フォーリーブス ~ヴォーカル四人組の軌跡

サクラ近衛将監

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第二章 契約と要員確保

2-8 マネージャー見習い その一

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 ベイリー・ヴァレリーは28歳、三流処の工業大学を卒業し、MLSに入社して6年になるが、未だに独身である。
 性格はいいし、仕事もよくできる。

 ちょっと見には美男子に入る部類であるし、レコーディング・アシスタントという職業も聞こえはいいが、要は下働きである。
 年に4万ドレル余りと給料も安い。

 しかも芸能界に入っているから、中々派手な生活が多く、付き合いだけで安サラリーのほとんどが出て行ってしまう。
 とても妻を迎えるほどの余裕は無いのである。

 とどのつまり、彼女ができても長続きはしないということになる。
 そこに降って湧いたような話がきた。

 チーフ・レコーディング・ディレクターから言い渡されたのである。

「お前はレコーディング・アシスタントをクビになった。
 俺としてはお前を手元に置いておきたいのだが、会社の方針じゃどうにもならん。
 エリクソン営業部長のところへ行け、彼から新たな仕事について説明がある。」

 これからどうなるのかと不安を抱きながら、エリクソン営業部長のところへ出頭した。

「おお、君がベイリー君か。
 君には悪いが、当面専属マネージャーの仕事に就いてもらうことになった。
 まだ、仮称ではあるが「フォーリーブス」というグループの専属マネージャーになってもらう予定だ。
君も或いは知っているかもしれないが、「アローフェリス」の二人サラとヘンリー、それに新たにマイケルとメリンダというブレディ兄妹を加えて四人のボーカルグループを結成する。
 尤も、・・・。
 三ヶ月間は見習いだがね。
 報酬も会社からは取り敢えず出ないが、フォーリーブスの方で出してもらえる。
 その間は会社の方は休職扱いになる。
 三ヶ月間の猶予期間をおいて正式に専属マネージャーになるかどうか決める。
 専属マネージャーになれば年俸10万ドレルは保証する。
 もしなれなければ、元の職場に戻ってもらうしかないだろうな。
 しっかりマネージャー業を覚えてもらいたい。
 君の教師役は、キャスリン・ベイルが勤めることになる。
 うちで一番のマネージャーだが、三ヶ月と言う約束で「ガイザー」から引っぺがしてきた。
 それぐらい我々としてはフォーリーブスに期待している。
 ああ、それと後二つ付け加えておく。
 君と同じように全くのど素人が三人、専属マネージャーとしてフォーリーブスにつく予定だ。
 それと、フォーリーブスの希望で、君には明日からでもフォーリーブスが同居している屋敷に同居してもらうことになる。
 この紙に住所と電話番号それに連絡するべき相手の名を記載してある。
 今日中に連絡を取って、引越しの手配をするといい。
 社宅の方は一旦引き払っていい。
 もし戻るようになればまた手配してやる。
 断っておくが、フォーリーブスは君の雇い主だ。
 そうして我が社の金の卵でもある。
 妙な虫がつかないようにするのも君の仕事のうちだから十分に注意しろ。
 何か質問はあるかね?」

「はぁ、・・・。
 あの、キャスリン女史も一緒にこちらに行くんでしょうか。」

「いや、彼女は自宅からの通勤になるだろうな。
 それに彼女が教師役でつくのは二週間後の話だ。
 それまでは、ブレディ兄妹が君の教師役も一部請け負ってくれることになっている。」

