0.3%未満の悪魔~Why are you here?~

ラディ

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0.3%未満の悪女

2:臨月

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 現在は都市階層南ブロック十七番地区メゾンドモンステラ五〇二号にて、私と一緒に生活をしている。

 私は出産まで彼女の健康状態をチェックしつつ、監視を行う。
 留置施設などではなく、なぜメゾンドモンステラ五〇二号室なのかといえばこれは単純に設備や立地が良いからだ。

 このメゾンドモンステラはセキュリティもしっかりとしていてネットワーク設備も優秀。
 オートマトンの遠隔操作や様々な専用機器の接続にも対応しているので、専門的な職に就く人が暮らしやすい。
 それに単純に広い、四人家族くらいなら全然住める。

 臨月の妊婦でかつ犯罪者の収容を行うにはちょうどいい。

 まあ私一人で行うわけでもない、部屋の外には治安維持オートマトンも配置されているし彼女の部屋にも各種センサーを取り付けている。窓からの脱出なども行えない。

 普通の医師がこんな役割を担うことはないのだけれど、女性医師で且つ犯罪者対応が可能な学習カリキュラムを終えている人間が私くらいしかいなかった。

「へえ、じゃあやっと酒も煙草もやれるんだ。長かったわ、十月十日……ああ六百年くらい寝てたんだっけ?」

 リンダはまん丸のお腹をしまいながら、他人事のように軽口を言う。

「お酒や煙草に関しては……、期待しない方がいいわよ。健康状態云々とかじゃあなくて、勾留中の被告人に…………いやスペアエデン到着後に再審理されるから今は被疑者なのかな……? とにかくブロッサム・ノアに乗っている間は嗜好品を口にするのは難しいと思うわよ」

 私はリンダの軽口に丁寧に答える。

 出産が無事に終わって健康状態に問題がなければ……一応後で拘留規定を確認しておこうかしら。もしかすると、少量程度なら申請が通るかもしれないし。

「いや私未成年だから、そこツッコんでよ」

「た、確かに……ダメじゃん」

 口元を歪めて言ったリンダの言葉に、私は完全にハッとさせられる。

 十八歳……リンダは妹のアトラと同い年だ。
 アトラとはもう四年は会ってないけど、そっか……もうこのくらいの年頃になってるのね。

 少し前にデータで確認したらなんかアトラもアトラでCグループでちょっと騒ぎを起こして大変みたいだけど……違法端末と銃刀法違反はちょっとやり過ぎだ。
 何をしたかったのかは何となくわかるけど、ちゃんと反省をしてこれからを生きてほしい。

 というか……その時ついでに各グループのログを確認したけれど、色々とトラブルが起こっているみたいだ。

 Bグループでは保管水パイプラインからの水漏れ。
 Cグループでは治安維持アラートの不発。
 Dグループでは気象エンジンシステムの暴走。
 Eグループでは火災検知システムの不具合により火災が発生。

 Aグループ以外はかなり大きなトラブルが発生している……。

 実際、この移住計画に余裕はなかった。
 かなりギリギリで、みんなが必死でなんとか間に合わせた状態だった。
 とにかくブロッサム・ノアβを五十二機建造し、縮退炉を動かして亜光速エンジンにしがみつく。
 なにかが起きたらその都度解決すればいい、とにかくスペアエデンにさえ辿り着く。
 粗もあったし、無事に出航できたという気の緩みもあっただろう。

 ただ人類は必死だった。
 生きるために、なりふり構ってられなかった。

 だからこういったトラブルも起こり得る……まあ流石にちょっと多い気がするけど。
 水漏れに関しては割と移住計画が破綻しかねないトラブルだけど、本当によく気づけたと思う。

 人の必死さは時に凄まじいエネルギーを生む。
 生き残るために必死だった。
 そうやって人類は五十二億人を亜光速で運ぶことまでできている。

 彼女も必死でなんとか生き残ろうとして、結果ここにいる。

 でも……やっぱりおかしい。
 じゃあそもそもなんで反移住過激派組織になんか属していたのだろう。
 反移住過激派組織と関係さえなければ健康なだけで生き残ることはできたのに。

「ねえ……リンダ、気が向いたら教えて欲しいんだけど。あなたはスペアエデンへ行きたいのよね?」

 私は端末でカルテをまとめつつリンダへと尋ねる。

「うん、そりゃあね。地球がダメなんだったら行くしかないでしょ」

 ベッドに腰掛けて、制限端末で雑誌を読みながらリンダはあっさりと答える。

 リンダ・フローレンスに反移住思想はない。
 捜査機関による調査やマザーの確定予測演算を用いた精神鑑定でも証明されている事実……でも。

「でも……それなら何故あなたは、反移住過激派組織に属してテロ行為にまで参加していたの?」

 私はさらに続けて一番の疑問を述べる。

 ただの監視役を兼ねた医師である私が彼女の犯罪行為に対する聴取を行う必要はないし、彼女の人生に踏み込む権利もないけど……。

 少しでも理解はしておきたいと思った。

「あー……あのさ、先生って普通の家の子でしょ。親がいて学校行けて帰る家があって毎日ご飯食べれるみたいな」

 リンダは私の問いかけに、呆れるように語り出す。

 普通の家の子……まあ普通の定義が難しいけど、彼女のいうものを普通とするなら私は確かに普通の家の子だ。

 いたって普通……普通に世の中の流れに乗ろうとして流されていたよくある世帯だった。 

「私はそもそも母親しかいなかったし、前科持ちだったらしいんだよね。んで昔は前科持ちってブロッサム・ノアに乗れないみたいな感じで言われてたんでしょ?」

 リンダの語りは続く。

 これは……確かにその通りだ。
 量産が確定するまでブロッサム・ノアβの搭乗は椅子取りゲームだった。
 政治的影響力のある者やスペアエデンでも役割が与えられる能力を持つ者を優先せざる得ない。
 一応政府は搭乗が抽選になった場合は人種や宗教観などに偏りが起こらないように能力値やスペアエデンでの繁栄を加味して、マザーの確定予測演算を用いて厳正に行われると公表されていたけど……。

 犯罪者や前科のある人の搭乗の優先度は低いと考えざる得なかった。暗黙の了解というか、みんながそう考えていた。

「だから前科持ちはどうせ地球に置いていくからって迫害されてたわけじゃん。したら迫害された人は拠り所を求めるわけじゃん」

 淡々とリンダは語り続ける。

 これも……まあ事実ではある。
 みんな生き残るのに必死で、他者にまで手を伸ばせる人間は少なかった。
 そして手を伸ばす先も、助けたいと真に思える相手に限られる
 残念ながら犯罪者や前科などをもった社会の枠組みから溢れかけている人を救える余力はなかった。

 それを差別や迫害と呼ぶのなら、事実ではある。
 まあ過剰な競争社会において凄まじいマイナスを抱えていたということだ。

「そういう人間を反移住思想のやつらは集めるわけよ」

 低い声でリンダは反移住過激派組織について述べる。
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