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第4章・立ち上がったのは史上最凶の悪役令嬢。

07いつだってトラブルは良い流れの時に限って突然やってくる。

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 す、数万人……? お嬢様の仲介を起因としてそんな規模のことが起こるって、僕の理解出来うる範疇はんちゅうを超えている。

 異世界の価値観でも、お嬢様は常軌じょうきいっした人物だったのだろう。
 それなら合点はいく、このトラブル処理能力の高さは、人と人を繋ぐ……くっつける日々においては当然のことだったのだから。

「まあそんなことをしていた頃を思い出して今を生きている今の私も、今の価値観でかつての私の行動は悪いことだと認識しているし我ながらちょっと引いてる」

 驚愕して開いた口がふさがらない僕へ付け加えるように続けて。

「でも完全に失意のどん底だった私にとって、常に何かがあった、かつての悪しき記憶は良い起爆剤になった。善悪や正誤は置いといて事態を好転させたのだから悪くないでしょう」

 お嬢様は少し悲しい笑顔で言い。

「はい、おっしゃる通りでございます。ジュリエッタ様」

 僕は即答する。

 その通りだ。

 そもそも僕は善悪だとか正誤だとか、そんなくだらねえしょうもねえもんがお嬢様に関係がないと思っている。

 元気に能動的に、笑顔を浮かべて活動している。
 それが全てだ。

 例えお嬢様の前世が世界を混乱におとしいれた極悪人だったとして、これからお嬢様がこの世界でも悪だと世が糾弾きゅうだんしたとしても。

 僕だけはお嬢様の味方だ。

 僕はお嬢様の執事なのだ。
 お嬢様が悪役令嬢と呼ばれようが、僕は執事なんだよ。
 仕えて応えて使われる、それが僕だ。

 ただ村で一番若い黒帯だっただけの学もない孤児を優秀だと引き入れくれたディアマンテ伯爵家に対する恩がある。

 僕を執事として信頼して評価してくださっているお嬢様を、尊敬している。
 お嬢様が立ち上がると言うのなら、支えるのが僕であり、僕の人生なんだ。

 そこからお嬢様から詳細な逃走や金策のプランを聞いた。

 新聞の記事から国軍や捜査機関の動きを推測し、その隙間をうように行動を起こしていくらしい。

 金策はやはり、お嬢様が持つ異世界の知識を必要としている者に金銭や安全を対価に与えるというものだ。

 金はあるが知識のない者や野心はあるが武器のない者に、知識という武器を持つが追われる身の異世界転生者という、お嬢様自身を繋げる。
 故に人の多い王都からは出ずに、潜伏を続けて繋がる人間の選定を行う方針で行くらしい。

 その間に予想外のトラブルが起こると予想されるので、僕はそういったトラブルを対処していかなくてはならない。

 まあ僕の頭で考えたところで危機察知なんてことは出来ない、せいぜい現れたお嬢様への脅威をしばらく立てなくなる程度に転がしてやることくらいだろう。

 とりあえず僕はこの日から、回復するのに十分な睡眠を得た。脇腹の痛みも引き、お嬢様の喫煙とセクシャルなジョークに慣れてきた頃。
 いや、強がった。セクシャルなジョークには慣れていない、全然ドキドキしてしまう。ごめんなさい。

 次の隠れ家に見当をつけ、金策についての目処もおおよそつけた。

 お嬢様は新聞や、町のゴロツキや娼婦からの世情の聞き込みをしたり。何に使うかわからないけど買ってきたもので夜な夜な何かを作っていたりした。

 想定よりも大分早い、準備が出来次第動き出すことになるだろう。荷物も二人でトランクケース一つにまとめているので身軽なものだ。

 順調、珍しく悪くない流れだ。

 でも。

 いつだってトラブルは良い流れの時に限って突然やってくる。

 事態を悪化させるのがトラブルなのだ、最悪の時には起こりえない。上がるから下がる、山あり谷あり。

 つまり。

 
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