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三部 神具編
閉ざされた竜王山
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氷漬けの竜王山。いきなり飛び込む前に、少し偵察をするべきだと提案したのは莱輝。
今どうなっているかはわからない。邪教集団がどれぐらい残っていて、周りにどれぐらい集まっているのか。
朱華がいる以上、かなりの数が配置されている可能性もある。
また、中には二つの神具があり、二人の使い手を相手にしなくてはいけない。
過去の使い手二人、朱華、邪教集団と戦闘が続くことを考えれば、偵察は必要だろう。
急ぐが無計画には行けない。この意見に誰も反対はしなかった。
「……ここは、変わらないんだなぁ」
竜王山から一番近いコルセア。ここには魔法槍士の家がある。
それは今も変わらないらしく、飛狛はなんだか嬉しかった。引き継がれていく家が。
いつ壊されてもおかしくないと思っていただけに、尚更だ。
「昔もここに?」
「うん。元々、魔法槍士の管理下にあったんだけど、じいちゃんが家として使ってたんだ」
母親は使わなかったが、飛狛は独り立ちしてすぐ、継ぐようにここを使った。
深い意味があったわけではない。ただ、誰にも頼らないようにするため、ここへ来たのだ。
懐かしげに見ている過去の魔法槍士へ、黒耀は自分が知る限り魔法槍士はここを使っていると話す。
広大な敷地を持つため、現役がこの部分を使い、引退した者が別の部分を使っているのだと。
「へぇ。ここなんだ」
「あぁ。たぶんあなたや、あなたのおじいさんが使っていたからだろうな」
別に現役だからここを使う必要はない。けれど、そんな決まりができていた。言葉に出して後継者に伝えているわけではなく、自然とそうなったのだ。
「やめてよ。他に理由があるんじゃない」
――いえ、正しいですよ。引退後、飛狛殿が別の棟へ移動されたんです。それがきっかけです――
「マジ?」
――マジです――
すべてを見てきた黒欧が言えば、それは事実なのだ。飛狛は驚いたように黒耀を見る。
「俺を見られても」
「あ、そうだよね」
えへへと笑う青年に、見た目を裏切るだけの力があるなど、誰が思うだろうか。
見た目で判断してはいけない。黒耀は彼を見ているとそれを痛感した。
偵察には黒耀が行くと言った。それに同行を願い出たのは柊稀だ。
「朱華がいるなら、僕は行きたい」
「遭遇する可能性もあるぞ」
その場合、戦闘になることは避けられないだろう。覚悟があるのかと誰もが柊稀を見る。
「ある。僕は朱華から逃げない」
もしも戦うなら、自分が戦うのだと柊稀はそこまで覚悟していた。取り戻すために戦闘は避けられない。
(逃げない……)
取り戻したいという強い意思を見せる青年に、氷穂の心が動く。
(私も…琅悸から逃げている……)
変わり果てた姿から目を背けているのだと気付かされた。見なかったことにして、あの瞬間まで背を向けていた。
「わかった。なら、二人で行こう」
「ありがとう」
出会った当初とは驚くほど変わった青年。その横顔を見ながら、自分が励まされていることに気付く。
(会いに行こう)
一区切りついたら、彼に会いに行くのだ。きっと家にいるだろうから。
今度こそ、彼と向き合うのだ。彼の本当の姿を見て、すべてを受け入れてみせると決意した。
氷穂の瞳に強い光が戻った。
二人がすぐさま偵察へ向かえば、残された側は休息へ入る。偵察の結果が来なければ、今は動くことができないのだ。
それぞれが思い思いに休息をとる中、こっそりと抜け出すのは過去から来た三人。
「あなたも、職業病ですね」
「人のこと言えないだろ」
「だよなぁ。けどよ、状況は知りてぇじゃん。手は出さなくても」
氷漬けの街を見ながら秋星は笑う。自分達で調べないと気が済まないのだ。
「それに、なにかあれば僕達が注意を引けばいいと」
結局はそれが理由なのだろと問いかければ、飛狛は否定しない。そんな気持ちがあることは、嘘ではないから。
「それじゃ、ちょっくらいきますか!」
「まったく、物好きですね」
笑いながら街を見る夜秋に、人のことは言えないだろと秋星が突っ込む。
「そんなこと言ってっと、お前は留守番だぜ。俺の力をあてにしてるんだろ」
「当然でしょ。便利ですね、その力」
「いやぁ、助かるよ。よろしく」
