堕天使の愛

朱璃 翼

文字の大きさ
23 / 69
前編

惹かれていく感情

しおりを挟む

 視線を向ければ隣へとやってきたリュツィフェール。熱が上がってきていて、動きたくないと思っていたことから助かったと思う。

「リュツィフェールはどうする気だ」

 心が動いているだろ、と問いかけられれば、否定はしない。自分の心が動いていることは事実であり、ラピエールへの気持ちが強くなっている。

 誰かを笑うことも、炊きつけることもしていられない。

「あっという間に、主に取られちまうぞ」

 さっさと決めなければ、取られるぞと言われて、わかっていると視線だけで伝えた。

 ラピエールは年齢的にウィリディスのひとつ上。成人まで一年しかないのだ。のんびりしている時間はない。

「惚れてるだろ」

「わからない」

 これを恋と呼ぶのかわからないというのが本音。しかし、特別だということも事実である。主にやれない、とどこかで思っている。

「もしかしてよ、お前も感じてるか。手に入れたかったものを手にした、とか」

「いや……俺はどこかで会ったことがあるような、そんな気持ちだ」

 あり得ないとわかっているのだが、なぜか初めて会ったときから思っていた。

 なるほど、と呟くアルトゥス。彼がこう感じているということは、自分達の感情はもっと前からくるのかもしれないと考え直す。

 天使は輪廻を繰り返す存在だ。本当かどうか疑わしい話だが、まったくの嘘ではないのかもしれない。

「俺達が輪廻していると、言いたいわけか」

「そうじゃなきゃ、手にしたかったものを手に入れた、などという気持ちにならねぇって。俺らがあっさりと、信じるか?」

 周りはすべて敵。そうやって生きてきたのに、と問いかけられれば、リュツィフェールは視線を逸らす。

 その通りだと思ってしまったのだ。なぜかラピエールには警戒心が持てない。楽園で育ったから、と言い聞かせてきたのだが、そういった可能性もある。

「ストゥルティと俺らは違う。あいつは信じることができるやつだが、俺らは誰も信じられない。そうだろ」

 鋭い視線がどうだと問いかけてくると、否定することなく受け流す。

「一番信用できないのは、愛情だろ。お前がそれを手にしたのは予想外だ」

 愛情など、欠片も信じてはいない。欲しいと思っていなければ、必要とも思ってはいなかったはずだ。

 自分が同じだけに、彼をここまで動かしたウィリディスはすごいと思っている。同時に、ラピエールにどこか畏怖を覚えていた。

 自分が変わっていくような感覚。心が動いていく現状が、受け止めきれていないのだ。

「俺達は、ずっと化け物だった…」

「あぁ。忌み子、化け物と呼ばれ、親からも遠ざけられて生きてきた。愛情なんてもらったことがねぇ。だから、そんな感情が芽生えたら怖いんだろ」

 少し前の自分だと、自嘲気味に笑うアルトゥス。同じところにリュツィフェールはいる。

 自分に訪れている変化を受け止めきれず、主のものに手をだしてはいけないと考えるようにしているのだ。

「……なぁ、俺らが主に忠誠を誓う意味ってなんだ?」

「急にどうした」

「いや、たまに考えるんだよ。俺らは好き好んでこう生まれたわけじゃねぇのに、こんな扱いを受けて……助けてくれるわけじゃねぇし。主はすべてを見ている偉大な存在だろ」

 なら、なぜ助けてくれないと言われ、リュツィフェールは言葉に詰まる。そのようなことを考えたことがなかったのだ。

 彼は、このようなことを考えていたのかとすら思う。一体、いつから考えていたのかと。

 楽園に来る前からなのか、ウィリディスのことがあってなのか。

「場所を考えて発言しろよ。さすがに、ここでの発言はやばくないか」

 楽園は主のためにある場所。誰がどこで聞き耳立てていてもおかしくないと視線が語り掛ける。

「いや、ウィリディスに手を出した時点どうでもよくなっちまって。今更だろ」

「まぁ、な……」

 誰かが見に来た瞬間、アルトゥスは間違いなくやばい状態だ。本人が隠す気もなくなってしまったことから、誤魔化すこともできないだろう。

 どうするつもりなのか、と視線を向ける。

「いや、そもそもだけどよ、本気になったら俺らの方が強いんじゃね」

「……否定できないのが悲しいな」

 少なくとも、この周辺にいる天使達は自分より弱いだろう。もっと上が来た場合はどうなるのかわからないが、とリュツィフェールですら思っていたことだ。

 まるで、わざとそうしているようだ、と。

(だからこそ、アルノームを外に置いたんだが)

 なにかしらの情報が入るかもしれないと思っての行動だった。

 楽園に忍び込むような天使だから、敵にはならないと信じたいところだったが、敵になった場合も含めてなのは誰にも言ってはいない。

 それにしても、とアルトゥスは呟く。この先、どうするかなというのが最大の悩みだ。

「かっさらっちゃえば?」

「ルーメン、よくわからずに混ざってくるな」

 わかっていないくせに、絶妙に会話が合っているから、リュツィフェールは苦笑いを浮かべて見ていた。

「あれ? やっぱあてずっぽうはダメかぁ。で、なんの話してたの?」

 混ぜてと言うから、あっちに行っていろとアルトゥスは追い払う。リュツィフェールと話しているときは、基本的にストゥルティすら混ざらせないのだ。

 だからか、苦笑いを浮かべつつもストゥルティが呼び寄せる。二人は今、大事な話をしているとわかっているのだ。

「……かっさらうのも有りだよな」

 自分達の実力なら、連れ出すだけなら問題ない。その後を考えなくてはいけないが、とぼやくから、本気かと見る。

「堕天してもいいと思ってる。あいつを主にくれてやるぐらいなら」

 お前はどうだ、と視線を向けられた瞬間、リュツィフェールは応えることができなかった。どこかで答えは決まっているとわかっていたのに、天使としての本能が受け付けなかったのだ。




.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...