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前編
なにをしても…2
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「うっ…やっ…やめて……」
気を乱して意識を失っていたラピエール。やっと意識が戻ったかと安堵したのは一瞬で、眠ると襲われたときのことを夢に見てうなされる。
「やだっ…」
助けを求めるように伸ばされた手をしっかりと握り締め、リュツィフェールは己の感情を突きつけられた。
誤魔化すことも、諦めることもできない。それほどに惚れているのだと、認めるしかなかった。
「いやぁぁぁぁ!」
叫んで飛び起きたラピエールに、また始まったと表情が険しくなる。
「ハァ…ハァ…くっ…あっ…」
うまく呼吸ができなくなり、苦しげに胸を掻きむしる姿に、気が乱れたのだと抱き締めた。怯えさせないように優しく頬へ手を添えると、唇が触れるか触れないかの距離まで顔を近づけて気を送る。
ウィリディスには躊躇うことなくできた行為が、ラピエールにはできなかった。
触れてしまったら最後。歯止めが利かなくなると思っていたのだ。今ならアルトゥスの気持ちが痛いぐらいに理解できると思う。
冷たくしていなければ、抑えられなかったほど気持ちが強かったのだろうと。
直接送り込む方が効果の出るのも早いとわかっていても、あと一歩を踏み込めない。乱れた気が落ち着くのに時間がかかるとわかっているのに、踏み込めないのだ。
「ごめん…なさい……ごめん……」
落ち着いたラピエールが、涙を流しながら謝罪を繰り返す。
自分のせいでウィリディスが、と思っている。だからこそ、何度も謝り続ける姿に、胸が痛くてたまらない。
このような感情があったなど、驚きでしかなかった。すべてラピエールがもたらし変化だ。
「お前のせいじゃない…俺達が護れなかったのがいけないんだ……」
だから、それ以上責めるなと伝えるように抱き締める。どうしたら責めるのをやめてくれるのか、リュツィフェールにはわからない。
眠った姿を確認して、ゆっくりと身体を寝かせる。しばらくしたら、またうなされるとわかっていたし、気を乱すこともわかっていた。
(あと何回、繰り返す……)
今すぐにでも自分のものにしたい、という欲望が強まっていく。アルトゥスが完全に手を出していることから、自分までと辛うじて抑えている状態なのだ。
主の天使を二人ともとなれば、さすがになにが起きるかわからない。
どうしたらいいかと頭を抱えていれば、誰かがやってくる音。一瞬だけ警戒したが、気配がアルノームだとわかれば一息つく。
「僕だけど、いい?」
「あぁ」
予定外の訪問ではあるが、正式に手続きして入ってきているなら問題はないだろう。
むしろ、予定外だからこそなにかあると思えた。アルノームは、外から楽園を探ってくれている人材だ。
「これね、ラピエールの好きな物なんだ。あとであげて」
少し変わった果物を差し出しつつ、室内に入ってくる。楽園にくる口実として用意したのは明らかで、緊張した様子からなにかを警戒しているのだと察し、すぐさま結界を張った。
「声は外に漏れない。安心しろ」
誰かに見られている可能性を視野に入れているのだと、この様子で十分に理解できる。
「ありがとう。リュツィフェール、ここの秘密がわかった。楽園は、主のためにある場所なんかじゃない。ここは、地獄みたいな場所だ」
真剣な表情でアルノームが言えば、詳しく話せとリュツィフェールも言う。それ次第で、自分達の行動は変わってくることになるだろうと思いながら。
眠るラピエールを見ながら、アルノームが話した内容が頭の中で渦を巻く。楽園は名誉ある場所ではなく、ただの地獄。
ふざけるなと怒りが込み上げてくる。
(俺達が気を抜いていた結果と思っていたが、そうじゃない)
ここはそういうふうになっているのだ、と知ってしまった。緩みがあったことは間違いないが、根本的なところに問題があったのだ。
