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0.3%未満の悪評
8:笑っちまう
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今回の祭りは、雰囲気が重視されているイベントだ。
二十世紀や二十一世紀くらいのジャパン文化を模倣したアミューズメントである。
故に食事自体にはそこまで力を入れていない。
そもそも祭りで食うものは不味くても美味いからだ。
楽しげな音楽、夜の空気、非日常的な空気でいつもと違う食事をビールで流しこむ。これで十分なんだ。
このイベントにおいて、俺の料理はクオリティが高すぎる。
これは驕りではなく、過不足なく客観的に判断したプロの考えだ。
他の屋台のオートマトンは調理専用でもないし、レシピもローコストで雰囲気重視なものが多い。
焼き鳥も焼きとうもろこしも、冷凍保存されたものをマイクロウェーブで温めてタレを塗って完成ってものばかりだ。
超一流の料理人がウスターソースから作って、調理技術を駆使して炒める焼きそばなんてのは過剰も過剰だ。
ジャパンは料理に対するこだわりがかなり強い。だからジャパン文化のイベントならかなり料理も力を入れてくると思っていたが……流石にこんなちょっとした祭りにはそこまでのリソースは割いていなかったようだ。
そりゃあ俺みたいな店燃やした悪評料理人の出店も快諾する……、全然目玉になり得る。
ここからネットワーク上でも口コミが広がり、神社にさらに人が集まる。
店には長蛇の列。
大喜びの住人たち。
ビールが足らず、酒屋が大忙し。
他の出店も完売。
無茶苦茶忙しい……っ! 嘘だろ、ここまでやるつもりはなかった。
常に焼きそばを作り続ける、忙しくても雑にはならない。最速でかつベストパフォーマンスを維持する。
万が一を考えて多めに仕入れておいて良かった。
このペースなら完売まであるぞ……マジに。
なんて考えているところで。
「――――突発的密集により、治安維持アラートが発令されました。お近くの治安維持オートマトンの指示や誘導に従い整列し、近隣への迷惑行為は行わないように――――」
まさかの人が集まり過ぎて、ついには治安維持アラートが鳴った。
おいおいマジか…………いやそうか。
みんな基本的に暇なんだ。
システムエラーで火事が起こったくらいのことで大騒ぎしてしまうくらいに、祭りに美味すぎる焼きそばが出店してきたくらいのことではしゃいでしまうくらいに。
退屈していたんだ。
別に俺だけじゃあなかったんだ。
移住計画に向けて全力だった人類が、いざブロッサム・ノアに乗り込んだらやることが見つけられないみたいな奴は全然いたんだ。
はあ……、しゃーねえな暇人共が。
せめて美味いもん食って、また食いてえってことを目標になんかしてくれ。
「――――ロメオ、残り百食! ここからは一人一食限定にする! 二十時十五分の段階で並んでるところまでの提供とする‼ 放送かけてもらうのと店のアカウントからもアナウンスしろ!」
俺は焼きそばを調理し続けながら、ロメオへと指示を出す。
「は、はい!」
ロメオは客に焼きそばを手渡しながら、端末で祭りの運営と店のアカウントでアナウンスを行う。
「師匠……これ伝説になりますよ。こんな……これが人類最高の料理人……」
ロメオは目をキラキラさせて言う。
はっ、弟子からの尊敬は気持ちがいいねえ。
正直俺も大分ノってきてる。
後半日くらいこのまま焼きそば焼いてていいと思えるくらいだ。
忙しさが心地よい、ああ俺はやっぱり料理人なんだな。これが一番楽しいんだ。
でも…………今日は俺の日じゃあねえ。
「……疲れた。次のとこからおまえがやれ、俺が仕上げて渡す」
俺は焼きそばを炒めながらロメオへと告げる。
「はぁ⁉ ちょっ、師匠‼」
「五百以上見たんだ。ほら、おまえならできるさ」
ビビり散らかすロメオに俺はそう言って、ヘラを渡す。
「っ! ………………ふぅ――――――、よし!」
ロメオは気合を入れて電熱プレートで野菜を炒める。
うん、手際が良い。
ロメオは贔屓目なしに、勤勉で手先も器用で要領も良い。
まあそれを料理人としての才能とはいわないが、何をやるにしても勤勉であるべきだし手先が器用で困ることはないし要領は良いに越したことはない。
でも、これなら任せても問題ないな。
ロメオに交代しようと客足は途絶えず。
大盛況の中で。
「か、完売でーす! ありがとうございましたー!」
ロメオは客たちに大声で伝える。
時刻は二十時二十分、祭りも終わる頃でちょうど良かった。
ぼちぼち店の前の人々が散っていくところで。
「美味かったぞ! またやってくれ!」
「絶対店行くから開店の時は告知してくれよ‼」
