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第二部1・社会において憧れる若者は結局のところ養分。【全6節】
03これが僕の日常だった。
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「えー……護衛の際に荷物を一部破損させていますよね? さらに酒に酔って輸送日程に遅れを出したと……。依頼者より損害請求として報酬からの減額が要求されています」
僕は胸ぐらを掴まれながら、依頼者の記した達成報告を見て伝える。
原則として依頼者が直接を支払うことはない。トラブルを減らす為にギルドが報酬額を受け取り、仲介料や税金を引いてギルドから冒険者へと支払われる。
故に依頼を失敗した際などには、ギルドは預かっている依頼報酬を返還しなくてはならない。規定通りだし道理だ。
「もちろん今から詳細や事実確認も行いますし、この報告に間違いがあることが確認出来れば追って残りの九割をお支払いしますが……この報告に間違いがないことが確認出来た場合は依頼者へ返還しま――」
説明を続けた所で乱雑に突き飛ばされ。
「……覚えとけよ坊主」
そんな恫喝を吐き捨てて一割の報酬を受け取り去って行った。
「…………では次の方――」
僕はくたびれた黒いスーツを正して、仕事を続ける。
ある程度終わったので、今度は他の書類仕事を行ってからギルド統括へと『通信結晶』へと連絡をする。この時間なら十五回くらいかけ直せば繋がるはずだ。
「……は? しらねーよ、おまえの管理不足だろ? こっちは忙しいだからしょーもねえことで連絡してくんな! それと、おまえんとこ先月の収益達成ギリギリだったんだからこんなことしてる暇あったら営業でもかけてこい馬鹿! おまえみたいな田舎者が都会で暮らすんならこのくらいの仕事はこなせねえと話にならねえんだよクソガキ! 冒険者の管理もろくに出来ねえクズが他に出来ることなんかねーんだよ‼ いいから今月も達成させろよ馬鹿が‼」
捲し立てるように統括の人はそう言って、一方的に通信を切断した。
忙しいわりによく喋ったな……、結局飛んだとこの補填は僕に丸投げってことか。損失計算と損失分の補填をギルド予算から捻出……つってもギルド予算もカツカツだ。値切るわけじゃないけど、菓子折り持参でなんとか納得してもらうしか……。
「……はあーあ…………、また徹夜か」
僕はそんなことを軋む椅子の背もたれに身体をだらりと預けて呟く。
現在、僕はこの冒険者ギルドの業務を一人で回している。
いや冗談じゃなく、これはマジで言っている。
度重なるパワハラ。
矢継ぎ早のトラブル。
そんな職場に人が集まるわけがない。
ここは社会不適合者たちの掃き溜め、まともな人間ならすぐに辞めるしまともじゃないなら犯罪者として去る。
現状を打破する知恵もなく、田舎者で世間知らずで小心者な僕は良いように使われているわけだ。
納得してはいないけど、学歴もなくて田舎者なただの若者が都会で生きるのに仕事を選べる立場にないのも事実。
憧れに夢見た結果、僕はブラックギルドでワンオペ職員をしている。
「…………よし……終わった…………はぁ」
計算が終わって、伸びをして呟いたところで時計を見ると深夜二時過ぎ。
こりゃあ家に帰っている時間はない……。
軽くシャワーだけ浴びて仮眠をとることにした。
これが僕の日常だった。
だった。そう、過去形である。
いや、これから過去形になる……? 最早、進行形なのか未然形なのか。
まあこれから起こる出来事で、僕の日常は一変することになる。
――――ッ⁉
微かな物音で目を覚ます。
時計を見ると深夜三時半過ぎ、僕が眠りについて一時間も経っていない。
こんな真夜中にギルドに来るような働き者はこのギルドに存在しない。
泥棒の類い……、まあ少なくとも不法侵入者だ。
僕は胸ぐらを掴まれながら、依頼者の記した達成報告を見て伝える。
原則として依頼者が直接を支払うことはない。トラブルを減らす為にギルドが報酬額を受け取り、仲介料や税金を引いてギルドから冒険者へと支払われる。
故に依頼を失敗した際などには、ギルドは預かっている依頼報酬を返還しなくてはならない。規定通りだし道理だ。
「もちろん今から詳細や事実確認も行いますし、この報告に間違いがあることが確認出来れば追って残りの九割をお支払いしますが……この報告に間違いがないことが確認出来た場合は依頼者へ返還しま――」
説明を続けた所で乱雑に突き飛ばされ。
「……覚えとけよ坊主」
そんな恫喝を吐き捨てて一割の報酬を受け取り去って行った。
「…………では次の方――」
僕はくたびれた黒いスーツを正して、仕事を続ける。
ある程度終わったので、今度は他の書類仕事を行ってからギルド統括へと『通信結晶』へと連絡をする。この時間なら十五回くらいかけ直せば繋がるはずだ。
「……は? しらねーよ、おまえの管理不足だろ? こっちは忙しいだからしょーもねえことで連絡してくんな! それと、おまえんとこ先月の収益達成ギリギリだったんだからこんなことしてる暇あったら営業でもかけてこい馬鹿! おまえみたいな田舎者が都会で暮らすんならこのくらいの仕事はこなせねえと話にならねえんだよクソガキ! 冒険者の管理もろくに出来ねえクズが他に出来ることなんかねーんだよ‼ いいから今月も達成させろよ馬鹿が‼」
捲し立てるように統括の人はそう言って、一方的に通信を切断した。
忙しいわりによく喋ったな……、結局飛んだとこの補填は僕に丸投げってことか。損失計算と損失分の補填をギルド予算から捻出……つってもギルド予算もカツカツだ。値切るわけじゃないけど、菓子折り持参でなんとか納得してもらうしか……。
「……はあーあ…………、また徹夜か」
僕はそんなことを軋む椅子の背もたれに身体をだらりと預けて呟く。
現在、僕はこの冒険者ギルドの業務を一人で回している。
いや冗談じゃなく、これはマジで言っている。
度重なるパワハラ。
矢継ぎ早のトラブル。
そんな職場に人が集まるわけがない。
ここは社会不適合者たちの掃き溜め、まともな人間ならすぐに辞めるしまともじゃないなら犯罪者として去る。
現状を打破する知恵もなく、田舎者で世間知らずで小心者な僕は良いように使われているわけだ。
納得してはいないけど、学歴もなくて田舎者なただの若者が都会で生きるのに仕事を選べる立場にないのも事実。
憧れに夢見た結果、僕はブラックギルドでワンオペ職員をしている。
「…………よし……終わった…………はぁ」
計算が終わって、伸びをして呟いたところで時計を見ると深夜二時過ぎ。
こりゃあ家に帰っている時間はない……。
軽くシャワーだけ浴びて仮眠をとることにした。
これが僕の日常だった。
だった。そう、過去形である。
いや、これから過去形になる……? 最早、進行形なのか未然形なのか。
まあこれから起こる出来事で、僕の日常は一変することになる。
――――ッ⁉
微かな物音で目を覚ます。
時計を見ると深夜三時半過ぎ、僕が眠りについて一時間も経っていない。
こんな真夜中にギルドに来るような働き者はこのギルドに存在しない。
泥棒の類い……、まあ少なくとも不法侵入者だ。
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