「では、とにかく、この住所に顔を出して後は先方さんの指示に従えばいいということでしょうか。」

「取り敢えずはそういうことになるな。
 二週間後にはキャスリンから君のところに連絡が入ることになる。」

「わかりました。
 御期待に沿うようできるだけ頑張って見ます。」

 その日からベイリーの生活は一変することになった。
 ブレディ家に連絡すると、執事のジェイムズが出て、できるだけ早めに引越しをするように催促された。

 一人住まいであり、家具は社宅の備え置きを使っている状態であるから左程の荷物は無い。
 レンタカーで軽トラックを借りて自分で運べば済む程度の荷物である。

 翌日午後三時に荷物共々ブレディ邸に向かうと約束して電話を切った。
 ベイリーはすぐに社宅に戻って引越しの準備をした。

 自分の着る物以外は趣味のオーディオ製品があるぐらいである。
 溜め込んだ食料は保存が利くもの以外は廃棄するか隣室の住人にやることにした。

 引越し用のダンボールを買い込んで、荷物を整理し終わったのは翌日のお昼近く、軽トラックを借りて、荷物を積み、ブレディ邸に着いたのは午後三時少し前であった。

 ◇◇◇◇

 マギー・シャルズは、コーエン建設会社に勤務する24歳の独身である。
 会社の若い社員で何人か付き合った男もいるが、マギーが本気になれるほどの男はいなかった。

 ハイスクール卒業後、この会社に入社したのだが、最近は業績悪化で経営が思わしくないようである。
 マギーは事務職で経理担当ではないから詳細にはわからないが、今年の冬を越せるかどうかわからないという状況らしい。

 社長は今日も金策で走り回っているらしい。
 転職も考えねばならないが、左程の学歴も特殊技能も持っていないマギーでは採用してくれるところも無い状況である。

 秋口には見切りをつけた社員4人が相次いで辞めている。
 そんな折、昼近くに若い男女がマギーを訪ねてきた。

 いい男にいい女であるが、残念ながらマギーよりは若そうだ。
 丁度、お昼休みのチャイムも鳴ったので、誘われるままに近くのレストランに入った。

「マギーさん、転職する気はありませんか。」

 食事をしながら若い男が突然に切り出した。

「あら、随分と直接的ね。
 普通は世間話か何かして切り出すものだけれど、・・・。
 まぁ、いいわ。
 いい話なら乗ってもいいわよ。」

「そうですね。
 いい話には違いないのですが、三ヶ月間の見習い期間があってその間に能力を示せば本採用になります。」

「フーン、お試し期間というわけね。
 それで、仕事は?」

「仕事はMLSに所属するボーカルグループのマネージャーです。」

「ええっ、それは無理じゃないかなぁ。
 そんな仕事やったこともないし、第一どんな仕事か検討もつかないわ。」

「ええ、確かにいきなりじゃ無理でしょうね。
 でも、MLS社一番の凄腕マネージャーが三ヶ月間指導してくれます。
 指導は厳しいかもしれませんが、その人の能力は保証できます。」

「見習い期間が過ぎて能力不足がわかったら?」

「その時は、MLSの専属マネージャーから外されます。」

「何の保証もなし?」

「MLSから保証は無いですね。
 個人的には保証してあげたいと思いますけれど。」

「個人的にって、貴方が保証するの?」

「ええ、その通りです。
 但し、転職に応じてくれたなら・・・ですけれど。」

「貴方幾つ?」

「僕は20歳です。」

「フーン、20歳の坊やが私を雇うって言うの。
 私はこれでも年俸で4万ドレルも貰っているのよ。
 貴方にそんな金が出せるわけが無いじゃない。」

「マギーさん、貴方が転職に応じるなら年俸10万ドレルを保証します。」

 マギーは呆れてしまった。

「あのねぇ。
 そんなこと簡単に言うものじゃないわよ。
 年俸10万ドレルって言えば大会社の課長さんクラスよ。
 何で、私みたいな女に出せるわけがあるの。」

「それでも、見習いから専属マネージャーになれば、MLSは年俸10万ドレルを保証します。
 もし、貴方が見習いのままで終わるようなら、その後は私が年俸10万ドレルで雇いましょう。」

