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1・男はただ、誰かと話したかっただけなのに。

8.山の神。

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 いやマジに、全部の扉を開けられる最後の鍵を手に入れてから全部の扉を開けられる魔法を覚えるみてえな。そんな往年のRPGみてえな小ボケしてんじゃねーよ。十年かかるってやべえだろ、考えた奴誰だよ殴らせろ畜生。

 翻訳ねえ……、あれ? ってことは……。

「神よ……、感謝致します。これで村は……、いえこの国、世界が救われました」

 今回のMVPである美人狩人が膝まづいて、俺にそう言った。

 一言一句、全てが理解出来る。
 人と、会話が、出来……る。

 いーや、思ったよりくる。涙が出る。

 結構やばかった、孤独を、舐めていた。
 戦って修練することで誤魔化していたものが、今吹き出してきた。

 寂しかった、言葉が通じないことが怖かった。

 今彼女が言った言葉が、染みる。
 神よ、感謝致します。か………………あ?

「……か、かか、神? 俺が……? 何言ってんだあんた」

 俺は一旦感動は置いといて、率直な質問を返す。

 あ、これ通じるかな。双方向だとうれしいんだけど……。

「! 言葉が……っ、はい! 貴方は山の神として、我々の村から祠へと置いた貢ぎ物を受け取って、村を魔物や盗賊から守り、山に現れる悪しきものを滅ぼし山に秩序をもたらし、山の恵みを分け与えて下さる神様でございます!」

 俺の言葉が通じたようで、驚いた顔から嬉々とした笑顔で彼女は答えた。

 祠? 貢ぎ物……あ! あの宅配ボックス小屋って、差し入れじゃなかったのか……、どうにもディテールに凝りすぎた作りだとは思ってた……。

 魔物ってのは化け物のことか……、修練のついでにぶっ飛ばしてるだけで秩序もなにもねえし、山の恵みも別に差し入れのお返しにおすそ分けしてるだけなのに……。

 ええ……、そんな扱いされてんの? 俺が? ……うーわ確かに彼女もめっちゃ純粋な尊敬の眼差しでこちらを見ているよ……。

 いやはやこの勘違いは正しておいた方がいい気がする。

 俺はただの人間だ、化け物に襲われて現在進行形で火傷と裂傷と骨折で死にそうなただの男だ。

 正しておいた方がいい。

「……いや、俺はこの山に篭ってただけの――」

 と、俺が懇切丁寧に自己紹介をしようとしたその時。

『称号、【山の神】を獲得しました』

 そんなポップアップウインドウが視界を塞ぎ。

「や、山の神いいいいいいいいっ⁉」

「そうですよね!」

 驚愕する俺に、満面の笑みで彼女は言う。

 なんか戯けた異世界なんてところに飛ばされて。
 言葉が通じなくてマジに詰んだから、山に籠ってたら。

 知らんうちに、山の神にされていた。

 いーや困ったね。
 こいつは流石に参った。


 つづく。
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