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前編
覚醒の兆し3
しおりを挟む助けたい。二人の様子を見ていたラピエールは、こんなの見ていられないと涙を浮かべている。どうにかして助けなきゃいけないと思う。
けれど、どれだけ無知なラピエールでも最低限のことは知っている。天使は気がなくては生きていけないということ。
気を失った天使は助からない。それほど天使にとって気は大切なものだと言われている。
気がなくても生きていける天使がいたとしたら、それは堕天使と魔とのハーフ。天使としての摂理から外れた存在だけだ。
現状、ウィリディスはどちらにも当てはまらない。今から堕天使になれば可能性が上がるが、それもできないのだ。そもそも、ウィリディスとラピエールは堕天使になるだけの条件を満たしていない。
なぜかわからないが、それだけはハッキリと感じ取っていた。
(じゃあ、どうしたらいいの?)
どうしたらウィリディスを救えるのだろうか。自分にとっても大切な友人を死なせたくはない。なにがなんでも助けたいと強く願った。
自分のために、アルトゥスのために。そして、やっと初恋を実らせたウィリディスのために、このまま終わらせるなんてあってはいけない。
ウィリディスがいなくなるなんて、絶対に嫌だと思った瞬間、身体の奥底から熱くなる感覚にラピエールが翼を広げた。
突然のことに驚くのはリュツィフェールの方。一体なにが起きているのかと視線を向ければ、今までとは違う力を感じ取る。
(これは……ラピエールの中に眠っていた力なのか)
どのような効果があるものなのか、と考えていると、ゆっくりとウィリディスへ近寄っていく。光の粒子がキラキラと舞い上がり、触れた瞬間に切り傷が治った。
ここまで来るのに、完全な無傷ではない。多少のかすり傷は負っていたのだが、光が触れた瞬間に消えたのだ。
「癒し…」
治癒の力を持っているのかと驚けば、これならばウィリディスを助けられるかもしれないと前を見る。助けたいと願って発現した力なら、可能性は高いはず。
「アルトゥス!」
伝えるように呼び掛けたのと、ラピエールがウィリディスに触れるのは同時。奪われそうになった身体に慌てたアルトゥスだったが、光の粒子が傷を癒すのを見て振り返る。
リュツィフェールの判断を仰いだのだ。これは治癒かという視線を向ければ、静かに頷く。
助けたいという一心でウィリディスの身体を抱きしめ、翼で包み込んだラピエール。なぜかこうすればいいとわっかっている自分がいて、気が付けば暗闇の中で一人立っていた。
「リュフェ? アル?」
誰もいないのかと周囲を見渡すが、光すらない。暗闇の空間で、どこか寒気すら感じられる場所だ。
ここに長居してはいけない。本能的に感じ取ることはできるが、だからといって出口もわからなければ、どうしたらいいのかもわからなかった。
とりあえず歩き回ってみようと、しばらくは左右を気にしながら突き進んでみる。
「ウィリディス!」
するとそこに身体を丸め、球体の中に入っているウィリディスを見つけた。まるで球体に閉じ込められているような状態。もしかして、ここはウィリディスの中なのだろうか。
だとしたら、この暗闇はウィリディスの絶望かもしれない。すべてを諦めてしまったのかもと胸が締め付けられる。
「ウィリディス、アルが迎えにきたよ。待ってるから、ここから出て会いに行こう」
そしたら、ずっと一緒にいられる。今度こそ解放されて、みんなで楽しく過ごすのだ。
少なくとも、自分とリュツィフェール、堕天使になってしまったストゥルティとルーメンは一緒だと言い切れる。アルノームだけはわからないが。
あの日々はとても楽しかった。二人で戻ろうと呼びかけても、ウィリディスの反応はない。アルトゥスでなければ無理なのだろうか。
『魔の浄化をせよ』
「誰? 魔の浄化ってなに」
どこからか聞こえてきた声。誰かがここに干渉しているということはわかったが、見知らぬ声に警戒心だけが強まる。
今この場にリュツィフェールはいない。自分の身は自分で護らなくてはいけないのだ。
『その天使は、魔に侵されている』
「魔……悪魔の力!」
この暗闇は悪魔の力なのかと驚く。それだけあの悪魔に汚されたということであり、今もウィリディスを苦しめている存在ということだ。
どうにかしなければ助けることはできない。だが、自分にはそのような力などないとわかっている。浄化など、自分の身すら護れないのにと唇を噛む。
『祈れ…』
祈れば助けられると言う声に、なぜ手助けをしてくれるのかと言いたくなる。
問いかけたいが、今はウィリディスを救うことが重要だ。球体に触れながら、ラピエールは願った。ウィリディスを救うために、魔の浄化をと。
辺りを眩い光が包み込み、徐々に広がっていく。寒気がした空間が、少しずつだが暖かくなっていくのを感じ取れば、ラピエールはウィリディスを真っ直ぐに見た。
球体が軋む音に、成功したのかと天を仰ぐ。どこにいるのかわからない声の持ち主に、答えを求めたのだ。
けれど声が聞こえてくることはない。問題は解決したから、話す必要はないと判断されたのだろうか。ならば助けられたのだと確信する。
「ウィリディス!」
地面に落ちた身体に慌てて抱き上げれば、身体を何度も揺さぶった。目を覚ませと伝えるように。
「ん……ラピ…エール……」
弱々しいが、それでも真っ直ぐに見上げてくる姿に、よかったと心の底から安堵した。大切な友人を助けることができたのだと。
「アルが迎えにきてるよ。だから、もう大丈夫だからね」
安心させるように伝えれば、嬉しそうに笑うウィリディス。それだけで、ずっと会いたかったのだとわかる。
自分も気付いてあげられず、一人で悪魔と戦っていたのだ。早くアルトゥスの元で休ませてあげなきゃと、再び眠ってしまったウィリディスを抱きしめる。
『我らが主を救ってくれて感謝している。聖なる天使よ』
完全に消えた二人を見ながら、謎の人物が声をかけていたことなど知らず、ラピエールはウィリディスを連れて戻っていった。
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