「くっ…あっ…いやぁ!」
再び始まったのを見て、ラピエールがこうやって苦しんでいるのも、すべてがこうなるように仕組まれていたのだと知れば怒りしかない。
楽園に入ることは、決して名誉なことではないのだ。つまり、護衛として選ばれた自分達も同じことだとわかる。
(やってくれる……。俺達を処分する口実だ)
楽園を護れなかったという理由で、忌み子を処分しようとしたのだろう。その手に乗ってなるものか、とリュツィフェールが決意の眼差しを向ける。
「ハァ…ハァ…っ…」
気が乱れ、苦しみ始めた姿を見て、もう抑えることはしないとラピエールの頬に触れた。
(俺はこいつが欲しい。だから奪う……。助け出してみせる。この楽園という名の地獄から……)
自分が求めていたものを与えてくれるたった一人の天使。手に入れると唇を重ねた。
乱れた気を治すと、そっと離れる。ラピエールは受け入れてくれるだろうか、と考えたのは一瞬だけ。手に入れると決めたのは自分で、だったらそのために手段は選ばない。
選んでいる場合ではないのだ。
「んっ…リュ…フェ…んんっ」
再び唇を重ねると、隙間から舌を入れて咥内を犯す。同時に、翼を広げて強力な結界を張った。ラピエールを護るために。
忌み嫌ってきた翼と力だが、ラピエールを護ることに使えるなら、今は使ってやると思っていた。
癒すように送り込まれる気と、口の中をなにかが動く感覚にラピエールが視線を向ける。気が付いたリュツィフェールが射抜くように見れば、ドキリと胸が高鳴った。
今までに見たこともない、男としての表情を浮かべたリュツィフェール。
気を乱したら治してくれていたことには気付いていたが、決して唇を重ねない姿から嫌われていると思っていたラピエールは、彼が男として自分を見ていると知って身体が歓喜で震えた。
顔がゆっくりと近づいてくる。ここまでくれば、彼の行動はわかると目を閉じた。その瞬間が来るのを待つように。
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気を乱して意識を失っていたラピエール。やっと意識が戻ったかと安堵したのは一瞬で、眠ると襲われたときのことを夢に見てうなされる。
「やだっ…」
助けを求めるように伸ばされた手をしっかりと握り締め、リュツィフェールは己の感情を突きつけられた。
誤魔化すことも、諦めることもできない。それほどに惚れているのだと、認めるしかなかった。
「いやぁぁぁぁ!」
叫んで飛び起きたラピエールに、また始まったと表情が険しくなる。
「ハァ…ハァ…くっ…あっ…」
うまく呼吸ができなくなり、苦しげに胸を掻きむしる姿に、気が乱れたのだと抱き締めた。怯えさせないように優しく頬へ手を添えると、唇が触れるか触れないかの距離まで顔を近づけて気を送る。
ウィリディスには躊躇うことなくできた行為が、ラピエールにはできなかった。
触れてしまったら最後。歯止めが利かなくなると思っていたのだ。今ならアルトゥスの気持ちが痛いぐらいに理解できると思う。
冷たくしていなければ、抑えられなかったほど気持ちが強かったのだろうと。
直接送り込む方が効果の出るのも早いとわかっていても、あと一歩を踏み込めない。乱れた気が落ち着くのに時間がかかるとわかっているのに、踏み込めないのだ。
「ごめん…なさい……ごめん……」
落ち着いたラピエールが、涙を流しながら謝罪を繰り返す。
自分のせいでウィリディスが、と思っている。だからこそ、何度も謝り続ける姿に、胸が痛くてたまらない。
このような感情があったなど、驚きでしかなかった。すべてラピエールがもたらし変化だ。
「お前のせいじゃない…俺達が護れなかったのがいけないんだ……」
だから、それ以上責めるなと伝えるように抱き締める。どうしたら責めるのをやめてくれるのか、リュツィフェールにはわからない。
