堕天使の愛

朱璃 翼

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前編

楽園からの脱出

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 急に光りだしたラピエール。ウィリディスの身体を抱きしめたまま光を放つ姿は、徐々に強くなっていく。

 一体なにが起きているのかと二人が見守る中、どれほど気を送っても満たされることはなかったウィリディスの身体を癒していった。

 空っぽの身体は気で満たされ、光は魔を浄化していく。

 さすがにこれが普通ではないとわかる。平凡な天使だと思っていたラピエールは、平凡などではなかった。自分達ですら驚くほどの力を秘めている。

 けれど、翼は二枚なのだ。これはどういうことなのだろうかと思う。

 浄化が完全に終わると、翼が力強く広げられる。虚ろだった表情が、安らいだように眠っているのを確認し、ラピエールが笑みを浮かべて見つめた。

 そして、そのまま力尽きたように後ろへ倒れこむ。

「ラピエール!」

 慌てたように駆け寄ろうとしたリュツィフェールだったが、次の瞬間、突然現れた人物に奪われてしまう。

「しまった」

 振り返った人物が悪魔なのを見れば、まだいたのかとアルトゥスが舌打ちする。

 あの悪魔はウィリディスの身体を使って中に入り込んだ。けれど、その手を使わなければ現状入り込めないほどに結界が機能している。

 中にいないと思っていた自分に情けなくなった。

 どれだけここは悪魔が入りやすくなっているのか。こういったのはストゥルティが一番察知能力が高いことから、頼り切っていたのも大きい。

「聖なる天使、確かに頂いたよ」

「ふざけるな!」

 少し前の自分もこうだったのだろうか、と思うほどにリュツィフェールが怒り狂っている。逆に、ウィリディスを取り戻したことでアルトゥスが冷静さを取り戻す。

 だからこそ悪魔の言葉に疑問を覚えた。

(今、聖なる天使と言ったか……)

 悪魔は間違いなく、ラピエールを聖なる天使と呼ぶ。呼び間違えているわけでもなく、ハッキリと言われた言葉に動揺する。

 天使にとって、聖なる天使とは神話のような存在だ。遥か昔の出来事であり、今存在するわけがない。むしろ、聖なる天使が二枚羽根であるなど、絶対にありえないことだった。

 情報を引き出した方がいいと思うが、冷静さを失ったリュツィフェールはアルトゥスでも手が出せない。

 それだけ、二人の間には実力差があるのだ。自分の力に絶対の自信があろうと、リュツィフェールには勝てないと言い切れるだけの差が。

「返してほしければ、魔界までくることだね」

 笑いながら言う悪魔は、なぜか危害を加えようという素振りがない。つまり、目的はラピエールではないのではないか。

 悪魔の狙いはリュツィフェールかもしれない。

(そんなバカなこと……)

 なぜ彼を魔界に呼ぶ必要があるのか。このとき考えていれば、この先の出来事は変わっていたかもしれないと、アルトゥスはあとで後悔することになる。

「逃すか!」

 リュツィフェールの翼が力強く広げられるのを見て、慌てたのはアルトゥスだ。

 今のウィリディスには耐えきれないとわかるだけに、気を失うルーメンを片手で鷲掴みにして距離を置くように離れた。

「まったく、仲間も巻き込むつもりかい。よくないよ」

 悪魔の瞳が怪しく輝くと、強風が吹き荒れリュツィフェールの身体を吹き飛ばす。壁に叩きつけられ、視界を奪われた一瞬のうちに、悪魔はあっさりといなくなった。

 あまりの出来事に、なにが起きたのか理解できないアルトゥス。リュツィフェールの力を抑え込んで吹き飛ばしたなど、あり得ないとすら思っている。

 当然ではあるが、自分達より強い者だっていることは理解しているのだ。理解していても、リュツィフェールがと思ってしまう。

 すべてが終わった室内、悔しげに壁を殴りつけるリュツィフェール。それは一度ではなく、拳から血が流れるほど何度も行われた。

「お前らいつまでいるんだ! さっさと逃げろ!」

 声をかけることもできずに見ていたアルトゥスは、突然やってきたアルビオンに驚く。もしかしたら、今日ここにやってくることをアルノームから聞いていたのかもしれない。

 しかし、あり得ないと言い切れた。アルノームは口が堅いと、短い付き合いで感じ取っている。なにかしらの理由があるのだろうが、未成年でありながら一人で暮らしているだけのことはあった。

 だとしたら、いつか来ると思いアルノームの動きを見ていたことになる。

「早くしろ! 捕まりたいのか!」

 普段はリュツィフェールをからかって遊んでいたアルビオンが鋭い目付きで怒鳴りつければ、リュツィフェールがようやく動く。

 ここで捕まるわけにはいかない。ラピエールを取り戻さなくてはいけないのだと、考えることができたのだろう。

「ほら、荷物があるなら持って」

 急ぐよ、と言われれば、アルトゥスもこのままはやばいと動き出す。

 服を着替えさせている余裕はない。可能なら身体を拭いて服を着せたいところだが、すぐそこまで天使が迫っているとわかるだけに、ベッドのシーツを引き抜くとウィリディスを包み込む。

「わりぃ…あとでちゃんときれいにしてやるから」

 少しだけ我慢してくれと、眠るウィリディスに声をかける。あとは荷物だが、それほど二人は物を持ってはいない。

 楽園にずっといれば、最低限の服ぐらいしかないのは当然のことだ。着替えをいくつかと室内を見ていると、ラピエールが用意したらしき鞄を見つける。

 おそらく、迎えがくると知ってウィリディスの分も荷造りをしてくれたのだろう。ならば、あとはラピエールの荷物だとリュツィフェールを見る。

「部屋に荷造りされた鞄があるはずだ。リュツィフェールが取りに行けよ」

 自分が行けば怒るだろ、と言われれば、わかっているとルーメンを抱えて向かう。

「リューちゃん、昔に戻っちゃったかぁ」

 凍り付いた表情を見て、アルビオンがため息をつく。ラピエールあってこその変化であり、いなくなれば戻ってしまうらしいとわかれば、困ったものだと呟く。

 これでは、ラピエールがいなければ誰にも抑えられないと。




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