堕天使の愛

朱璃 翼

文字の大きさ
30 / 69
前編

なにをしても…2

しおりを挟む
「うっ…やっ…やめて……」

 気を乱して意識を失っていたラピエール。やっと意識が戻ったかと安堵したのは一瞬で、眠ると襲われたときのことを夢に見てうなされる。

「やだっ…」

 助けを求めるように伸ばされた手をしっかりと握り締め、リュツィフェールは己の感情を突きつけられた。

 誤魔化すことも、諦めることもできない。それほどに惚れているのだと、認めるしかなかった。

「いやぁぁぁぁ!」

 叫んで飛び起きたラピエールに、また始まったと表情が険しくなる。

「ハァ…ハァ…くっ…あっ…」

 うまく呼吸ができなくなり、苦しげに胸を掻きむしる姿に、気が乱れたのだと抱き締めた。怯えさせないように優しく頬へ手を添えると、唇が触れるか触れないかの距離まで顔を近づけて気を送る。

 ウィリディスには躊躇うことなくできた行為が、ラピエールにはできなかった。

 触れてしまったら最後。歯止めが利かなくなると思っていたのだ。今ならアルトゥスの気持ちが痛いぐらいに理解できると思う。

 冷たくしていなければ、抑えられなかったほど気持ちが強かったのだろうと。

 直接送り込む方が効果の出るのも早いとわかっていても、あと一歩を踏み込めない。乱れた気が落ち着くのに時間がかかるとわかっているのに、踏み込めないのだ。

「ごめん…なさい……ごめん……」

 落ち着いたラピエールが、涙を流しながら謝罪を繰り返す。

 自分のせいでウィリディスが、と思っている。だからこそ、何度も謝り続ける姿に、胸が痛くてたまらない。

 このような感情があったなど、驚きでしかなかった。すべてラピエールがもたらし変化だ。

「お前のせいじゃない…俺達が護れなかったのがいけないんだ……」

 だから、それ以上責めるなと伝えるように抱き締める。どうしたら責めるのをやめてくれるのか、リュツィフェールにはわからない。

 眠った姿を確認して、ゆっくりと身体を寝かせる。しばらくしたら、またうなされるとわかっていたし、気を乱すこともわかっていた。

(あと何回、繰り返す……)

 今すぐにでも自分のものにしたい、という欲望が強まっていく。アルトゥスが完全に手を出していることから、自分までと辛うじて抑えている状態なのだ。

 主の天使を二人ともとなれば、さすがになにが起きるかわからない。

 どうしたらいいかと頭を抱えていれば、誰かがやってくる音。一瞬だけ警戒したが、気配がアルノームだとわかれば一息つく。

「僕だけど、いい?」

「あぁ」

 予定外の訪問ではあるが、正式に手続きして入ってきているなら問題はないだろう。

 むしろ、予定外だからこそなにかあると思えた。アルノームは、外から楽園を探ってくれている人材だ。

「これね、ラピエールの好きな物なんだ。あとであげて」

 少し変わった果物を差し出しつつ、室内に入ってくる。楽園にくる口実として用意したのは明らかで、緊張した様子からなにかを警戒しているのだと察し、すぐさま結界を張った。

「声は外に漏れない。安心しろ」

 誰かに見られている可能性を視野に入れているのだと、この様子で十分に理解できる。

「ありがとう。リュツィフェール、ここの秘密がわかった。楽園は、主のためにある場所なんかじゃない。ここは、地獄みたいな場所だ」

 真剣な表情でアルノームが言えば、詳しく話せとリュツィフェールも言う。それ次第で、自分達の行動は変わってくることになるだろうと思いながら。



 眠るラピエールを見ながら、アルノームが話した内容が頭の中で渦を巻く。楽園は名誉ある場所ではなく、ただの地獄。

 ふざけるなと怒りが込み上げてくる。

(俺達が気を抜いていた結果と思っていたが、そうじゃない)

 ここはそういうふうになっているのだ、と知ってしまった。緩みがあったことは間違いないが、根本的なところに問題があったのだ。

「くっ…あっ…いやぁ!」

 再び始まったのを見て、ラピエールがこうやって苦しんでいるのも、すべてがこうなるように仕組まれていたのだと知れば怒りしかない。

 楽園に入ることは、決して名誉なことではないのだ。つまり、護衛として選ばれた自分達も同じことだとわかる。

(やってくれる……。俺達を処分する口実だ)

 楽園を護れなかったという理由で、忌み子を処分しようとしたのだろう。その手に乗ってなるものか、とリュツィフェールが決意の眼差しを向ける。

「ハァ…ハァ…っ…」

 気が乱れ、苦しみ始めた姿を見て、もう抑えることはしないとラピエールの頬に触れた。

(俺はこいつが欲しい。だから奪う……。助け出してみせる。この楽園という名の地獄から……)

 自分が求めていたものを与えてくれるたった一人の天使。手に入れると唇を重ねた。

 乱れた気を治すと、そっと離れる。ラピエールは受け入れてくれるだろうか、と考えたのは一瞬だけ。手に入れると決めたのは自分で、だったらそのために手段は選ばない。

 選んでいる場合ではないのだ。

「んっ…リュ…フェ…んんっ」

 再び唇を重ねると、隙間から舌を入れて咥内を犯す。同時に、翼を広げて強力な結界を張った。ラピエールを護るために。

 忌み嫌ってきた翼と力だが、ラピエールを護ることに使えるなら、今は使ってやると思っていた。

 癒すように送り込まれる気と、口の中をなにかが動く感覚にラピエールが視線を向ける。気が付いたリュツィフェールが射抜くように見れば、ドキリと胸が高鳴った。

 今までに見たこともない、男としての表情を浮かべたリュツィフェール。

 気を乱したら治してくれていたことには気付いていたが、決して唇を重ねない姿から嫌われていると思っていたラピエールは、彼が男として自分を見ていると知って身体が歓喜で震えた。

 顔がゆっくりと近づいてくる。ここまでくれば、彼の行動はわかると目を閉じた。その瞬間が来るのを待つように。




.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...