始まりの竜

朱璃 翼

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三部 神具編

聖なる一族2

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「おぉー! 未来もシェサーラの空気は変わらねぇな!」

「そうだろ、そうだろ! ここは簡単には変わらねぇよ!」

「……」

 なんとか場を盛り上げようと、秋星とユフィが頑張るも、空気はあまりよくない。

 誰もが琅悸の一件を引きずっているのだ。

「だぁー! いつまでもくよくよすんなよ! あれをなんとかするんだろ!」

「そうだそうだ!」

 町の宿から見える竜王山を指差し、秋星とユフィが怒鳴る。すっかりいいコンビとなったよう。

 このコンビに、飛狛と夜秋は一歩引いて関わらないようにした。巻き込まれたくなかったのだ。

「……そうだな。今は先に進むしかない。少し町へでて情報を得てくる」

 姿を消した琅悸は気になるが、動きを止めることはできない。

「なら、私も行こう。竜王山がどうなっているか、麓街から逃げ出したのがいるかもしれない」

 黒耀と虚空が立ち上がると、町へと出掛けていった。

 今彼らがいるのは、竜王山の南に位置するペリーダという町。誰かが逃げてくるとしたら、ここか東のコルセアだと推測している。

 西南にある町も近いが、ここは天使族が多くいる関係で、竜族が避難するとは思えなかった。

「私はシェサーラに詳しくない。黒耀の考えで動くのがいいな」

「楽をしようとするな」

「ハハハッ。考えることは任せた、魔法槍士殿」

 嫌そうな表情を浮かべる黒耀。けれど、すぐに表情は険しくなる。

 過去からの客人により、彼の中にあった自信は崩れ落ちた。自分よりも格段に能力の高い魔法槍士に、魔法槍士補佐官。自分の方が知識を持っているはずなのに、彼ら三人には知識面でも劣っているように感じる。

 不甲斐なさを感じ、悔しくてたまらない。もっと力があれば、このような事態にはならなかったかもしれないのだ。

「俺は……魔法槍士としては失格だな」

「ならば、私は長として失格だな」

「琅悸か……」

 ユフィから散々聞かされていた。彼の情報は山のようにあったはずなのだ。

 二人の足がピタリと止まる。考えないようにしていても、どうしても頭の片隅に過ってしまう。

「怪我人が南の森に?」

「シャロンから来たのか?」

「かもしれないな。なんか、見覚えがあったような気がするんだ」

 時間が止まったような二人に、町民の会話が聞こえてきた。

「ありゃ、天竜王だよ!」

「天使族の集落へ行ったのかもな」

 ハッとしたように二人の視線が絡む。

「天使族の集落……行ってみよう」

 天竜王がいるというなら、魔法槍士として保護する必要がある。また、街から逃げた民なら、中の様子がわかるはず。

 どちらにしろ、その怪我人へ会いに行く必要がある。二人は頷き合い、意見が同じのを確認するなり宿へ戻っていく。

 一行が町を出たのは、それから一時間とかからなかった。

「ここまで、来ちゃったんだね。柊稀……」

 その姿を悲しげな表情をうかべながら、朱華が見ていたなど気付かずに。



 ペリーダから南へ数日。シェサーラには珍しい森へ入れば、さらに数日ほど馬獣を走らせる。

 森へ入ったという怪我人。急いで捜すべきと、とにかく彼らは急ぐ。

「誰かいる!」

 慌てて馬獣を止める虚空。前方に一人の少女を見つけたのだ。噂の怪我人ではないが、知っているかもしれない。

 聞こうと思い馬獣から降りて近寄った瞬間、少女は弓を構えた。

「あ、あの…近づいたら…攻撃しますよ……」

「えっ、敵じゃないんだが」

 両手をあげて無抵抗を示すが、少女は構えを解く気配がない。

「あの人を…狙っているんですよね…させません……」

「だから、違うんだが…」

 どうすれば信じてくれるのか。彼女の言葉からして、間違いなくこの少女は怪我人を知っている。

「覚悟してください…」

 夜が放たれる。そう思った瞬間、後方から慌てたように蒼翔が走ってきた。

「待って待って! 莱緋! 僕だよ!」

「……蒼翔ちゃん?」

「うん!」

 ハッとしたように周りを見て、恥ずかしそうに少女は木の影へ逃げた。

「すみませんすみません! 蒼翔ちゃんの仲間だなんて思わなかったんです!」

 木から顔だけだし、少女が必死に謝る。誰も責めてはいないのだから、逆に気にするなと宥める。

 それでも謝る少女に、ひたすら気にするなと言い続ける現状。

「莱緋、もういいから! ねっ!」

「う、うん」

 誰も気にしていないと何度目かの説得をすれば、ようやく落ち着いたようだ。

「莱緋は、天使族の長の妹だよ。こう見えても弓の腕はすごいんだから!」

「そ、蒼翔ちゃんより、強くないよ。たまに外すし……」

 次は蒼翔の後ろに隠れる少女。どうやら、人見知りしているようだ。この距離感は当分埋まらないだろう。

 それはそれで可愛いな、とこの少女は見ていて思えた。

「それでね、莱緋。聞きたいことがあるんだ。怪我人こなかった?」

「えっと…」

 言ってもいいのか、少女は戸惑ったように一同を見回す。

「お願い、教えて。魔法槍士殿もいるから」

 何度目かわからない蒼翔の頼みで、ようやく少女は話してくれた。





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