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前編
惹かれていく感情
しおりを挟む視線を向ければ隣へとやってきたリュツィフェール。熱が上がってきていて、動きたくないと思っていたことから助かったと思う。
「リュツィフェールはどうする気だ」
心が動いているだろ、と問いかけられれば、否定はしない。自分の心が動いていることは事実であり、ラピエールへの気持ちが強くなっている。
誰かを笑うことも、炊きつけることもしていられない。
「あっという間に、主に取られちまうぞ」
さっさと決めなければ、取られるぞと言われて、わかっていると視線だけで伝えた。
ラピエールは年齢的にウィリディスのひとつ上。成人まで一年しかないのだ。のんびりしている時間はない。
「惚れてるだろ」
「わからない」
これを恋と呼ぶのかわからないというのが本音。しかし、特別だということも事実である。主にやれない、とどこかで思っている。
「もしかしてよ、お前も感じてるか。手に入れたかったものを手にした、とか」
「いや……俺はどこかで会ったことがあるような、そんな気持ちだ」
あり得ないとわかっているのだが、なぜか初めて会ったときから思っていた。
なるほど、と呟くアルトゥス。彼がこう感じているということは、自分達の感情はもっと前からくるのかもしれないと考え直す。
天使は輪廻を繰り返す存在だ。本当かどうか疑わしい話だが、まったくの嘘ではないのかもしれない。
「俺達が輪廻していると、言いたいわけか」
「そうじゃなきゃ、手にしたかったものを手に入れた、などという気持ちにならねぇって。俺らがあっさりと、信じるか?」
周りはすべて敵。そうやって生きてきたのに、と問いかけられれば、リュツィフェールは視線を逸らす。
その通りだと思ってしまったのだ。なぜかラピエールには警戒心が持てない。楽園で育ったから、と言い聞かせてきたのだが、そういった可能性もある。
「ストゥルティと俺らは違う。あいつは信じることができるやつだが、俺らは誰も信じられない。そうだろ」
鋭い視線がどうだと問いかけてくると、否定することなく受け流す。
「一番信用できないのは、愛情だろ。お前がそれを手にしたのは予想外だ」
愛情など、欠片も信じてはいない。欲しいと思っていなければ、必要とも思ってはいなかったはずだ。
自分が同じだけに、彼をここまで動かしたウィリディスはすごいと思っている。同時に、ラピエールにどこか畏怖を覚えていた。
自分が変わっていくような感覚。心が動いていく現状が、受け止めきれていないのだ。
「俺達は、ずっと化け物だった…」
「あぁ。忌み子、化け物と呼ばれ、親からも遠ざけられて生きてきた。愛情なんてもらったことがねぇ。だから、そんな感情が芽生えたら怖いんだろ」
少し前の自分だと、自嘲気味に笑うアルトゥス。同じところにリュツィフェールはいる。
自分に訪れている変化を受け止めきれず、主のものに手をだしてはいけないと考えるようにしているのだ。
「……なぁ、俺らが主に忠誠を誓う意味ってなんだ?」
「急にどうした」
「いや、たまに考えるんだよ。俺らは好き好んでこう生まれたわけじゃねぇのに、こんな扱いを受けて……助けてくれるわけじゃねぇし。主はすべてを見ている偉大な存在だろ」
なら、なぜ助けてくれないと言われ、リュツィフェールは言葉に詰まる。そのようなことを考えたことがなかったのだ。
彼は、このようなことを考えていたのかとすら思う。一体、いつから考えていたのかと。
楽園に来る前からなのか、ウィリディスのことがあってなのか。
「場所を考えて発言しろよ。さすがに、ここでの発言はやばくないか」
楽園は主のためにある場所。誰がどこで聞き耳立てていてもおかしくないと視線が語り掛ける。
「いや、ウィリディスに手を出した時点どうでもよくなっちまって。今更だろ」
「まぁ、な……」
誰かが見に来た瞬間、アルトゥスは間違いなくやばい状態だ。本人が隠す気もなくなってしまったことから、誤魔化すこともできないだろう。
どうするつもりなのか、と視線を向ける。
「いや、そもそもだけどよ、本気になったら俺らの方が強いんじゃね」
「……否定できないのが悲しいな」
少なくとも、この周辺にいる天使達は自分より弱いだろう。もっと上が来た場合はどうなるのかわからないが、とリュツィフェールですら思っていたことだ。
まるで、わざとそうしているようだ、と。
(だからこそ、アルノームを外に置いたんだが)
なにかしらの情報が入るかもしれないと思っての行動だった。
楽園に忍び込むような天使だから、敵にはならないと信じたいところだったが、敵になった場合も含めてなのは誰にも言ってはいない。
それにしても、とアルトゥスは呟く。この先、どうするかなというのが最大の悩みだ。
「かっさらっちゃえば?」
「ルーメン、よくわからずに混ざってくるな」
わかっていないくせに、絶妙に会話が合っているから、リュツィフェールは苦笑いを浮かべて見ていた。
「あれ? やっぱあてずっぽうはダメかぁ。で、なんの話してたの?」
混ぜてと言うから、あっちに行っていろとアルトゥスは追い払う。リュツィフェールと話しているときは、基本的にストゥルティすら混ざらせないのだ。
だからか、苦笑いを浮かべつつもストゥルティが呼び寄せる。二人は今、大事な話をしているとわかっているのだ。
「……かっさらうのも有りだよな」
自分達の実力なら、連れ出すだけなら問題ない。その後を考えなくてはいけないが、とぼやくから、本気かと見る。
「堕天してもいいと思ってる。あいつを主にくれてやるぐらいなら」
お前はどうだ、と視線を向けられた瞬間、リュツィフェールは応えることができなかった。どこかで答えは決まっているとわかっていたのに、天使としての本能が受け付けなかったのだ。
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