「貴方、その若さで社長さんか何か?」

「いいえ、今のところは何も肩書きはありませんね。」

「じゃ、何でそんな金を出せるの?」

「そうですね。
 この近くにベリントン銀行の支店がありますけれど、ベリントン銀行の口座には僕名義で確か50億ドレルほど入っているはずです。
 だから年俸10万ドレルでしたら十分に出せるはずです。」

「嘘ーっ。」

 自分で大きな声を出して慌てて声を潜めた。

「貴方の若さでそんなに持っているわけが無いじゃない。」

「困ったなぁ。
 仮に、小さな子供が口座に自分名義の資産を持っていてもおかしくは無いと思うんですけれど・・・。
 マギーさん、このカード知っていますか?」

 マイケルと言うその男は、懐から真っ黒なカードを取り出した。
 周囲に金色の縁取りがある。

「初めて見るけれど、もしかして、ブラックカード?」

 マイケルは頷いて懐に仕舞った。
 ブラックカードは1億ドレル以上の預金がある個人に発行されるものだと言う話を週刊誌で見たことがある。

「はぁ、お金持ちって居るものなのねぇ。」

「信用してもらえますか?」

「まぁ、一応は。
 でも、何で私なの?
 もっと経験者とか業界にいるはずでしょう。
 適任者が・・・。」

「そうですね。
 いないわけではないのですが、僕としては是非貴方にお願いしたいのです。」

「だから何で私がいいの?」

「貴方が適任だからです。」

「何でそんなことがわかるの?」

「今のところその理由は申し上げられません。」

「何だか薄気味悪いじゃない。
 突然現れて、随分と虫のいい話を聞かされて、それで来てくださいって言われても困るわ。」

「断られても仕方が無いのですけれど、お宅の会社、今月一杯かもしれません。
 60万ドレルほどの手形が焦げ付いていますけれど、期限が今月末なんです。
 来月はその倍の120万ドレルの手形決済が待っています。
 今、社長さんが金策に走り回っていますけれど、銀行からは既に手を引かれていますから、持たないでしょうね。
 多分、貴方は今の職を失います。
 でもそれからでは、こちらのほうは間に合いません。
 二週間ほど後には、マネージャーの仕事を始めなければなりませんので、その前に指導を始めないといけません。
 その時に候補者がいなければその人はあきらめざるを得ないんです。」

「候補者って何人いるの?」

「貴方を含めて四人です。」

「その中から一人だけ?」

「いいえ、指導者のメガネに叶えば、四人全部です。」

「ちょっと考えさせて。
 一日だけ考えさせて欲しいの。」

「いいですよ。
 では、明日の午後6時までに御返事を下さい。
 これが連絡先です。」

 二人の若い男女は連絡先を書いた紙片を置き、勘定書きを持って先に出た。
 マギーは、この美味しい話に傾いていた。

 だが、自分の目で確かめたかった。
 マギーは会社に帰るなり、経理の若い女の子を捕まえて、更衣室に引っ張り込んだ。

「ねぇ、今月の手形決済60万ドレルって本当なの。」

 サミーという若い経理担当は困っていたが、やがて頷いた。

「来月は120万?」

 サミーはもう一度頷いた。

「でも、内緒ですよ。
 外に漏れたら困るんですから。」

「わかってるわよ。
 誰にも言うものですか。」

 マギーは午後から早退届を出して、タクシーに飛び乗った。
 行く先は、紙片に書かれた住所である。

 辿り着いて驚いた。
 四ブロックを占める閉める敷地にでんと構えているとんでもない豪邸があったからである。

 表札は出ていないが、知り合いに調べてもらえばわかるはずだ。
 マギーは携帯を取り出して、警察官である叔父に調べてもらった。

 帰り道、携帯が鳴って、叔父から連絡が入った。
 豪邸の持ち主は、マイケル・ブレディ20歳とメリンダ・ブレディ19歳の兄妹であり、昨年の長者番付トップに載っている人物であると言う。

 電話を終えた時には、マギーは転職を決意していた。
 
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