123 / 132
32・恋人に棄てられたお嬢様は、凍える聖夜に暖かさを求める。【全6話】
05かっこいい。
しおりを挟む
その様子にどうしてそうなったのかはあんまり詳しくは聞かないようにしようと思った。
酔ってはいるけど配慮はあるのだ。ここで語りきることじゃあない気がするしね。いえーい。
しかし輪廻転生ってクリスマスにえらく仏教的な話を……、まあ今の私にはありがたい。
「それでこの世界でも執事をやってるってこと? 再びお嬢様の生まれ変わりに会うために、色々な家に仕えているの?」
私はワインをちびちび飲みのながら聞いてみる。
「いや全然そんなんじゃない、これは別に俺が他に出来ることがないから似たようなこと仕事にしてるだけだ。そもそもお嬢様に手を出すなんてコンプライアンス的にも職業倫理に反することはしねえよ。あの世界でも本来貴族令嬢と恋仲になるなんて有り得ねえことだったけど、まあ特殊なお嬢様だったんだ。探すのは探すので別でやってる」
彼はそう言って私の手からワインボトルを奪って一口煽ってすぐに返す。
彼も少しお酒が入ってやや饒舌になってきた。
「へーどんなお嬢様だったの? 可愛かった?」
私もなかなかにご機嫌な状態なのでそんな質問をしてみる。
「容姿はまあ可愛らしい感じだったけど、中身は狡猾で打算的で利己主義で大胆不敵。おまけに倫理観や道徳心が足りていないプッツンなお嬢様だった」
優しい顔で彼はとんでもない人物像を述べる。
「ええ……、すんごい悪い子なんじゃないのそれ……」
私は怪訝な表情でそう漏らす。
「あー、まあ善悪で行動する人間ではなかったな。如何に自身の幸せに繋がるかってのが行動原理だから悪い子ってのともまた別だった。実際、学業にも前のめりで好奇心がかなり旺盛でアクティブで勤勉という側面を切り取れば真面目な良い子って見方も出来るしな」
彼は私の感想にそう返して、お嬢様について語り出す。
とんでもエピソードの数々。
彼を騙して逆境を乗り越えたり。
自身の脅威ですら踏み台にして利益を得たり。
友達を作るために大立ち回りしたり。
友達を守るために王様や他の貴族相手にディスカッションしたり。
そんな話を、嬉々として、楽しそうに語った。
「はー、すっごいわねその子。活力というか謳歌する能力というか……、あーあ、私ももっとエゴを通すというか……、漢気を見せるというか……失敗しても私が食わせてやる! とか、ちゃんと私と一緒に生きて! とか言えてたら良かったのかなぁ……」
私は彼のお嬢様の話を聞いて、そんなことを言ってしまう。
まさか二十九にもなってこんなティーンエイジャーのような悩み方をするとは思ってなかった。
ティーンエイジャーの頃に考えていた二十九の私は、もっと落ち着いていて、きっと割り切れる大人になっていると思っていた。
傷つく前に、見切りをつけられるような大人になるんだと思っていた。
酒に酔ってるのもあるし、異世界浪漫譚によって厨二病疾患を刺激されてるのもあるけれど、やっぱり人間は本質的にはティーンエイジャーの頃から変わらないのかもしれない。
それを表に出さなくなるだけ、傷ついてないフリと割り切ったんだと自分を騙して正当化できるようになるだけなんだ。
「いや、無理してもしょうがないんじゃないか。不安だったっていうあんたの素直な思いはその男にちゃんと伝わったから、その男はあんたを安心させるために身を引いたんだろうからさ」
彼は生娘のポエムのようなことを考えて酒にも感傷にも浸って酔ってる私に、さらりとそんなことを言う。
「……え? どゆこと?」
私は彼の言葉に、間抜け面で問う。
「あー、あんまり主語を大きくすんのは好きじゃないんだけど……、野郎ってのは如何にかっこつけて死ぬかを考える傾向にあるんだよ。少なくとも俺は何回生きてもそうだったし、出会ってきた野郎たちもかなりそういう傾向にあった」
彼の興味深い話に、思わず身を乗り出して聞き入る。
「これは誰かにかっこつけたいってよりも、自分の中のかっこよさに従うってのが近いかもな。大人になればなるほどわかって貰えなくても良いと思うようになるんだけどな。それを美学と呼ぶ輩もいるけどそんな立派なもんじゃなくて……、なんつーんだろ、大体あるんだよ自分の中の自分に対する理想となる自分が」
彼は感覚を上手く言語化できるように考えながら続ける。
