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第一部12・夢を見るなら動機は不純なほどに良い。【全10節】

07完全に純粋な狂人。

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 ああ、やっぱり駄目だこいつ。
 誰でもいいからさっさとこいつを殺すべきだ。

 一個人が国家転覆を目論むなんて、まともな倫理観を持ち合わせちゃあいない。

 こいつは存在していちゃいけない、行動に一つも善悪の意識がない。自身の中にある正義に従っているわけでもなく、悪意を持っているわけじゃない。

 完全に純粋な狂人。
 革命家でもない、世の中に混乱をもたらすだけの迷惑野郎だ。

 何があったら人はここまで壊れられるんだ?
 強大な力を手にしたことによって全能感に酔っているのか?
 だとしたら確かにスキルなんてものはこの世から消すべきだ。

 そしてさっさとこいつを殺すべきだ。

「なるほど……まあ確かに国防を戦闘系スキルを持つ者に頼る公国がスキルを失えば遅かれ早かれ落ちる。だが、それ故に面倒だぞ」

 怪訝な顔で陛下はクロウ・クロスのとんでも発言に返す。

「我々の知りうる限りの情報でも公国には少なくとも『無効化』持ちが二枚は存在している。対して魔法国家ダウンには『無効化』持ちはいない。対人戦において『無効化』の枚数はかなり勝敗に影響がある、魔法族はスキルに頼らず魔法の技量によって戦う為に『無効化』の影響を受けづらいが、それでも戦力は落ちることになる。これでも私はこの国の王だった者だ。君が前線に出るならまだしも君を守る戦いは分が悪い、分が悪い戦いに国民を向かわせることは出来ん」

 続けて、陛下は堂々とクロウ・クロスへと語る。

 陛下はちゃんとビリーバーという根幹と、王という立場の両方の視点から語っている。

 確かに我々が何故この魔法国家ダウンを繁栄してきたのかと言えば、魔法主義による徹底した『無効化』対策にある。

 スキルに頼った行動は『無効化』一枚で破綻する。

 対人戦最強スキルとして各国が切り札扱いする中で、それが効かない我々の国を落とすのは容易ではないのだ。

 だが、それはあくまでも本土決戦を想定した防衛に限ったことだ。

 こちらから『無効化』を持つ国家を攻め落とすのは、難しいどころの話じゃあない。

「帝国を巻き込むよ。ライト帝国は公国に侵攻をかけているし、それなりに知人もいる。大陸一の大国なら『無効化』持ちの一人や二人いるだろう」

 悪びれる様子もなく、クロウ・クロスはさらっと返す。

 てっ、帝国を巻き込み出したぞこの男……っ。

 外患誘致が留まることを知らない……、いやもうこいつがダウンの人間じゃなくて良かったまである。本当に心からこいつが外国人で良かった。

「帝国は統治も上手い、民を人道的に扱うし無茶な統治や隷属したりもしない。内政も安定している。どこかに落とされるなら帝国が良いのさ」

 売国奴は続けて語る。

 いや怖いわこいつ、正直軍務に殉じる俺はこんなに左に寄った思想の持ち主に会ったことがないので気持ち悪くて仕方がない。

 ……いや違う。

 確かに気持ちも悪いし気分も悪いが、そこじゃあない。
 正直公国とは外交関係にあるわけでもないし、完全に他所の話だ。俺がどうこう思ったとしても結局それほど関係もない。

 だがなんだこの違和感は……、こいつはイカれているし壊れている凶悪犯ではあるが……、この嫌悪感というか気持ちの悪さはなんだ?

「単一民族国家であるダウンが公国を抱えることにはリスクがあるし、面倒なことは帝国に任せてしまってエネミーシステムとサポートシステムを停止することにより魔法族全体が魔力の親和率が上がることになる」

 凶悪犯は続けて我々にとってのメリットを語る。

 確かに……。

 公国落とし=魔物とスキルとステータスウインドウが無くなる=魔力の親和率が上がる。

 と、いうことであれば魔法族にとってはかなり良い話ではある。

 信憑性に関しても、上王陛下のお墨付き。

 だが……。

「帝国は領地を拡大出来る、魔法族は親和率が上がる、公国の民はスキルを失った後の混乱する内政を帝国に丸投げすることが出来る、世界は魔物という脅威が無くなる。結構ウィンウィンな感じじゃないかい?」

 眉を上げてクロウ・クロスは全体の利益を語る。

 ……

 こいつの何が気持ち悪いのかが、わかった。

 魔法族にとっての利、帝国の利、公国のその後にとっての利。

 色々と宣っているが、こいつ自身の利というか動機……いや、欲が見えてこないんだ。
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