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第一部10・筋肉は嘘をつかないが勘違いはさせてしまう。【全14節】

07この魔物は運が絶望的に悪すぎる。

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 ええ? なに魔法使いの匂いって。
 …………えっ? 私臭い? 魔力って臭うの? え、魔法使いって臭いの? 嘘でしょ……っ。

「いやいやいや! 匂いってそういうことじゃなくて、立ち振る舞いというか……、その手のひらを無意識にあまり人に向けないようにするところとかが魔法を日常的に長く使っている感じが出てたから、俺の兄貴分もその癖があったから! 匂いは全然! 良い匂いですから! 花みたいな匂いがするから!」

 涙目で体臭を確認する私に、慌てた様子で彼は説明する。

 あ、ああ良かった……、割と本格的に泣き出すところだった。そもそも私は今確かに北に咲く花の香水を付けている……そちらもお気に召して頂いたようで何よりだ。

 一旦、それは良かった。とりあえず一個解決した。

 でも……。

「あの……、引かなかった? いきなり……無詠唱の魔法で人を沈めて、転移して……」

 私は恐る恐る、解決していない不安を聞いてしまう。

「え? あー、どうだろう。あれはいわゆるナンパだろう……? 俺が世話になった兄貴分を含む野郎共はもれなく『いい女は即、口説け』って言ってたから、野郎の冒険者だったらポピーさんをほっとかないだろうし。俺が世話になった姉貴分を含む女性陣は『ナンパ野郎は畳む』って言ってたし実際他の町から来たナンパ冒険者を畳んでたから、田舎では畳むけど公都では沈めるってくらいの差じゃないのかい?」

 全く何も気にしていなさそうに彼は淡々と語る。

「それに俺の兄貴分も詠唱しないで魔法を使っていたし、手練の魔法使いだと思っていたからそれほど驚かなかった。転移魔法には少し驚いたけど。だから今のところ引いたりは……、いや確かに冒険者上がりじゃないとナンパ野郎を沈めるのは引くか。でもこの公都には長い棒を持てばとりあえず窓を割る悪童もいれば、物事の解決に暴力を用いることしかできない人間地雷原みたいな不条理で理不尽なのもいるし……、それに比べたらナンパ野郎を沈めるってのは道理でしかない」

 やや遠い目をしながら彼は説明を終えた。

 気になるところはいくつかある。
 兄貴分というのが無詠唱が出来る魔法使いだったり、なんとなく例に出した人間の理不尽さに共感出来てしまったり。

 でも。
 なによりそんなことより。

 しれっと私を、ポピーさんって……。

 そしてなんか、ポピーさんをほっとかないって。

 待って、マジ無理。
 いやこんなこと、正直言われ慣れていると思っていた。
 というかさんざっぱら言われてきた、私は口説かれまくりのモテモテだった。
 歯の浮くようなキザな台詞や、情熱的なアピールをさんざっぱら適当に躱してきた。

 それが、こんなさりげない一言で……っ。

 落ち着け、落ち着くんだ私。

 一旦、最悪は解決したんだ。

 修正、矯正、調整。

「……そうでしたか、それは良かったです。それじゃあ公都に戻って何処か――」

 私はデートプランを戻すために笑顔で声をかけようとしたその瞬間。

 

 突然のことに、ふと頭上を見上げ目に映ったのは。 

 巨大な魔物だった。

 足が三本ある黒い大きな鳥のような、魔物。

 これは西の大討伐に混ざっていてもおかしくないレベルの、魔物だ。

 公都の近くにこんな魔物が現れるなんて。

 これは軍や冒険者がまあまあの討伐隊を組む規模、これがこのまま公都に入ったら大変なことになる。

 でも、この魔物は運が絶望的に悪すぎる。

 ここで、この私に会っちゃったのならば実質何も起きていないに等しいのだから。

 私は上空の魔物に向かって消滅魔法を放つ。

 西の大討伐を終わらせたのは、私とメリッサが重ねて放った戦略級極大消滅魔法だ。

 消し去って、私はデートに戻――――え?

 放ったはずの私の魔法は、発動前に掻き消される。

 理解できない、いやこの現象自体は魔力導線とか魔法障壁とか魔法介入とか、対魔法使い用の魔法というのは存在する。私もそれなりに使える。

 でもそれは人が作り出した技術だ。

 魔物が……、知性のない魔物がこんなものを使うのか?

「――危ないっ!」

 巡る思考で動けなくなっていた私を、力強く彼が引き寄せる。
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