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第一部19・職人の就寝が遅いとその分世界は加速する。【全7節】
02特別。
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私はダメなものから生まれたダメな生き物だと思っていた。
曲がりなりにも親だったものを殺し、貴族も殺して、人生を捨てて名前も捨てて。
ふらふらと流れ着いたダメな私は、優秀で完璧に見えるクロウ君に憧れた。
だから嬉しかった。
クロウ君がしれっと口説きにきたのが嬉しかった。
選ばれたことが嬉しかった。
でも彼がただの完璧超人じゃなくて、ちゃん未熟なところがあったり弱いところのある人間だということも知った。
例えば無条件に女子供に甘過ぎることだったり。
真面目過ぎて頼まれごとを断らなかったり。
現実逃避で進み過ぎて、それを現実にしてしまったり。
彼もまた、家族不和から殺人を犯し。
名前を変えて生きる者だった。
弱みが弱さに見えないほどの過剰さで、生きている。いや生き急ぎ続けている。
私はそれに気づいた時に、それが可愛く思えてしまって愛しくも思えた。
共感と投影、罪の意識と秘密の共有によって生まれる共犯関係。
完璧な姿に恋したはずだったのに、むしろ私の中の熱は高まっていた。
恋が愛に変わっているのにも、この時に気づいた。
どうしようもなく、加速度的に、強烈な魔法に掛けられたように。
私は彼に溶けていった。
でも私と彼は違った。
彼はどんどんと人の域を超えていく。
相変わらず仲間たちの中で一番足を引っ張ったのは私。
そんな私が彼の特別になれるわけがなかった。
キャミィやアカカゲがベテラン勢と共に実力を発揮するようになり。
悪童メリッサが冒険者登録をして、ブラキスが北から辿りついてパーティを二つに分けた。
バリィ、リコー、ブラキスは魔物討伐メインに。
ブライ、メリッサ、私は対人戦メインに活動することになった。
魔物を相手にするより悪人を相手にする方が楽……いや、気持ちを楽にした。
親や貴族を殺したという事実が、悪人を殺したという正義によって上書きされる気がした。
悪行が善行に埋もれていく気がした。
ブライも対人戦を好んでいて、この方針に私は噛み合った。
メリッサは最初辛そうだったけど。
トーンの町が生んだ悪童、メリッサ・ブロッサム。
盗み食い、窃盗、暴行、器物破損……、とくに窓ガラスを割るのがお気に入りだった。
殺人放火強姦みたいな凶悪犯罪以外の悪事、軽犯罪は大抵網羅している、悪童。
悪さをしてはスキルの『盗賊』を用いて逃げる。
捕獲の為に町民からギルドに依頼が来るほどだ。新人の頃はかなりメリッサの相手をさせられた。
強姦されかけて殺人して放火をした以外は比較的に真っ当に生きてきた私とは、真逆。
早くに両親を亡くして、ガラス職人の叔父に育てられ……いや、育児放棄されて生きてきた。
この叔父についての人間性は語れるほど詳しくもないし、面識もそれほどないけれど私やブライやクロウ君とはまた別の壊れ方をした人間だった。
メリッサはただ愛されたくて、構われたくて、悪さをしていた。
でも残念ながら、どれだけ悪事を働いても、逃げ損なってミラルドンにゲンコツを貰おうと、叔父が作った窓ガラスを何枚叩き割ろうと。
結局、メリッサは叔父に構ってもらうことはなかった。
その代わりに、彼女をひたすら真摯に、甘いほどに優しく接してくれたのがクロウ君だった。
メリッサは優しいクロウ君に恋をした。
クロウ君に捕まえてもらうためだけに悪さをした。
だからメリッサは冒険者になった。
クロウ君に褒められたいから、頑張って人を殺すことにした。
私はそれを知りながら、彼に抱かれていた。
私が特別なんだと実感する為に。
メリッサの恋心を知りながら、黙っていた。
まあその頃くらいから、時間的なすれ違いで終わったと思っていたけど。
終わってなかった。
むしろ、私が本当の特別になるのはこれからだ。
これは始まりなんだ。
「…………来た」
私は『転移阻害転移結晶』の発動を確認して、呟く。
曲がりなりにも親だったものを殺し、貴族も殺して、人生を捨てて名前も捨てて。
ふらふらと流れ着いたダメな私は、優秀で完璧に見えるクロウ君に憧れた。
だから嬉しかった。
クロウ君がしれっと口説きにきたのが嬉しかった。
選ばれたことが嬉しかった。
でも彼がただの完璧超人じゃなくて、ちゃん未熟なところがあったり弱いところのある人間だということも知った。
例えば無条件に女子供に甘過ぎることだったり。
真面目過ぎて頼まれごとを断らなかったり。
現実逃避で進み過ぎて、それを現実にしてしまったり。
彼もまた、家族不和から殺人を犯し。
名前を変えて生きる者だった。
弱みが弱さに見えないほどの過剰さで、生きている。いや生き急ぎ続けている。
私はそれに気づいた時に、それが可愛く思えてしまって愛しくも思えた。
共感と投影、罪の意識と秘密の共有によって生まれる共犯関係。
完璧な姿に恋したはずだったのに、むしろ私の中の熱は高まっていた。
恋が愛に変わっているのにも、この時に気づいた。
どうしようもなく、加速度的に、強烈な魔法に掛けられたように。
私は彼に溶けていった。
でも私と彼は違った。
彼はどんどんと人の域を超えていく。
相変わらず仲間たちの中で一番足を引っ張ったのは私。
そんな私が彼の特別になれるわけがなかった。
キャミィやアカカゲがベテラン勢と共に実力を発揮するようになり。
悪童メリッサが冒険者登録をして、ブラキスが北から辿りついてパーティを二つに分けた。
バリィ、リコー、ブラキスは魔物討伐メインに。
ブライ、メリッサ、私は対人戦メインに活動することになった。
魔物を相手にするより悪人を相手にする方が楽……いや、気持ちを楽にした。
親や貴族を殺したという事実が、悪人を殺したという正義によって上書きされる気がした。
悪行が善行に埋もれていく気がした。
ブライも対人戦を好んでいて、この方針に私は噛み合った。
メリッサは最初辛そうだったけど。
トーンの町が生んだ悪童、メリッサ・ブロッサム。
盗み食い、窃盗、暴行、器物破損……、とくに窓ガラスを割るのがお気に入りだった。
殺人放火強姦みたいな凶悪犯罪以外の悪事、軽犯罪は大抵網羅している、悪童。
悪さをしてはスキルの『盗賊』を用いて逃げる。
捕獲の為に町民からギルドに依頼が来るほどだ。新人の頃はかなりメリッサの相手をさせられた。
強姦されかけて殺人して放火をした以外は比較的に真っ当に生きてきた私とは、真逆。
早くに両親を亡くして、ガラス職人の叔父に育てられ……いや、育児放棄されて生きてきた。
この叔父についての人間性は語れるほど詳しくもないし、面識もそれほどないけれど私やブライやクロウ君とはまた別の壊れ方をした人間だった。
メリッサはただ愛されたくて、構われたくて、悪さをしていた。
でも残念ながら、どれだけ悪事を働いても、逃げ損なってミラルドンにゲンコツを貰おうと、叔父が作った窓ガラスを何枚叩き割ろうと。
結局、メリッサは叔父に構ってもらうことはなかった。
その代わりに、彼女をひたすら真摯に、甘いほどに優しく接してくれたのがクロウ君だった。
メリッサは優しいクロウ君に恋をした。
クロウ君に捕まえてもらうためだけに悪さをした。
だからメリッサは冒険者になった。
クロウ君に褒められたいから、頑張って人を殺すことにした。
私はそれを知りながら、彼に抱かれていた。
私が特別なんだと実感する為に。
メリッサの恋心を知りながら、黙っていた。
まあその頃くらいから、時間的なすれ違いで終わったと思っていたけど。
終わってなかった。
むしろ、私が本当の特別になるのはこれからだ。
これは始まりなんだ。
「…………来た」
私は『転移阻害転移結晶』の発動を確認して、呟く。
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