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第一部23・この物語の主人公は世界を顧みない。【全18節】

17誰にも知られたくなかったんだ。

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 これは何度か体験したことがある。
 間違いなく『無効化』だ。

 僕は一瞬で振り返り、見えた人影に擬似加速を用いて突っ込む。

 が、僕は突き出した手をピタリと止める。

 

「……よおクロウ、ご機嫌じゃねえか。腹を割って話そうぜ、俺はおまえと話をしに来たんだ」

「だあーっ」

 そこに立っていたのは、ご機嫌なライラを抱いてニヤリと笑うバリィ・バルーンだった。

 バリィはライラの『無効化』に気づいていた。
 メリッサたちを鍛えるために公都に来ていた。
 僕がリコーに会ったことで僕が公都に来ていることにと気づいた。

 恐らくそういうことなんだろうが……、常軌を逸している。

「バリィ……、すまない。僕は急いでいるんだ、頼むから『無効化』を解いてくれ。今はまだ『超加速』が必要なんだよ」

 僕は素直な気持ちをバリィに伝える。

 ああ、畜生。
 

 どれだけ僕が困っても、焦っても。

 子供を傷つけるようなことは出来ない。
 それはクロス先生の教えから外れてしまう。

「まあ落ち着けよ。どんなに急かしても俺はライラに『無効化』を解除させねえし、おまえも力技でライラをどうこうすることはない。おまえの最速最短は……俺が納得するまで話に付き合うことだ。まあ、座ろうぜ」

 バリィは焦る僕に対して、たっぷり余裕を持って着座を促す。

 ……従うしかない。
 擬似加速じゃあ解錠は不可能だ。

 ここから僕は、バリィを納得させるために語った。

 僕の出自や、育った環境。
 クロス先生、ビリーバーについて。
 エネミーシステムやサポートシステム。
 魔力との親和率低下。
 魔物とステータスウインドウやスキルによる停滞。

 世界を正しい姿に戻す有用性。

 スキル至上主義の異常性。
 スキル自体の危険性。

 父上の狂気や『無効化』の管理。
 勇者イベント。

 このままだと『無効化』を持つライラも狙われること。

 公国を帝国に落とさせたのはスキルを失った際のアフターケアも兼ねていること。
 世界に混乱が訪れても、言語の差異がないのでなんとかなること。

 時間を使ってしっかり丁寧に、バリィが納得できるように。

 僕が用意した全ての言い訳を使って語ったが。

「俺は腹を割った話をしに来たんだ。聞かせろ、吐け、

 一つ残らず潰されて、バリィは僕に強く芯のある問いを投げ続け……いや撃ち込み続ける。

「………………っ、僕は、ただ……」

 言葉に詰まる。

 言うのか……?
 こんなわがままを。

 世界を顧みないこんな、ただのわがままを。

 こんな世界中でなんの意味も持たない、僕だけの理由を。

 くっそ……、知られたくなかった。

 こんなかっこ悪いこと、クロス先生なら口が裂けても口にしないのに……。

 やっぱり僕は、馬鹿で雑魚だ。

「………………」
 
 観念して、僕はそう洩らした。

 ああ、だっせえ。
 言いたくなかった。

 

 わかっていて、待ち続けることしか出来ていないことを。

 壊れることで、世界を顧みないことでしか、生きられなかったことを。

 誰にも知られたくなかったんだ。

「……そうか。引き止めて済まなかったな、背中は任せとけ」

 全てを汲んだバリィはそう言って、ライラのお腹をぽんぽんと叩く。

「うー? うーんっ!」

 ライラはバリィの方を向いて、ご機嫌な様子で『無効化』を解除した。
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