堕天使の愛

朱璃 翼

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前編

悪魔の侵入2

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 息がうまく吸えない。助けてという言葉すら、発することができなくなっていた。次になにをされるかなど、考えたくもない。

「んあっ…」

 指が女の部分を撫でている。男の部分には興味がなく、完全にこちらを狙っているのだとわかれば、ラピエールの身体が痙攣を起こす。

 やばいと思ったのは見ていることしかできないウィリディスだ。このままだと、ラピエールの心が壊れるともがく。

 助けなくては、という気持ちだけで必死に足掻いた。

「ラピ! 俺の声が聞こえるか!」

 おかしな音を立てながら呼吸をする姿に、くそったれと怒鳴る。身体が動かないウィリディスには、暴言を吐きだすことしかできないからだ。

(俺が、弱いから……)

 もっと強い力を持っていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。悔しさで震えながら、それでも抗うのだと悪魔を睨みつける。

「ふむ…威勢のいいガキだな。それほどまでにもやられたいというなら、お前を先にやってやろう。こちらは、どっちが先でもいいからな」

 悪魔がニヤリと笑った瞬間、ウィリディスの視界は変わっていた。


 押し倒されたのだと気付くのに、数秒を要した。ハッとしたときには遅く、ざらついた舌が身体を這っている。

「お前は、口は悪いが胸に膨らみがあるな」

「やめろっ…さわ…なっ…」

 迷いが生じたことで、微かに膨らみを持つ胸へ手を伸ばす悪魔。気持ち悪いと思いながら、それでも怯えた姿など見せるものかと、強気な態度を崩さないウィリディス。

 負けてなるものか、という気持ちだけでなんとか立ち向かっているが、結局身体は動かない。

「うっ、くっ…ああっ…」

「さっきまでの威勢はどこにいった?」

「うっせぇ!」

 気持ち悪くてたまらない感覚に、なんとか堪える状態。睨みつけることだけは忘れないようにしているが、それしかできない。

 笑いながら身体を撫でまわす手は、どうみてもわざとやっている。ウィリディスの反応を見ながら楽しんでいるのだ。

(助けて……アルトゥスっ…助けて……)

 ぎゅっと目を瞑り、悪魔が触るのを耐えた。これだけ怒鳴り散らして誰もこないということは、来られないようになっているのかもしれない。

 もしもそうなら、ウィリディスには絶望でしかなかった。

 自分に触れていいのは、主でも悪魔でもない。アルトゥスだけなのだ。彼以外に触れられたくないと強く思う。

「ククッ…その目を絶望で壊したくなるな」

 態度だけは変わらない姿を見て、悪魔は面白いと女の部分に手を伸ばす。濡れているのを知れば、ニヤリと笑って見せつける。

 これが現実だと突きつけるように。ウィリディスのすべてを壊してやろうと。

「どうやら成人前の子供みたいだが、ここはしっかりと濡れるのだな」

「くそが…誰がお前なんか! うわっ…くっ…あぁっ…」

 ふざけるなと罵ろうとした瞬間、指が入ってくる感覚に、激しい嫌悪で気持ち悪くなる。吐きそうなほどで、自分の中でなにかが警告を発し始めた。

「いやだっ…やめっ…」

 壊れると、ウィリディスが手を握り締める。このままだと自分が壊れてしまう。

 気持ち悪いのに感じてしまう自分に、これ以上は耐えられない。なにかが音を立てて崩れていく。うまく息を吸えなくなり、胸が苦しいと表情が歪む。

「アル…トゥス……」

 助けてと小さく呟くと、ウィリディスの頬を涙が零れ落ちた。

 酷い苦しみの中、女の部分になにかが宛がわれていると知る。

「ウィリ…ディス……」

 弱々しいラピエールの声に、ごめんと心の中で呟く。護れず、助けを呼ぶこともできずにごめんと。

 自分がやられたら、次は間違いなくラピエールだ。わかっていても、ウィリディスは己が壊れていく音しか聞こえていない。

「俺の天使に手をだしやがって、許さねぇぞ!」

 暗闇に落ちる寸前、ずっと求めていた声が聞こえてきた気がして、ウィリディスが少しだけ持ち直す。

「しっかりしろ! ウィリディス!」

 視界に真っ赤な翼を捉え、現実なのだと知る。アルトゥスがやってきてくれたのだと。なにかを伝えようとするが、うまく声はでない。

 ごめん、と唇が微かに動き、身体が力を失う。自分はこのまま死ぬのかもしれない。アルトゥスの腕の中で死ねるなら、それもいいかもしれないと目を閉じる。

 その瞬間、唇に触れる温もりと、流れ込む温かい気を感じ取った。アルトゥスが気を送り込んでいるのだと、最後にそこまで考えて意識を手放す。




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