「これ! ビール! 冷えてっから持ってって! いやー売れたわ‼」
町内会の人々が俺たちに言ってくる。
おービールありがてぇ……、飲みたかったんだけど買いに行けなかったんだよ。
「師匠、お疲れさまです」
ビールを受け取った俺にロメオが言う。
まあこのくらいじゃ疲れねえけどな、超一流だから。
「おう、ぼちぼち片付けて帰るぞ」
俺は適当にロメオへ返すと。
「あの、これ食ってもらえますか? 俺が作った焼きそばです」
ロメオはそう言って一人前の焼きそばを俺に手渡す。
どうにも最後に一人前だけ自分で購入しておいたみたいだな。
あの稼働の中で……よくやる。
「……へえ、貰おうか」
俺は感心しつつ、焼きそばを受け取る。
割りばしでロメオの作った焼きそばをすすり、ビールで流し込む。
ああ、こりゃあ美味い。
確かに少しだけ俺のものより野菜にお茶の風味がついてない。
少しだけ蒸らす時に野菜の乗せ方が良くなかったのかもしれんが……及第点どころかこんなものはいちゃもんレベルの指摘だ。
スピーカーから流れる盆踊りの楽曲。
キンキンのビール。
頑張った弟子の料理。
大盛況の余韻。
「あー……最高だな。少なくともここ五百年で一番美味い飯だ」
俺はロメオへ素直に返す。
ははっ、最高だわ。
こりゃあ良いや。
この船に乗って今日初めて俺は、料理人だった。
結局俺はこれが好きで、やめられなくて、諦められない。
趣味にするには好きすぎる、これで生きてこれで死にたい。
どこまで行こうとも、亜光速でも振り切れない。
俺は料理人なんだ。
そこから屋台の片付けを終えて。
町内会のちょっとした二次会に顔を出す前に学生のロメオを帰らせてノリノリの酒屋が振る舞った酒を飲み過ぎてやっとこさ帰宅した。
「――っ⁉ いっ…………たあぁぁ……うぉぉぉ……」
ほろ酔いで帰宅したところで棚に思いっきり足をぶつけて悶える。
最高の気分だったのに……、このままベッドダイブして泥寝するはずが……いてぇ……。
半べそになりながらぶつけた棚を見ると、足がぶつかったことでかなり棚が動いていた。
動いた棚から覗く壁には。
Why are you here?
例の落書き。
俺は再び問われる。
ははっ、笑っちまうな。こんなの今聞いてくれんのか?
俺は適当なペンを取って、壁に答えを書く。
To feed you lot.
てめーらに食わせるため。
結局俺にはこれしかない、だから俺はここにいる。
まだまだ俺は満足してねえ、新天地でも腹いっぱいにしてやっからな。
亜光速でもこれは振り切れない、俺の道はまだまだ続く。
二十世紀や二十一世紀くらいのジャパン文化を模倣したアミューズメントである。
故に食事自体にはそこまで力を入れていない。
そもそも祭りで食うものは不味くても美味いからだ。
楽しげな音楽、夜の空気、非日常的な空気でいつもと違う食事をビールで流しこむ。これで十分なんだ。
このイベントにおいて、俺の料理はクオリティが高すぎる。
これは驕りではなく、過不足なく客観的に判断したプロの考えだ。
他の屋台のオートマトンは調理専用でもないし、レシピもローコストで雰囲気重視なものが多い。
焼き鳥も焼きとうもろこしも、冷凍保存されたものをマイクロウェーブで温めてタレを塗って完成ってものばかりだ。
超一流の料理人がウスターソースから作って、調理技術を駆使して炒める焼きそばなんてのは過剰も過剰だ。
ジャパンは料理に対するこだわりがかなり強い。だからジャパン文化のイベントならかなり料理も力を入れてくると思っていたが……流石にこんなちょっとした祭りにはそこまでのリソースは割いていなかったようだ。
そりゃあ俺みたいな店燃やした悪評料理人の出店も快諾する……、全然目玉になり得る。
ここからネットワーク上でも口コミが広がり、神社にさらに人が集まる。
店には長蛇の列。
大喜びの住人たち。
ビールが足らず、酒屋が大忙し。
他の出店も完売。
無茶苦茶忙しい……っ! 嘘だろ、ここまでやるつもりはなかった。
常に焼きそばを作り続ける、忙しくても雑にはならない。最速でかつベストパフォーマンスを維持する。
万が一を考えて多めに仕入れておいて良かった。
このペースなら完売まであるぞ……マジに。
なんて考えているところで。
「――――突発的密集により、治安維持アラートが発令されました。お近くの治安維持オートマトンの指示や誘導に従い整列し、近隣への迷惑行為は行わないように――――」
まさかの人が集まり過ぎて、ついには治安維持アラートが鳴った。
おいおいマジか…………いやそうか。
みんな基本的に暇なんだ。
システムエラーで火事が起こったくらいのことで大騒ぎしてしまうくらいに、祭りに美味すぎる焼きそばが出店してきたくらいのことではしゃいでしまうくらいに。
