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第一部8・馬鹿なガキに微笑むのは勿体ない。【全16節】

06俺は馬鹿なガキが嫌いなんだから。

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「あ? 魔物を相手に個人が出来ることなんか限られてんだろ。戦いは連携なんだよ、個人がどれだけ鍛えても高い練度の連携の前には無力だ。覚えとけ馬鹿」

 だとか。

「使えるもんは何でも使うんだ馬鹿、人間相手なら言葉も使え、嘘をつけ、脅してもいい、笑ってもいい。全部使え、おまえみたいな雑魚はそのくらいでちょうどいいんだよ」

 だとか。

「ステータスの数値なんか目安でしかねえ、どんだけ細分化したところで、こんなんで人間が測れるわきゃねえだろ。人間はそんなに浅くねえんだ馬鹿」

 だとか。

「スキルは使いまくったり条件を達成すると上位スキルに覚醒する仕様だが『勇者』への覚醒以外はそんなに気にしなくていい。『勇者』が出てくる前は大規模な魔物の氾濫が起こるんだ。まあ、おまえみてえな雑魚には関係ねえ話だ」

 だとか。

「対人なら詠唱出来ないように顎を砕いて、武器を触れないように利き腕へし折って、逃げれねえように脚をひしゃげさせんだよ。あ? おまえなら後で治してやれんだろ馬鹿、気にせずにぶちのめせ」

 だとか。

「魔力との親和率を高めるってのは本来時間がかかる、だから昔は偽無詠唱って方法で無詠唱が使えない期間を補っていたらしい。これは賢い、お前みたいな馬鹿じゃ絶対思いつかねえ」

 だとか。

「仲間から死人を出すのは三流以下だ。逃げて二流、仲間の為に死ねて一流、誰も死なせねえのが超一流ってわけだ。あ? 俺は仲間なんかいねーよ。性格悪いからな」

 だとか。

「良い女は口説いておいて損はねえ、口説くんなら仕事をしっかりこなしておけ。生物の基礎として女はこいつの子を産むに値するかって価値観が言語化できない位置に漠然とあるんだよ。ガキ共の中だと足が速いやつとか、勉強出来るやつとかがモテんのはそういうことだ。大人は金持ちか仕事が出来る奴がモテる。この俺のようにな」

 だとか。

「勇気なんてものは言葉だ。別にそれ自体が力になることはねえ、だが人によってはそれがなきゃ動けねえ奴もいる。その方法は様々だ、色んな勇気がある。俺には無いがな」

 だとか。

「久しぶりに会った女が綺麗になってたら気をつけろ、間違いなく他に男が出来てる。そういう時はこっちも新しい女がいる風にしてろ。ダメージが少なくて済む」

 だとか。

 そんな感じで順調に授業は進んで、半年が経過した頃。

 一つ問題が発生した。



 俺は授業の開始時に、机でノートを開くガキに端的に伝える。

 このガキの『加速』に合わせて俺も教える速さを上げた結果、想定していた学習進行度を遥かに超えてカリキュラムを終えてしまったのだ。

 いやはや、優秀過ぎるが故の失敗だな。
 もちろん優秀なのは俺であって、ガキの方じゃあない。
 このガキはただ多少真面目なだけの馬鹿だ。

「仕方ねえから、質問を受け付けてやる。何か教えて欲しいことはあるか?」

 俺はガキの自主性を試すという大義名分を得て、楽をするべく質問を促す。

「…………あの、クロス先生は何者なんでしょうか?」

 恐る恐る、ガキは手を挙げて俺に問う。

「いくら僕でも先生が常軌を逸していることはわかります。無詠唱だけじゃなくスキルやステータスへの理解度、僕も調べてみましたがそんなことに触れている書物はひとつもありませんでした」

 ガキは続けて語り出す。

「魔法……というか魔力の扱いにも長けていて当たり前のように無詠唱で空間魔法や消滅魔法を使いこなす。そんなクロス先生が騎士団どころか軍にも入らず、冒険者にもならない……。魔物を倒したりすることに興味はないのでしょうか」

 ガキは調子に乗ってさらに質問を重ねる。

 まあ、そうか。
 もっともな疑問ではある。

 あー…………、まあいいか。

「俺は異世界転生者だ。この世界の黎明期からこの世界のデザインに多少携わっていたから魔力や魔法、スキルやステータスウインドウだとかのサポートシステムやら、エネミーシステム……魔物についてはおまえらとは情報量の桁が違うんだ」

 俺は嘘偽りなく、ガキに対して答えた。

 何故わざわざ本当のことを言ったのか、正直俺にもわかっていない。

 昨日の酒がちょっと残っていたとか。
 嘘つくのが面倒だったとか。
 話を広げてここからの授業内容をかさ増ししたかったとか。

 まあ色々と、こじつけようとすりゃあなんだって出来るんだけど。

 ただ一つだけ言えるのなら、このガキに情が湧いて少しでも俺のことを知ってもらいたいからとか、そんな理由だけは有り得ないということだ。

 俺は馬鹿なガキが嫌いなんだから。
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