、お前さん、自分のステータスは知っているかい?」
「はい、鑑定能力がありますので、自分の能力は知っています。
それが何か?」
「加護はあるかい?」
「加護・・・ですか?
えぇと、加護は何かありそうなのですが、不明な文字で内容が分かりません。」
「ふーん、そうなんだ。
やっぱり自覚がないんだ。
フレデリカには、実のところドリアードの加護がついている。
じゃ、称号はどうかな?」
「称号は恥ずかしながら『エルフの家出王女』となっています。」
「うん、もう一つあるんだけれど、それは見えない?」
「え?
他にはありませんけれど・・・。」
「そう、じゃぁ、念のため教えておくと未確定という条件付きながら森の巫女となっているよ。」
「私が森の巫女の候補なのですか?
でもそれが見えないということは、森の巫女にならないかもしれないということでしょうか?」
「うん、まぁ、森の巫女について僕が知っていることはほとんどないからよくわからないんだが、森の巫女になるにはどうすればよいのかな?」
「私もよく分かりませんが、亡くなられた曽々お婆様に昔話で言われたのは、巫女になる者はある日その資格を宿すことになったならば、突然にお告げをもらって森の巫女になるのだそうです。
巫女には王家もしくは王家所縁の者がなることが多いとも言っていました。
森の巫女になった者はユグドラシルの祭壇で祈りをささげることにより、全てのエルフの民に認められるのだとか。
お伽噺のような話です。」
「なるほど、で、フレデリカは、ユグドラシルを知っているだろうけれど、ドリアードには会ったことはあるの?」
「いいえ、無いと思います。
そもそもがドリアードのお姿も随分長いこと見かけられていないそうですから。」
「ふむ、自分の加護が何かも知らないというところにそもそも問題がありそうだね。
こりゃぁ、一度はシュルツブルドに行かねばならないかな?」
「え?
あの、私がですか?
それともご主人様がですか?」
「うん、僕とお前さんと二人だな。
面倒事を片付ける手っ取り早い方法は間に仲介人を嚙ませないで直接やり取りをすることなんだ。
まぁ、フレデリカの所在がエルフの追っ手に見つからない間は放置しているつもりだったけれどね。
止むを得ないから、シュルツブルドに乗り込んで、できればドリアードに会ってみる。
次善の策で君の父上と直談判かな。」
「あの、シュルツブルドまではかなり遠く、急いでも百日以上の日数がかかりますが・・・・。
それに、国境ではエルフ以外の入国を原則として拒否されてしまいます。」
「あぁ、まぁ、入国許可の方はハウザー名誉領事に何とかしてもらうよ。
それとシュルツブルドまではそんなにかからない。」
「確かにご主人様の造られた馬なし馬車は早いですけれど、間に少なくとも二か国、通常の主往還を通るならば三ヵ国を中継して行かねばなりません。
一般の冒険者や商人などの旅人が行き来するのは、さほど制限を受けませんが、他国の貴族が通るとなると事前に貴族院を仲介して許可が必要になります。
その手続きだけでも一つの国で、間違いなく十日や二十日はかかってしまいます。」
傍で聞いているジャックもしきりに頷いている。
まぁ、地球のEUみたいに域内自由通行とは行かないよね。
「うん、まぁ、正式な手続きを踏んだらそういうことになるんだろうな。
下手をすると許可を取るためのやり取りだけで四、五十日はかかりそうだ。
だから、許可を得ないで無断で通過する。
相手にそのことを知られなければいいのだろう?」
それを聞いて、ジャックが若干焦りながら言う。
「旦那様、如何に隠密に通過すると言っても、その長期間、旦那様が国内に不在になるのは問題でございます。
王宮や貴族院からの招請があった場合対応できなくなります。」
「あぁ、これから話すことは内密の話だから他言無用な。
二人とも墓場まで持って行ってくれ。
僕は転移魔法が使える。
但し、一度は僕が行ったことのある場所でないと転移はできない。
だから、僕がどこに居ようと、必要ならば、この王都別邸やヴォアールランドの本宅にはいつでも戻れる。
万が一の連絡は以前から渡しているセルフォンがあればできるだろう。
今スグには動かないけれど、仮に秘密裏に動くとすれば、今からシュルツブルドへ動いても、特別の手段を用いれば夕飯時までには戻れるはずだ。
で、ハウザー名誉領事と再度面談する際に、僕がフレデリカを護送してシュルツブルドへ行く旨を伝え、同時にシュルツブルドへの入域許可ももらうつもりだ。
旅の行程も輸送手段も知らせないけれどね。
で、フレデリカには俺の推論を言っておこう。
これまで長い間、お告げを得られなかった理由は、巫女になる前に、王女や候補者が嫁がされていたからじゃないかと思う。
王女の嫁ぎ先を王が決める習わしがまかり通っているならば、シュルツブルドの華族の子女達も同様だろう。
森の巫女になるには応分の資格が必要なんだろうと思う。
それが能力なのかあるいは年齢なのか、それとも全く別の要件なのかはわからないが、その前に親が婚姻を決めてしまい、実際に婚姻をしてしまえば、森の巫女は決して現れない。
そもそも、王女だけでなく、華族の子女についてもかつては森の巫女からのお告げがあってから嫁いでいた可能性すらある。
その機会を破棄してしまえば、お告げを聴ける者はいないから、お告げは長い間無かったんじゃないかな?
