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第二部13・本質的に間違ってなくても悪行は悪行でしかない。【全10節】

08卑怯な策略を選択すること自体が自分にとっての負けになることもある。

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「ブラキスは単純な腕力で言うんなら世界最強クラス。身体強化なしで大斧を振って大抵の魔物は一撃必殺、硬い魔物もスキルの『潜在解放』を使って一撃必殺。結局あいつは身体強化の魔法すら覚えることはなかった」

 メリッサさんはまず親父について語る。

 まあ確かに親父の腕力は異常で過剰だ。切り株を当たり前のように素手で引っこ抜いたり岩を引っこ抜いたり、掃除感覚で整地工事を終わらせる怪力大男である。しかも魔法は武具召喚くらいしか使えない。

 魔法の才能は全くないというより、魔法が生活に必要がないほどのフィジカルを持っているような人だ。

 僕はバリィさんの家で初めて、普通は鉄で椅子やテーブルを補強しないということを知ったくらいだ。
 既に亡くなっている祖父も大概怪力大男だったので、実家の家具は大体重くて硬い。おふくろとスズは浮遊魔法とか重力操作を使って生活していた。

「でもそんな過剰な腕力が故に、ブラキスは素手でその腕力を振るうと。だからブラキスは武器を持たざる得なかった。まあ当然よね、魔物が衝撃で溶けて液体になって弾けるほどの一撃を大概頑強の筋肉ダルマとはいえ耐えられるわけがない。武器を持つことでしか発揮は出来なかった」

 さらに親父の弱点というか、長所による短所を語る。

 これもそうだ。親父の怪力は過剰が故に自分の身体すらも壊してしまう。
 一度スズが硬化固着の魔法を試していた木を、親父が気づかずに切り倒そうとして斧を通じて両腕がひしゃげたことがあった。

 おふくろがクライスさんを呼んで事なきを得たけど、あれ多分クライスさんが居なかったら今頃親父の両腕はなくなっていた。半泣きでスズの魔法を褒めていたのが印象に残っている。

「まあ魔物相手ならリーチがあった方がいいし、あの大斧は頑丈過ぎるし、バリィが的確に狙いを定めて振っていたから必中だったし、ポピーとの筋肉転移も必中の奇襲だったし、外したり隙になるようなことがなかったから弱点にはなり得なかったけど」

 続けて現役時代の親父について述べる。

 話にしか聞いたことないけど、どうにも親父は魔物相手に一撃以上打ち込んだことがほとんどないらしい。森に出たヘビにビビってスズに魔法で対応して貰うくらいの臆病者なのに。

「あんたも多分、思いっきり何かを殴ったら骨が砕けて肉が弾ける。だからブラキスもバリィも壊れない大斧の使い方と、筋力に依存しない合気杖術を仕込んだんだと思う。バリィはブラキスの一撃必殺にとんでもない信頼を置いているから、それで十分だと判断したのかもしれない」

 僕を指さしながら、メリッサさんは僕の戦闘スタイルに言及する。

 これもその通りだ。
 子供の頃から親父に、素手で何かを叩くことを禁じられていた。祖父の頃からの教えで、ポートマンの男は昔からそれで怪我が絶えなかったらしい。
 それを前提として、大斧による戦闘や合気杖術を習った。

「あの親馬鹿教師は自分だったら卑怯もクソもない策略で必中に出来ると本気で思っていて、あんたもそうすると思っている」

 続けてメリッサさんはバリィさんの、思考回路に言及する。

 これも……まったくもってその通りだ。
 バリィさんはちょっと、容赦とか情けとか道徳とか倫理とかが欠落している。

 目的を遂行する為にはどんな手でも使う。
 自分の弱さや負けすらも手段の一つとしか考えてない、相手の一番弱いところを的確に狙い撃つ。
 僕もそれを習ったし、親父もおふくろも影響を受けている。

「でも卑怯な策略を選択すること自体が自分にとっての負けになることもある。まあ少なくとも競技にはルールもあるし、

 メリッサさんは真摯な表情で、確信に触れる。

 そう、これが僕の弱点だ。
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