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0.3%未満の悪女
1:フランソワーズ・フライト
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Why are you here?
「なぜあなたはここにいるのか……? 何これ……なんかめちゃくちゃ書かれてるけど」
私、フランソワーズ・フライトは自室の壁に書かれた謎のメッセージを見て思わず声を漏らす。
ヒステリックに投げられた樹脂製のスプーンが棚の裏側に落ちてしまったのを回収するために、棚を動かしたところで謎のメッセージを見つけてしまった。
えっと……『Why are you here?』と……他はアンサーか。
For people in the society!
for myself.
FOR MY FAMILY!
To feed you lot.
全部筆跡も筆記具も違う……。
なるほど……多分これこのメゾンドモンステラ五〇二号室に住んでいたAグループの住人が問いかけて、BCDEってここに住んでいた人がアンサーを書いていったんだ。
そして覚醒期間の順番が最後であるFグループの私が見つけたと……こんなのよく気づくわね。いや私も見つけているわけだけど。
ここにいる理由を問われ、そして立派なアンサーが並ぶ。
「…………はあ」
私は少し考えて、樹脂製のスプーンを回収しため息と共に棚を戻す。
こんな立派な答えを、私はおよそ持ち合わせていない。
できることをやることで、なんとか社会にしがみつくだけ。
この生活……彼女との生活も、その一環でしかない。
「落ち着いたかしらリンダ。検診の時間よ」
「……はいはいどうぞ先生」
私はベッドに横たわる彼女にそう伝えると、やや不貞腐れるように彼女はTシャツをめくってお腹を出す。
さっき食事を摂った後、癇癪のように暴れて食器を投げ散らかした。
まあ食べ終わった空の食器だし、全部樹脂製だから割れたりはしてないし汚れたりもしていないのでそんなに気にしてもいないけど。
彼女のおかげで隠しメッセージにも気づけたしね。
彼女。
リンダ・フローレンス、十八歳。
反移住過激派組織に属していた少女だ。
移住計画を妨害するテロ行為の実行犯として捕らえられた。テロ自体は未遂に終わったが彼女は警備担当のオートマトンを破壊しさらには警備担当の五名を襲い。
そのうち二名を殺害した。
本来であればそもそも彼女はブロッサム・ノアβへの搭乗権利を持たない。
移住計画の妨害、ならびに計画参加者への殺人の着手は一級犯罪……基本的に死刑一択。
移住計画寸前での犯行だった為、ブロッサム・ノアβが旅立った後に地球のラストエデンにて安楽死が行われるはずだった。
しかし彼女はブロッサム・ノアβへの搭乗権利を獲た。
その理由は。
「――三十七週目……うん、胎児共に母体も問題なし。この調子だと今週中には生まれると思う」
私はリンダのお腹からエコースキャン端末を離して、診察システムが読み取ったデータを見ながら診断結果を述べる。
そう、彼女は妊娠していたのだった。
しかも彼女は逮捕時にはまだ妊娠はしていなかった。
彼女は勾留中に自身の死刑が確実だと知ると、留置所管理を行っていた男性を誘惑し半ば強制的に性行為へとおよんだ。
そして刑が確定した後の健康診断で、妊娠が発覚した。
その時点で妊娠周期は二十三週……中絶は法的に不可能な段階だった。
死刑囚に対して勾留中や服役中の健康診断にリソースを割いていなかったらしい。ブロッサム・ノアβ出航の寸前でばたばたしていたというのもあり。
支給されていた生理用品も使わずに捨てていたために、半年も気付けなかった。
ブロッサム・ノアβへの搭乗権利にはかなり緩いが厳格な基準が存在する。
まずは確定予測演算装置マザーが健康状態から計算した余命。
これは覚醒期間の四年間を超えないとスペアエデンに辿り着けないので、高齢者や疾患により余命が四年を下回っている人はラストエデンに残り穏やかな余生を過ごすことになる。
