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第二章 富士野宮(ふじのみや)宏禎(ひろよし)王

2-12 大深度地下利用法と地下鉄

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 明治43年には「大深度地下の利用に関する法律」素案を策定して、貴族院を通じて政府に建議してもらいました。
 このために結構な数の貴族院議員とお話をいたしました。

 貴族院は皇族、華族議員、勅選議員、多額納税議員及び朝鮮及び台湾在住者議員で構成され、解散はありません。 ただし、伝統的に皇族が議会に出席したことはなかったようです。
 私がメインで働きかけていたのは、公爵、侯爵、伯爵などの上級華族の方達です。

 宮家とは言え、数えで14才、学習院中等部二年生になったばかりの紅顔の少年が理路整然とした世相のをしつつ、法案五点セットと言われる「概要」、「要綱」、「法律案・理由」「新旧対照条文」、「参照条文」を滔々と説明するのですから、そりゃぁ驚きますよね。
 でもその甲斐あって、翌年11月には、法案が貴族院の議員提案により、貴族院と衆議院を通過し、官報に掲載されて明治45年4月から施行の運びとなりました。

 法律の中身は、単純に言って地表面から50mを超える大深度地下の利用は土地の所有権及び借地権の及ばない場所となり、公益に資する限り政府(内務省)の許可により自由に利用ができることとしたことです。
 で、何を狙ったのかと言うと、せっかく電気自動車が完成しても全国の道路がほとんど未整備なんです。

 それに電気機関車も新幹線のような高速軌道車を走らせるためにはできるだけ直線路が良いわけで、基本的に全国の地下の大深度に道路と地下鉄線路網を造ろうという計画なんです。
 まぁ、ついでに通信網と電線網も整備できるようにしちゃいますけれどね

 当面第一次十ヵ年計画で、北海道から四国・九州までの高速道路と縦貫地下鉄線を少しずつ順次造って行く予定です。
 トンネル掘削速度はトンネルの大きさにもよりますけれど、一年で40キロぐらいです。
 ですから10年で400キロ程度にしか延伸できないので、三か所で同時に工事を始めても延べで千キロぐらいにしかなりません。

 北海道の稚内から九州鹿児島まで主要都市を結んでゆくとおおよそ2600キロ程度になりますから、三か所同時施工で一本の縦貫線の線路がつながるのは26年ほどかかりますので、第三次か第四次計画ぐらいになりそうですけれどね。
 対外的に公開するのは少なくとも第一次計画が完了してからになるでしょう。

◇◇◇◇

 中等部になってから所謂先進技術を広めるための学校を作ることにしました。
 今度は文部省のお役人と直談判、農商務省をも巻き込んで飛鳥電気製作所、飛鳥セラミックス、飛鳥重工車両製作所、飛鳥重工農機製作所等々のノウハウを次世代の職人に伝えるため、その訓練教育の場として飛鳥訓練大学校を設立することにしたのです。

 場所は中野の飛鳥発電所の隣。
 2キロ四方の払い下げ用地は発電所だけで利用するには広すぎるのです。

 ここに寮を含む校舎を建設、訓練大学校でゴーレム教官たちによる指導が始まったのは明治45年の4月でした。
 このために真っ先に整備を始めたのが東京駅から中野まで伸びる地下鉄です。

 東京駅八重洲側の地下駅から神田橋、神保町、飯田橋、神楽坂、高田馬場を経て中野に至る弧を描くような経路の地下鉄で、東京駅から中野駅までの地下鉄路線距離は11キロ足らずですが、飛鳥重工車両製作所の造った地下鉄車両ならば最短で10分、最長でも20分前後で到着可能でしょう。
 この地下鉄線はいずれ中野駅から西及び南方向へ伸び、世田谷、目黒、品川を経て、お台場や豊洲、築地を経て東京に戻る周回路線にする計画なのです。

 もちろんこの時代のお台場は単なる砲台のある小島という感じの埋め立て地だけですし、豊洲は影も形もありません。
 豊洲は関東大震災の瓦礫を使って埋め立てた場所なのです。

 築地は江戸時代に佃島から端を発して埋め立てがなされて拡大しつつある場所で、外国人居留地もありますよ。
 私の構想では、いずれお台場も含めて東京湾内の埋め立てによって港湾設備等の近代化を図る必要がありますから、その計画もあるのですけれど、今のところは様子見でしょうか。