「まあとにかくその男も自分の中のかっこいいに従ったんだよ。あんたを安心させるために、幸せにするために、不安材料である自分自身を遠ざけることにしたんだろうよ。その感覚は正直すげえわかる」
私は異世界転生執事の説明を聞き、アルコールで鈍る頭で考えてみた。
私を安心させるため、幸せにするため。
きっとそれは当初、独立して成功することがそれに繋がっていたんだ。
でも私は不安を示した。
彼は優秀だ、もちろん勝ち目のある可能な限りリスクの少ない勝負として計画しているはずだ。
でも、決して絶対ではない。
私の不安に関しても理解ができたはずだ。
成功が幸せに繋がり、失敗は不安通りに私を幸せからは遠ざけることだと彼は考えた。
だから彼は私を巻き込むことをやめた。
共有することを、諦めた。
理責めで私を無理やり納得させることも出来ただろう、そのまま成功したら私も手のひらを返して応援しただろう。
でも、それは彼のかっこいいに反することだったんだ。
彼のかっこいいは、私を幸せにするために自分の思いや想いすらも棄ててしまえることだったんだ。
酔ってはいるけど配慮はあるのだ。ここで語りきることじゃあない気がするしね。いえーい。
しかし輪廻転生ってクリスマスにえらく仏教的な話を……、まあ今の私にはありがたい。
「それでこの世界でも執事をやってるってこと? 再びお嬢様の生まれ変わりに会うために、色々な家に仕えているの?」
私はワインをちびちび飲みのながら聞いてみる。
「いや全然そんなんじゃない、これは別に俺が他に出来ることがないから似たようなこと仕事にしてるだけだ。そもそもお嬢様に手を出すなんてコンプライアンス的にも職業倫理に反することはしねえよ。あの世界でも本来貴族令嬢と恋仲になるなんて有り得ねえことだったけど、まあ特殊なお嬢様だったんだ。探すのは探すので別でやってる」
彼はそう言って私の手からワインボトルを奪って一口煽ってすぐに返す。
彼も少しお酒が入ってやや饒舌になってきた。
「へーどんなお嬢様だったの? 可愛かった?」
私もなかなかにご機嫌な状態なのでそんな質問をしてみる。
「容姿はまあ可愛らしい感じだったけど、中身は狡猾で打算的で利己主義で大胆不敵。おまけに倫理観や道徳心が足りていないプッツンなお嬢様だった」
優しい顔で彼はとんでもない人物像を述べる。
「ええ……、すんごい悪い子なんじゃないのそれ……」
私は怪訝な表情でそう漏らす。
「あー、まあ善悪で行動する人間ではなかったな。如何に自身の幸せに繋がるかってのが行動原理だから悪い子ってのともまた別だった。実際、学業にも前のめりで好奇心がかなり旺盛でアクティブで勤勉という側面を切り取れば真面目な良い子って見方も出来るしな」
彼は私の感想にそう返して、お嬢様について語り出す。
とんでもエピソードの数々。
彼を騙して逆境を乗り越えたり。
自身の脅威ですら踏み台にして利益を得たり。
友達を作るために大立ち回りしたり。
友達を守るために王様や他の貴族相手にディスカッションしたり。
そんな話を、嬉々として、楽しそうに語った。
「はー、すっごいわねその子。活力というか謳歌する能力というか……、あーあ、私ももっとエゴを通すというか……、漢気を見せるというか……失敗しても私が食わせてやる! とか、ちゃんと私と一緒に生きて! とか言えてたら良かったのかなぁ……」
私は彼のお嬢様の話を聞いて、そんなことを言ってしまう。
まさか二十九にもなってこんなティーンエイジャーのような悩み方をするとは思ってなかった。
ティーンエイジャーの頃に考えていた二十九の私は、もっと落ち着いていて、きっと割り切れる大人になっていると思っていた。
傷つく前に、見切りをつけられるような大人になるんだと思っていた。
酒に酔ってるのもあるし、異世界浪漫譚によって厨二病疾患を刺激されてるのもあるけれど、やっぱり人間は本質的にはティーンエイジャーの頃から変わらないのかもしれない。
それを表に出さなくなるだけ、傷ついてないフリと割り切ったんだと自分を騙して正当化できるようになるだけなんだ。
「いや、無理してもしょうがないんじゃないか。不安だったっていうあんたの素直な思いはその男にちゃんと伝わったから、その男はあんたを安心させるために身を引いたんだろうからさ」
