堕天使の愛

朱璃 翼

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前編

共同生活開始

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 顔合わせだけということもあって、三人は挨拶を終えると帰っていった。

 屋敷で生活を共にするといっても、さすがになにも持っていない。着替えすら持っていないのだから、一回帰らなくてはいけないのだ。

 翌日からは正式に警護としての任務に就く。

「ウィリディス、明日から楽しくなりそうじゃない?」

 二人は一緒に寝るのが当たり前で、ベッドに寝転びながらにこにこと笑うラピエール。

 興味なさげだったというのに、会った瞬間に印象は真逆まで変わった。

 原因はわかっている。新しい警護に来た天使が、いつもの無機質な天使達とは違ったからだ。だから、興味を持った。

「ルティがね…」

「ルティ?」

 一瞬、そんな名前がいただろうかと考えてしまう。

「ストゥルティだよ。ほら、三枚羽根の。ルティって呼んでいいって言ってた」

 そうだったかな、と思い返してみるがわからない。もしかしたら、自分が気付かなかったところで話していたのかもしれない。

(いつの間に…)

 少しぼんやりしていた自覚はあるだけに、そのときかもしれないと思う。

 それでね、と話しだすラピエールは、少しばかり興奮しているようにも見える。

 自分よりも長くここにいるだけに、つまらないと思っていた期間も長い。退屈な日々から解放されるかもしれないと思えば、興奮もするのかもしれないと思えた。

「ラピエールはさ、リュツィフェールがいいんだろ」

「えっ…」

 本人が恋を理解していないから仕方ないが、間違いなく惹かれている。一目惚れしていると、見ているだけでもわかった。

 それも、相手側も同じに見えたからなんとかしてあげたいと思う。

(あの天使も、なんか一目惚れって感じだったな)

 互いに一目惚れなんて、そんなことがあるんだなと内心思いながらも、ならば自分はどうなのだろうかと思ってしまった。

(俺は違うか)

 少なくとも一目惚れではない。それに叶わない片想いなのだ。

「恋とか、よくわからない。でも…うん、気になるのかも」

 それは認めるよ、とラピエールは笑う。

 気になるの意味が、恋なのか無機質じゃないからなのか、それはわからないけどと付け足す。

「ウィリディスはどうするのさ。明日からはここで一緒なんだよ」

 なにもしないのかと言われれば、なにをするんだよというのが本音。

「……出られないかもしれない。でも、出られるかもしれないじゃん」

 絶対ではない。ないと信じたいのだ。

 ここから出られる手段がある。自由をいつかは得られると信じていたい。

 そうでなければ、この籠の中では生きていけないのだ。

「そうだな…」

 いつもは強気なウィリディスが、珍しく弱気になっている。

 やはりアルトゥスと出会ったことが響いているのだろうかと、ラピエールが心配そうに見ていた。

「どこか具合悪い?」

 それとも体調が悪いのだろうか。成人前の天使は不安定なところが多く、ちょっとしたことでも体調を崩してしまう。

 性別が確定していないのが原因だとも言われている。

「そんなんじゃねぇよ」

 体調不良ではない。ハッキリと言い切れば、安心したように笑う。

「寝ようぜ」

「そうだね」

 おやすみと声をかければ、ウィリディスは明かりを消した。



 翌日、荷物を持って楽園に現れた警護の三人。

 楽園とは神のためにある場所。神の伴侶となる資格を得た天使がいる場所。

 つまり、神の子を産むことが許されたということであり、とても名誉なことだと言われている。これが一般的に知られていること。

 けれど、それが本当に名誉なのかはわからない。本人の気持ちなどは考慮されないからだ。

「……誰もいない」

 神の子を産む天使がいる場所。そのため、多くの天使が世話のためにいると噂されていただけに、他にも住み込みでいるのだと思っていた三人。

 誰もいない屋敷に、思わずストゥルティが呟いていた。

 静まり返った屋敷の中。食事を作る者すらいないようだ。

「俺らが全部追い出しちまった」

 笑いながら言うから、三人は何度目かわからない驚きを感じている。

 主の子を産むための天使。どう見てもきれいな女の子なのに、話せば男の子なのも驚きだが、ここで働いていた天使を追い出すなど、考えもしない。

 なんとも勇ましい天使だと思ったほど。

 とりあえず、どの部屋を使えばと思いながらアルトゥスとストゥルティが二人に聞こうとした瞬間、どちらともなく嫌なものを感じた。

「……汚い。埃だらけじゃねぇか!」

 鋭い目付きで室内を見ているリュツィフェールに、しまったと二人とも思う。

 彼のきれい好きは知っていたのだ。とはいえ、ここでこの反応をしてくるとは思っていなかった。相手は神の子を産むための天使なのだから。

「おい、まさかと思うけどよ…」

 引きつった笑みを浮かべながら、アルトゥスがリュツィフェールを見る。

 この先の行動が容易に想像できたのだ。

「掃除するぞ。まずはきれいにすることが先だ」

 当然だといわんばかりのリュツィフェールに、勘弁しろとアルトゥスが逃げ出そうとするから、容赦なく捕まえる。

「お前だけ自宅から通うか?」

 それなら逃げてもいいぞと言うから、慌てて首を振った。その姿を見ながら、そんなに遠いのかとラピエールとウィリディスは思ったほどだ。

 当然ながら、わかっていてリュツィフェールは言っている。






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