 国鉄山手線(明治18年開設)が新橋から上野駅までの路線であったものが、1925年(大正14年)に神田-上野間が高架線になったことで環状運航が可能になったはずで、令和時代には一周34キロ強の距離を約一時間で走っていたように思います。
 実は前々世の大学時代に、物は試しと内回り線に乗って一周したことが有るのです。

 この地下鉄路線ならば山手線と被らずに運航できますし、最終的な一周路線の総延長は42キロを超えますが、かかる時間は1時間半程度でしょうか?
 この建設工事では惜しげもなく先進技術(?)の魔法工学(?)を利用して大深度トンネルを作りました。

 何しろ工事関係者はゴーレムと言う身内だけですから、他人に見られることの無い地下でのこと、遠慮会釈なくやってしまいました。
 尤も工事の進展は左程早くないように調整しています。

 まあそう言いながらもこの時代ではものすごく速いのでしょうけれど、モグラのように掘り進む直径15mの巨大なシールドマシンが平均深度70mの地下を毎分8センチで動きます。
 毎時4.8m、一日で115m余り、一月で3.45キロは十分に早いと思うのです。

 東京―中野間11キロですから三か月足らずで開通しますね。
 私の記憶も定かではないのですが、東京メトロの銀座線が最初に開通したのが上野―浅草間の2キロ余りで、大正末期から昭和2年にかけてほぼ三年ほどかかった記憶しています。

 この銀座線は、勿論モグラ工法ではなく地上から地面を掘り返してトンネルを埋めて行く工法ですので余り深いところに地下鉄は作れませんでした。
 未だ未開発であった東京だからこそできたのでしょうし、簡単に言えば路面電車の軌道を地面を掘って設置した感覚なのでしょう。

 一方私の方の地下鉄は、東京駅を始め、途中の停車駅を作る方が工事の秘密保持もあって余程手間がかかりました。
 この時点での駅舎は左程大きくする必要はないのですが、将来の利用者数を考えると大きめの方が望ましいのです。

 従って用地買収が簡単にできて安く上がるところに駅を決め、その後に路線を決定しています。
 後々の利用者増大の対応については必要になったら対応することにしています。

 この地下鉄には大正12年(1923年)に起きることが予想される関東大震災のために徹底した耐震対策を施しています。
 このために開発したと言ってもよい改良プラスクリートⅢは、非常に弾性に富む素材で万が一に断層に出会っても剪断されない強靭さを持っており、その内部に補強されるチューブ材のHH10合金は余程のことがないと破壊されないはずです。

 HH10合金の強度は鉄鋼の百倍強であり、軽量のHH08と比べるとおよそ四倍の重量を有しますので主としてトンネル主管や建造物の梁等が最適の素材です。
 艦船や航空機に使用するには重量が大きすぎるのです。

 この二つの材料が地下鉄を長い一本のチューブとして守ります。
 従って外側の地殻がどのように変化しても地下鉄のトンネル自体は壊れませんので安全になります。

 まぁ、地殻が振動するのですからトンネル自体が揺れるのは防止できませんが、走行中の電車は振動検知で即停車するようにできており、直下の地震ではない限り事前に警報を出しますので、地震発生時は停止している筈です。
 関東大震災が直下型で地下鉄線を直撃だと困るのですけれど、多数説のように神奈川県横須賀或いは湘南方面であればS波の到達による警報発動と自動停止装置が作動できる時間的余裕が生じます。

 私も前々世のささやかな記憶を辿ると東京近辺では震度6程度と見られていたはずですので、地下鉄の強度自体には問題がない筈なのです。
 地下鉄は、当面「お狩場線」と呼称させる予定です。

 中野近辺がに将軍家のお狩場だったからです。
 運航を開始すればおそらく軍人さんの利用も多くなるでしょうね。

 中野駅の北側には陸軍の用地があり種々の部隊が展開しています。
 当然にこれらの人が東京の陸軍省等へ出向くとき、或いは陸軍省の者が中野を訪れるときには至極便利な路線になるはずです。

 甲武鉄道に比べると運行車両が多く、ほぼ15分間隔で運行させる計画なので便利さが格段に違います。
 運行時間は午前5時始発で、東京始発23時45分、中野始発23時30分が最終便になります。
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