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六部 最終決戦編
帰還3
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扉を開けて秋星は驚く。自分が滞在用に使う部屋の中に、最愛の妻がいたからだ。
「おかえり、秋星」
「た、ただいま。なんでいんだ?」
普段、妻は家からはまったく出ない。彼女は身体が強くないこともあるが、子供が幼いのも理由のひとつだ。
霜瀬がいたのだから、一緒に来たのかもしれないが、それでもよく来たなと思う。子供達を任せてまで、来るとは思わなかったというのが本音。
「帰ってくるって聞いたから、来たの。お父さんも行くって言うし。びっくりしたよ。ちょっと借りて未来へ飛ばした、とか言うから」
「あはは……」
そんなストレートに言っているとは思わなかったのだろう。秋星は力なく笑った。
(もう少し言い方はねぇのかよ)
いくらなんでもストレートすぎるだろ、と内心ぼやく。濁さない辺りは白秋らしいが、普通なら信じられる内容ではない。それを疑わなかったのはさすがだと思う。
自分と寄り添うことを選んだ妻なだけある、と。
とにかく留守の間になにもなかったかと確認したところ、十日ほどこちらにいなかったと聞き、妻が元気だったことにホッとする。
身体が弱いから、いない間に体調を崩していたらと不安だったのだ。
もちろん、霜瀬がいるのだから大丈夫だろうとは思っていたのだが、それでも心配になるのは当然のこと。
「玻璃にお土産があるんだ。飛狛が持ち帰りを許してくれたからさ」
「きれいな髪飾り! ほんと、上手だね」
懐から取り出されたのは、彼にしては珍しい髪飾り。妻の長い髪に合わせて作ってきたのだろう。
「こんな石、こっちじゃみたことなかったしよ。飛狛もダメって言わなかったどころか、作らされたしな」
「じゃあ、夜秋さんも?」
「あぁ、作らされた。あいつが一番めんどくせぇ」
妻からしたら十日のことでも、秋星からしたら半年も離れていたのだ。
久しぶりの夫婦の時間に、秋星は妻が見ても珍しいほど口数が多かった。
普段無口なわけではないが、どちらかというと玻璃が話してばかりの関係。それが驚くほど色々な話をしてくるから、それだけで、未来での旅が悪くなかったということなのだと思うことにした。
腕の中の温もりを感じながら、優しい笑みを浮かべる。
死ぬ気で戦ったが、こうやって妻といられれば、死ななくてよかったと思う。無事に帰れたことに安堵している。
「未来は楽しかった?」
「楽しくねぇよ。玻璃がいねぇしさ」
見上げれば、視線を逸らす秋星。子供みたいな姿にクスッと笑った。
たまに見せる子供みたいな表情は、玻璃にしか見せない表情で嬉しかったりする。
「三日はお休みって、伯父さん言ってたよ」
もしかしたら、変わるかもしれないとは言われていたが、伸びる方への変更だろう。
「じゃあ、どっか行くか。ガキども連れてな」
休みを寄越せと文句は言っていたが、実際はすぐさま仕事へ出る予定でいた。夜秋が絶対的に動けないからだ。
想定外の出来事に、家族サービスだと笑う。
「怪我が治るまでは、いいよ」
いるとは思わなかった為、包帯を隠す余裕がなかった。丸見えの包帯に、玻璃が触れる。
「えー、三日もここにいんのかよ」
こういったところが子供なのだと、玻璃は思う。
「ここじゃなくて、家でゆっくりしようよ」
「そうだな。それでもいいか、家族と過ごせるし」
彼にとって家族といることは、なによりも大切な時間。無事、大切な家族の元へ帰れたことを感謝した。
部屋で寝ていようと夜秋が戻る。白麟が用意した部屋が双子の分もあった。
横になってしばらくすると、人の気配で目が覚める。誰かが部屋にやって来たのだ。
安全な場であるとわかっていても、とっさに警戒してしまうのは長年の癖。抜けることはない。
「夜秋、大丈夫?」
「……紫漓ですか」
誰が呼んだのかはすぐにわかった。彼女の兄である霜瀬だろう。店が終わって、急ぎ駆けつけたといったところかもしれない。
「力を使いすぎただけです。向こうで二ヶ月休みましたが、足りなかったみたいです」
「それだけ? 本当に……」