元々は、ユグドラシルやドリアードの許しを得て、若しくは了承を得て、初めて婚姻の儀が執り行われたんじゃないかと思うんだ。
だから、王女の嫁ぎ先はお告げで決まるとされていた。
僕はシュルツブルドでドリアードを探し出して話を聞くつもりだよ。
ユグドラシルが話せるのならユグドラシルでも構わない。
仮に僕が聞くことができなくても、ドリアードならば君とは話せるだろう。
何しろドリアードの加護持ちであり、ドリアードは君の庇護者の一人なんだから。」
「そういえば、婚礼の儀は今でもユグドラシルの祭壇若しくはその分院で行われるのがしきたりです。
ある意味では、そうすることでユグドラシルの了承を得ていたのかもしれません。
でもこれまでも婚礼の儀では何も反応がありませんでしたけれど・・・。」
「ユグドラシルはエルフたちにとっては聖樹なんだろうけれど、具体的に何か恩恵はあるのかな?」
「ユグドラシルはその居場所に結界を産み出し、其処に住むエルフたちを守護しています。
かつては、ユグドラシルの枝や葉を落としてくれたことで、その素材を利用したお守りやポーションを作っていましたが、今ではその素材も得ることができません。
枝葉を1年に何度か落としてはくれますが、すぐに枯れてしまいボロボロになって使えなくなってしまうのです。
シュルツブルドで生み出されるポーションは、超級と呼ばれて他国でも大層珍重されていますが、今では残存数が非常に少ないと聞いています。」
「フーン、そいつは一種の祟りじゃないの?
エルフの社会ではそうとは思っていないの?」
「なにがしかの不安は抱いていますが、それを口に出すことはユグドラシルへの冒涜なので誰も口には致しません。」
「やれやれ、ユグドラシルへの冒涜があるからユグドラシルは恩恵を与えないのじゃないのかな。
闇雲に敬うだけで自らの言葉を聞いてくれない民などに、いくら庇護者とは言っても恩恵を与えるなんてできないよ。
下手をすれば、ユグドラシルそのものが崩壊して結界が消えるかもしれないね。」
フレデリカは青くなって呟いた。
「まさか、そんなことが・・・。」
◇◇◇◇
二日後ハウザー名誉領事から連絡があって、貴族院で面会した。
別に貴族院でなくとも良いのじゃないかと思うのだが、エルフの慣例による国際儀礼では、名誉領事の会見場所は貴族院と決められているようだ。
その割には不埒な者どもは勝手に我が屋敷に押しかけてきたようだが、その件も本来であれば名誉領事を通して要請を進言する話し合いの場を設けることがしきたりのようだ。
それらを無視したことによるエルフ社会での掟違反もありそうなのだが、それよりも伯爵邸に無断で押し入り、応対した家宰に魔法で怪我をさせたこと、更にはファンデンダルク邸に無法な襲撃をかけたことが本国では重大視されており、カネン・スポルザー少納将以下のエルフたちは、俺の了解が得られ次第、名誉領事の手配で強制送還をされることになった。
流石に屋敷に攻撃を仕掛けた者達への一時的な処罰権限は俺に在り、シュルツブルドは二次的な権限になるようだ。
俺は、家宰のジャックに与えた怪我の賠償という実を求め、その他については処罰の執行猶予を与えた。
本来であれば首切りものだということを念押ししておく。
その上で、俺はシュルツブルドへの入国許可をハウザー名誉領事に求めた。
但し、国境での入国手続きを伴わない普遍的な許可との条件を付けた。
俺はシュルツブルドの国境守備隊に許可を求めるつもりはない。
一気にシュルツブルとの王都ドラシルに降り立つつもりでいる。
ハウザー名誉領事はかなり渋っていたものの、今回の一件で負い目があることから最後には包括的な入国許可証を期限付きで渡してくれた。
許可証の期限は1年間である。
そもそも馬車などによる往復だけでも半年ほどかかる距離にあることから、1年(480日)の期限を与えられたのだが、これにより俺は1年以内ならいつでもシュルツブルドへ入ることが可能となった。
で、俺は、三日後にシュルツブルドの王都ドラジルへフレデリカを連れて赴くとハウザー領事へ伝えた。
「わかりました。
三日後にフレデリカ王女を同伴で伯爵がシュルツブルドへ発たれるということですな。
では、ただいまが晩秋月の半ば過ぎでございますのでドラジル到着は概ね厳冬月ごろになりましょうか?」
「いや、三日後にドラジル到着の予定なのでその旨シュルツブルドへ連絡をお願いする。
後、余分なことながら宿舎、食事等一切のご配慮は無用です。
私とフレデリカは勝手にドラジルに入り、所要の確認調査を行う予定です。
その結果は、シュルツブルド王の側近に伝えることになるでしょう。
必要とあればシュルツブルド王にもお会いするのもやぶさかではございませんが、外交権も持たない他国の伯爵風情がシュルツブルド王にいきなり謁見するのは無礼に当たりましょう。
ハウザー名誉領事でシュルツブルド王側近のどなたかを紹介していただければ、その方に連絡いたしましょう。
我々の結果如何で、フレデリカ王女の今後の居場所が決まります。」
唖然とした表情でハウザー名誉領事が言う。
「まさか・・・。
三日後にドラジルに到着されると言われるか?
いったいどのような方法で?」
「それは秘密です。
ですが、間違いなく三日後の夕刻までにはドラジルに到着の予定です。
いずれにせよ連絡の方をよろしくお願いします。」
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次回予告、『フレデリカの面倒事 その三」です。
なお、『フォーリーブス ~ヴォーカル四人組の軌跡』を新たに投稿することにしました。
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宜しければご一読ください。
By サクラ近衛将監
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理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
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