5 / 69
前編
共同生活開始
しおりを挟む
顔合わせだけということもあって、三人は挨拶を終えると帰っていった。
屋敷で生活を共にするといっても、さすがになにも持っていない。着替えすら持っていないのだから、一回帰らなくてはいけないのだ。
翌日からは正式に警護としての任務に就く。
「ウィリディス、明日から楽しくなりそうじゃない?」
二人は一緒に寝るのが当たり前で、ベッドに寝転びながらにこにこと笑うラピエール。
興味なさげだったというのに、会った瞬間に印象は真逆まで変わった。
原因はわかっている。新しい警護に来た天使が、いつもの無機質な天使達とは違ったからだ。だから、興味を持った。
「ルティがね…」
「ルティ?」
一瞬、そんな名前がいただろうかと考えてしまう。
「ストゥルティだよ。ほら、三枚羽根の。ルティって呼んでいいって言ってた」
そうだったかな、と思い返してみるがわからない。もしかしたら、自分が気付かなかったところで話していたのかもしれない。
(いつの間に…)
少しぼんやりしていた自覚はあるだけに、そのときかもしれないと思う。
それでね、と話しだすラピエールは、少しばかり興奮しているようにも見える。
自分よりも長くここにいるだけに、つまらないと思っていた期間も長い。退屈な日々から解放されるかもしれないと思えば、興奮もするのかもしれないと思えた。
「ラピエールはさ、リュツィフェールがいいんだろ」
「えっ…」
本人が恋を理解していないから仕方ないが、間違いなく惹かれている。一目惚れしていると、見ているだけでもわかった。
それも、相手側も同じに見えたからなんとかしてあげたいと思う。
(あの天使も、なんか一目惚れって感じだったな)
互いに一目惚れなんて、そんなことがあるんだなと内心思いながらも、ならば自分はどうなのだろうかと思ってしまった。
(俺は違うか)
少なくとも一目惚れではない。それに叶わない片想いなのだ。
「恋とか、よくわからない。でも…うん、気になるのかも」
それは認めるよ、とラピエールは笑う。
気になるの意味が、恋なのか無機質じゃないからなのか、それはわからないけどと付け足す。
「ウィリディスはどうするのさ。明日からはここで一緒なんだよ」
なにもしないのかと言われれば、なにをするんだよというのが本音。
「……出られないかもしれない。でも、出られるかもしれないじゃん」
絶対ではない。ないと信じたいのだ。
ここから出られる手段がある。自由をいつかは得られると信じていたい。
そうでなければ、この籠の中では生きていけないのだ。
「そうだな…」
いつもは強気なウィリディスが、珍しく弱気になっている。
やはりアルトゥスと出会ったことが響いているのだろうかと、ラピエールが心配そうに見ていた。
「どこか具合悪い?」
それとも体調が悪いのだろうか。成人前の天使は不安定なところが多く、ちょっとしたことでも体調を崩してしまう。
性別が確定していないのが原因だとも言われている。
「そんなんじゃねぇよ」
体調不良ではない。ハッキリと言い切れば、安心したように笑う。
「寝ようぜ」
「そうだね」
おやすみと声をかければ、ウィリディスは明かりを消した。
翌日、荷物を持って楽園に現れた警護の三人。
楽園とは神のためにある場所。神の伴侶となる資格を得た天使がいる場所。
つまり、神の子を産むことが許されたということであり、とても名誉なことだと言われている。これが一般的に知られていること。
けれど、それが本当に名誉なのかはわからない。本人の気持ちなどは考慮されないからだ。
「……誰もいない」
神の子を産む天使がいる場所。そのため、多くの天使が世話のためにいると噂されていただけに、他にも住み込みでいるのだと思っていた三人。
誰もいない屋敷に、思わずストゥルティが呟いていた。
静まり返った屋敷の中。食事を作る者すらいないようだ。
「俺らが全部追い出しちまった」
笑いながら言うから、三人は何度目かわからない驚きを感じている。
主の子を産むための天使。どう見てもきれいな女の子なのに、話せば男の子なのも驚きだが、ここで働いていた天使を追い出すなど、考えもしない。
なんとも勇ましい天使だと思ったほど。
とりあえず、どの部屋を使えばと思いながらアルトゥスとストゥルティが二人に聞こうとした瞬間、どちらともなく嫌なものを感じた。
「……汚い。埃だらけじゃねぇか!」
鋭い目付きで室内を見ているリュツィフェールに、しまったと二人とも思う。
彼のきれい好きは知っていたのだ。とはいえ、ここでこの反応をしてくるとは思っていなかった。相手は神の子を産むための天使なのだから。
「おい、まさかと思うけどよ…」
引きつった笑みを浮かべながら、アルトゥスがリュツィフェールを見る。
この先の行動が容易に想像できたのだ。
「掃除するぞ。まずはきれいにすることが先だ」
当然だといわんばかりのリュツィフェールに、勘弁しろとアルトゥスが逃げ出そうとするから、容赦なく捕まえる。
「お前だけ自宅から通うか?」
それなら逃げてもいいぞと言うから、慌てて首を振った。その姿を見ながら、そんなに遠いのかとラピエールとウィリディスは思ったほどだ。
当然ながら、わかっていてリュツィフェールは言っている。
・
屋敷で生活を共にするといっても、さすがになにも持っていない。着替えすら持っていないのだから、一回帰らなくてはいけないのだ。
翌日からは正式に警護としての任務に就く。