魔法槍士と同じ力の使い方をし、短命である。そのことを彼女には伝えてあった。
それだけではない。紫漓は夜秋が普段から力を抑えていないことも知っており、身体に限界が来たのではないかと不安なのだ。
「それだけです。一度、限界まで高めましたから、その反動がきているだけですよ」
安心させるように穏やかな笑みを浮かべる。
泣きそうな表情を見て、帰ってこられなかったら大変だったな、と思い直す。
(怒りで我を失うなんて、僕らしくないですね。飛狛を泣かせ、紫漓を泣かせる結末になるところでした)
補佐官になった当初では考えもしなかった。泣かせないようにしようなど。
自分の命など、どうなってもいいと思っていたのだから。
そのような考えを知っていたからこそ、秋星はお目付け役として常に一緒だった。飛狛と白麟、どちらもが許さなかったのだ。
「夜秋……魔眼の方は?」
「あー……聞いているのですね」
隠し通すつもりでいたが、どうやらそれは許されないらしいと苦笑いを浮かべる。
「強制的に発動させられたって……」
それによって、相当のダメージを負っていることも聞かされていた。
「まだ、少し不安定ではありますが、マシになりましたから」
だから大丈夫と言ってから、笑いかける。
実際は大丈夫などではない。正直、左目はずっと痛みを発していて、歪みそうになる表情を偽るので精一杯だ。
「しばらく休みになりそうですから、家に帰りますよ」
片割れのように家族サービス優先、などという仕事のやり方はしていない。
長期の休みになりそうなら、たまには家族サービスをするのもいいだろう。そんな風に考えた。未来で温泉など知ったばかりだし、行ってみるのもいいかもしれないと。
未来での旅は、彼を変えたようだ。変化を感じ取った紫漓は、嬉しそうに笑みを浮かべる。
十分に彼は変わったのだが、さらに変わった夜秋からは昔のような危うさは感じられない。
「あっ、でも、店の用心棒はしないと、緋唯には言っておいてくださいよ」
「うん!」
言われなくても、させる気はなかった。せっかく一緒に過ごせるのだから、そんなことのために時間を無駄にはしたくない。
彼が家族サービスなど、もう二度と言わないかもしれないのに、店のために時間を使ってたまるものか、と思ったほどだ。
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「おかえり、秋星」
「た、ただいま。なんでいんだ?」
普段、妻は家からはまったく出ない。彼女は身体が強くないこともあるが、子供が幼いのも理由のひとつだ。
霜瀬がいたのだから、一緒に来たのかもしれないが、それでもよく来たなと思う。子供達を任せてまで、来るとは思わなかったというのが本音。
「帰ってくるって聞いたから、来たの。お父さんも行くって言うし。びっくりしたよ。ちょっと借りて未来へ飛ばした、とか言うから」
「あはは……」
そんなストレートに言っているとは思わなかったのだろう。秋星は力なく笑った。
(もう少し言い方はねぇのかよ)
いくらなんでもストレートすぎるだろ、と内心ぼやく。濁さない辺りは白秋らしいが、普通なら信じられる内容ではない。それを疑わなかったのはさすがだと思う。
自分と寄り添うことを選んだ妻なだけある、と。
とにかく留守の間になにもなかったかと確認したところ、十日ほどこちらにいなかったと聞き、妻が元気だったことにホッとする。
身体が弱いから、いない間に体調を崩していたらと不安だったのだ。
もちろん、霜瀬がいるのだから大丈夫だろうとは思っていたのだが、それでも心配になるのは当然のこと。
「玻璃にお土産があるんだ。飛狛が持ち帰りを許してくれたからさ」
「きれいな髪飾り! ほんと、上手だね」
懐から取り出されたのは、彼にしては珍しい髪飾り。妻の長い髪に合わせて作ってきたのだろう。
「こんな石、こっちじゃみたことなかったしよ。飛狛もダメって言わなかったどころか、作らされたしな」
「じゃあ、夜秋さんも?」
「あぁ、作らされた。あいつが一番めんどくせぇ」
妻からしたら十日のことでも、秋星からしたら半年も離れていたのだ。
久しぶりの夫婦の時間に、秋星は妻が見ても珍しいほど口数が多かった。
