始まりの竜

朱璃 翼

文字の大きさ
74 / 174
三部 神具編

聖なる一族3

しおりを挟む
「星霜殿!」

 黒耀にしては珍しいほど乱暴にドアを開けた。それこそ、小屋を壊す勢いでだ。

「莱緋! 誰を連れてきたんだ!」

「あ、あの……」

 突然の来客。それを妹が連れてきたと気付くなり、兄である莱輝が怒鳴る。

 いつも自分には優しい兄がこんな風に怒鳴るのは初めてで、莱緋がポロポロと涙を流す。

「やめろ!」

 兄妹の修羅場となりそうになった空気に、別の声が呼び止める。

「莱輝、魔法槍士だ。莱緋に非はない。むしろ、よく連れてきてくれた」

「星霜殿…」

 奥から現れた青年。短く切り揃えられた金色の髪に、吸い込まれそうな緑の瞳。

 青年は泣きじゃくる少女の頭を撫でると、ふっと笑みを浮かべる。

「判断は間違ってない。だから泣くな」

「星霜様っ」

 気まずそうに視線を逸らす莱輝に星霜が視線を向ければ、彼は悪かったと謝った。少しばかり警戒心が強くなっていたのだと。

「ほら、泣くな」

 莱輝の気持ちもわかるだろ、と呼びかければ、莱緋は頷きながら泣き続けた。自然に落ち着くのを待つしかないな、と彼は頭を撫で続ける。

 小屋の中へ適当に座る一同。星霜だけがベッドへ腰掛けた。

「なんかさぁ、噂とちげぇんだな」

「えぇ。酷い噂だらけでしたからね」

 遠巻きから見ている双子。彼らはさりげなく、町に寄るごとに情報収集をしていた。情報とは最大の武器になる。関わらないと言いつつも、なにかのためにと続けていた。

 そのため、天竜王の酷い噂をたくさん聞いていたのだ。

 もちろん、彼らは魔法槍士補佐官だ。噂を鵜呑みにするような性格ではない。本人を見てみなければわからないが、それとは別に、嘘であってほしいという気持ちもあったのは事実だ。

「うん。あれは父さんみたいなタイプだね。見た目と中身は違うな」

「あ、じゃあ口癖か。めんどくせぇが」

 めんどくせぇ、とやる気のない天竜王との噂があったことを思いだし、秋星は笑いそうになる。

「どちらにしろ、意図的にやっているのは間違いない。面白い王だね」

 自分達が仕えている王も誇らしいが、こんな王に仕えるのも楽しそうだ。

 こんなことを考えてしまうのも、ついつい町で情報収集してしまうのも、職業病だなと三人は顔を見合わせ笑う。

 長年の習慣は、未来に来たぐらいでは変わらないようだ。干渉しなければ、情報を集めるぐらいはいいだろう、と思うことにした。

 一通りの紹介がされ、過去からの来客には星霜も莱輝、莱緋も驚いたように見る。

「俺達はただの同行者だ。いないものとして扱ってほしいな」

 関与はしいないと飛狛は意思表示する。その意味は、関与はしないが、自分達の身は自分達で護るから気にするなという意味もある。

「わかった。ところで、素にしていいか?」

 真顔で言う青年に三人は笑った。どうやら、魔法槍士が連れてきた仲間がいるため、作っていたようだ。

「どうぞ」

 そんなこと、誰も気にしないだろう。自分達も気にしない。過去の魔法槍士だからと、作る必要はない。

「あー、助かった。あんなしゃべり方してたら、一時間ともたないぜ」

「星霜殿…」

 呆れたようにため息をつく黒耀。こういった性格なのはわかっていたが、これでいいのだろうかとも悩む。

 噂とのギャップにも、就任してすぐは驚かされたものだ。

「あぁ、みんなも気軽に話してくれよ。敬語とかうっとおしい。黒耀はやめてくれないが」

 きっちりやっていたのが嘘のようにだらける姿を見れば、さすがに苦笑いする仲間達。

 気さくな王なのか、だらけた王なのか判断に悩むところ。

 情報交換をするように黒耀が話せば、星霜が竜王山に起きたことを話す。

「緋色の髪をした女が来て、あっというまだったぜ」

「緋色の髪…まさか…朱華……」

 邪教集団は基本的に黒いローブを着ているため、姿がまったくわからない。そんな中、姿を隠さず動いているとすれば彼女しかいない。

(朱華がいるかもしれない。あそこに……)

