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第一部17・筋肉で解決できないことは大体そもそも解決不可能な問題。【全6節】
06完全に単なる背景になって行く。
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死体を入れていた方がずっと正常だ、いや、それも異常だけどこんな……生きている人間をこんな、理解が追いつかない。何のために、何があればこんなことを出来るんだ。
狂気。
身近で一番頭がおかしいブライさんですら、どんなに怒り狂って人を畳んでも人の形じゃなくなるようなことはしなかったし、殺すにしてもなるべく一瞬で即死を狙っていた。
意味がわからない。
しかも今、こんな戦闘状況下に何であんな状態の人を連れ出す……?
「…………気味が悪い、そして気持ちが悪いな。角なしのスキル至上主義というのは……、たかが『無効化』なんてものを恐れからあんな非道な管理しか出来ない。やはりスキルなんてものはいっそ無くしてしまった方が良いのかもしれないな」
俺を組み伏せて拘束しながら不死鳥のグリオンが、うんざりしたような口調で語る。
む、『無効化』の管理……? あれが? あんなことが必要なのか? だって帝国の『無効化』持ちは三人とも普通に、いや三人目は異質ではあったけど、普通にしていたじゃないか。
俺にはわからない、俺が馬鹿だからなのか? 何か馬鹿な俺にはわからない、のっぴきならない事情が――――。
「っ…………うぅぅううううをおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおアアアアアアアアアアあぁぁあああ――――――――――ぁああッ‼」
俺の混乱をかき消す、痛いほどの叫び声。
声の主は、勇者パーティ世界最高の回復役クライス・カイルさんだった。
目からは炎が溢れ出し、髪が逆立ち、周囲の空気が歪んで見えるほど怒りを滲ませて。
組み伏せられた体勢から、無理やり肩を外して抜け出し。
武具召喚で棍を手に持ち、そのまま肩をはめながら組み伏せていた魔族の足を棍で掬って転がし。
取り抑えようとする帝国軍をするりするりと躱して、真っ直ぐ『箱』に向かって駆け抜け。
蹴り飛ばした『箱』に近づこうとしていた騎士団の副隊長を、棍で力強く殴り飛ばして。
そのまま首に棍を引っ掛けて地面に思い切り叩きつけて一瞬で畳んだ。
突然の行動に、俺もダイルさんもポピーさんも呆気に取られる。
そのままクライスさんは棍を放り投げて『箱』の中の人に触れ。
「脈動回復! 欠損復活! 部位復元! 完全回復! 完全治癒……ッ! あああああっ‼ 完全回復、完全治癒……っ!」
慣れない詠唱有りの回復魔法で『箱』の中の人の治療を行おうとするが。
俺のような医学や魔法がからっきしの素人にもわかるほど、効果がなかった。
「…………っ、私の『無効化』を解いてくれえええっ‼ 私なら助けられる! 私に『聖域』を戻せえ! 私なら救えるんだ! こんな、こんなものがまかり通っていいはずがないんだ‼ 私なら、私なら助けられる! 頼む……っ、後生だ‼ こんなことを、こんなものを私に見捨てさせないでくれ……頼む……っ」
クライスさんは土下座をして、帝国軍に懇願する。
涙を流し、額を地面に擦り付けて、悲痛な声で懇願する。
突然のことに場の空気が変わる。
驚いた、いつも冷静で高飛車なようだけど温厚で穏やかなクライスさんがあんなに声を荒らげて、感情を爆発させるなんて。
馬鹿で単なる木こりの小僧に、この場をこれ以上語るのは無理だ。
多分この状況を理解出来るのは当事者……、そう『無効化』のスキルを持つ人たちだ。
俺は混乱しながら、自分が完全に単なる背景になって行くのを感じた。
狂気。
身近で一番頭がおかしいブライさんですら、どんなに怒り狂って人を畳んでも人の形じゃなくなるようなことはしなかったし、殺すにしてもなるべく一瞬で即死を狙っていた。
意味がわからない。
しかも今、こんな戦闘状況下に何であんな状態の人を連れ出す……?
「…………気味が悪い、そして気持ちが悪いな。角なしのスキル至上主義というのは……、たかが『無効化』なんてものを恐れからあんな非道な管理しか出来ない。やはりスキルなんてものはいっそ無くしてしまった方が良いのかもしれないな」
俺を組み伏せて拘束しながら不死鳥のグリオンが、うんざりしたような口調で語る。
む、『無効化』の管理……? あれが? あんなことが必要なのか? だって帝国の『無効化』持ちは三人とも普通に、いや三人目は異質ではあったけど、普通にしていたじゃないか。
俺にはわからない、俺が馬鹿だからなのか? 何か馬鹿な俺にはわからない、のっぴきならない事情が――――。
「っ…………うぅぅううううをおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおアアアアアアアアアアあぁぁあああ――――――――――ぁああッ‼」
俺の混乱をかき消す、痛いほどの叫び声。
声の主は、勇者パーティ世界最高の回復役クライス・カイルさんだった。
目からは炎が溢れ出し、髪が逆立ち、周囲の空気が歪んで見えるほど怒りを滲ませて。
組み伏せられた体勢から、無理やり肩を外して抜け出し。
武具召喚で棍を手に持ち、そのまま肩をはめながら組み伏せていた魔族の足を棍で掬って転がし。
取り抑えようとする帝国軍をするりするりと躱して、真っ直ぐ『箱』に向かって駆け抜け。
蹴り飛ばした『箱』に近づこうとしていた騎士団の副隊長を、棍で力強く殴り飛ばして。
そのまま首に棍を引っ掛けて地面に思い切り叩きつけて一瞬で畳んだ。
突然の行動に、俺もダイルさんもポピーさんも呆気に取られる。
そのままクライスさんは棍を放り投げて『箱』の中の人に触れ。
「脈動回復! 欠損復活! 部位復元! 完全回復! 完全治癒……ッ! あああああっ‼ 完全回復、完全治癒……っ!」
慣れない詠唱有りの回復魔法で『箱』の中の人の治療を行おうとするが。
俺のような医学や魔法がからっきしの素人にもわかるほど、効果がなかった。
「…………っ、私の『無効化』を解いてくれえええっ‼ 私なら助けられる! 私に『聖域』を戻せえ! 私なら救えるんだ! こんな、こんなものがまかり通っていいはずがないんだ‼ 私なら、私なら助けられる! 頼む……っ、後生だ‼ こんなことを、こんなものを私に見捨てさせないでくれ……頼む……っ」
クライスさんは土下座をして、帝国軍に懇願する。
涙を流し、額を地面に擦り付けて、悲痛な声で懇願する。
突然のことに場の空気が変わる。
驚いた、いつも冷静で高飛車なようだけど温厚で穏やかなクライスさんがあんなに声を荒らげて、感情を爆発させるなんて。
馬鹿で単なる木こりの小僧に、この場をこれ以上語るのは無理だ。
多分この状況を理解出来るのは当事者……、そう『無効化』のスキルを持つ人たちだ。
俺は混乱しながら、自分が完全に単なる背景になって行くのを感じた。
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