逆をいえば、ある程度健康であれば誰でもブロッサム・ノアβには乗れるということだ。ここまでキャパシティを増やした技術者たちの研鑽には頭が上がらない。
次に犯罪歴や思想。
移住計画自体の障害になり得る、または更生が見込めず新天地であるスペアエデンでの生活に適応できないと判断された場合はブロッサム・ノアβの搭乗は許されない。
これも逆をいえば犯罪歴があったり服役中の囚人であっても移住計画の障害になり得ず、更生の余地がある人間に関してはブロッサム・ノアβへの搭乗が許される。ある程度社会復帰カリキュラムを受けた人間なら問題なく搭乗できる。
つまり余程の大犯罪者でない限りは基本的に搭乗ができるということだ。
ここも確定予測演算装置マザーを用いて厳格に審査されるが、死刑や無期懲役が確定している人間は基本的にラストエデンの地下収容施設にて安楽死が行われる。
彼女は反移住過激派組織に属する殺人犯。
本来であれば確実にブロッサム・ノアβには乗れないはずの人物なのだが。
これらは全て、お腹の子には適応されない。
文字通り、お腹の子には罪がない。
余命に関してもまだ人生も始まっていない。
この移住計画は人類の存亡をかけたもの、当初は人の命に優先順位もあったくらいだ。
その中で、若ければ若いほどに優先順位は上がる。
だから妊婦に関してはブロッサム・ノアβが五十二機建造されると確定する前から優先的に搭乗されるという話があった。まあこれに関しては政府からの否定も入り、出生管理法も制定されていたので無理矢理妊娠してブロッサム・ノアβへの搭乗権利を得るようなことは出来なかったのだが。
彼女は移住計画最終段階の土壇場で、それをやってのけた。
そして何より、確定予測演算装置マザーによる思想部分の審査においても。
『反移住計画思想無し、移住計画への障害にはなり得ないと判断』
という結果を出した。
彼女はそもそも反移住思想を持っていなかったのだ。
でも反移住過激派組織に属し、テロ行為への着手をして人を二人も殺害したのだった。
そして彼女は厳格な監視体制という条件の下でブロッサム・ノアβ41へと搭乗した。
「なぜあなたはここにいるのか……? 何これ……なんかめちゃくちゃ書かれてるけど」
私、フランソワーズ・フライトは自室の壁に書かれた謎のメッセージを見て思わず声を漏らす。
ヒステリックに投げられた樹脂製のスプーンが棚の裏側に落ちてしまったのを回収するために、棚を動かしたところで謎のメッセージを見つけてしまった。
えっと……『Why are you here?』と……他はアンサーか。
For people in the society!
for myself.
FOR MY FAMILY!
To feed you lot.
全部筆跡も筆記具も違う……。
なるほど……多分これこのメゾンドモンステラ五〇二号室に住んでいたAグループの住人が問いかけて、BCDEってここに住んでいた人がアンサーを書いていったんだ。
そして覚醒期間の順番が最後であるFグループの私が見つけたと……こんなのよく気づくわね。いや私も見つけているわけだけど。
ここにいる理由を問われ、そして立派なアンサーが並ぶ。
「…………はあ」
私は少し考えて、樹脂製のスプーンを回収しため息と共に棚を戻す。
こんな立派な答えを、私はおよそ持ち合わせていない。
できることをやることで、なんとか社会にしがみつくだけ。
この生活……彼女との生活も、その一環でしかない。
「落ち着いたかしらリンダ。検診の時間よ」
「……はいはいどうぞ先生」
私はベッドに横たわる彼女にそう伝えると、やや不貞腐れるように彼女はTシャツをめくってお腹を出す。
さっき食事を摂った後、癇癪のように暴れて食器を投げ散らかした。
まあ食べ終わった空の食器だし、全部樹脂製だから割れたりはしてないし汚れたりもしていないのでそんなに気にしてもいないけど。
彼女のおかげで隠しメッセージにも気づけたしね。
彼女。
リンダ・フローレンス、十八歳。
反移住過激派組織に属していた少女だ。