 ようやく会える。そうわかれば、早くと急かす気持ち。

「そうかもなぁ。聞いたあとだから思えるのかもしんねぇが。馬鹿みたいに強かったぜ」

 被害が周りに出ないよう、竜王山と麓街を氷に閉ざしたと語る星霜。その際に、いくらかの邪教集団は道連れにした。

 逃げ出したのもいるだろうが、まだ近くにいる可能性は高い。

「陽霜は中で氷の維持をしてる。俺が黒耀と連絡をとろうと出てきたんだが、がっつりやられたな。やばかったとこを莱緋に救われた」

 少女との出会いがなければやばかった。星霜はハッキリとそう告げる。

 怪我の状態はと聞かれれば、彼は笑いながら平気だと答えた。天使族の医療は、やはりどこよりも発展している。

 随分乱暴に扱われたが、そのお陰で回復は早い。

「だから、すぐにでも動けるぜ。俺は陽霜ようそうを助けなきゃいけねぇ」

 一人で中を支える陽霜。彼にとっては生まれたときから一緒の半身だ。早く助けたい。

 そして、魔法槍士がいるならそれが可能なのだ。

「もちろんです。陽霜殿を救わなければいけませんし、神具も取り戻さなければいけません」

「……だから、敬語やめろ」

 無駄だとわかりつつ星霜が言えば、背後でぷっと吹き出す秋星。

 生真面目な魔法槍士に困る天竜王。なかなかに面白い関係だと思ったのだ。

「至急、準備します」

「……ハァ。どんだけ真面目なんだよ」

 呆れつつも、星霜が許可を出すように手を振る。これはこの先も変わらないのだろう。

 そろそろ自分が折れるべきなのだろう、と思うのだった。



 史上初、双子で天竜王に即位した二人。その王が怪我をして逃げてきた。一大事だと判断した莱輝は、里には星霜がいることを伝えていない。

 だからこそ、莱輝と莱緋しか使わない小屋にいるのだ。事情を知った一同は旅人として里へ入った。

 小屋に引き続き残った星霜。それに過去の三人と莱緋。

 三人は未来へ干渉はしない。そのため、里に入らずここへ残ると言った。

 今回の一件は、間違いなくこの時代の歴史に残るもの。彼らの仲間として見られるわけにはいかないのだ。可能な限り、彼らとの距離は置いておきたい。

「星霜様、私も今日は帰りますね」

「そんな時間か…」

「キャッ」

 急に引き寄せられた力に莱緋が慌てると、彼は笑う。

「お前、やっぱ面白いわ」

 頭をポンポンと叩くとあっさりと少女を離し、意地悪そうな笑みを向ける。

「うぅー」

「ガキに興味はねぇよ。バーカ」

「子供じゃないもん!」

 とは言うが、星霜から見れば子供に見えてしまうのは仕方ない。

 顔を真っ赤にしてムキになる少女に、星霜はさらに笑う。

「わかったわかった。じゃあ、大人扱いしてやろうか?」

 再び引き寄せて耳元で囁きかければ、固まる莱緋。先程までの威勢はどこへいったのか。

 そっと身体へ触れれば、ビクッと反応するから彼は吹き出す。

「もう、帰る!」

「気を付けて帰れよー」

 遊ばれたと気付き、怒鳴って帰る少女と笑う星霜。一連の流れを見ていた三人は、やれやれと肩を竦める。

「好きな女の子ほどいじめたいって、ガキじゃねぇか」

「まったくですね。秋星ですら、もっと優しかったですよね」

「俺を一緒にすんなよ。いじめて楽しむのはお前だろ」

「なんのことですかね」

 いつも穏やかに笑いながら裏はドSだと片割れに言えば、片割れはとぼけた。

(確かに…夜秋ってSだよなぁ。紫漓しり、大変そう)

 今更ながらに思う飛狛であった。






.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

もしも生まれ変わるなら……〜今度こそは幸せな一生を〜

こひな
恋愛
生まれ変われたら…転生できたら…。 なんて思ったりもしていました…あの頃は。 まさかこんな人生終盤で前世を思い出すなんて!

はじまりは初恋の終わりから~

秋吉美寿
ファンタジー
主人公イリューリアは、十二歳の誕生日に大好きだった初恋の人に「わたしに近づくな!おまえなんか、大嫌いだ!」と心無い事を言われ、すっかり自分に自信を無くしてしまう。 心に深い傷を負ったイリューリアはそれ以来、王子の顔もまともに見れなくなってしまった。 生まれながらに王家と公爵家のあいだ、内々に交わされていた婚約もその後のイリューリアの王子に怯える様子に心を痛めた王や公爵は、正式な婚約発表がなされる前に婚約をなかった事とした。 三年後、イリューリアは、見違えるほどに美しく成長し、本人の目立ちたくないという意思とは裏腹に、たちまち社交界の花として名を馳せてしまう。 そして、自分を振ったはずの王子や王弟の将軍がイリューリアを取りあい、イリューリアは戸惑いを隠せない。 「王子殿下は私の事が嫌いな筈なのに…」 「王弟殿下も、私のような冴えない娘にどうして?」 三年もの間、あらゆる努力で自分を磨いてきたにも関わらず自信を持てないイリューリアは自分の想いにすら自信をもてなくて…。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

【完結】見えてますよ!

ユユ
恋愛
“何故” 私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。 美少女でもなければ醜くもなく。 優秀でもなければ出来損ないでもなく。 高貴でも無ければ下位貴族でもない。 富豪でなければ貧乏でもない。 中の中。 自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。 唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。 そしてあの言葉が聞こえてくる。 見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。 私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。 ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。 ★注意★ ・閑話にはR18要素を含みます。  読まなくても大丈夫です。 ・作り話です。 ・合わない方はご退出願います。 ・完結しています。

【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす
ファンタジー
 女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――? ――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語―― 『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』 五大国から成る異世界の王と たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー ――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。 この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。 ――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして…… その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない―― 出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは? 最後に待つのは幸せか、残酷な運命か―― そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?

処理中です...