眠った姿を確認して、ゆっくりと身体を寝かせる。しばらくしたら、またうなされるとわかっていたし、気を乱すこともわかっていた。
(あと何回、繰り返す……)
今すぐにでも自分のものにしたい、という欲望が強まっていく。アルトゥスが完全に手を出していることから、自分までと辛うじて抑えている状態なのだ。
主の天使を二人ともとなれば、さすがになにが起きるかわからない。
どうしたらいいかと頭を抱えていれば、誰かがやってくる音。一瞬だけ警戒したが、気配がアルノームだとわかれば一息つく。
「僕だけど、いい?」
「あぁ」
予定外の訪問ではあるが、正式に手続きして入ってきているなら問題はないだろう。
むしろ、予定外だからこそなにかあると思えた。アルノームは、外から楽園を探ってくれている人材だ。
「これね、ラピエールの好きな物なんだ。あとであげて」
少し変わった果物を差し出しつつ、室内に入ってくる。楽園にくる口実として用意したのは明らかで、緊張した様子からなにかを警戒しているのだと察し、すぐさま結界を張った。
「声は外に漏れない。安心しろ」
誰かに見られている可能性を視野に入れているのだと、この様子で十分に理解できる。
「ありがとう。リュツィフェール、ここの秘密がわかった。楽園は、主のためにある場所なんかじゃない。ここは、地獄みたいな場所だ」
真剣な表情でアルノームが言えば、詳しく話せとリュツィフェールも言う。それ次第で、自分達の行動は変わってくることになるだろうと思いながら。
眠るラピエールを見ながら、アルノームが話した内容が頭の中で渦を巻く。楽園は名誉ある場所ではなく、ただの地獄。
ふざけるなと怒りが込み上げてくる。
(俺達が気を抜いていた結果と思っていたが、そうじゃない)
ここはそういうふうになっているのだ、と知ってしまった。緩みがあったことは間違いないが、根本的なところに問題があったのだ。
「くっ…あっ…いやぁ!」
再び始まったのを見て、ラピエールがこうやって苦しんでいるのも、すべてがこうなるように仕組まれていたのだと知れば怒りしかない。
楽園に入ることは、決して名誉なことではないのだ。つまり、護衛として選ばれた自分達も同じことだとわかる。
(やってくれる……。俺達を処分する口実だ)
楽園を護れなかったという理由で、忌み子を処分しようとしたのだろう。その手に乗ってなるものか、とリュツィフェールが決意の眼差しを向ける。
「ハァ…ハァ…っ…」
気が乱れ、苦しみ始めた姿を見て、もう抑えることはしないとラピエールの頬に触れた。
(俺はこいつが欲しい。だから奪う……。助け出してみせる。この楽園という名の地獄から……)
自分が求めていたものを与えてくれるたった一人の天使。手に入れると唇を重ねた。
乱れた気を治すと、そっと離れる。ラピエールは受け入れてくれるだろうか、と考えたのは一瞬だけ。手に入れると決めたのは自分で、だったらそのために手段は選ばない。
選んでいる場合ではないのだ。
「んっ…リュ…フェ…んんっ」
再び唇を重ねると、隙間から舌を入れて咥内を犯す。同時に、翼を広げて強力な結界を張った。ラピエールを護るために。
忌み嫌ってきた翼と力だが、ラピエールを護ることに使えるなら、今は使ってやると思っていた。
癒すように送り込まれる気と、口の中をなにかが動く感覚にラピエールが視線を向ける。気が付いたリュツィフェールが射抜くように見れば、ドキリと胸が高鳴った。
今までに見たこともない、男としての表情を浮かべたリュツィフェール。
気を乱したら治してくれていたことには気付いていたが、決して唇を重ねない姿から嫌われていると思っていたラピエールは、彼が男として自分を見ていると知って身体が歓喜で震えた。
顔がゆっくりと近づいてくる。ここまでくれば、彼の行動はわかると目を閉じた。その瞬間が来るのを待つように。
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