退屈していたんだ。
別に俺だけじゃあなかったんだ。
移住計画に向けて全力だった人類が、いざブロッサム・ノアに乗り込んだらやることが見つけられないみたいな奴は全然いたんだ。
はあ……、しゃーねえな暇人共が。
せめて美味いもん食って、また食いてえってことを目標になんかしてくれ。
「――――ロメオ、残り百食! ここからは一人一食限定にする! 二十時十五分の段階で並んでるところまでの提供とする‼ 放送かけてもらうのと店のアカウントからもアナウンスしろ!」
俺は焼きそばを調理し続けながら、ロメオへと指示を出す。
「は、はい!」
ロメオは客に焼きそばを手渡しながら、端末で祭りの運営と店のアカウントでアナウンスを行う。
「師匠……これ伝説になりますよ。こんな……これが人類最高の料理人……」
ロメオは目をキラキラさせて言う。
はっ、弟子からの尊敬は気持ちがいいねえ。
正直俺も大分ノってきてる。
後半日くらいこのまま焼きそば焼いてていいと思えるくらいだ。
忙しさが心地よい、ああ俺はやっぱり料理人なんだな。これが一番楽しいんだ。
でも…………今日は俺の日じゃあねえ。
「……疲れた。次のとこからおまえがやれ、俺が仕上げて渡す」
俺は焼きそばを炒めながらロメオへと告げる。
「はぁ⁉ ちょっ、師匠‼」
「五百以上見たんだ。ほら、おまえならできるさ」
ビビり散らかすロメオに俺はそう言って、ヘラを渡す。
「っ! ………………ふぅ――――――、よし!」
ロメオは気合を入れて電熱プレートで野菜を炒める。
うん、手際が良い。
ロメオは贔屓目なしに、勤勉で手先も器用で要領も良い。
まあそれを料理人としての才能とはいわないが、何をやるにしても勤勉であるべきだし手先が器用で困ることはないし要領は良いに越したことはない。
でも、これなら任せても問題ないな。
ロメオに交代しようと客足は途絶えず。
大盛況の中で。
「か、完売でーす! ありがとうございましたー!」
ロメオは客たちに大声で伝える。
時刻は二十時二十分、祭りも終わる頃でちょうど良かった。
ぼちぼち店の前の人々が散っていくところで。
「美味かったぞ! またやってくれ!」
「絶対店行くから開店の時は告知してくれよ‼」
「これ! ビール! 冷えてっから持ってって! いやー売れたわ‼」
町内会の人々が俺たちに言ってくる。
おービールありがてぇ……、飲みたかったんだけど買いに行けなかったんだよ。
「師匠、お疲れさまです」
ビールを受け取った俺にロメオが言う。
まあこのくらいじゃ疲れねえけどな、超一流だから。
「おう、ぼちぼち片付けて帰るぞ」
俺は適当にロメオへ返すと。
「あの、これ食ってもらえますか? 俺が作った焼きそばです」
ロメオはそう言って一人前の焼きそばを俺に手渡す。
どうにも最後に一人前だけ自分で購入しておいたみたいだな。
あの稼働の中で……よくやる。
「……へえ、貰おうか」
俺は感心しつつ、焼きそばを受け取る。
割りばしでロメオの作った焼きそばをすすり、ビールで流し込む。
ああ、こりゃあ美味い。
確かに少しだけ俺のものより野菜にお茶の風味がついてない。
少しだけ蒸らす時に野菜の乗せ方が良くなかったのかもしれんが……及第点どころかこんなものはいちゃもんレベルの指摘だ。
スピーカーから流れる盆踊りの楽曲。
キンキンのビール。
頑張った弟子の料理。
大盛況の余韻。
「あー……最高だな。少なくともここ五百年で一番美味い飯だ」
俺はロメオへ素直に返す。
ははっ、最高だわ。
こりゃあ良いや。
この船に乗って今日初めて俺は、料理人だった。
結局俺はこれが好きで、やめられなくて、諦められない。
趣味にするには好きすぎる、これで生きてこれで死にたい。
どこまで行こうとも、亜光速でも振り切れない。
俺は料理人なんだ。
そこから屋台の片付けを終えて。
町内会のちょっとした二次会に顔を出す前に学生のロメオを帰らせてノリノリの酒屋が振る舞った酒を飲み過ぎてやっとこさ帰宅した。
「――っ⁉ いっ…………たあぁぁ……うぉぉぉ……」
ほろ酔いで帰宅したところで棚に思いっきり足をぶつけて悶える。
最高の気分だったのに……、このままベッドダイブして泥寝するはずが……いてぇ……。
半べそになりながらぶつけた棚を見ると、足がぶつかったことでかなり棚が動いていた。
動いた棚から覗く壁には。
Why are you here?
例の落書き。
俺は再び問われる。
ははっ、笑っちまうな。こんなの今聞いてくれんのか?
俺は適当なペンを取って、壁に答えを書く。
To feed you lot.
てめーらに食わせるため。
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