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第二部3・十人十色はめんどうな奴らを黙らすために作った詭弁。【全6節】

01たった四回。

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 俺、ショッテ・マーケンは帝国セブン地域の西に位置する新シャーストの街で鍛冶屋の家で育った鍛冶屋見習いだ。

 このまま父親の跡を継いで鍛冶屋として生きていくんだと思っていたけど。

 転機が訪れた。

 俺は子供の頃から新シャーストにあるレイト流武芸道場に通っていた。

 歴史のある武術ってわけでもなく、護身術がメインの道場だ。
 元々はこの街が【大変革】前に一度魔物によって滅んでいることから、この街で魔物と戦った冒険者の生き残りであるテンプ・レイトが復興していく街が変な輩に襲われても守れるようにと立ち上げた道場である。

 うちの父親とテンプ先生が友人だった為、道場立ち上げ時から入門した。

 何だかんだで研鑽を積んでいた幼少期に、第三騎兵団のジャンポール団長の模擬戦が公開されてわっと【総合戦闘競技】ブームが起きた。

 その流れで道場にも人が増えて、道場からも色んな大会に出場したり道場主催で興行を行うこともあった。

 俺も少年部の大会や学生大会に出場し、わりと好成績を残してきた。

 そして、四年ほど前にレイト流道場も全帝国総合戦闘競技選手権大会セブン地域代表決定予選出場権を獲た。

 一応、道場の代表として過去三回は俺が出場しているが、最高成績は一昨年の予選決勝敗退。

 これは思っていた以上の成績だ。
 ただの鍛冶屋の息子で、俺もそのうち鍛冶屋を継ぐと思っていた。まさか自分が地元の星のような扱いを受けると思ってなかった。

 予選でも決勝まで行ければそれなりの賞金が出る。
 父親からも、やれるだけやってみろということで翌年は出場を見送り一年は鍛冶修行を休んで鍛錬を詰んだ。

 こうなったら一花咲かせたくなるのが男だ。

 今年こそは本選出場、俺は【総合戦闘競技】で食っていく人間になる。

 これが俺の転機だ。

 一昨年は決勝で大盾使いの巨乳お嬢さんに惜しくも負けてしまったが、今年はしっかりと対策済み。

 一昨年の敗因は精神面。

 巨乳に目が奪われた隙に、風系統の魔法でズタズタにされた。

 あの乳は見るだろう……、仕方ないが負けていたら仕方ないじゃあすまない。

 当初俺は巨乳に慣れるために貯金を叩いて歓楽街に出向き巨乳の女を抱きまくって慣れようと行動したが。
 二人抱いたところで美人局に遭い出てきたゴロツキをぶっ飛ばして警察に厄介になり。
 危うく予選出場権を剥奪されそうになったがテンプ先生と一緒に平謝りして難を逃れた。

 その後、めちゃくちゃテンプ先生に怒られた後に。

「……ショッテ、おまえが対策すべきは巨乳云々じゃあない。つーかいくら乳のでかい商売女を抱いたところで脳裏から巨乳は拭えない、別に乳だろうが尻だろうが好きなのは構わん。おまえに必要なのは集中力。それか例え小娘の乳が揺れてんに目を奪われたところで余裕で勝てるくらいの強さだ」

 テンプ先生は煙草をくゆらせながら、呆れるように俺に語る。

「集中力は絶対におまえが負けられないと思えるほどの何かを心の真ん中に持つしかない。本来なら戦いは命懸けだ。否が応でも頭に家族や恋人や好きなものがチラついて集中せざる得ない。だがこれは競技が故に命懸けとはならない、おまえ自身が何かを心の真ん中に持つしかないんだ」

 真摯な口調でテンプ先生は続ける。

「強さに関してはもう、鍛える他ない。鍛冶屋なら解るだろう、鍛錬を繰り返して鉄は強くなる。おまえはまだまだ脆い、だがそれは伸び代があるということでもあるんだ」

 煙草を灰皿に押し付けながらニヤリと笑い。

「死ぬほど鍛えるぞ。ここまで鍛えたのに負けたくないと思えるほど徹底的に、ここまで鍛えたからこそ余裕が出来たと思えるほど執拗に、血反吐吐いて血便と血涙出るまでやり込むぞ」

 そう言ったのと同時に、俺は顔面に前蹴りを食らって吹き飛んだ。

 なるほど、もう始まったのか。

 俺はそこから毎日毎日自分を追い込んだ。

 レイト流は基本的に近接格闘、近距離戦を想定した武術だ。

 屈強さと頑強さ。
 これを徹底的に鍛え抜いて、何を貰っても倒れないからこそ当てられる。
 泥臭くて古臭いし根性論的な割合が高い武術だ。

 だが、テンプ先生はこの思想で【大変革】より前の時代を冒険者として駆け抜けた。

 教科書にも載っている、まだここらがセブン公国だった頃に起こった魔物の氾濫を抑えた【西の大討伐】に参加して生き延びた。

 テンプ先生はそこで知り合った東の果てから来た冒険者たちの強さに憧れ、彼らの強さが先生の中での最強として設定し基準として生まれたのがレイト流らしい。

 道場の教えの中には「」というものがあるくらいだ。よほど衝撃的だったのだろう。

 故に、レイト流はかなり実戦にフォーカスした武術な為に全ての技が競技的に噛み合うものでもないのだが。

 それでも、俺はレイト流の看板を背負ってる身だ。

 負けられない。
 それだけの鍛錬は積んできた。

 そして、セブン地域代表決定予選の日。

「ショッテ、おまえはこの一年で確実に俺を超えた。免許皆伝だ、俺に教えられることはないほどに。だから見せてくれ、レイト流がどこまでやれるのかをな」

 テンプ先生はそう言って俺の胸を軽く叩く。

「はい‼」

 俺は力強く返事をする。

「それでは予選一回戦第三試合を開始しまーす。選手の方は第二格技場へお願いしまーす」

 大会運営係員が周知をかける。

 さあ、始まるぞ。

 セブン地域代表決定予選はざっくり三十二名からなるワンデートーナメントだ。

 本選出場枠は二名、十六名ずつのトーナメントを二つおこなって各トーナメントの優勝者が帝都で行われる本戦へ出場出来る。

 そもそもこの予選に出る為のハードルも高いため、ここにいる三十二名は少なくともセブン地域で最強格の三十二名である。まだ予選だが、この時点でそれなりに注目度は高い。

 十六人のトーナメント、つまり四回勝てば本戦だ。

 たった四回。
 だが一度でも負ければおしまいだ。ひと試合も気は抜けない。
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