「ウィリディス、明日から楽しくなりそうじゃない?」
二人は一緒に寝るのが当たり前で、ベッドに寝転びながらにこにこと笑うラピエール。
興味なさげだったというのに、会った瞬間に印象は真逆まで変わった。
原因はわかっている。新しい警護に来た天使が、いつもの無機質な天使達とは違ったからだ。だから、興味を持った。
「ルティがね…」
「ルティ?」
一瞬、そんな名前がいただろうかと考えてしまう。
「ストゥルティだよ。ほら、三枚羽根の。ルティって呼んでいいって言ってた」
そうだったかな、と思い返してみるがわからない。もしかしたら、自分が気付かなかったところで話していたのかもしれない。
(いつの間に…)
少しぼんやりしていた自覚はあるだけに、そのときかもしれないと思う。
それでね、と話しだすラピエールは、少しばかり興奮しているようにも見える。
自分よりも長くここにいるだけに、つまらないと思っていた期間も長い。退屈な日々から解放されるかもしれないと思えば、興奮もするのかもしれないと思えた。
「ラピエールはさ、リュツィフェールがいいんだろ」
「えっ…」
本人が恋を理解していないから仕方ないが、間違いなく惹かれている。一目惚れしていると、見ているだけでもわかった。
それも、相手側も同じに見えたからなんとかしてあげたいと思う。
(あの天使も、なんか一目惚れって感じだったな)
互いに一目惚れなんて、そんなことがあるんだなと内心思いながらも、ならば自分はどうなのだろうかと思ってしまった。
(俺は違うか)
少なくとも一目惚れではない。それに叶わない片想いなのだ。
「恋とか、よくわからない。でも…うん、気になるのかも」
それは認めるよ、とラピエールは笑う。
気になるの意味が、恋なのか無機質じゃないからなのか、それはわからないけどと付け足す。
「ウィリディスはどうするのさ。明日からはここで一緒なんだよ」
なにもしないのかと言われれば、なにをするんだよというのが本音。
「……出られないかもしれない。でも、出られるかもしれないじゃん」
絶対ではない。ないと信じたいのだ。
ここから出られる手段がある。自由をいつかは得られると信じていたい。
そうでなければ、この籠の中では生きていけないのだ。
「そうだな…」
いつもは強気なウィリディスが、珍しく弱気になっている。
やはりアルトゥスと出会ったことが響いているのだろうかと、ラピエールが心配そうに見ていた。
「どこか具合悪い?」
それとも体調が悪いのだろうか。成人前の天使は不安定なところが多く、ちょっとしたことでも体調を崩してしまう。
性別が確定していないのが原因だとも言われている。
「そんなんじゃねぇよ」
体調不良ではない。ハッキリと言い切れば、安心したように笑う。
「寝ようぜ」
「そうだね」
おやすみと声をかければ、ウィリディスは明かりを消した。
翌日、荷物を持って楽園に現れた警護の三人。
楽園とは神のためにある場所。神の伴侶となる資格を得た天使がいる場所。
つまり、神の子を産むことが許されたということであり、とても名誉なことだと言われている。これが一般的に知られていること。
けれど、それが本当に名誉なのかはわからない。本人の気持ちなどは考慮されないからだ。
「……誰もいない」
神の子を産む天使がいる場所。そのため、多くの天使が世話のためにいると噂されていただけに、他にも住み込みでいるのだと思っていた三人。
誰もいない屋敷に、思わずストゥルティが呟いていた。
静まり返った屋敷の中。食事を作る者すらいないようだ。
「俺らが全部追い出しちまった」
笑いながら言うから、三人は何度目かわからない驚きを感じている。
主の子を産むための天使。どう見てもきれいな女の子なのに、話せば男の子なのも驚きだが、ここで働いていた天使を追い出すなど、考えもしない。
なんとも勇ましい天使だと思ったほど。
とりあえず、どの部屋を使えばと思いながらアルトゥスとストゥルティが二人に聞こうとした瞬間、どちらともなく嫌なものを感じた。
「……汚い。埃だらけじゃねぇか!」
鋭い目付きで室内を見ているリュツィフェールに、しまったと二人とも思う。
彼のきれい好きは知っていたのだ。とはいえ、ここでこの反応をしてくるとは思っていなかった。相手は神の子を産むための天使なのだから。
「おい、まさかと思うけどよ…」
引きつった笑みを浮かべながら、アルトゥスがリュツィフェールを見る。
この先の行動が容易に想像できたのだ。
「掃除するぞ。まずはきれいにすることが先だ」
当然だといわんばかりのリュツィフェールに、勘弁しろとアルトゥスが逃げ出そうとするから、容赦なく捕まえる。
「お前だけ自宅から通うか?」
それなら逃げてもいいぞと言うから、慌てて首を振った。その姿を見ながら、そんなに遠いのかとラピエールとウィリディスは思ったほどだ。
当然ながら、わかっていてリュツィフェールは言っている。
・
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言
夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので……
短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
このお話は小説家になろう様にも掲載しています。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる