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第一部4・どんな強者も墓に入れば花が似合う。【全4節】

01最期の言葉を何度も。

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 私、キャミィ・マーリィはとある教会に属する修道女である。

 セブン公国は公都から西に暫くいった郊外の街……、いやかつて街だった場所。

 ここよりさらに西で起こった大型魔物の氾濫により、大討伐が行われた。

 公国軍や騎士団から、国中の冒険者を集めて行われた大討伐。

 レイド攻略必須の災害級大型魔物が大量に押し寄せ、攻略のために地形を変えて、一体ごとに攻略作戦を立てて戦い続けた。

 端的に言って、地獄だった。

 一体ごとに分断するだけでも凄まじい労力で、戦闘に入っても過去のデータを照らし合わせて有効な戦略を立てて、全力で討伐を行う。

 これを何度も繰り返し、何ヶ月もかけて少しづつ前線を下げながら数を減らしていく。

 補給を受けながら、何個も村や町をも飲み込みながら、魔物の波を削っていく。

 そんなものが、無事に行えるわけがない。

 討伐に参加した軍人や騎士、冒険者たちから毎回必ず犠牲者が出た。

 予想外は必ず起こる、想定内であることがそもそも想定されていない。

 それでも、この地獄をこの国が西と定義できているうちに食い止めなければこの波は公都を飲み込んでこの国を滅ぼす。

 やるしかなかった。

 でも、十二回目の討伐作戦。

 ここまでも、被害や犠牲者は出ていたがこの十二回目には大きな被害が出た。

 この討伐で参加していた者の三分の一は死んだ。

 私の仲間と同郷のパーティも死んだ。

 そう、私も参加していたのだ。
 元々東の果ての町で冒険者をしていた私たちも、招集を受けた。

 田舎の町だったが、山脈から湧く魔物はかなり脅威でなかなかに鍛えられる場所だった。

 町も好きだった。

 離れるのは惜しかったけど、実力を認めれて招集されたのもまた光栄なことだった。

 あの町を出なければと、後悔しない日はない。

 十二回目の魔物は、ちょっとした丘くらいに大きなカエルのような魔物だった。

 歩行速度は遅く、毒や酸に対策をして跳ばないように土魔法などで地面に釘付けにすれば問題はないとされていた。

 実際想定通りに討伐は進んだが、突然カエルは卵を飛ばした。

 生まれたのはオタマジャクシではなく、小型の同じくカエルの魔物。

 小型と言っても人間と同じか少し大きいくらいのサイズ、それを大量に発生させた。子供というより分身体と言うべきだったろう。

 混乱に陥らず、冷静に対処していったが。

 この小型カエルは、危機に陥ると、自ら爆発をして辺りの者を巻き込んでいった。

 地獄絵図だった。

 私はとにかく、魔力と精神が続く限り回復魔法をかけて回った。

 でも、間に合わないし追いつかないほどに苛烈で狡猾に、魔物は私たちを弾け飛ばした。

 やがて魔物たちは回復役を狙い始めた。

 仲間たちはそれを察して私を守る動きを始めた。

 私のスキルは『復元』という回復特化なスキルだ。

 回復魔法に限っては魔力消費量が低くなり、効力も上がる。

 私は毒自体の浄化や、毒による反応までも治すことが出来て部位欠損も部位が残っていれば繋げることが出来る程度には回復が出来る。

 しかし、単純な戦闘における技量には乏しい。

 簡単な魔物くらいなら相手に出来るくらいな多少の心得はあるが、この状況を打破出来るほどの技量はない。

 それを知るパーティの仲間や、同じ東の町から来たパーティは私を庇うように戦った。

「おまえの回復は戦いの要だ! 生き残れ‼」

 とか。

「キャミィが残ればなんとかなる! 運良く俺が残ってたら治してくれよ!」

 とか。

「明日を生きるならおまえだよ。まだ若いし、女だ。早死には男の美学だ。任せとけよ」

 とか。

「大丈夫! まだ戦える! 安心しろ、おまえの番は回ってこないよ!」

 とか。

「おまえのことがずっと好きだった」

 とか。

 そんな、遺言を、最期の言葉を何度も残して戦い続けた。

 
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