移住計画を妨害するテロ行為の実行犯として捕らえられた。テロ自体は未遂に終わったが彼女は警備担当のオートマトンを破壊しさらには警備担当の五名を襲い。
そのうち二名を殺害した。
本来であればそもそも彼女はブロッサム・ノアβへの搭乗権利を持たない。
移住計画の妨害、ならびに計画参加者への殺人の着手は一級犯罪……基本的に死刑一択。
移住計画寸前での犯行だった為、ブロッサム・ノアβが旅立った後に地球のラストエデンにて安楽死が行われるはずだった。
しかし彼女はブロッサム・ノアβへの搭乗権利を獲た。
その理由は。
「――三十七週目……うん、胎児共に母体も問題なし。この調子だと今週中には生まれると思う」
私はリンダのお腹からエコースキャン端末を離して、診察システムが読み取ったデータを見ながら診断結果を述べる。
そう、彼女は妊娠していたのだった。
しかも彼女は逮捕時にはまだ妊娠はしていなかった。
彼女は勾留中に自身の死刑が確実だと知ると、留置所管理を行っていた男性を誘惑し半ば強制的に性行為へとおよんだ。
そして刑が確定した後の健康診断で、妊娠が発覚した。
その時点で妊娠周期は二十三週……中絶は法的に不可能な段階だった。
死刑囚に対して勾留中や服役中の健康診断にリソースを割いていなかったらしい。ブロッサム・ノアβ出航の寸前でばたばたしていたというのもあり。
支給されていた生理用品も使わずに捨てていたために、半年も気付けなかった。
ブロッサム・ノアβへの搭乗権利にはかなり緩いが厳格な基準が存在する。
まずは確定予測演算装置マザーが健康状態から計算した余命。
これは覚醒期間の四年間を超えないとスペアエデンに辿り着けないので、高齢者や疾患により余命が四年を下回っている人はラストエデンに残り穏やかな余生を過ごすことになる。
逆をいえば、ある程度健康であれば誰でもブロッサム・ノアβには乗れるということだ。ここまでキャパシティを増やした技術者たちの研鑽には頭が上がらない。
次に犯罪歴や思想。
移住計画自体の障害になり得る、または更生が見込めず新天地であるスペアエデンでの生活に適応できないと判断された場合はブロッサム・ノアβの搭乗は許されない。
これも逆をいえば犯罪歴があったり服役中の囚人であっても移住計画の障害になり得ず、更生の余地がある人間に関してはブロッサム・ノアβへの搭乗が許される。ある程度社会復帰カリキュラムを受けた人間なら問題なく搭乗できる。
つまり余程の大犯罪者でない限りは基本的に搭乗ができるということだ。
ここも確定予測演算装置マザーを用いて厳格に審査されるが、死刑や無期懲役が確定している人間は基本的にラストエデンの地下収容施設にて安楽死が行われる。
彼女は反移住過激派組織に属する殺人犯。
本来であれば確実にブロッサム・ノアβには乗れないはずの人物なのだが。
これらは全て、お腹の子には適応されない。
文字通り、お腹の子には罪がない。
余命に関してもまだ人生も始まっていない。
この移住計画は人類の存亡をかけたもの、当初は人の命に優先順位もあったくらいだ。
その中で、若ければ若いほどに優先順位は上がる。
だから妊婦に関してはブロッサム・ノアβが五十二機建造されると確定する前から優先的に搭乗されるという話があった。まあこれに関しては政府からの否定も入り、出生管理法も制定されていたので無理矢理妊娠してブロッサム・ノアβへの搭乗権利を得るようなことは出来なかったのだが。
彼女は移住計画最終段階の土壇場で、それをやってのけた。
そして何より、確定予測演算装置マザーによる思想部分の審査においても。
『反移住計画思想無し、移住計画への障害にはなり得ないと判断』
という結果を出した。
彼女はそもそも反移住思想を持っていなかったのだ。
でも反移住過激派組織に属し、テロ行為への着手をして人を二人も殺害したのだった。
そして彼女は厳格な監視体制という条件の下でブロッサム・ノアβ41へと搭乗した。
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