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第一部23・この物語の主人公は世界を顧みない。【全18節】

07ぽつりぽつりと減り続け。

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 僕はセツナに声をかけた。

 リコーのグラマラスさも非常に魅力的ではあったけど、バリィはリコーに惚れていたし。

 なんとなく、僕はセツナから共感を感じていた。
 だから声をかけた。

 まあ、この辺りのあれは一般的なラブロマンスでしかない。
 小っ恥ずかしくて、わりと爛れた日々だ。
 だから割愛しておく。 

 さあ、閑話休題。

 トーンの町には米や酒、魚の燻製以外にも名物がある。

 悪童、メリッサ・ブロッサムの凶行である。

 盗みや器物破損、魚の養殖場に飛び込んだり、他人の家の屋根を跳び回ったり、いわゆる悪ガキだ。まあ正直やりすぎなところもあるけど、ギリギリイタズラの範疇にある。

 だがメリッサは『盗賊』のスキルを持ち、逃げ足が速すぎた。

 とっ捕まえて説教しようにも、ゲンコツ食らわせようにも町の人々ではメリッサを捕まえられなかった。
 なのでギルドに依頼に出されることもしばしば。

 ジスタたちも、バリィたちも、ちょこちょこやってくる他の町の冒険者たちも、メリッサの逃げ足には相当煮え湯を飲まされていた。

 この町の冒険者を手玉に取るほどの運動神経……、すごい子なんじゃないか。何か陸上競技とかをさせれば賞を総なめにしそうだけど。

 なんだかんだ捕まえてきたメリッサを、ギルドで相手をするのは僕の担当になった。

 どうやら僕は喧嘩両成敗以降、暴力的なイメージが定着してしまったようで、おっかないギルド職員としてメリッサに説教をかます役割にされてしまった。

 でもまあ……、正直貴族の身でスキル不要論を語って追放されたあげく討伐されかけたのをブチ切れて、討伐隊たちを皆殺しにした僕が人に道理を語れるわけもないし。

 僕は結局、ギルド応接室で不貞腐れるメリッサの話を聞くことしかできなかった。

 多分、寂しかっただけなんだと思う。
 何度か保護したメリッサを家に送った時に、彼女の親代わりの叔父に会ったけど。
 人に興味のない、関心のない人。
 穏やかな物腰なのに、目の焦点は人を通り抜けてどこか遠くにあるような。

 そりゃあ構って欲しくもなる。認めて欲しくもなる。

 境遇は違えど、似たような気持ちを味わってきた僕は優しくならざるえなかった。

 そもそも先生も子供に優しかった。
 僕に子供を傷つけるようなことは出来ない。

 クロス先生の教えは絶対なのだから。

 そんな日々が五年ほど経ち、二十三になった。
 すっかり同年代パーティの四人も冒険者として一人前となっていた頃。

 トーンギルドに、二人の新人が現れた。

 一人はキャミィ・マーリィ。
 スキルに『復元』を持つ回復役で、とんでもない美人だ。
 どうにも優秀な回復系のスキルに目をつけた教会からのしつこい勧誘に嫌気がさして故郷を出てトーンに流れ着いたらしい。

 もう一人はアカカゲ・ブラッドムーン。
 スキルに『忍者』を持つ暗殺者。
 セブン公国が王国だったくらい大昔からある隠れ里の暗殺者一族として日々里で対人用の技を磨いていたが里を魔物の群れが襲い全滅し、一人生き残ってフラフラしていたらトーンに辿りついた。

 超優秀な新人で、また僕が講習を行おうと思っていたところベテラン勢が新人研修担当に名乗りを上げたので任せることにした。

 どうにも僕がバリィたちに教えていたのを見て、自分たちも後輩を育ててみたくなったらしい。

 実際、ジスタたちはかなり優秀な冒険者だから不足も不満もない。彼らにとっても良い刺激になってくれればと思う。

 さらにそこから二年くらい経って、僕は二十五……? 六? くらいになり。
 キャミィもアカカゲもシードッグのパーティで大活躍をしていた頃。

 さらに新人が二人やってきた。

 一人はブラキス・ポートマン。
 巨躯で筋肉質で見るからに前衛火力向きな若者。
 見た目よりも若くてまだ十五歳になったばかりで、実は小心者。

 もう一人はなんと、悪童メリッサ・ブロッサム。
 まあ確かにティーンエイジャーになってからめっきり悪さをしなくなったとは思っていたけれど、更生したようだ。

 二人の育成にはバリィたちがパーティを分けて行うことになり。

 バリィとリコーはブラキス。
 ブライとセツナがメリッサ。

 この新体制でやっていくことになった。

 だが、しかし。

 人も増えてなかなか忙しくなってきたのに、ギルド職員は増えるどころか次々と減っていった。

 他所の街や新ギルドへの異動や、単純に退職などで減っていった。

 いやもちろん僕のようにトーン以外お断りみたいな人間はいないので、今までもそういうことはあったが基本的に入れ替わりであって減り続けることはなかった。

 ぽつりぽつりと減り続け。

 僕が二十……七? いや六? くらいになった頃。

 ギルド職員は僕一人になった。
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