普段無口なわけではないが、どちらかというと玻璃が話してばかりの関係。それが驚くほど色々な話をしてくるから、それだけで、未来での旅が悪くなかったということなのだと思うことにした。
腕の中の温もりを感じながら、優しい笑みを浮かべる。
死ぬ気で戦ったが、こうやって妻といられれば、死ななくてよかったと思う。無事に帰れたことに安堵している。
「未来は楽しかった?」
「楽しくねぇよ。玻璃がいねぇしさ」
見上げれば、視線を逸らす秋星。子供みたいな姿にクスッと笑った。
たまに見せる子供みたいな表情は、玻璃にしか見せない表情で嬉しかったりする。
「三日はお休みって、伯父さん言ってたよ」
もしかしたら、変わるかもしれないとは言われていたが、伸びる方への変更だろう。
「じゃあ、どっか行くか。ガキども連れてな」
休みを寄越せと文句は言っていたが、実際はすぐさま仕事へ出る予定でいた。夜秋が絶対的に動けないからだ。
想定外の出来事に、家族サービスだと笑う。
「怪我が治るまでは、いいよ」
いるとは思わなかった為、包帯を隠す余裕がなかった。丸見えの包帯に、玻璃が触れる。
「えー、三日もここにいんのかよ」
こういったところが子供なのだと、玻璃は思う。
「ここじゃなくて、家でゆっくりしようよ」
「そうだな。それでもいいか、家族と過ごせるし」
彼にとって家族といることは、なによりも大切な時間。無事、大切な家族の元へ帰れたことを感謝した。
部屋で寝ていようと夜秋が戻る。白麟が用意した部屋が双子の分もあった。
横になってしばらくすると、人の気配で目が覚める。誰かが部屋にやって来たのだ。
安全な場であるとわかっていても、とっさに警戒してしまうのは長年の癖。抜けることはない。
「夜秋、大丈夫?」
「……紫漓ですか」
誰が呼んだのかはすぐにわかった。彼女の兄である霜瀬だろう。店が終わって、急ぎ駆けつけたといったところかもしれない。
「力を使いすぎただけです。向こうで二ヶ月休みましたが、足りなかったみたいです」
「それだけ? 本当に……」
魔法槍士と同じ力の使い方をし、短命である。そのことを彼女には伝えてあった。
それだけではない。紫漓は夜秋が普段から力を抑えていないことも知っており、身体に限界が来たのではないかと不安なのだ。
「それだけです。一度、限界まで高めましたから、その反動がきているだけですよ」
安心させるように穏やかな笑みを浮かべる。
泣きそうな表情を見て、帰ってこられなかったら大変だったな、と思い直す。
(怒りで我を失うなんて、僕らしくないですね。飛狛を泣かせ、紫漓を泣かせる結末になるところでした)
補佐官になった当初では考えもしなかった。泣かせないようにしようなど。
自分の命など、どうなってもいいと思っていたのだから。
そのような考えを知っていたからこそ、秋星はお目付け役として常に一緒だった。飛狛と白麟、どちらもが許さなかったのだ。
「夜秋……魔眼の方は?」
「あー……聞いているのですね」
隠し通すつもりでいたが、どうやらそれは許されないらしいと苦笑いを浮かべる。
「強制的に発動させられたって……」
それによって、相当のダメージを負っていることも聞かされていた。
「まだ、少し不安定ではありますが、マシになりましたから」
だから大丈夫と言ってから、笑いかける。
実際は大丈夫などではない。正直、左目はずっと痛みを発していて、歪みそうになる表情を偽るので精一杯だ。
「しばらく休みになりそうですから、家に帰りますよ」
片割れのように家族サービス優先、などという仕事のやり方はしていない。
長期の休みになりそうなら、たまには家族サービスをするのもいいだろう。そんな風に考えた。未来で温泉など知ったばかりだし、行ってみるのもいいかもしれないと。
未来での旅は、彼を変えたようだ。変化を感じ取った紫漓は、嬉しそうに笑みを浮かべる。
十分に彼は変わったのだが、さらに変わった夜秋からは昔のような危うさは感じられない。
「あっ、でも、店の用心棒はしないと、緋唯には言っておいてくださいよ」
「うん!」
言われなくても、させる気はなかった。せっかく一緒に過ごせるのだから、そんなことのために時間を無駄にはしたくない。
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