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第二部9・自覚のない狂気は稀に奇跡を起こすこともある。【全6節】
03真正面から畳む。
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「では、単刀直入に申し上げます。チャコール・ポートマンさん! 私との試合で開始三十秒間、手を出さないでください……! お願いします!」
着座してすぐ、頭を深く下げて私は切り込む。
もう直球勝負、直接お願いするしか他に方法はないのです。
「嫌だよ。三十秒って長いよ……。開始距離八メートルの接近に二秒だったとしてナイフを抜いて頸動脈を掻き切るまでにもたついたとしても全体で五秒だとすると、僕は六回は死んじゃう時間だよ?」
チャコール氏は困った顔で、これ以上ないほどの正論を返す。
「こ、こちらからも三十秒間は手出ししません! 準備の時間が欲しいんです! 人形を動かすための時間を――――」
私はここからちゃんと全てを打ち明ける。
人形が動き出すまでの時間が欲しいこと。
研究の発表がしたいこと。
準備に必要な三十秒間を戦いながら耐える技量が私にはないこと。
どうしても全土放送に私の研究成果を映したいこと。
その為なら、負けてもいいとすら思っていること。
そんな自分勝手が過ぎる一方的なお願いを語りました。
すると。
「ふーん、いいんじゃない? チャコ飲んであげなさいよ」
ライラさんから予想外の肯定意見が飛び出る。
「……いやライラちゃんそれ、飲んだ上で三十秒の間に攻撃するつもりでしょ……」
「当然でしょ。別にこんな八百長紛いな約束を守る理由もないし、わざわざ三十秒も自由時間くれるんなら畳むに限るし、ほっといても三十秒も相手を自分勝手な理由で待たせたって負い目を抱えることになるんだからどっちにしろ勝つでしょ? だったらさっさと終わらせても同じよ」
呆れ気味のチャコール氏に対してライラさんは淡々とクリームソーダのバニラアイスを溶かしながら知略を語る。
「うーん、その通り……。畳める時に畳めって僕も習ったし、どう考えてもそうするのが正解だ」
チャコール氏はライラさんのセオリーに同意を示す。
ですよねぇ……。
こんな意味のわからない何の得もない提案を飲むわけがない……。これは彼の傲慢さや慈愛に甘えようとする八百長紛いのお願いなのです。
でもそんなものに頼るしかないほどに、私も私で本気なのよね。
「私には夢がある。私の生きている時間の中で可能な限り世界を前に進めたい、その為になら何でもする。こんな無様なお願いだって、平気でします。だってマジだから」
私は頭を下げた状態から少し顔を上げて言うと、心の熱が魔力変換を起こして目から炎のようにゆらりと漏れ出る。
それを見て。
「……わかった。というか、わかる。僕も別に競技者ではないし、予選に出たのは戦闘部の予選出場権を守る為だけだし、本戦はベスト4に入ってバリィさんにライラちゃんを守れる男だと認めさせる為だけに出場している。だから、お互い様だ。三十秒くらい待つよ」
チャコール氏そう言って、優しそうににこりと笑う。
「ふふ、そう待つわよちゃんと。安心しなよソフィア。良かったわね」
「いやいや、マジに待つよ? そんな、一芝居挟んで待つ風に思わせといて待たないでドーン! みたいなアレじゃなくて、もちろん三十秒間僕も準備はするし三十秒間を一コンマでも過ぎたら攻撃に移るけど。僕は待つよ」
ニヤニヤとするライラさんにチャコール氏は間髪入れずに語る。
「ベスト4に入れって話の本質は強さの証明だよ。だったら相手の全力を出させた上で勝つ、一回戦でライラちゃんがファイブ選手の光線を無傷で受けきっての完全勝利みたいな。圧倒的な証明になり得ることだ」
穏やかにチャコール氏の語りは続く。
「策略での騙し討ち、弱点を利用しての圧倒的勝利ってのも強さの一つだしバリィさんなら当然そうするし僕もそうしただろう。でも、それはいつでも見せられる強さだ。そういう強さを僕が持っていることはバリィさんもわかっている」
語るチャコール氏はほうじ茶をゆっくりとすすって。
