堕天使の愛

朱璃 翼

文字の大きさ
57 / 69
前編

楽園からの脱出2

しおりを挟む

 部屋を出ると、思ってもみないところへ案内される二人。アルビオンは楽園の中を熟知しているだけではなく、贄となる天使が暮らす家もすべて把握していたのだ。

「二人とも、ここに入って」

 行き止まりである通路に隠し扉があり、早くと二人を押し込む。そのままアルビオンが入り入り込み、中かから隠し扉を閉ざした瞬間、ウィリディスの部屋になだれ込む天使の足音が響く。

「捜せぇぇぇぇ!」

「まだ近くにいるはずだ!」

 息を潜ませて怒鳴る声を聞きながら、間一髪だったかとアルトゥスが息を吐く。アルビオンがこなければ、あのまま室内で鉢合わせしていただろう。

 そこまでは問題ないが、ウィリディウを抱え、気絶させたルーメンを連れてとなれば戦いに制限がかかってしまうことは間違いない。今のリュツィフェールならこちらを気にせずに力を使いかねないだけに、危なかったと思う。

 足音が遠のいていくのを聞きながら、アルビオンが行こうと指差す。

(一体、何者なんだ……)

 リュツィフェールが普通に接することから気にしていなかったが、楽園をここまで熟知しているのは普通ではない。信じていいのかと思ってしまったのだ。

「ストゥルティは?」

 悪魔を追いかけたことで、別行動になってしまった。どうするのか、とリュツィフェールを見るアルトゥス。さすがに、ストゥルティを見捨てる真似はしないだろう。

 ラピエールを奪われたことで苛立っていたとしても、彼の中でストゥルティは特別だ。置き去りなどしないと言い切れた。

「問題ないよ。アルノームが向かってくれたから」

「アルノームが?」

 未成年だぞ、と言いたげにしていたが、わかっているとアルビオンは頷く。それでも問題はないと言うから、その自信はどこからくるのかと言いたくなる。

 アルビオンがどれほど生きているのかなど知らないが、間違いなく自分達よりは遥かに上だろう。年の功というものだろうか、と一瞬考えてしまった。

「合流がどこだ?」

 低い声が問いかければ、本当に戻ってしまったなとアルトゥスは視線を逸らす。なにかが違っていれば、自分がこうなっていただろう。

 ウィリディスを取り戻せたから、自分は戻らずにこうしていられるのだ。

「門の近く。リューちゃん達は、天界にいられないでしょ」

 だったら、そこしかないと言えば、そうなるよなとアルトゥスも視線を向ける。

 門とは、天界と地上界の境目にあるものだ。この門を通してでなければ行き来はできず、意外かもしれないが使用自体は自由にできる。

 そうはいっても、自分達が地上界へ行くかもしれない、ぐらいは考えているはずだ。門が手薄になっているわけが、と考えてから方向が違うことに気付く。

「堕天使が表にある門から堂々と行けるわけないだろ。使うのは、隠れ門だ」

 真剣な表情で言うから、隠れ門とはなんだとは聞けず。初めて聞く言葉に、不安だけが募る。このままウィリディスを抱えたまま行ってもいいのかと。

「この隠れ門はね、遥か昔に使われた門だ。一人の堕天使が、魔界へ行くために使ったと言われている」

「魔界……」

 鋭さが増したのを見て、やばいとアルビオンを見る。彼は知らないから言ってしまったのだろうが、今のリュツィフェールには禁句だ。

「さすがに、魔界には繋がってないよ。地上に繋がってて、魔界へ行くには専用の門を見つけないとダメ」

 どこかに入り口があると思うけど、さすがに知らないんだよね、などとへらへら言えば、勘弁してくれとアルトゥスは頭を抱えたくなる。

 これ以上、リュツィフェールを刺激しないでくれと言いたかった。

 堕天使となった今、天使としての決まりなど護る必要はない。魔界に行くなという決まりが存在したが、自分達には関係ないのだ。

 行こうと思えば、今すぐにでも行くことができる。

 とはいえ、なにも準備せずに行くような場所ではない。なにもわからないのだから、それなりに準備は必要だろう。

(リュツィフェールは止められない。絶対にラピエールを取り戻すために向かうはずだ)

 自分が同じ立場でもやると言い切れただけに、止めることはしな。

 だが、とも思っている。これはリュツィフェールへの罠だ。絶対になにかあると思っていた。そうでなければ、魔界へ来いなど言うわけがない。

 目的がわからない罠に突っ込むべきなのか。それだけが悩みどころなのだ。

「こっちが先に着いちゃったかぁ」

 薄暗い森の中にある門。古びた門は、本当に機能しているのかと言いたくなるほどだ。

「大丈夫なのか?」

「問題ない」

 思わず声にだしてしまえば、リュツィフェールが問題ないと返す。どうやら、なにかを感じ取っているようだ。この辺りも能力の違いかと思えば、待つかと視線で問う。

 木に寄りかかったまま、静かに待つリュツィフェール。今しかないとアルビオンに近寄るのはアルトゥスだ。

「お前、何者なんだ?」

 ただの天使じゃないだろ、と力強い視線が問いかければ、内緒と笑う。いつかわかるよ、という意味不明な言葉まで言われ、怪訝そうに見る。

「ならば、これだけ答えろ。お前は敵か、味方か」

 なぜこのようなことをするのか、と思っているのだ。やっていることは、天使としてはあり得ない行動だろう。堕天使になってもおかしくない行為ばかりだと。

「んー……そうだね。俺はね、リューちゃんの味方だよ。あくまでもリューちゃんの、ね」

 ニヤリと笑ったアルビオンは、アルトゥスがリュツィフェールに敵対すれば敵になる、と言っているようなもの。

 背筋がゾクリとした感覚に、目の前にいる天使が想像以上に強いのではないか、と思ってしまう。もしかしたら、リュツィフェールと同じぐらいには、と考えてから、そのようなバカなことあるわけないと振り払う。

 リュツィフェールは六枚羽根という特殊さだ。多勢に無勢となれば負けることもあるだろうが、基本的には普通の天使には負けない。

「あっ、リューちゃんといてくれるなら敵にならないよ。今回は、ね」

「今回?」

 なにをと問いかけようとした瞬間、ストゥルティが合流して言葉を呑みこんだ。



.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境伯と幼妻の秘め事

睡眠不足
恋愛
 父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。  途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。 *元の話を読まなくても全く問題ありません。 *15歳で成人となる世界です。 *異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。 *なかなか本番にいきません

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLの白瀬凛は、過労死した翌朝、異世界の侯爵令嬢アリア・ヴェルナーとして目を覚ました。   転生初日。 婚約者であるシュルツ公爵令息から、一方的に告げられる。   「君は無能だ。この婚約は破棄する」   行き場を失ったアリアが選んだのは、王城のメイドに志願すること。 前世でブラック企業に鍛えられた凛には、武器があった。 ——人を動かす技術。業務を改善する知識。そして、折れない心。   雑用メイドからスタートした凛は、現代の知識を武器に王城を変えていく。 サボり魔、問題児、落ちこぼれ——誰もが見捨てたメイドたちが、次々と凛に懐いていく。   そして転生からわずか一年。 凛は王城に仕える500人のメイドを束ねる、史上最年少メイド長となっていた。   「——なぜ、君がここに」   国王主催の晩餐会。 青ざめた顔で立ち尽くす元婚約者の前で、500人のメイドたちが一斉に頭を下げる。   「アリア・ヴェルナー・メイド長。晩餐会の準備が整いました」   私を捨てたあの日、あなたの後悔も始まっていたのです。 ——もう、遅いですけれど。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

処理中です...