高校生になったら腐男子の自分が生きやすい世界になりました

さくら優

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8.募るモヤモヤ

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約1ヶ月半の夏休み期間。
部活に入っていない俺は、ほとんど何の予定もないので、親に夏期講習に行くように言われ、渋々了承した。

まあ、たった10日の短期講座だし、中学までのように自由研究なんかの宿題もないので、このくらいはな。

俺の場合、何もないと部屋で漫画三昧になるのがバレているんだろう。けど、外に出たら出たで、帰りに漫画買って帰れるからいいんだけどね。

10日間の夏期講習も終わり、晴れやかな気分で帰路につく。すると、駅で偶然暎一を見つけた。

誰かと待ち合わせだったのか、俺が声をかけようとしたところで、違う方向を向いて軽く手をあげる。

「あれ、あいつって⋯」

暎一が待ち合わせをしていた相手は、俺も見覚えのある人だった。1組の、芳賀と同じ文化祭実行委員の奴だ。

2人は二言三言言葉を交わした後、どこかへ向かって歩き始める。

俺は、少し離れてその後をついて行った。


   ✦✦✦

「どこ行くんだろ⋯」

暎一とそいつは、まっすぐどこかへ向かって歩いていく。俺は付かず離れずでその後ろを歩く。決して後をつけたいわけじゃない。俺だって帰る方向がこっちなんだ。

少しして目的地についたのか、建物の中に入って行った。

「ここって⋯」

2人が入って行ったのは楽器店だった。俺も前に1度、暎一と一緒に来たことがあった。暎一は軽音部に入っているので、こういった店にはよく来ている。

外から中の様子が見えるので、そのまま立ち尽くしていると、店内の2人の姿が目に入った。ギター関連の商品が置かれた棚で、何か楽しそうに話している。

「あいつ、軽音部なのかな⋯」

実行委員会で会った時はそんなことは言っていなかった。最近入部したのだろうか。

それにしても。

俺は自分でも気づかないうちに眉間に皺を寄せていた。

彼は並んでいる商品をいくつか手にし、見比べては暎一に何か訊ねている。大方、楽器を始めたばかりで、どれを選ぶべきか意見を求めているのだろう。
暎一が担当している楽器はドラムだ。ギターじゃない。意見を聞きたいなら、同じ楽器をやっている他の部員とか先輩とか、もっと適した相手がいくらでもいるんじゃないのか?

ガラス越しとはいえ、結構近くにいる俺に一向に気付かない暎一にも無性にイライラして、俺はその場を離れると早足で帰路についた。


   ✦✦✦

夏休みも終わりが近づいてきたある日、暎一から遊びに行こうと誘われた。

楽器店に行く暎一たちを見かけて以来、連絡を取っていなかったので、ずいぶん久しぶりのような気がする。

「どこ行くの?」
『どこでもいい。深智が行きたいとこで』
「そっちが誘ったくせに丸投げかよ。んー、どこも暑いしなぁ」

あの時のモヤモヤやイライラが完全に消えたわけではなかったが、暎一は別に何も悪いことはしていないので、いったん忘れることにする。

電話しながら何気なくテレビを見ると、プールのCMがやっていた。

「プールは?」
『⋯プールか』
「あれ? あんまり乗り気じゃない?」
『いや、いいよ』
「プールなら、人数多い方が楽しいかな。大和たちも誘う?」
『いや、今回は2人で行こう』
「?」

なぜ? と一瞬思ったが、暎一がそう言うならまあいいか。

約束をした当日、正直、プールに行くのも暑いような気候だったが、到着するとやっぱりテンションが上がった。

「深智、全然焼けてないよな。外出てないのか?」
「んー、あんまり。室内の涼しいところで過ごしましょうって、毎日気象予報士のお姉さんがテレビで言ってるよ」
「まあ、確かに」

外に出なくてもやれることは色々ある。最近は、大和とオンラインゲームをよくやっていた。

「今度暎一も一緒にゲームやろうよ」
「ゲームか。そうだな」

プールで1日遊んで、夕方になって帰路についた。
アイスを加えながらのんびり歩いていると、話題は自然ともうすぐ始まる2学期の話になった。

「暑いのは早く終わってほしいけど、夏休みは終わって欲しくない」
「同感」
「文化祭の準備も始まるしな~。暎一は⋯」

軽音部で何かやらないの?と聞こうとして、この前の光景が脳裏に浮かんで言葉に詰まった。

「ん?」
「あ、いや。――軽音部、何かやらないのかなって思って」
「ああ、まだ人に聞かせられるような段階じゃないんだ。初心者が多いから」
「ふーん」

初心者。この前の奴もそうなのだろうか。
あの時、もしかしてあの彼が暎一が好きな人なのかと一瞬思ったが、すぐにそうではないと思い至った。もしそうなら、俺が知ってる奴かと聞いた時に、すぐにそうだとは言えないだろう。隣のクラスだから知ってる可能性もあったが、だとすれば、知ってるかもとか、顔は見たことあるかもとか、もっと曖昧な感じになるはずだ。

だから気にする必要なんてない。

いや、そもそも、彼が暎一が好きな相手だったとしても、俺が気にする必要なんてないはずなのに。

『取っちゃえば?』
「っ、」

ふいに、芳賀に以前言われた言葉を思い出し息を呑んだ。

なんで、どうして今このタイミングで、芳賀の言葉を思い出すのか。

「深智、どうかした?」
「な、んでもない⋯」

黙り込んだ俺を心配するように、暎一が声をかけてくる。アイスを食べるのに集中しているふりをして、心配ないと首を振る。

今までたくさんBLを読んできたから知っている。ぐるぐる、モヤモヤ、イライラ、客観的に見れば、これは多分――

俺はチラッと隣を歩く暎一を見上げた。
夕陽を浴びるその表情は、優しげに微笑んでいる。

今ならまだ、気付かなかったことに出来るだろうか。
このまま、そっと蓋をしてしまえば、きっと――。
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