「だから三十秒待って、真正面から畳む。それでいいんだろう? ソフィアさん、全力で来てくれ」
目からゆらりと、瞳と同じ黒色の炎を揺らして力強くそう言った。
着座してすぐ、頭を深く下げて私は切り込む。
もう直球勝負、直接お願いするしか他に方法はないのです。
「嫌だよ。三十秒って長いよ……。開始距離八メートルの接近に二秒だったとしてナイフを抜いて頸動脈を掻き切るまでにもたついたとしても全体で五秒だとすると、僕は六回は死んじゃう時間だよ?」
チャコール氏は困った顔で、これ以上ないほどの正論を返す。
「こ、こちらからも三十秒間は手出ししません! 準備の時間が欲しいんです! 人形を動かすための時間を――――」
私はここからちゃんと全てを打ち明ける。
人形が動き出すまでの時間が欲しいこと。
研究の発表がしたいこと。
準備に必要な三十秒間を戦いながら耐える技量が私にはないこと。
どうしても全土放送に私の研究成果を映したいこと。
その為なら、負けてもいいとすら思っていること。
そんな自分勝手が過ぎる一方的なお願いを語りました。
すると。
「ふーん、いいんじゃない? チャコ飲んであげなさいよ」
ライラさんから予想外の肯定意見が飛び出る。
「……いやライラちゃんそれ、飲んだ上で三十秒の間に攻撃するつもりでしょ……」
「当然でしょ。別にこんな八百長紛いな約束を守る理由もないし、わざわざ三十秒も自由時間くれるんなら畳むに限るし、ほっといても三十秒も相手を自分勝手な理由で待たせたって負い目を抱えることになるんだからどっちにしろ勝つでしょ? だったらさっさと終わらせても同じよ」
呆れ気味のチャコール氏に対してライラさんは淡々とクリームソーダのバニラアイスを溶かしながら知略を語る。
「うーん、その通り……。畳める時に畳めって僕も習ったし、どう考えてもそうするのが正解だ」
チャコール氏はライラさんのセオリーに同意を示す。
ですよねぇ……。
こんな意味のわからない何の得もない提案を飲むわけがない……。これは彼の傲慢さや慈愛に甘えようとする八百長紛いのお願いなのです。
でもそんなものに頼るしかないほどに、私も私で本気なのよね。
「私には夢がある。私の生きている時間の中で可能な限り世界を前に進めたい、その為になら何でもする。こんな無様なお願いだって、平気でします。だってマジだから」
私は頭を下げた状態から少し顔を上げて言うと、心の熱が魔力変換を起こして目から炎のようにゆらりと漏れ出る。
それを見て。
「……わかった。というか、わかる。僕も別に競技者ではないし、予選に出たのは戦闘部の予選出場権を守る為だけだし、本戦はベスト4に入ってバリィさんにライラちゃんを守れる男だと認めさせる為だけに出場している。だから、お互い様だ。三十秒くらい待つよ」
チャコール氏そう言って、優しそうににこりと笑う。
「ふふ、そう待つわよちゃんと。安心しなよソフィア。良かったわね」
「いやいや、マジに待つよ? そんな、一芝居挟んで待つ風に思わせといて待たないでドーン! みたいなアレじゃなくて、もちろん三十秒間僕も準備はするし三十秒間を一コンマでも過ぎたら攻撃に移るけど。僕は待つよ」
ニヤニヤとするライラさんにチャコール氏は間髪入れずに語る。
「ベスト4に入れって話の本質は強さの証明だよ。だったら相手の全力を出させた上で勝つ、一回戦でライラちゃんがファイブ選手の光線を無傷で受けきっての完全勝利みたいな。圧倒的な証明になり得ることだ」
穏やかにチャコール氏の語りは続く。
「策略での騙し討ち、弱点を利用しての圧倒的勝利ってのも強さの一つだしバリィさんなら当然そうするし僕もそうしただろう。でも、それはいつでも見せられる強さだ。そういう強さを僕が持っていることはバリィさんもわかっている」
語るチャコール氏はほうじ茶をゆっくりとすすって。
「だから三十秒待って、真正面から畳む。それでいいんだろう? ソフィアさん、全力で来てくれ」
目からゆらりと、瞳と同じ黒色の炎を揺らして力強くそう言った。
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