結局、三人ともが物好きであるのだ。しばらく笑っていると、そこからは仕事だと言うように三人は街へ入っていった。
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今どうなっているかはわからない。邪教集団がどれぐらい残っていて、周りにどれぐらい集まっているのか。
朱華がいる以上、かなりの数が配置されている可能性もある。
また、中には二つの神具があり、二人の使い手を相手にしなくてはいけない。
過去の使い手二人、朱華、邪教集団と戦闘が続くことを考えれば、偵察は必要だろう。
急ぐが無計画には行けない。この意見に誰も反対はしなかった。
「……ここは、変わらないんだなぁ」
竜王山から一番近いコルセア。ここには魔法槍士の家がある。
それは今も変わらないらしく、飛狛はなんだか嬉しかった。引き継がれていく家が。
いつ壊されてもおかしくないと思っていただけに、尚更だ。
「昔もここに?」
「うん。元々、魔法槍士の管理下にあったんだけど、じいちゃんが家として使ってたんだ」
母親は使わなかったが、飛狛は独り立ちしてすぐ、継ぐようにここを使った。
深い意味があったわけではない。ただ、誰にも頼らないようにするため、ここへ来たのだ。
懐かしげに見ている過去の魔法槍士へ、黒耀は自分が知る限り魔法槍士はここを使っていると話す。
広大な敷地を持つため、現役がこの部分を使い、引退した者が別の部分を使っているのだと。
「へぇ。ここなんだ」
「あぁ。たぶんあなたや、あなたのおじいさんが使っていたからだろうな」
別に現役だからここを使う必要はない。けれど、そんな決まりができていた。言葉に出して後継者に伝えているわけではなく、自然とそうなったのだ。
「やめてよ。他に理由があるんじゃない」
――いえ、正しいですよ。引退後、飛狛殿が別の棟へ移動されたんです。それがきっかけです――
「マジ?」
――マジです――
すべてを見てきた黒欧が言えば、それは事実なのだ。飛狛は驚いたように黒耀を見る。
「俺を見られても」
「あ、そうだよね」
えへへと笑う青年に、見た目を裏切るだけの力があるなど、誰が思うだろうか。
見た目で判断してはいけない。黒耀は彼を見ているとそれを痛感した。
偵察には黒耀が行くと言った。それに同行を願い出たのは柊稀だ。
「朱華がいるなら、僕は行きたい」
「遭遇する可能性もあるぞ」
その場合、戦闘になることは避けられないだろう。覚悟があるのかと誰もが柊稀を見る。
「ある。僕は朱華から逃げない」
もしも戦うなら、自分が戦うのだと柊稀はそこまで覚悟していた。取り戻すために戦闘は避けられない。
(逃げない……)
取り戻したいという強い意思を見せる青年に、氷穂の心が動く。
(私も…琅悸から逃げている……)
変わり果てた姿から目を背けているのだと気付かされた。見なかったことにして、あの瞬間まで背を向けていた。
「わかった。なら、二人で行こう」
「ありがとう」
出会った当初とは驚くほど変わった青年。その横顔を見ながら、自分が励まされていることに気付く。
(会いに行こう)
一区切りついたら、彼に会いに行くのだ。きっと家にいるだろうから。
今度こそ、彼と向き合うのだ。彼の本当の姿を見て、すべてを受け入れてみせると決意した。
氷穂の瞳に強い光が戻った。
二人がすぐさま偵察へ向かえば、残された側は休息へ入る。偵察の結果が来なければ、今は動くことができないのだ。
それぞれが思い思いに休息をとる中、こっそりと抜け出すのは過去から来た三人。
「あなたも、職業病ですね」
「人のこと言えないだろ」
「だよなぁ。けどよ、状況は知りてぇじゃん。手は出さなくても」
氷漬けの街を見ながら秋星は笑う。自分達で調べないと気が済まないのだ。
「それに、なにかあれば僕達が注意を引けばいいと」
結局はそれが理由なのだろと問いかければ、飛狛は否定しない。そんな気持ちがあることは、嘘ではないから。
「それじゃ、ちょっくらいきますか!」
「まったく、物好きですね」
笑いながら街を見る夜秋に、人のことは言えないだろと秋星が突っ込む。
「そんなこと言ってっと、お前は留守番だぜ。俺の力をあてにしてるんだろ」
「当然でしょ。便利ですね、その力」
「いやぁ、助かるよ。よろしく」
結局、三人ともが物好きであるのだ。しばらく笑っていると、そこからは仕事だと言うように三人は街へ入っていった。
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