彼は生娘のポエムのようなことを考えて酒にも感傷にも浸って酔ってる私に、さらりとそんなことを言う。
「……え? どゆこと?」
私は彼の言葉に、間抜け面で問う。
「あー、あんまり主語を大きくすんのは好きじゃないんだけど……、野郎ってのは如何にかっこつけて死ぬかを考える傾向にあるんだよ。少なくとも俺は何回生きてもそうだったし、出会ってきた野郎たちもかなりそういう傾向にあった」
彼の興味深い話に、思わず身を乗り出して聞き入る。
「これは誰かにかっこつけたいってよりも、自分の中のかっこよさに従うってのが近いかもな。大人になればなるほどわかって貰えなくても良いと思うようになるんだけどな。それを美学と呼ぶ輩もいるけどそんな立派なもんじゃなくて……、なんつーんだろ、大体あるんだよ自分の中の自分に対する理想となる自分が」
彼は感覚を上手く言語化できるように考えながら続ける。
「まあとにかくその男も自分の中のかっこいいに従ったんだよ。あんたを安心させるために、幸せにするために、不安材料である自分自身を遠ざけることにしたんだろうよ。その感覚は正直すげえわかる」
私は異世界転生執事の説明を聞き、アルコールで鈍る頭で考えてみた。
私を安心させるため、幸せにするため。
きっとそれは当初、独立して成功することがそれに繋がっていたんだ。
でも私は不安を示した。
彼は優秀だ、もちろん勝ち目のある可能な限りリスクの少ない勝負として計画しているはずだ。
でも、決して絶対ではない。
私の不安に関しても理解ができたはずだ。
成功が幸せに繋がり、失敗は不安通りに私を幸せからは遠ざけることだと彼は考えた。
だから彼は私を巻き込むことをやめた。
共有することを、諦めた。
理責めで私を無理やり納得させることも出来ただろう、そのまま成功したら私も手のひらを返して応援しただろう。
でも、それは彼のかっこいいに反することだったんだ。
彼のかっこいいは、私を幸せにするために自分の思いや想いすらも棄ててしまえることだったんだ。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました
菱沼あゆ
ファンタジー
妹の婚約者を狙う悪女だと罵られ、国を追い出された王女フェリシア。
残忍で好色だと評判のトレラント王のもとに嫁ぐことになるが。
何故か、輿入れの荷物の中には、勇者の剣が入っていた。
後宮にも入れず、魔王を倒しに行くことになったフェリシアは――。
(小説家になろうでも掲載しています)
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~
しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。
それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること!
8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。
どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ!
「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」
かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。
しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。
「今度こそ、私が世界を救って見せる!」
失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!
剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。
イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。
小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。
【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる