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前編
楽園からの脱出2
しおりを挟む部屋を出ると、思ってもみないところへ案内される二人。アルビオンは楽園の中を熟知しているだけではなく、贄となる天使が暮らす家もすべて把握していたのだ。
「二人とも、ここに入って」
行き止まりである通路に隠し扉があり、早くと二人を押し込む。そのままアルビオンが入り入り込み、中かから隠し扉を閉ざした瞬間、ウィリディスの部屋になだれ込む天使の足音が響く。
「捜せぇぇぇぇ!」
「まだ近くにいるはずだ!」
息を潜ませて怒鳴る声を聞きながら、間一髪だったかとアルトゥスが息を吐く。アルビオンがこなければ、あのまま室内で鉢合わせしていただろう。
そこまでは問題ないが、ウィリディウを抱え、気絶させたルーメンを連れてとなれば戦いに制限がかかってしまうことは間違いない。今のリュツィフェールならこちらを気にせずに力を使いかねないだけに、危なかったと思う。
足音が遠のいていくのを聞きながら、アルビオンが行こうと指差す。
(一体、何者なんだ……)
リュツィフェールが普通に接することから気にしていなかったが、楽園をここまで熟知しているのは普通ではない。信じていいのかと思ってしまったのだ。
「ストゥルティは?」
悪魔を追いかけたことで、別行動になってしまった。どうするのか、とリュツィフェールを見るアルトゥス。さすがに、ストゥルティを見捨てる真似はしないだろう。
ラピエールを奪われたことで苛立っていたとしても、彼の中でストゥルティは特別だ。置き去りなどしないと言い切れた。
「問題ないよ。アルノームが向かってくれたから」
「アルノームが?」
未成年だぞ、と言いたげにしていたが、わかっているとアルビオンは頷く。それでも問題はないと言うから、その自信はどこからくるのかと言いたくなる。
アルビオンがどれほど生きているのかなど知らないが、間違いなく自分達よりは遥かに上だろう。年の功というものだろうか、と一瞬考えてしまった。
「合流がどこだ?」
低い声が問いかければ、本当に戻ってしまったなとアルトゥスは視線を逸らす。なにかが違っていれば、自分がこうなっていただろう。
ウィリディスを取り戻せたから、自分は戻らずにこうしていられるのだ。
「門の近く。リューちゃん達は、天界にいられないでしょ」
だったら、そこしかないと言えば、そうなるよなとアルトゥスも視線を向ける。
門とは、天界と地上界の境目にあるものだ。この門を通してでなければ行き来はできず、意外かもしれないが使用自体は自由にできる。
そうはいっても、自分達が地上界へ行くかもしれない、ぐらいは考えているはずだ。門が手薄になっているわけが、と考えてから方向が違うことに気付く。
「堕天使が表にある門から堂々と行けるわけないだろ。使うのは、隠れ門だ」
真剣な表情で言うから、隠れ門とはなんだとは聞けず。初めて聞く言葉に、不安だけが募る。このままウィリディスを抱えたまま行ってもいいのかと。
「この隠れ門はね、遥か昔に使われた門だ。一人の堕天使が、魔界へ行くために使ったと言われている」
「魔界……」
鋭さが増したのを見て、やばいとアルビオンを見る。彼は知らないから言ってしまったのだろうが、今のリュツィフェールには禁句だ。
「さすがに、魔界には繋がってないよ。地上に繋がってて、魔界へ行くには専用の門を見つけないとダメ」
どこかに入り口があると思うけど、さすがに知らないんだよね、などとへらへら言えば、勘弁してくれとアルトゥスは頭を抱えたくなる。
これ以上、リュツィフェールを刺激しないでくれと言いたかった。
堕天使となった今、天使としての決まりなど護る必要はない。魔界に行くなという決まりが存在したが、自分達には関係ないのだ。
行こうと思えば、今すぐにでも行くことができる。
とはいえ、なにも準備せずに行くような場所ではない。なにもわからないのだから、それなりに準備は必要だろう。
(リュツィフェールは止められない。絶対にラピエールを取り戻すために向かうはずだ)
自分が同じ立場でもやると言い切れただけに、止めることはしな。
だが、とも思っている。これはリュツィフェールへの罠だ。絶対になにかあると思っていた。そうでなければ、魔界へ来いなど言うわけがない。
目的がわからない罠に突っ込むべきなのか。それだけが悩みどころなのだ。
「こっちが先に着いちゃったかぁ」
薄暗い森の中にある門。古びた門は、本当に機能しているのかと言いたくなるほどだ。
「大丈夫なのか?」
「問題ない」
思わず声にだしてしまえば、リュツィフェールが問題ないと返す。どうやら、なにかを感じ取っているようだ。この辺りも能力の違いかと思えば、待つかと視線で問う。
木に寄りかかったまま、静かに待つリュツィフェール。今しかないとアルビオンに近寄るのはアルトゥスだ。
「お前、何者なんだ?」
ただの天使じゃないだろ、と力強い視線が問いかければ、内緒と笑う。いつかわかるよ、という意味不明な言葉まで言われ、怪訝そうに見る。
「ならば、これだけ答えろ。お前は敵か、味方か」
なぜこのようなことをするのか、と思っているのだ。やっていることは、天使としてはあり得ない行動だろう。堕天使になってもおかしくない行為ばかりだと。
「んー……そうだね。俺はね、リューちゃんの味方だよ。あくまでもリューちゃんの、ね」
ニヤリと笑ったアルビオンは、アルトゥスがリュツィフェールに敵対すれば敵になる、と言っているようなもの。
背筋がゾクリとした感覚に、目の前にいる天使が想像以上に強いのではないか、と思ってしまう。もしかしたら、リュツィフェールと同じぐらいには、と考えてから、そのようなバカなことあるわけないと振り払う。
リュツィフェールは六枚羽根という特殊さだ。多勢に無勢となれば負けることもあるだろうが、基本的には普通の天使には負けない。
「あっ、リューちゃんといてくれるなら敵にならないよ。今回は、ね」
「今回?」
なにをと問いかけようとした瞬間、ストゥルティが合流して言葉を呑みこんだ。
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